19話 30を80に改ざんするには無理がある
冬の始めの事。
現在グランベール王立学園初等部の六学年では、たった二人の為に追試が行われていた。
一人はカイン・ジルスト、騎士科で公爵家の三男。
もう一人はアリエル・グランベル、魔法科でこの国の次期女王だ。
今二人の目の前にいる教師は、テストを採点しながら真剣に隣国への移住を止めようかどうしようか悩んでいる。
「カイン・ジルスト、アリエル・グランベル」
「共に三十点!D!」
「「よっしゃああっ!!」」
パアアアアンッ!とハイタッチする二人。
両手に三十点のテストを掲げて、やっぱり移住しようと決意する担当教師だった。
「実技もDだしな、俺達」
三十点のテストを限界まで折りたたみながら呟くカイン。
彼らはそのまま教室で迎えを待っている。
「私は聖女だから光魔法だけで許されてるけど、最近攻撃魔法も使える様にならなきゃいけなくなったのよね」
30を80に改ざんしながら答えるアリエル。
「お前、魔族に狙われているもんな」
「魔族だけ、になった方が正しいかな」
「この前痛感したの。守られるだけじゃダメだ。もっと勉強して私自身が強くならなきゃダメだって」
「お前、暫く休んでたもんな。何があったんだよ」
アリエルはリズレッド事件の事を話した。
「ふぅん・・・・」
「・・・・」
バツだらけのテストを見て何かを思う二人だった。
「強くなるには知識も必要なんだな」
「知らないって凄く怖かったよ」
「・・・・」
コンコン、とノックされて二人共にドアを見る。
カラカラと開きいてカイン、と名前を呼ばれる。
「二番目の兄貴だ、シオン。高等部の二年でAクラス」
カインが耳元で囁く。
「こんにちは。アリエル王女殿下」
華麗に挨拶をするシオン。
「こんにちは。ジルスト様」
にこやかに返事を返すアリエル。
「あ、兄貴さ。今日ヒマ?」
気まずそうにカインが兄に尋ねる。
「これ、教えて」
折り目が凄い事になっているテストを差し出すカイン。
「え?勉強をか、剣にしか興味無かったお前が?」
色んな意味で驚きを隠せないシオン。
「つ、強くなるには知識も必要なんだよ!」
顔を真っ赤にしてドアに向かって走り、バァン!とを乱暴に開けて廊下を走り去るカイン。
「な、何があったんだ・・・・」
「本人に聞いてください・・・・」
帰りの馬車の中で、アリエルはテストの改ざんについてリリアに怒られていた。
「とにかく、Dクラス進級確定ですね」
「おめでとうございます。一年生からやり直しにならなくて良かったですね」
ホッとした顔で椅子の背にもたれるリリア。
「でも、ギリギリの三十点だし、私王女なのに頭悪いし」
俯き小声で呟くアリエル。
「誰かに何かを言われましたか?」
心配そうに顔を覗き込むリリア。
「そうじゃないけど、このままじゃダメだなって。もっと頭良くならなきゃ強くなれないなって。マリベルお姉様みたいに。ぶっちゃけお兄様みたいにはなりたくないし」
「あぁ・・・・」
「もっと長期的に考えましょう。アリエル様は今十二歳。
王位を継がれるのは早くて六年後、大学へ行かれるなら十年後です。今から六年掛けて必要な知識や技術を身に着けて行けば良いのです。焦らずゆっくり行きましょう!」
ゆっくりと言われても焦りは無くならないアリエルだった。
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