第1話 あぜ道の光
ようやくスタートしました『あぜ譚』
ほぼ自己満足のための作品…
気楽に読んでくださいまし(*´ω`*)
初夏の午後。
部活動の終わりを告げるチャイムが鳴ると、空気が一気に緩んだ気がする。
春樹は弓道部の道具を片付けながら、今日の射形を頭の中で反芻していた。
(もっと肩の力抜かなきゃな……)
「春樹、帰る準備できた?」
軽い声に振り向くと、凪が弓道場の入り口で手を振っていた。
陸上部で鍛えられた引き締まった体に、短めのポニーテールがよく似合う。
昔は男の子とよく間違えたが、いまは“カッコいい系の女子”に落ち着いている。
「もうちょい待ってて。あ、予算書ありがとうな」
「いいよ。生徒会のついでに先生のとこ持ってっただけだし」
凪は肩にかけたスポーツバッグを軽く揺らしながら笑う。
「陸上の練習、大丈夫だったのか?」
「平気平気。今日は軽めだったし」
春樹は、彼女のあっけらかんとした返しに思わず笑ってしまう。
「ねえ、また弓道見に行っていい? この前の春樹、普通にカッコよかったし」
「いや、まだまだだよ……」
「なんでそんな謙遜すんのさ。もっと自信持ちなよ」
軽く肘でつつかれ、春樹は照れ隠しに顔をそらす。
靴を履き替え、二人は校門を出た。
夕方の光がやわらかく、暖かい空気が風の中に残っている。
「今日も暑かったな」
「ほんと。大会前だから走る量も増えるしさ〜……って、見て。カエル」
凪が指さした先には、道の真ん中に大きなカエルが座り込んでいた。
「わっ、踏むとこだった……」
「はは、びっくりした?」
いたずらっぽい笑顔。
こういうテンションは昔から変わらない。
二人は、学校での話や部活のことを気楽に話しながら帰り道を歩く。
舗装路がいつもの土道に変わり、田んぼの匂いが風に混じってくる。
あぜ道の両側では水面が夕日に照らされ、ゆらゆら揺れていた。
「明日も一緒に帰ろうな」
「もちろん。どうせ方向同じだし」
凪は軽く手を振り、分かれ道の前で立ち止まった。
「じゃ、また明日。寄り道しないで帰れよー!」
「おう。また明日!」
凪は走り出し、すぐに夕陽に溶けるように遠ざかっていった。
ひとり残された春樹は、小さく息を吐いた。
「一人になったな……今日はばぁちゃんがカレーって言ってたし、帰ったら楽しみだ……」
スパイスの香りを想像して、自然と頬が緩む。
そのとき――。
足元で、“光”が揺れた。
「……え?」
あぜ道の草の間から、金色の粒が湧き出すように浮かんでいる。
夕陽の反射ではない。
地面そのものがじんわりと光を漏らしていた。
しゃがんで覗き込むと、光は春樹の足首にまとわりつくように広がる。
(な、なんだこれ……?)
虫の声が遠のき、周囲の音がふっと消える。
風の流れすら感じられない。
「いつもの道……だよな?」
視界がかすかに歪む。
胸の奥がざわつき、嫌な予感がする。
逃げようとした瞬間、光が一気に膨れ上がった。
「っ――!」
反射的に目を閉じたが遅かった。
地面が消え、身体の感覚がふっと軽くなる。
光が全身を包み込み、世界の輪郭が溶けていく。
春樹は叫び声を上げる間もなく――
あぜ道から姿を消した。
こうして、春樹の異世界での冒険が静かに幕を開けたのだった。
厳しくも優しいご意見お待ちしております。
何分、メンタル豆腐なので…




