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3.甘味は剣よりも強し

「……ああ。だからペンギンの姿なのに言語が喋れるのか。なるほど、合点がいったよ」


ニコニコと。

謎は解けた、と言わんばかりの笑みでミクスを見る宗谷。

どうやら錬金術や魔法人形について聞くのは諦めたらしい。

対して。

もう何も言えない、もとい気力すらないミクス。

宗谷はその反応を見て納得したと勘違いしたのか頷き、食べ途中のお皿を持ってきて再び夕食を始める。


ミクスはそれを見て、怒りが芽生えてきた。

どれだけ説明しても怯えないばかりか、飯まで……。

というか、自分も腹が減った。

故に。


「ちょっと、何一人だけ食べてるの!?」


「ン!?」


ペチペチと肩を叩いてくるミクス。

さながら水族館のペンギンふれあいルームのよう。

しかしながらのその実態は、食事中の少年とペンギンもどきが触れ合っているのみであり、特に誰にも望まれていないふれあいである。


「……じゃあ、ミクスセラム。君は何を食べるんだ?やっぱり魚?」


宗谷はしっかり米を飲み込んでから聞く。


「勝手に見た目で判断しないでもらえます?私、何でも食べれます」


にちゃあ、と。

ミクスの表情が歪んだ笑みに変わる。

宗谷はこんなペンギンの顔を見るのは初だった。


「まあ、一番好きなのは人間よ。ほら、人の魂って美味しいじゃない?」


あっけらかんと、悪い笑みで彼女はそう言った。


「……困った。人の魂なんか用意できない」


「そうですか?じゃあ、そこら辺の人間でも頂こうかしら」


「それはさせないけど……何かあったかな」


そうだ、と宗谷は何か思いついて席を立ち、キッチンに向かう。

そうして冷蔵庫からあるものを取り出し、未だテーブルの上で踏ん反りかえっているミクスの前に置く。


「……なにかしら、コレ?」


「バニラアイス……甘くて冷たい食べ物だ」


本来、ペンギンに与えてはいけないと誰もがわかる食べ物。

それはもちろん宗谷もわかっているが、今目の前にいるのは魂が好物のペンギンもどきである。

なんなら言葉も喋れるので、もはやペンギンというより人に近いだろう。

ならばみんな大好きデザートで、ということでアイスである。


「別に説明が聞きたいわけじゃないですけど。で?これを食べろって?」


「いや……お客さんに出すなら甘味かなと思って」


ミクスは宗谷がますます分からなくなってきた。

どうしたら人間の魂が甘味に変わるのだろうか。

……もしかして、ペンギンの姿だから舐められてる?

ミクスは目を鋭くして宗谷を見る。

しかし彼の表情は依然として涼やかで、その顔には一切の嘲笑、憐憫はない。

ミクスは諦めた。


「はぁ、まあ捧げ物と考えましょう。いただきます」


「……」


「!?……甘くて、冷たい。人の魂より美味しいわねこれ。……なんですかその目は」


宗谷は驚いた表情をミクスに向けている。

何に驚いているのだろうか。

もしや毒でも……?とミクスが考えた矢先、宗谷が口を開いた。


「いや、スプーン使えるんだと思って」


……どうでもいいことだった。

今はアイスに集中したいのでツッコミもせず、ただ夢中に食べ進める。

そんなミクスを見た宗谷も、食事を再開した。

そのまま無言の時間が続く。


二人とも食事を終えて。


「アイス1日一個でどう?そうしたら人間……人間の魂も食べないわ」


「気に入ってくれてよかったが……アイスだけじゃお腹は膨れないだろ?」


「私、魔法人形なのであなたたち人間のように多くのエネルギーを必要としないの」


「……そう」


話は終わった。

ジャバジャバ、と水が皿の汚れを落とす音が人と人形の違いを明確に表すかのように際限なく雑音を奏でる。

……彼女との口約束がどれだけの効力を持つかは分からないが、人の魂を持ってこなくても良くなったのはいいことだろう。

まあ、代わりに宗谷の給料に大ダメージが入ったのだが。


「……あ。給料で思い出した」


「?」


宗谷は明日は普通に学校があるし、その後にはバイトもある。

となると、ミクスはどうすればいいのだろうか。

ペンギンを学校に連れて行けるわけもない。

もし人語を話せるペンギンなんて知れたら、一気に実験動物まっしぐらだろう。

いや、それ以前にこいつが人を襲う可能性もある……。


「ミクスセラム。俺は明日外に出なくてはいけないのだが」


「……あら、私から目を離すつもり?言っとくけど、他の錬金術師と契約したらさっきのはチャラだからね?」


「アイス買ってくるから、家から出ないでくれ」


「……2個で手を打ちましょう」


こうして、宗谷の明日の心配は600円の出費で打ち消された。

あとは風呂に入り、歯を磨き、寝るだけ。


翌日。


とりあえずミクスを起こし、食事を用意。

いちごジャムをつけた食パンを二人して平げ(ジャムぱんへの評価はミクス曰く「悪くないわね」)、ミクスには本を数冊置いておき、宗谷は半袖のyシャツを着て高校へ向かった。


宗谷のアパートから也城高校までは徒歩で20分程度。

通学路はほとんど住宅街だが、也城高校の少し先には商店街がある。

さらに商店街から5分ほどまっすぐ行くと、月糸市のメインシンボル、月糸駅が鎮座している。

駅には地下にデパートがあったり、駅周辺も大手の電気屋があったりと買い物には困らない。

……まあ、宗谷はそもあまり駅には向かったりしないのだが。

一度だけ、月糸市の地理を確認するため駅周辺に行った時くらいだろう。

自分の故郷じゃ考えられないものが並んでいて、なんというか、もう宇宙人のような気持ちになったのを覚えている。

あとは、新築のような綺麗で大きな屋敷が行く道にあったくらいだ。


(デパートのは高い……やはりここは前回と同じアイスで、いや、「飽きちゃいました」なんて言われたら対応が面倒だ。他の味も買っておこう)


どこで買うかを迷いながら高校の通学路を進む。


「よっ!」


……後ろから、突然声をかけられた。

すぐさま後ろを振り向くと、予想していた通りの人物が朝の太陽にも負けない笑顔で挨拶をしてくる。


「おはよー!今日もいい朝じゃない!?」


「ああ。いい朝なのは同感だが、鹿野(かの)……びっくりしたぞ」


「えー、いいじゃん!ほら、今日ってば小テストもないし!嫌いな古文もないし!喜びが溢れちゃったんだよ!」


何かのポーズをワンフレーズごとにとる鹿野。

非常にオーバーリアクションである。

彼の後ろにはもう一人の友人が冷えた目で鹿野を見ていた。


「……通学路で立ち止まって変なことしてんじゃねえよ!」


「あぼし!?」


後ろから鹿野の胴体に飛ぶ華麗な手刀。

さながら名高る武士の一切りのような流麗さ。

地面に倒れる……ギリギリで変なポーズして止まる鹿野。

それを見ながら、宗谷は手刀を放った方の友人に話しかけた。


「すごいな、桐城(きりしろ)。まるで格闘家のようだ」


「そりゃあ、武術やってますから……って、苗字で呼ぶのやめろ、宗谷」


「!そうだった……ごめん」


「……あの、俺への心配とかないんですかね。宗谷さん?」


「いや、鹿野ならもう2、30回くらい五百里の手刀を受けてるだろ?最初の方は心配したけど、見慣れるとな」


「痛いモンはいてぇんだけどね!」


ということで。

宗谷は友人の鹿野羊司(かのようじ)桐城五百里(きりしろいおり)、と共に登校することとなった。


宗谷とこの二人との交流は高校からである。

たまたま席の近くだった二人。

中学からの同級生がおらず、都会に上京してきて右往左往の宗谷に対し、


『まじ!?じゃあ割のいいバイト教えたるよ!』


『鹿野だけじゃ危なっかしいな……しゃーない、宗谷。俺もついていく』


『えぇー。桐城は有名チェーンレストラン『キンモクセイ』の御曹司なのに。バイトすんの?』


『……羊司、出禁にしてもいいんだぞ?あと名前』


『ヒェー!言いすぎましたー!すみません五百里様ー!』


『ま、んな権限ないけどな』


このようにバイト探しやらなんやらを手伝ったくれた恩人である。

そこから縁ができて、その後も何かと絡むようになった。

今となっては友達だと宗谷は感じている。


「……なあ、宗谷」


不意に、五百里が宗谷に向かって声をかける。

何かに気づいたような声色。


「五百里?どうかしたか」


宗谷の疑問には答えず、五百里は顰めっ面のまま指を指した。

指し示されているのは、肩。


「それ、どうした?」


宗谷はなぞるように指し示されたところを見る。

半袖から少し見え隠れする右の上腕。


そこに、痣ができていた。

大きく、悪魔の翼のような痣が。

「マジッQー!第三回お願いしまーす!今回は、えー魔法人形の食べ物について!」


魔法人形は基本的に人の魂が好物!理由は神話に基づき人の信仰とかをエネルギーにするように作られているから。なので別に魂じゃなくても『人間のエネルギー』なら何でもいいんだね。今回の黒木くんの『貢物』はナイスチョイス!貢物も同様の力を持っているよ!

……まあ正直言えば何が食えて何が食べれないのかは私も知らないんだけど。


「わ、私も黒木くんからアイス貰いたいな〜……ナンチャッテ(笑)……次回もお楽しみにネ!」

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