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7.拳と手刀

「ソウヤ!足動かしなさい!」


「!」


ミクスセラムの一言で、宗谷は現実へと意識が呼び戻された。

背中にはもふもふとした羽毛の感触。

前にはこちらの肉を視線だけで食いちぎろうとする獣。

風邪をひきそうなくらいの温度差がある。


「……すまない、なんでこいつらがこんな都会にいるのかと思って。驚きのあまり少し気が動転していたようだ」


「あんた逆に根性あるわね。まあいいわ、まず後退りして。私が合図をするからそしたら後ろ振り返って全力疾走!OK!?」


少しテンションが高いミクスセラム。

慌てているからか、背中にしがみつく力も強くなっているようだ。

普通に痛い。

しかし、それを指摘できるほど宗谷も落ち着いてはいない。

今が命の危機ということはわかる。


「わかった」


ゆっくり、一歩一歩後ずさる。

すると、スピードを合わせキメラたちもゆっくりと近づいてきた。

さっきは陰に隠れていた部分が、月の光に照らされて(あらわ)になってゆく。


「……」


ピタっと、電池が切れたかのように宗谷の足が止まった。

理由は二匹のキメラの肉体。

奴らの大きな口には真っ赤なシミがたくさんついていた。


「ソウヤ?どうしたの?」


ミクスセラムが背中をグイグイと後ろへ引っ張ってくる。

しかし、どうしても足をそっち方向には進められない。

……こいつらが人を喰っていた以上。

“助けられなかった者“として、これを見過ごすわけにはいかなかった。


「……再びすまない、ミクスセラム。降りて一人で逃げてくれ。俺はやる事ができてしまった」


そう言って、宗谷はその場でしゃがみこむ。


「はぁ!?貴方何しているの、敵の真正面なのよ!?」


その通り、何人食べても満たされない獣がこのチャンスを逃すはずはない。

餌が自分から首を差し出してきたのだから。

さっきのスピードが嘘かのような速度で、唸り声を上げながらキメラが1匹向かってくる。

もう一秒後には宗谷とミクスセラムの首元を食いちぎっているだろう。


キメラは喰らうために、うずくまっているモノに飛びかかり……。



「G A?」



宙を舞った。



キメラの誤算は二つ。

飛びかかった事。

もう一つは、自分たちが狩る側だと勘違いをしていたことである。


「G、A、AA……」


さっきまで勇猛に立っていたはずが、呻き声をあげて、そのまま地面に突っ伏し気絶するキメラ。

後を追って襲おうとしていたもう一体のキメラは思わず立ち止まり、それを信じられないという目で見ている。



何が起きたのかわからない。

声にならない、掠れた驚きがミクスセラムの口からこぼれ落ちた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


……キメラが飛びかかる時。

宗谷は顔をあげ、腹の部分から心臓の位置を確認していた。

キメラは蛇の尻尾をもちライオンの顔、山羊の胴体と角を持つ生物である。

生物ならば、心臓を打撃で揺らせば止まる、そう考えたのだ。


故に、その位置を殴れるタイミングまで引きつけた。


まだ。



まだだ。



まだ……。




そうして、距離にして約30cm。


「……ふんっ!」


宗谷はキメラの心臓に拳をぶち込んだ。

ぐちゃ、と宗谷は自分の拳が潰れた音が聞いた。

しかしそんなことは気にもせず、ただ拳を振りあげることに全力を注ぐ。


「すーーっ」


そうして深い息の後。

キメラは、右上がりのアッパーとともに宙返りで飛んでいった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


宗谷の拳はもう血まみれで、少し骨が見えているような状態。

右腕はもう折れているのか力が入ってない様子だ。


「……」


宗谷自身は特に驚きもなく、無言で二体目のキメラへと目を向ける。

目線を向けられたキメラは動揺するも、相手はもうすでに深傷を負っていると理解しすぐに戦闘体制に入った。


「……シッ」


短く息を吐き、宗谷はキメラの方へ駆け出す。

キメラはそれを好都合と言わんばかりにこちらに近づく。

前者のように飛びかかりはせず、爪と牙での攻撃を主体とした戦おうとしているのだろう。

風を切って振り下ろされる爪。

しかし宗谷はそれを避けて、キメラをまるで跳び箱のように飛んで後ろに回った。

尻尾の蛇がここぞと言わんばかりに宗谷を目掛けて飛び込んでくる。


……それが敗因になるとも知らず。

宗谷は攻撃を軽くいなし、蛇の胴体を強く掴む。

そして、力に任せて強く引き抜いた。


「GAAAAAAAAAAA!!!!!!」


動かなくなった蛇を地面に放り投げ、キメラに馬乗りになる。

そしてライオンと山羊の境目である首元を狙って、強烈な手刀を繰り出した。

声を発す暇もなく倒れるキメラ。


こうして、勝負は決した。

結果は獲物に擬態していた狩人の勝利である。


「ふう、ようやく終わった。ミクスセラム、もう出てきていいぞ」


宗谷はそう言って、血まみれな両手のままミクスセラムに近づく。

最初のキメラを気絶させた後、アパートの瓦礫に隠れていたミクスセラムは未だに目の前で起きた事が信じられなかった。


「……あなた、何者?」


「?何者って、ただの人間だよ」


ペンギンの顔でも「こいつ何言ってんだ?」というのがわかるほど呆れるミクスセラム。


「そうですねぇ、私も教えて欲しいです。どうしたら一般人がキメラを倒せるのか」


音もせず。

突如として宗谷とミクスセラムの間に現れ、会話に入ってきた。

誰だ?

敵?味方?

至極真っ当な疑問が、一人と一匹の頭を巡る。


「こんばんは。私、八百美道乃と申します」


しかし、そんな疑問を吹き飛ばすように。

彼女はミクスセラムの方に“のみ”挨拶をした。

そして顔をあげて宗谷の方を向き、こう言い放った。


「そして、そこの人間。私人間嫌いなので、そこから近づかずに話を聞きなさい」


明らかにミクスセラムの時と対応の違う挨拶。

だが宗谷はそれを気にもとめず、道乃の話に耳を傾ける。


「ええ、それで結構。ってことで単刀直入に言うと、アナタたちを逃がしてくれた東雲識月はこのままだと死ぬわ」


「……!」


「動かず黙って聞きなさい人間。『このままだと』と言ったでしょう……私の作戦に乗っかれば、ヨユーで助ける事ができます」


「乗っかる。だから、どうしたら助けてくれるか教えてくれ」


「話の内容も聞かず……愚かでよろしい。では……人間。あの魔法人形、一発殴ってみたくはないですか?」


そう言って、目の前の錬金術師は少しおちゃらけながら宗谷に作戦を話した。

「マジッQ、七回目ー!今回はキメラについて!」


キメラ……ライオンの頭、山羊のツノと胴体、蛇の尻尾を併せ持つ生物!肉食だよ。基本的にどの生物よりも身体能力が高くて、特にジャンプ力や爪の鋭さとか『狩り』に対しての発達がすごい。基本的な攻撃方法は飛びかかって牙で噛みちぎったり、爪で切り裂いたりして相手を追い詰めるスタイルだ!


「うーん、強いは強いけどわざわざ作るほどじゃない気がするー。ま、錬金術師の中にこいつが好きな人もいるかもね!じゃあ、次回をお楽しみにー!」

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