母の奇跡と封印された力
私はいつも、まひるとは呼ばれなかった。
「無能野郎!」「出来損ない!」「奴隷!」
など、本来の名前では、ほとんど呼ばれなかった。
「すまない、まひる。遅くなった。まひる?」
店に戻るとまひるが見当たらなかった。
「お客様!先ほど、女性と一緒にいた方ですよね?」
「そうだが...」
「女性が連れ去られたのです!フードを被った女性一人と男性二人に囲われて、一人の男性に頭を殴られて気を失ってしまったんです。」
「くそっ!油断していた。華純家はこの近くに住んでいることを忘れていた!今行くぞ、まひる!」
「うっ、ここは?」
「起きたか。」
「旦那様...」
ここはきっと地下牢ね。
「なぜ、お前が生きている?魔の森へ追放しただろう!」
「運よく、人に助けられただけです。」
「誰だ!そいつは!見つけて罪を償わせてやろう!」
「そんなこと、できやしないですよ。あのお方は、旦那様よりも強いですから。」
「なんだと?私は、五大陰陽師家のひとつ、華純家当主だぞ!力の差すらわからない女だったとは!こんな娘、期待などせずに産ませなければよかった‼」
何とでもいえばいい、ゼロ様は結界を維持し続け、転移という高度な術だろうものを自在に操っているのだ。旦那様なんかに負けるか。
「なんだその目は、少しの間逃げられたからと、もう忘れてしまったのか!いいだろう、思い出させてやる。お前がこの家でどんな扱いを受けていたのかを!」
「お父様、もうよろしいのですか?色々聞きだすっておしゃってましたよね?今やっちゃうとしゃべれなくなりますよ?」
「こいつがかかわった者、すべて問い詰めればよい。」
「やったー。最近おもちゃがなくなって寂しかったんですよ~。戻ってきてくれてありがとう。私の奴隷さん。」
それから私は、意識がなくなるまで殴られたりけられたりした。意識がなくなると、冷水か熱湯をかけられた。
「あ、ぁ」
「アハハッ!まだまだ終わんないわよ?ちゃんと癒してね?じゃないとすぐに死んじゃうから。」
そう、この人たちはいつも私を殴ったりして遊ぶとき、死にそうになると癒してまた殴るのだ。意識を手放そうとすれば、熱湯や冷水をかけられ目を覚まさせられる。これを毎日のようにされた。
「ゼ、、ロ、様」
「ほーう、お前を助けたやつの名か?おかしな名前だな。探して罪に問うてやろう。」
あぁ、申し訳ありません、ゼロ様。あなたの名を無意識に言ってしまいました。あなた様は私にとって救い主様ですから。でも、もう無理そうですね。気絶させられるときに、強く頭を殴られたようです。殴れて、蹴られて、冷水熱湯をかけられて、もう限界のようです。最後にあなた様にお会いしたかった。
「まひる!」
ドーン‼
扉が壊れる音がした。あぁ、またもあなた様は助けに来てくださったのですね。
「何者だ!ここを華純家本家だと知っての狼藉か!」
「だまれ‼まひるっ!」
優しいものに巻かれている感覚がした。
「ゼ、、ロ、さ、ま」
「しゃべらなくていい。ひどいけがだ。今直してやる。」
「も、う。無理、です。なに、も かん、じな、い、のです。」
「っ!なんということを。もうほとんど生命力がないではないか。」
ゼロ様、そんな顔をしないでください。私は、もとより死ぬ運命の者なんですから。
「くそっ、なにをしている!殺すなとあれほど言っただろう!人殺しはその力を龍神様に取られてしまうんだぞ‼」
「嘘っ!このくらいで死ぬなんて、いつもはもっと耐えていたのよ⁉」
「だから、黙れといっているだろ!!」
ゴオーー
「な、なんだ!これは‼まさか、神の天罰?何故だ!私はなにもしていないだろう!」
「いやぁぁーー!」
ゼロ様の霊力を感じる。私を守りながら、旦那様たちに罰を下しているのね。
「あ、りが..とう、ござい..ます」
「たのむ、しゃべるな。必ず直すから...」
無理だ。もう 意識 が、
「ゼ、、ロ様、わた、し あな..たが 」
「やめてくれ、俺から離れるな!たのむ..」
「すき、でした。」
「っ!あぁ、俺もだ。俺もお前が好きだ。だから、死なないでくれ‼」
「・・・」
最後にこの言葉が聞けて良かった。お母様、今行きますよ。お母様に紹介したい人ができたんです。
「まひるーーー!」
そのとき不意に生まれた瞬間、聞いたことを思い出した。
「まひる。あなたの力は膨大すぎます。私が守って上げられれば良かったのに...
でも、私は人間と子を作ってはいけないという掟を破ってしまい、もうすぐ死にます。その前にあなたの力の封印と、もしあなたが愛する人を見つけ、死に瀕した時、一度だけすべての傷を癒す術をほどこしましょう。どうか、あなたが幸せになりますように。」
一瞬のことだった。まひるが水色の薄い衣で包まれたと思ったら、きれいに傷は治っていた。
-これは、二十年前に姿を消した水龍セシルの霊力?まさかまひるは...-
「あれ?いったい何が?私、死んだのでは?」
「まひるっ!よかった。本当に良かった。」
「ゼロ様?これは一体?」
「君の母が最期に残した、奇跡だよ。」
「お母様の?どういうことですか?」




