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あぜ道から始まる異世界冒険譚(あぜ譚)  作者: 蒼い向日葵
第二章 乾いた風が呼ぶ方へ

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第15話 守られることの値段

前回のあらすじ

城門を越え、ナギは城塞都市エルディアの内側へ足を踏み入れる。石と砂に囲まれた街は活気よりも緊張に満ち、水さえ自由ではない世界だった。守られているはずの都市で感じる違和感と孤独。その街が、ナギを変える場所になることを、まだ彼女は知らない──

エルディアの朝は、思っていたよりも静かだった。


砂の街特有のざらついた空気はあるが、

城門の内側では、風の流れすら管理されているかのようで、

無駄な音がなかった。


凪は宿の窓辺に立ち、通りを行き交う人々を眺めていた。


商人、護衛、住民――その誰もが、決められた動線の中を迷いなく歩いている。


「慣れれば楽だ」


背後で、ガルムが短く言った。

振り返ると、彼は装備を点検しながら、いつもと変わらない顔をしている。


だが、その声色には、経験に裏打ちされた確信があった。


「外に出るな、って言われたのは初めてだった」


凪の言葉に、ガルムは手を止める。


「外出制限だ。護衛対象が街にいる間は、勝手に動かせない」

「危険だから?」

「それもある。だが――それだけじゃない」


ガルムは凪の方を見た。

叱るでも、脅すでもない。ただ事実を伝える目だった。


「守る側にも、守られる側にも、条件がある」

「条件……」

「保護されている間は、自由は制限される。

 誰と話すか、どこへ行くか、何を見せるか。全部だ」


凪は言葉を失った。

安全と引き換えに、そこまで差し出すものがあるとは思っていなかった。


「暗黙のルールも多い。書かれちゃいないが、破れば終わりだ」

「終わり、って……」

「守られなくなる」


淡々とした一言が、胸に落ちた。


この街は、守る力を持っている。

だがそれは、無条件の善意ではない。

ナディアが会話に加わる。


「勘違いしないで。これは脅しじゃないわ」 「……」

「ちゃんと知っておいてほしいだけ。知らずに踏み越える人、たくさん見てきたから」


彼女の声は柔らかい。

それがかえって、この話が“現実”なのだと伝えてくる。


凪は、もう一度窓の外を見た。

整然とした街並みの中で、人々は今日も平然と暮らしている。

守られている。

だが、守られているからこそ、縛られている。

それでも――


ここまで来て、引き返す選択肢はなかった。


「……わかった」

「理解が早くて助かる」


ガルムはそう言って、装備を背負い直した。


「この街にいる間は、俺たちが責任を持つ」 「その代わり」

「ルールは守れ」


凪は、小さくうなずいた。


宿を出る前、ガルムは一度足を止め…


「少し寄る」


短い言葉だったが、誰も異を唱えなかった。


石造りの通路を抜けた先、

人の流れから少し外れた場所に、小さな中庭があった。


「父さん!」


高めの声が響く。

砂色の壁に囲まれたその場所で、

まだ幼さの残る少女が、こちらへ駆けてくる。


ガルムは、驚くほど自然な動きで膝をつき、

少女を抱き止めた。


「元気そうだな」

「うん! 今日は風が強い日!」


そのやりとりは短く、他愛もない。

だが――凪は、言葉を失った。

戦場で見たことのある男と、同一人物とは思えなかった。


「この人たちは?」

「仕事の仲間だ」


少女は、凪とナディアを順に見上げ、

少しだけ首をかしげてから、にこりと笑った。


「お仕事、だいじ?」

「ああ」


ガルムは、迷いなく答える。


「一番だ」


その言葉に、余計な説明はなかった。

別れ際、少女は父の腕を離し、

何かを思い出したように言った。


「ちゃんと帰ってきてね」

「約束だ」


その約束が、

どれほど重いものかを、凪は知っている。


中庭を離れたあと、

しばらく誰も口を開かなかった。


「……顔に似合わず、子煩悩なんだから」


ガルムは、何も答えなかった。

だが、歩く速度が、ほんのわずかだけ戻る。


「無事に帰らなきゃ、文句言われるな」

後ろから、誰かが小さく笑った。


「守る理由は、人それぞれよ」


やがてナディアが、小さく息を吐く。


「……ああいうのも、守る理由の一つよ」 「理由?」

「守る側が、ルールを破らない理由」


凪は、ようやく理解した。

この街の“条件”は、

単なる管理や支配のためじゃない。

守るべきものを、

確実に守るための仕組みなのだ。

守られることには、値段がある。

そして――

この値段の対価を、支払っている限りは。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。今回は城塞都市エルディアの「守られる側の条件」と、ガルムのもう一つの顔に触れる回でした。次話からは視点が切り替わり、春樹sideへ戻ります。二つの物語がどこで交わるのか、引き続き見守っていただければ嬉しいです。

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