初めての町
ゼロ様のお屋敷に来てから2か月がたったころ。
「まひる、そろそろここには慣れたか?」
「はい!皆様とてもよくしてくれて、本当になにも手伝わなくていいのかなって不安なんですけど、本も読ませてもらっているのでとても楽しいです。」
「そうか、それはよかった。手伝いのことは気にしなくていいさ。ゆっくりと休んで、いっぱい楽しんでくれ。」
「はい!」
この2か月ここにいて分かった。ここにいる召使いたちは、ゼロ様から漏れ出た霊力が一つになって生まれたということが。会話をすることはでき、戦うこともできるそうだ。漏れ出た霊力から人が生まれるなんて、ゼロ様はどれだけ大きな霊力を持っている
のだろうか。
そんなことを考えながら私は着替えて町に出る準備をしている。今日は私の服など必要なものをそろえにゼロ様と町にいくことになっている。
こんなにもよくしてもらっているのだから大丈夫です。といったのだけど…
「人間の女には必要なものがあるだろう?服はいつも同じものばかり着ているし、ボロボロではないか。」
と言われ、たしかにくしなどの道具もないので、お願いすることにした。町というのを見てみたかったというのもある。私は生まれてから一度も外へ出たことがなく、町や店というのはどんなところか知らないのだ。なので、今日をとても楽しみにしていたのだ。
「準備はできたか?」
「はい!できました。」
「では、行こう。」
そう言って向かったのは、玄関ではなく庭だった。
「玄関から出ないのですか?」
「ここは魔の森の中にあるんだ。だから、玄関から出れば魔のものに襲われるぞ。この屋敷には俺が結界を張っているから、魔のものが来ないんだ。」
すごい...
結界というのはかなりの霊力を使い、維持するのはとても大変なんだそうだ。なのにそれを家全体に張りずっと維持しているというのだ。そんなことは華純家の誰もできやしないだろう。
「ゼロ様は本当にすごいのですね。ですが、玄関からいけないのならどうやって町へ行くのですか?」
「転移だ。広いところでないと何か巻き込むかもしれないからな。」
「転移?初めて聞きましたが一体…」
「見ればわかるさ。行くぞ!」
すごい風が吹いたと思い目をつぶった。そして目を開けると...
「ここが、町ですか?」
「そうだ。今の屋敷から一瞬でここに移動したのが、転移だ。」
「すごい。こんなにも人がたくさん。」
初めて見るものばかりで、キョロキョロと色んな場所を見た。
「ハハッ。楽しいか?」
「はい!とても。町というのはこんなにも人が多くて、面白そうなものが売っているのですね!」
「あぁ。では、まずは服を買いに行くか。」
「はい!」
着いたのは藤乃というお店だった。
「藤乃!いるか?」
「はーい。どちら様で...ってゼロ様ではないですか!お久しぶりです。お召し物ですか?」
「あぁ、今日は俺ではなく、隣のまひるに作って欲しいんだ。」
「こちらの方のですか?ゼロ様、もしかして...」
「違うぞ。俺の嫁ではないぞ。」
「なーんだ、違うのですか。期待したんですけどねぇ〜。ではまひる様こちらへどうぞ。」
案内された場所にはたくさんの服と着物の生地があった。
「こちらは洋服と着物どちらもお作りしているのですか?」
「そうですよ。多くの方に来て欲しいですから。何をお求めですか?」
「洋服と着物、それぞれ3着ずつ頼む。」
「えっ!そんな、1着で大丈夫ですよ!他にも買ってくださるのに、そんなに悪いです。」
「いや、まひる。お前には服が少なすぎるんだ。もっと沢山あった方がいい。」
そう言って、色々な服を持ってこさせ、着替えさせられました。
結局3着ずつではなく、6着ずつ買っていただきました。
「ゼロ様!買いすぎですよ!?私はただの居候の身なのに...」
「住めばいいさ。他に行く宛てはないんだろう?俺も一人で寂しい思いをしてたんだ。ちょうどいいだろう?」
住む?私、ずっとゼロ様の元にいていいの?私、なんの力も持っていないのに...
「いいのですか?」
「いいさ、ひとりだとつまらなくてなさ。まひろは嫌か?」
「いいえ!嫌ではありません!どうか、よろしくお願いします。」
「あぁ、よろしく。」
それから、私たちは必要な沢山買いました。
「もうすぐ日が暮れるな。次で最後にしよう。」
「はい。」
ガチャッ
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
「くしは売っているか?」
「ございますよ。こちらの棚に置いてあります。ごゆっくりどうぞ。」
「まひる。どれがいい?さっき買ったこの...ってない!すまん、さっきの店に買ったものを置いてきたみたいだ。ここでどれがいいか見ていてくれ。取ってくる。」
「わかりました。」
ゼロ様は慌てて取りに行きました。荷物が多くて私もすっかり忘れていました。とりあえず、くしを選びながら待っていましょう。
そんなことを考えながら、くしを見ていると...
「まひる?なんであんたがここにいるのよ‼」
「っ‼この声は、花?」
「呼び捨てにすんじゃないわよ‼」
バチーンッ
「っ!」
「なんであんたが生きてんのか、じっくり聞かせてもらうわよ。連れて行きなさい。」
「やめて!離して!」
「うるせーぞ!この無能が!」
ガコンッ!
「ゼ、、ロ、様」
そこで私の意識は途絶えた。




