22話 右から左へ聞き流す
「その理想が叶えば、あなた達は世界中から英雄と讃えられるでしょう」
「存在感はあるのに姿が見えない!リリアと逆だわ!」
驚いたアリエルが叫ぶ。
「誰だお前!出て来い!」
カインがアリエルとユナの前に出て木剣を構える辺りを見回している。
ユナは魔術書を開こうと鞄を漁っている。
いつの間にかある燭台と、それを持つ手が教卓の上に浮いていた。
「フッ」
見えない何者かがロウソクの火を消すと、空気が揺らめき男が姿を現した。
全身黒尽くめの陰気な男だった。
「席に付いて下さい。先生、今日は色々と話があります」
「「「先生!?」」」
どう見ても魔族だろ!と言う様な雰囲気を醸し出している男が担任なのかと三人は震える。
「え〜、改めて自己紹介します。僕はノル・カーマインと言います。よろしく」
「右からカイン・ジルスト、アリエル・グランベル、ユナ・デギオンで間違いないですね」
「「「はい!」」」
「さっきあなた達が上げた理想は、今のままでは実現しないでしょう」
「はあ?!何でよ!」
ユナが有り得ないと言った表情で叫ぶ。
「素質が無いからです」
「素質が無い。才能ではなく素質が無い」
「あなた達さっきから見てれば、何かおかしいとは思わなかったのですか?」
ノルが呆れた様に聞く。
「現れない担任、静かすぎる校舎内、校内図と比較して狭すぎる教室、教員証を付けていない教師」
「「「あ」」」
三人が同時に確かに!と言った顔をした。
「校内が静かなのは現在進行系でホールで入学式が行われているから、狭い教室は僕の魔法、教員証を付けていないのは僕は君等の担任ではなくただの用務員だからです」
「用務員・・・・」
ユナの呟きが漏れる。
パチン!
ザワザワ、キャハハㇵ、ワ〜!
ノルが指を弾くと途端に廊下が騒がしくなり、狭い教室は通常の広さに戻った。
「入学式、終わったみたいですね」
「君等の担任は君等をただの用務員である私に丸投げし、別クラスへ行きました。二度と戻ってくる事はないでしょう」
「・・・・」
言葉がない三人。
「なので、今後の授業内容はお前等に決めて貰いましょう」
ノルはチョークを持ち、黒板に書き出す。
『アリエル 自分の身を自分で守れる
カイン カッコイイ自分になる
ユナ 誰かを助ける 』
「これが現在のお前等の理想」
ぶっきらぼうに言うノル。
「これに到達するには圧倒的に足りない物がある。何だと思う」
「魔力量」
ユナが自信満々に即答する。
「才能」
カインが自嘲気味に言う。
「頭脳」
アリエルが落ち込んだ様子で答える。
「正解、そして不正解」
『観察力、考察力、実践力』
ガンッガンッ!と黒板にチョークを打ち付けながら説明する。
「お前等は人間としての基礎が圧倒的に不足している」
「観察力とは事実を正確に捉える力。
感覚的・感情的な印象ではなく、『実際に起きていること』をできるだけ偏りなく拾い上げる力だ。
何が起きているのか、どこがいつもと違うのか、何が変化しているのか。
思い込みや経験則で決めつける前に、情報を取りこぼさずに見る姿勢と言ってもいい。
これは才能というより、意識の置き方に近い能力だ」
「考察力は観察した事実を意味づける力。
見えたことを抽象化して因果関係や背景を仮説として組み立てる力だ。
なぜこの現象が起きているのか、どんな意図や構造があるのか、このまま進むと何が起きるのか。
重要なのは、正解を当てることではなく、仮説を立て、選択肢を複数用意できるかどうかが肝になる。
考察力がある人ほど、判断を急がず、分からないまま考え続ける余白を持っている」
「実践力、不完全な理解のまま行動に移す力。
勇気や行動力と混同されがちだが、本質は『不確実性を受け入れる能力』。
情報は足りていない、仮説が外れる可能性もある。完璧な理解や安全な状況を待たず、検証可能な一歩を踏み出す力が実践力だ。
実践できる人は、失敗を『誤り』ではなく『情報が増えた結果』として扱える傾向がある」
「三つの関係性は直線的ではなく循環する。
観察する、考察する、実践する、結果を再び観察する。
このループを回し続けられる人ほど、環境が変わっても適応しやすくなる。
逆に言えば、観察が弱いと考察がズレる。
考察が浅いと実践が博打になる。
実践がないとすべて机上の空論になる」
「・・・・」
「はぁ・・・・。物事を見て、考えて、行動する力が無いと言う事だ」
ルノの怒涛の説明を前に思考が停止した三人だった。
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