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あぜ道から始まる異世界冒険譚(あぜ譚)  作者: 蒼い向日葵


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第9話 新たな力と小さな相棒

前回のあらすじ

村人たちの夜通し宴会に巻き込まれ、春樹はダンスや謎のゲーム、元気すぎる老婆の酒で大騒ぎ。長老セリオスの森や飛竜の伝承話に耳を傾けつつ、翌日の街への旅の準備も決まり、春樹はほろ酔いのまま新たな冒険を待つ――。

翌朝、春樹が目を覚ますと、村長の家の布団の中だった。頭はズキズキ、喉はカラカラ。昨夜の記憶はところどころ欠けている。


「起きた?」


椅子で本を読んでいたリディアが肩越しに声をかける。どうやら宴会の後、村長の家まで運ばれたらしい。


「あなた、最後は村の子どもたちと変な歌を合唱してたわよ」


リディアが笑みを浮かべて言う。春樹は顔を赤くしながらも、急いで身支度を整えた。


「もし良かったら……街まで一緒に行きましょうか? 私もちょうど、自分の村へ帰る予定があるし、その途中よ」


復興作業で世話になったこともあり、さらに宴会明けの体調も考え、春樹は素直に頷いた。


「お願いします……正直、まだ頭が重くて……」


リディアはくすっと笑い、

「じゃあ私が案内するわ。無理しないでついてきて」

と優しく背中を押した。



村の入り口には、多くの村人たちが集まっていた。宴会明けの疲れも見せず、皆が手を振って声をかけてくれる。


「兄ちゃん、また来いよ!」

「弓のお兄ちゃん、がんばれー!」

「次は飲み勝負しよう!」


春樹は苦笑して「二度と負けません」と返し、リディアと共に街道へ歩き出した。荷物は軽く、弓はまだ長いまま肩に担がれている。少し眩しい朝日が二人を照らし、こうして新たな旅路が静かに始まった。



森の中、肩に担いだ和弓が枝に引っ掛かり、何度も歩調を乱す春樹。


「……やっぱり長いな、これ」


子飛竜は前方を気にするように鼻を鳴らし、ときおり後ろを振り返る。小さな翼がわずかに震え、落ち着かない様子だ。リディアは少し申し訳なさそうに微笑む。


「森の道って、慣れないと本当に歩きづらいものね」

「いや、これは俺の弓が……長すぎるだけで」


そのとき――ふわり、と耳元にかすかな囁き声。


《……助けてくれて、ありがとう……》


春樹は思わず辺りを見回す。

「今の……誰だ?」


リディアが驚いた顔で近づく。

「どうしたの?」

「なんか……声が聞こえたような……」


その瞬間、春樹の手にしていた弓が微かに光を帯び、内側から淡い光を放った。弓は帯状に細くなり、光の粒を散らしながら春樹の左手首へ巻き付き、カチリと音を立てて固定される。まるで金属と木を融合したような、不思議な質感のブレスレットだ。


「……な、何だこれ……?」

驚く春樹にリディアが目を輝かせる。


「春樹! もしかして……スキルが発現したんじゃない?」


春樹は呆然と手首の装飾を見下ろす。体に馴染み、森の中でも邪魔にならない軽さとサイズ。触れると形状の奥に確かに“弓”としての感覚が残っているのを感じた。


「……すごい。これなら荷物にもならないし……」

「使いたいときに意識すれば、元の形に戻るはずよ。精霊の授けるスキルって、そういうものが多いから」


子飛竜は興味津々で春樹の腕に頭を寄せる。春樹は息を整えて言った。


「……精霊か……みんなに助けられてばかりだな。ありがとう」


新しく得た力が、胸の奥にじんわりと温かい火を灯す。春樹は腕に巻かれた小さな弓の守りを確かめ、リディアと子飛竜と共に森の奥へ歩みを進めた。



森の奥へ進むにつれ、春樹は胸の奥にざわつく違和感を覚えた。鳥のさえずりは途切れがちで、風の流れもどこか落ち着かない。子飛竜はぴたりと立ち止まり、鼻先を上げて匂いを確かめる。小さな翼がわずかに震え、落ち着かない様子で春樹の足元へ寄った。


「……何か、いるな」


春樹は周囲を見回す。折れ曲がった枝、土に残る不自然な爪痕。先日の魔獣が残した痕跡に似ている。


リディアも眉を寄せ、魔力の糸を伸ばすように周囲に意識を向けた。


「気配が少し濃いわ……まだ遠いけど、別の魔獣が動いてるかも」


春樹は自然と歩幅を慎重にし、子飛竜もぴったりと寄り添う。しかし、緊張は徐々に薄れ、森の匂いが穏やかさを取り戻す。


やがてリディアがほっと息をついた。

「……大丈夫。町が近いみたい。魔獣の影響は届かなくなるわ」


春樹は小さくうなずき、遠くに見え始めた街道の明るさに視線を向けた。


「よかった……もう少しだな」



街の外壁が木々の隙間から見えはじめた頃、春樹は腕の中で落ち着かず尻尾をぱたぱた揺らす子飛竜を見下ろし、ぽつりと口を開いた。


「そういえばさ……この子、名前つけたほうがいいんじゃない?」

「名前?」


前を歩いていたリディアが振り返り、表情をぱっと明るくした。


「もちろん考えてたわ! たとえば――“闇翼の破戒・ドラグノス”とか!」

「……えっと、急にどうしたの、その方向性」

「ちがうの? じゃあ“紅蓮爆炎の末裔・フレイムルナー”!」

「長いし物騒だし、なんか呪文みたいだよ!?」


子飛竜は「きゅ?」と首をかしげる。

リディアは次々と案を出す。


「蒼き支配者アルティオス!

天空覇王ヴァルグレイス!

影を統べる者ナイトフォール!」


「……全部、どこで仕入れてきたのそのセンス……」

「ち、違うの!? こういうの好きかなって……!」


春樹は苦笑し、子飛竜の頭をそっと撫でた。柔らかな鱗の感触、くりっとした瞳。小さくて元気で、甘えん坊。


「……この子、見た目も仕草も素直で可愛いしさ。もっと気負わない、自然な名前がいいと思うんだよね」


子飛竜が「きゅ!」と胸を張る。その様子に春樹はふっと微笑み、ひらめいたように声を上げた。


「――“ソラ”ってどう?」

「ソラ?」

「うん。空を自由に飛べるようにって意味もあるし、この子に合う気がするんだ」


リディアは目を丸くしたが、すぐに優しく頷いた。


「……いい名前。うん、この子にぴったりだわ」


子飛竜――いや、“ソラ”となった小さな飛竜は、嬉しそうに春樹の胸元に頭をこすりつける。


「決まりだな。よろしくな、ソラ」

「きゅるっ!」


街までは、もうほんのわずか。新しい名前を得た小さな相棒と共に、春樹たちは文明の光へと一歩を踏み出した。

読んでいただき感謝です!

執筆力を吸い取る謎のモンスターに狙われていますが、

なんとか更新を続けていきます!

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