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あぜ道から始まる異世界冒険譚(あぜ譚)  作者: 蒼い向日葵


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第6話 里に降りる影と、古き言い伝え

前回のあらすじ

春樹とリディアは子飛竜を親のもとへ無事に戻し、迫る危険を収める。リディアは魔法で親飛竜の傷も癒し、親子は再び森へ飛び立つ。別れを惜しむ子飛竜の姿に、春樹は胸の奥に温かな余韻を残す。

森の木々がまばらになり、視界の先に光が差し込んできたころ、

はるきは重い足を引きずりながら、深く息を吐いた。


「……やっと、森を抜けられた……」


体の芯まで疲れが染み込んでいたが、外へ出られるというだけで救われた気がした。


隣を歩くリディアが、くすっと笑う。

「さっきの子飛竜、すっかりはるきに懐いてたわね」

「いや、絶対たまたま……だと思う……」


否定するものの、頬がほんのり緩む。

そして次の瞬間、ぐぅ、と腹が鳴った。


夕飯前に転移してきたことを思い出し、余計に切なくなる。


「食べられる実があるわ」


そう言うなり、リディアは近くの木を見上げ──

すっと枝に跳びつき、軽々と登っていった。


「……忍者かよ……」


呆然と呟くはるきの手に、彼女がもぎ取った実がぽとりと落ちてくる。

ひと口かじると驚くほど甘く、疲れが溶けていくようだった。



やがて森の出口が見え、小さな村が視界に広がる。

畑と家々。煙突の煙。夕日の色に染まる素朴な景色。


リディアは村の出身ではないらしいが、子どもたちとは顔なじみのようだ。


「リディアねえちゃーん!」

「また来たの?」


駆け寄る子どもたちに、リディアは優しく微笑む。


村の入り口には屈強な見張りが二人。森から聞こえた飛竜の咆哮のせいか、まだ緊張が残っている。


春樹の見慣れない姿に目を見張るも、リディアを見ると警戒を解いた。


「見慣れない客人だな…ベイルッ!」


見張りのひとりが、近くで遊んでいた少年に声を張る。


「村長を呼んできてくれ!」

「わかったー!」


八歳くらいの少年が全力で駆けだした。



しばらくして、ベイルが白髪の老人を引っ張るようにして戻ってきた。

ゆっくり歩く老人に、ベイルが「こっち!」と何度もせかす。


「はぁ……はぁ……引っぱるでない、ベイル……」


息を整えながら村長が姿を現す。

白髪に立派な髭の老人は、息を切らしながら入口へと歩み寄る。


「まったく、お前は急かしすぎじゃ……。む? リディアか。それと──その後ろの少年は…」


子どもたちがリディアを見つけて歓声を上げる中、

村長はるきを覗き込むように見つめる。

そして、いつもの調子で言った。


「……はて、お前さんはどこの子だったかのう?」


周囲の村人が(ああ、また始まった)と苦笑する。

リディアが前に出て説明した。


「彼ははるき。森で迷って、獣に襲われていたところを助けたの。しばらく一緒に行動してるわ」


村長は、はるきをじっと観察するように目を細めた。


「……ふむ。事情は、そちらからも…はるきといったか…お主からも聞いておこうかの」


話を振られた春樹は、びくりと肩を震わせる。

リディアがそっと視線で「大丈夫よ」と励ましてくれた。


「……えっと、はるきです。気づいたら森の中で倒れてて……記憶も曖昧で……。リディアに助けてもらいました。ご迷惑じゃなければ……」

たどたどしい自己紹介に、ベイルが小声で「緊張すんなよ」と笑う。


村長は腕を組んでうなるように言った。

「記憶なし、か。厄介といえば厄介じゃが……困っておる者を放っておくほど冷たい村ではない。リディアが連れてきたのなら、なおさらじゃ」


その言葉に、春樹はホッと息をついた。

村長はふと顎に手を当てる。


「そういえば……昔、妙な言い伝えがあったような……。別の……なんとかの国から……迷い込む者……だったか……?」


記憶が曖昧らしく、首をひねる村長。


「まあよい。うちで話すとしよう。落ち着いたほうが思い出しやすいでな」



村長の家で休みながら、はるきの胸には不安がふくらんでいた。


──もしかして、本当に異世界に落ちてきたのか?


──帰る方法なんて、どこにもないのかもしれない……。


その不安を見抜いたように、リディアが小さく囁く。


「大丈夫。はるきの味方は、ちゃんといるわ」


その優しい声が、不安をほんの少し溶かした。

やがて村長がぽんと手を打つ。


「思い出したぞい。この森には、まれに“異なる地より迷い込む者”がおる。森の守り手に導かれ、運命の道を歩む……そんな言い伝えじゃ」


「最後だけしっかり覚えてんだな……」

と村人が小声で突っ込む。


春樹はごくりと唾を飲んだ。



夕食をいただき、明日の話をしていると、リディアが言う。


「街に行ったほうが、情報が早く集まるわよ」


迷いながらも、はるきはうなずいた。

「じゃあ……街へ行ってみようかな」


リディアも「案内するわ」と微笑む。


そして──


夕日が村を赤く染める中、はるきはぽつりと呟いた。


「……じぃちゃん、ばぁちゃん……」

胸がきゅっと締めつけられる。


リディアが隣に座り、小さく微笑む。


「大丈夫。きっと帰る方法を見つけましょう」

はるきは黙ってうなずいた。



──その直後。

村の外の森から、地を震わせる咆哮が響いた。


「……グルゥォォォッ……!」


はるきとリディアは反射的に顔を見合わせる。

あの子飛竜の声より、ずっと低く、ずっと重い。

そして、村の柵が揺れるほどの衝撃音が続いた。


「村長!」

外で見張りの怒声が上がる。


「何か来るぞ! でかいのが……!」

村長の家の空気が一瞬で緊張に染まる。


村長の息子が立ち上がる。

「魔獣か……? 森の奥から出てきたのか……!?」


外の気配は確実に近づいてくる。

はるきの背筋がひやりと冷えた。

リディアが息を呑み、囁く。


「……はるき。外、何かがいるわ」


次の瞬間──


村のどこかで悲鳴が上がった。

そして、夕闇の向こうで。


巨大な影が、木々を押し分ける音を立てながら──ゆっくりと姿を現しつつあった。

思うままに書き殴ってやる〜!…って、

簡単に書いちゃダメなんだと反省…

でもいつかは、そうなりたいと思います。

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