1.夜の水鳥
魔法とは、奇跡である。
魔法を使えば、街を覆うほどの炎を指先一つで生み出せたり、はたまたなんの変哲もない場所に台風を起こすことだってできる。
故に、神のようなものにしか扱えない奇跡。
神話にしか存在できなかった代物。
16世紀、その奇跡を再現しようとした男がいた。
男の名はケーリュ・ケイオス、錬金術師だ。
この時代の錬金術は“魔法“という神話の再現を目標としていた。
そのため彼は金属を消費して炎や雷を起こす『幻想錬成』を考案し、錬金術の技術をより魔法に近づけたとして今でも狂信的なファンがいるほど有名な錬金術師である。
彼は魔法を扱うため、多くの実験をしたと言われている。
幻想錬成もその一つ。
しかし実験の末、彼は人の身では神の奇跡たる“魔法”を扱えないと判断。
五体の人型ホムンクルスを製作し、その五体に、ある神話の魔法の呪文を刻み込んだ。
空の呪文。
混沌の呪文。
愛の呪文。
大地の呪文。
夜の呪文。
こうして魔法と命を吹き込まれたホムンクルスたちは、魔法人形と呼ばれ、その能力を全錬金術師から期待されていた。
しかし、呪文の影響か、はたまた奇跡を再現しようとした罰なのか、彼らは人間に反旗を翻した。
この戦いは錬金術師たちだけではなく、一般人にも被害が及び、被害者数は数万人。
これに対し、錬金術師たちは多くの犠牲を出しながらも五体を封印。
以後魔法人形との戦いは『魔法大戦』と呼ばれ、錬金術の世界における三大事件の一つとなり、魔法人形製作者のケイオスは行方を眩ました。
これ以降、錬金術師たちの中では暗黙のルールができていた。
『魔法について触れてはいけない』
『人間たちに被害を及ぼさないため、錬金術は秘匿しなければならない』
……しかし封印は、どこまでいっても“封じる”ものである。
どんなものも劣化する。
封をしたものはいずれ開かれる運命。
2002年。
彼らの封印は解かれた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
午後6時。
都会の夜空はさして黒くはないな、と下校中の少年は思った。
何色に近いかと言うと、紺色。
正確には黒と混ざって濁った青と表現するのが正しいだろう。
……まるで自分の今を表しているようだ、と彼は思う。
少年は、この春に一人でこの月糸街に上京してきた。
理由は、私立也城高校への入学。
都会への憧れから、村を離れこんな都会へ越してきた。
しかし、田舎に住んでいたためか、都会は慣れないことが多い。
例えば、自動車。
あんな生き物が当たったら即死の代物、猪くらいしか彼は知らなかった。
しかも多くの人がそれに乗り、何百にも行列を作ってる。
素直に怖い。
この他にも多くの田舎と都会との乖離を体験し、『未だ自分は都会に溶け込めていない』と感じる日々を送っている。
現在は梅雨。
一月の内雨の降らない日の方が少ない、湿りの月。
上京してから三月ほど経っているはずなのに、未だ慣れない自分と、それを取り囲む社会。
まさしく今の空と思うのは、感傷に浸りすぎだろうか。
……あるいは、それだけホームシックなのかもしれない。
(自分から村を飛び出しておいてそれもどうなのだろうか……)
空から目を離し、築20年近くのアパートの203号室に帰る。
部活やバイトがないとこんなに早く帰れるのだ。
ネガティブになっていてもしょうがないと思い、気持ちを切り替える。
「……ん、手紙?」
部屋の前。
ポストを確認すると、重なったチラシの束の上に一枚の手紙。
外側には何も書いていない。
不思議に思いながらも全部取り、203号室に入る。
中はお化け屋敷のような暗さ。
電気をつけると、ここから見えないキッチンを除き机と椅子しかない無機質な部屋が照らされる。
「ふう……」
手洗いうがいを済ませて椅子に座り、手紙を読む。
宛先は書いていないのに本当に読んでいいものか……と少し考えたが、自分宛の場合がとても怖いのでさっさと見ることにした。
書かれている字はまるで波のように滑らかで、洋菓子店のショーケースにあるかのように綺麗に陳列されている。
しかし、少年はこんな綺麗な字を知らない。
さて内容は。
『拝啓 黒木夜継様
この度、あなたは錬金術師の中でも最大の幸福、“魔法”に触れられる機会を得ました。
失われていた禁器、“カミの箱”を一つ送ります。
それでは、どうか良い錬成ライフを。 親愛なるKより』
……?
少年には何から何まで理解ができない。
しかたなく一度手紙を机に置いて、考えることにした。
まず、夜継は少年の姉だ。
少年自身は黒木宗谷という名前である。
つまり、宛先を間違っているのだ。
次に、錬金術。
そんなものは知らない。田舎でも聞いたことがない。
というか、姉はそんなものに関わっていたのかと、少年……宗谷は思案する。
とにかく、もう一度読み返そうと手紙を一瞥する。
「……!」
机の上の手紙が、パタパタとひとりでに折りたたまれてゆく。
困惑。
席を立ち、椅子の後ろに隠れて見ていることしかできない。
そんなことを気にも留めない紙は、そのまま折りたたまれて行き、一つの立体的な箱になった。
机の上で起こったタネもシカケもないマジックショー。
これが見物料4000円程度のマジックショーならば、『値段に見合っていてすごかった』の一言で済ませられるだろう。
しかし、開催されたのは自宅の机の上。
マジシャンなんていない。
物はひとりでに動くのはただの恐怖だった。
宗谷は恐る恐る手を紙箱へと伸ばす。
なぜか?
ゴミ箱へ全力投球するためだ。
そうして、手と箱の距離は数cmに。
なった、はずだった。
箱が開かなければ。
箱はもう、閉じるものとしての能力をなくし、ただの紙となって机の上に座り込んでいる。
紙の箱だったものから出てきたのは、光球。
支えを必要とせずに宙に浮かんでいる。
まさしく机上の空論。
その光から、ナニカが泳ぐように出てくる。
黒い羽。
黒いくちばし。
ふっくらとした白い腹。
そして、琥珀色の眼差し。
その動物を、我々は知っている。
ペンギンだ。
ペンギンが、なぜか光球から出てきた。
ペンギンは光から出て、何事もなかったかのように机に仁王立ちしたかと思えば。
「封印、解いたのはあなた?」
そんな言葉を、口にした。
「後書きのマジッQ!えー、今回は魔法人形について紹介しまーす」
魔法人形とは……16世紀にケーリュ・ケイオスっていうすごい人が作ったやばいホムンクルス。
普通のホムンクルスは人の血液・数種類のハーブ・塩を蒸留器にぶち込んだらできるんだけど、ケーリュはその後、できたホムンクルスに神話の呪文を書き込んだんだって!痛そーだね!(小並感)
すると目覚めたホムンクルスは手から炎を出したりとかできたらしい!
「何事も偶然から生まれるもんだねぇ〜。ってことで、次回もお楽しみに!」




