1話 影薄令嬢の面接試験はどうなった?!
ここはグランベール王国、グランブル城の一室に一人の少女がいた。
少女の名前はリリア・ガイマン伯爵令嬢(18)
この日、5歳のアリエル・グランベル王女の専属メイドを選ぶ面接会が開かれており、自分の名前が選ばれるのをひたすら待っていた。
「ねぇ、アンタ誰がアリエル様の専属メイドに選ばれると思う?」
「ハーマン侯爵令嬢だけはゴメンだわ!」
「あんな傲慢な女、アリエル様に相応しくないもの。それにあんなのが来たらあたしらがとばっちり受けるのよ!王女の専属メイドだからって調子に乗って威張り散らすに決まってる!」
「ダーナ伯爵令嬢も凄いわよ」
しかし、リリアの名前が呼ばれる事は無く、城のメイド達が控え室の片付けに精を出している。
そして早々に片付けを終え、メイド達は去って行き、リリアだけが取り残された。
室内はとても静かだった。
ガラガラと馬車が引かれる音まで聞こえる。
(・・・・これって、忘れられてる?)
(はぁ、もうやだ・・・)
リリアが周囲に存在を忘れられたのは一度や二度ではない。産まれた瞬間から今まで常に誰かに忘れられている、影なし令嬢だった。
リリアはドアを開け、廊下に出るが誰もいない。
仕方なく通路を道なりに行くと騎士とメイドが何やら楽しげに話し込み、恋人同士の様な雰囲気まで醸し出している。
リリアは悪いと思いながらも二人に声を掛けてみる。
「あ、あのぉ、失礼。面接会はどうなったんでしょうか?」
「私は、ダン・ガイマン伯爵の娘。リリア・ガイマンと申します」
「なぁ、今度の休みに街に出てみないか?飯でも食いに行こうぜ」
「残念。私、他の人に誘われてるの」
「その人アンタより格上の・・・・」
「あのおお!め ん せ つ か い はー!」
リリアは精一杯の大声を張り上げる。
「あはっ!そういう事だから、じゃあね!」
そう笑って手を振り、女は去って行った。
「チッ!何だよ気を持たせやがって!」
騎士の男は頭を掻きながら悪態をつき去って行く。
「ああ!ちょっと待ってください!」
男は足が速かった。
息を切らせて追いかけていると小さな中庭に出てしまった。
「はぁ、はぁ。あの人足が早過ぎる」
「うぇっ、ふぅ、ぇぇん」
どこからか女の子の泣き声が聞こえる。
中庭の中央に水色の、小さくて丸いものがうごめいている。
(何かしらあれ、ボール?)
リリアが確かめようと近づいた時、右奥の茂みに深緑のローブを被った人物が数人、こちらを伺っているのが見えた。
怪しげに思いながらも、リリアは水色のボールらしき物に近づいて行く。
ボールは小さな女の子だった。
水色のドレスが銀色の長い髪を映えさせていた。
「あの、どうしたの?こんな所で、なんで泣いているの?」
女の子はぐすぐす泣くのをやめ、リリアの言葉に振り向く。
突然、茂みの人物達がコチラに近づいて来て、髭面の男が少女の目の前に立ち、他の二人は背後に立った。
一人は手に麻の袋を持っている。
「初めまして王女様。そしてさようなら」
髭面の男が言うが早いか、少女の背後の右側に立つ男が麻袋を被せた。
(コレは誘拐?!)
「やめて!」
リリアは麻袋に入った女の子を抱えて廊下側に逃げ走った。
「王女が浮いてる!!」
「お、追え!」
男達がリリアを追ってくる。
「だ、誰かアアア!助けてぇぇ!!」
「そこ左に曲がってすぐの部屋」
突き当りを左に曲がってすぐにある、白地に銀の装飾が施されたドアを乱暴に開ける。
バアアン!
リリアは部屋になだれ込み、投げ出された少女は麻袋からポンッ!と出た。
「アリエル!」
執務机で書類を見ていた男は突然現れた少女に驚き、慌てて駆け寄る。
「アリエル。何があったんだ!?この麻袋は何だ!」
男は少女を抱きかかえ長椅子に座らせる。
「茶を淹れてくれ」
そう言うと男は少女に話を聞こうと椅子に座ってしまった。
(え、今の私に言ったのよね?)
辺りを見回すがリリアの他には誰もいない。
机のすぐ横に質素な扉がある。
(給湯室はあそこかな・・・)
簡単なキッチンと棚があるだけの小さな給湯室。
紅茶とホットミルクを淹れ、トレーに乗せて二人の前に置くと、リリアはドアの側に立った。
「で、突然あんな入り方をして何があったんだ?」
男は紅茶を口にしながら尋ねる。
「誘拐されそうになった」
少女はホットミルクをゴクゴク飲みながら答えた。
ガチャンッ!
「ゆ、誘拐にあった?!」
カップを落として紅茶をぶちまける男。
「お怪我はありませんか!」
「ああ、大丈夫だ」
リリアはすぐさま駆け寄り、テーブルを吹いて新しい紅茶を淹れて差し出すとドアの側に戻った。
「その人が助けてくれた」
少女はドアにいるリリアに向かって指をさす。
「何を言っている。アリエルの他に誰がいるんだ」
「兄様が飲んでるそのお茶、その人が淹れてくれた」
ピタッと男の手が止まる。
「そういえば、この茶は誰が淹れた・・・」
妹が指さす方向を見るとドア付近に女が一人、トレーを持って立っていた。
女は黒髪三つ編み丸眼鏡に地味な青い服の、いかにも影薄そうな女だった。
「だ、誰だお前は!」
突然現れた見知らぬ女の姿に、ガタガタッと慌てて立ち上がる。
「え!気づいてたんじゃないんですか!?私の事!」
「知らん!いつの間にそこに居た!?」
少女の前に立ち塞がり守ろうとする男。
「あ、あの私!ダン・ガイマン伯爵の娘で、リリア・ガイマンと申します!王女様専属メイド面接会に来たんですがいつまで経っても呼ばれなくて、人を探していたらその子が庭で泣いていて、男たちがその子を袋に入れて、誘拐だ!と思って逃げてここに。そしたらあなたが茶を淹れてくれって言ったから私!その」
慌てて説明するリリア。
「そ、そうだったのか。それは済まなかった」
「妹アリエルを救って頂きありがとうございました」
「どうぞ、妹の隣に座って下さい」
男は椅子に手を向ける。
「あ、はい・・・」
おずおずと椅子に座るリリア。
「さっきは助けてくれてありがとう」
「いえ、ご無事で良かったです」
「改めまして、私はグランベール王国王子のキース・グランベルと申します。」
「そこに居るのは妹のアリエル・グランベル」
「本当に・・・」
リリアが青ざめた顔で立ち上がる。
「おおおお王子様と王女様!失礼いたしました!」
バッ!とドア付近に立ち直す。
「・・・・・」
「ふっ!」
リリアの行動に一瞬吹き出すキース。
「そんなにかしこまらなくていいよ」
「決めた。私のメイド。リリアが良い」
「そうだね。これほど適性のある人はいないね」
「リリア・ガイマン伯爵令嬢。あなたをアリエルの専属メイドとして雇いたい。明日から頼むよ」
そう言うとキースは紅茶を手に取った。
どうやら私は合格したらしい。




