第7話 翼は遠くへ、小さな影はそばに
前回のあらすじ
春樹、子飛竜に妙に懐かれつつ村へ到着。村長の “記憶ゆるゆる会話” に振り回され、ようやく一息ついた途端……森からドデカい影が登場!休ませる気ゼロの異世界ライフが、強制的に続行決定!?
森の奥から、四足の巨大な魔獣がゆっくりと村へ向かってきた。
地面を踏みしめるたびに振動が伝わり、夕日を受けた牙や爪がきらりと光る。
村人や見張りたちは武器を握り、緊張した表情で身を固くする。
春樹は思わず一歩後退した。恐怖で心臓が跳ね、体が硬直する。
「大丈夫だから……落ち着いて……」
リディアがそっと手を握り、春樹に囁く。
その声に、わずかに呼吸が整った。
じぃちゃんの言葉が脳裏をよぎる――
『まずはよく見て、焦らず行動すること』
春樹は祖父の教えを思い返し、森や魔獣を見渡して攻撃の隙や地形を瞬時に判断しようとする。
だが、手には何もない。
焦りかけた瞬間、倉庫の隅に積まれた木の棒と絡まったつるが目に入った。
「……これなら!」
春樹は手際よく棒とつるを組み合わせ、即席の弓を作り上げる。
矢は倉庫に立てかけてあった矢筒を借りた。
その手際に、リディアは思わず目を丸くする。
「そんなこと出来たの?……器用ね……」
二人は屋根の上によじ登り、村に迫る魔獣の姿を確認する。
春樹は呼吸を整え、弓に手をかけた。
力を入れて握ると、指先にかすかな振動が伝わる。
――次の瞬間、弓の形が自分の知る和弓の姿に、まるで水面に映る姿のように変わった。
「……えっ……?」
思わず息を吐く。
見慣れた木の弓……なのに、違う。手に馴染む感触は、まるでずっと自分が握っていたかのように自然で、しかし現実とは少し違う、奇妙な重みと張りを感じる。
春樹は弓を軽く動かしてみる。弦の振動が体に伝わり、思わず膝の震えが収まる。心臓は高鳴っているはずなのに、不思議と落ち着く感覚
――この弓は、ただの弓ではない。
「……なんだこれ……どうして……?」
目の前の光景も、森も、敵も、すべてが一瞬、霞のようにぼやける。手元の弓だけが確かに現実に存在している。春樹は息を整え、深呼吸をひとつ。
「……よし、焦るな……まずはよく見て……」
震える手で握りしめた。
弓の感覚は不思議だが、確かに自分の力を導いてくれる道具だと、直感的に理解する。
春樹は矢を番え、狙いを定める。和弓の感触に導かれるように、体は自然と構えを取る。心の奥に小さな確信が生まれた――この弓なら、何とかなるかもしれない、と。
◆
大型の魔獣は柵や小屋を壊しながら村に侵入し、村人たちの悲鳴が響き渡る。
村人たちは必死に応戦するが、力及ばず、パニックに陥っていた。
魔獣が更に村の奥へ迫る。
春樹は矢を番え、狙いを定めた。
リディアは春樹の矢に風を纏わせ、軌道に微かな渦を起こしてサポートする。
視線の先では村人たちがモンスターの注意を引きつつ、弓や槍のような武器で必死に応戦していた。
春樹の放った矢が魔獣の目や関節をかすめるたび、リディアの風が絡み、魔獣は混乱する。
春樹は手の震えを抑え、矢を放ち続けた。
自然と体が動く自分に驚きながら。
「……はるき、大丈夫……?」
リディアの声に、春樹は小さく頷く。
――その瞬間、村の上空から大きな影が近付いてきた。
親飛竜だ。
翼を広げ、夕日に映える巨大な体が空中で旋回する。
地上に降りることなく、モンスターに向けて攻撃を開始した。
爪と尾を振りかざし、魔獣を巧みに翻弄して攻撃を加えていく。
攻撃を受け魔獣が暴れる度に地面が震え、柵や建物がギシギシと軋む。親飛竜は巧みに飛び回り距離を保つ。
春樹は隙を突いて矢を放つ。
リディアの風が威力を乗せ、魔獣を怯ませる。
矢が命中すると、魔獣は後ずさった。
息を呑むリディアも村の様子を確認し、わずかに安堵の表情を浮かべる。
丘の上へと避難中の村人たちも遠くから様子を伺い、信じられないといった表情で見つめていた。
「……まさか……あの者が……森の守護者……」
村長が目を見開いて呟く。
親飛竜は再び旋回し、魔獣の攻撃をかわしながら交錯するようにカウンターを叩き込む。
――ついに四足の魔獣は森の奥へ逃げ去り静寂が戻る。
村人たちは安堵の息を漏らし、見張りたちも肩の力を抜いた。
丘の上に避難していた村人たちは、安心した表情を浮かべ村へと戻っていった。
◆
春樹とリディアも屋根から降り、広場で村人たちと合流する。
広場では危機が去り、皆が歓声をあげていた。
そのとき――春樹の足元で小さな黒い塊がもぞもぞと動いた。
「えっ……?」
黒い塊が顔を上げ、小さく鳴く。
「……ピョッ!」
村人たちは目を丸くした。
「なんだ、あれは……?」
「飛竜の子か……?」
驚き警戒する村人たちへと
「森で迷子になった子みたいなものね。はるきと一緒に助けたのよ」
リディアが微笑みながら説明する。
村長は顎に手を当て、目を細めた。
「……ふむ、伝承通りかもしれん……。森の守護者の子……森を導く者たち……」
◆
春樹はゆっくりと手を差し伸べ、子飛竜の頭を撫でた。
小さな体が安心したように震え、春樹の手に体を寄せる。
夕日の光が村を優しく染める中、親飛竜はしばらく空の上から子の様子と村を見守っていた。
そして――
春樹の足元で落ち着いている黒い小さな影を確認すると、
ひとつ、低く穏やかな声で鳴いた。
まるで、
『そこなら安心だ』
と告げるように。
子飛竜は親の姿を見上げ、満足したように尾を揺らす。
追いかける素振りはない。
置いていかれたというより、むしろ自ら残ることを選んだようにも見えた。
その様子に、春樹の胸にじんわりと温かいものが広がる。
親飛竜は大きく旋回しながら高度を上げ、
夕空へ溶け込むように森の奥へ姿を消していった。
残された子飛竜は、当然のように春樹の足元へ戻り、ちょこんと座り直す。
「……ピョッ」
その声はまるで、
『ここにいるよ』
『しばらく一緒にいる』
そう言っているようだった――
なかなかプロットが納得いくものにならず、試行錯誤を繰り返しております。計画通りに更新できなかった…
満足いくものにはできたと思いますので、次回をお楽しみに!




