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あぜ道から始まる異世界冒険譚(あぜ譚)  作者: 蒼い向日葵
第二章 乾いた風が呼ぶ方へ

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第14話 壁の中の、知らない視線

前回のあらすじ

城門を越えた商隊は、城塞都市の内側へと足を踏み入れる。守られた街の空気は、外とはまるで違っていた。凪は人々の視線と街の仕組みに戸惑いながら、自分が「外から来た者」であることを突きつけられる。城門が分けたのは、内と外、そして凪の居場所だった。

城門をくぐった瞬間、空気が変わった。


振り返れば、もう戻れない。

そんな確信だけが、背中に残る。


壁の内側に入っただけだというのに、

風の流れも、音の反響も、外とはまるで違う。


石造りの建物が道の両側に密集し、

高い壁が空を細く切り取っている。


砂色の街並みはどこまでも続き、

飾り気はなく、実用だけが積み重ねられていた。


(……街、だ)


ナギは荷台の上から、黙って周囲を見渡す。

人は多い。

だが、賑やかというより――張り詰めている。


露店の呼び声は短く、

行き交う者たちは互いに距離を取り、

目が合えば、すぐに逸らされる。


笑顔は少ない。

代わりにあるのは、値踏みする視線。


「下ろすぞ」


ガルムの声がかかり、

ナギは差し出された手を借りて地面に降りた。


足裏に伝わる感触は、砂ではなく石。

硬く、冷たい。


(……戻れない場所に来たんだ)


そんな実感が、今さら胸に広がる。


「レオン様」


商隊の一人が近づき、低い声で報告する。


「倉庫はいつもの区画が空いています」

「水の割当は……前回より少し厳しいようです」


レオンは小さく頷いた。


「構いません。今回は滞在を短く」

「必要な取引だけ済ませましょう」


淡々としたやり取り。

けれど、その言葉の端々から、

この街で“水”がどれほどの価値を持つかが伝わってくる。


ナギは無意識に、喉を鳴らした。


(……水、自由に飲めないんだ)


それだけで、背中が冷える。

移動を再開した商隊の後ろを、

数人の視線が追っているのが分かった。


好奇心。

警戒。

計算。

そのどれもが混ざった目。


ナギは自然と、ガルムとナディアの近くへ寄った。


「気にするな」


ガルムは前を向いたまま言う。


「珍しい顔は、すぐ噂になる」

「だが、それだけだ」


慰めでも、安心させる言葉でもない。

事実をそのまま告げる声。

ナギは小さく頷いた。


通りを曲がると、

急に匂いが濃くなる。

香辛料。

獣の脂。

鉄と汗。

酒。


混ざり合った匂いが、鼻の奥に残る。


(……息、しづらい)


人の声が近い。

身体が触れそうな距離を、

誰も気にしない。


それなのに――

誰も、信用できない。

そんな感覚。


「ここが外郭層よ」


ナディアが小さく説明する。


「交易区。人も物も集まる場所」

「便利だけど……夜は、あまり良くない」


言葉を濁した理由は、聞かなくても分かる。

ナギは、街の奥へと続く道を見た。


石の壁。

見張り塔。

閉じた窓。

守られている。


同時に――閉じ込められている。


(……助けられたのに)


安心できない。

その矛盾が、この街そのもののようだった。


商隊が倉庫区画に入ると、

周囲の視線が少しだけ薄れる。

レオンが振り返り、ナギを見る。


「ナギ」

「今日は、ここで休みましょう」


穏やかな声。

けれど、その目は街を測っている。


「外へ出る必要はありません」

「分からないうちは、なおさら」


ナギは、素直に頷いた。


(……分からないこと、だらけだ)


街も。

人も。

自分自身も。


それでも――

この場所で生きるしかない。

城塞都市エルディア。


砂漠の中心に築かれた、生き残るための街。

ナギはまだ知らない。


この街で、

味方と敵の区別が、どれほど曖昧かを。

そして――

ここが、

自分を変える場所になることを。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。城塞都市エルディアの空気や違和感を、少しでも感じ取っていただけていれば嬉しいです。街に入ったからこそ生まれる不安と選択が、これからナギをどう変えていくのか。引き続き、見守っていただければ幸いです。

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