第2話 見知らぬ森と、最初の出会い
前回のあらすじ
平穏な帰り道、光に吸い込まれた春樹。気づけば異世界の森で新たな冒険が始まる…
眩しさがゆっくり薄れ、春樹はまぶたを震わせながら目を開いた。
「……ここ、どこだ?」
土の匂い、湿った空気。あぜ道ではない。見たこともない大きな樹々が並び、木漏れ日が斑に地面を照らしている。
(森……? こんな森、この辺にあったか?)
頭がぼんやりして立ち上がろうとすると、足元の草がカサッと揺れた。
――チュン。
小さな鳥の声がやけに耳に響く。木々のざわめきも虫の声も、どこか“濃い”。
まるで空気そのものが、いつもと違う世界のもののようだ。
「夢……じゃないよな……?」
頬をつねると普通に痛い。息を吸えば土の匂いがしっかり肺に入る。現実だ。
(落ち着け。まずは状況確認だ)
弓道で鍛えた冷静さをなんとか引っ張り出し、ゆっくり周囲を見渡す。
太い樹の根元には、見たことのない紫の花。背の高い草の間を、青白い光がふわふわ漂っている。
「蛍……? にしては色が……」
あぜ道で見た光とは種類が違う。もっと柔らかく、体に害がないような、ぬるい光。
そのとき――。
――ガサッ。
茂みの奥で大きな何かが動いた。春樹は反射的に身構える。弓も武器もない。
(やば……逃げる準備だけしとこう)
バクン、と心臓が早鐘を打ち、茂みが大きく揺れる。
「うわぁぁ! 出たぁぁ!」
飛び出してきたのは茶色い獣。犬のようでもあり、狼のようでもあり、でも明らかに日本にはいない“感じ”。
肩までの高さは春樹の胸あたりだ。
獣はぐるる、と喉を鳴らす。威嚇だ。背中に冷たい汗が伝い、走るか木に登るか考える。
「――下がって!」
甲高い声が森に響き、獣の脇腹に短い矢が突き刺さる。
「ギャンッ!」
獣は怯んで跳び退き、森の奥へ姿を消した。
春樹は呆然と立ち尽くす。
「……大丈夫?」
振り向くと、そこには背丈の低い少女が立っていた。
淡い緑色の髪が肩にかかり、少し大きめのマントを羽織っている。手には小さな弓。
(えっ……誰? ていうか、この髪色……?)
少女は春樹を見上げ、きょとんとした顔をした。
「あなた、見かけない格好してるね。旅人さん……ではなさそう」
春樹は言葉に詰まる。
「えっと、その……俺、どこにいるんだ……?」
少女は瞬きを一度だけして、ゆっくり答えた。
「ここは《レンファの森》。
この辺りじゃ一番、魔物がうろつく危ない場所だよ?」
魔物――さっきの獣を思い出し、背筋が寒くなる。
「森から出たいんでしょ? 案内するよ。
ほっとくと、今のより強い魔物に食べられちゃうから」
そう言って、少女はにこりと笑った。
異世界――その言葉が、春樹の頭でリアルな重みを持ちはじめる。
こうして春樹は、異世界で“最初の仲間”と出会うことになる。
物書きって意外と難しいですね。「自分が楽しめなきゃ」って書いていますが、読んでくれる方がいてくれると思うと力になりますね(*^^*)




