学園で婚約破棄が流行ってますが、私は愛を叫びたい。
感想欄に立会人視点の話書いてます。
よければ本編後にご覧ください。
「ちょっと、ついてこないでよ」
「仕方がないだろ?同じクラスなんだから」
私、ミレイナ・アーデル子爵令嬢と、侯爵家の嫡男レオナルド・ヴェインの――よくある朝のやりとり。
王立セレスティア学園――
王族から子爵家まで、名家の子弟が集う貴族教育の最高学府。
「相変わらず口の悪い令嬢だな」
「なんですって?紳士だったらもっと上手にエスコートできないの?」
「そう言う君も、少しは令嬢らしく清らかにしてみたらどうだ?」
また言い合ってしまった。
彼は幼馴染であり、そして私の婚約者。
親同士の繋がりで決まった、いわゆる政略結婚――
私は子爵家の娘、彼は王家に連なる侯爵家の嫡男。
「釣り合わない」と陰で囁かれるたび、
私は強がるように彼に噛みついた。
(どうして意地張っちゃうのだろう――)
クラスメイトの女が「レオナルド様」と甘い声で呼ぶ。
彼が笑顔を返すのを見て、胸がチクリと痛んだ。
(……あの笑顔、私には見せてくれないくせに)
思わず席を立って、その場を離れる。
かつては毎日一緒に遊んでいたのに、
いつからか――目を合わせるたびに喧嘩ばかり。
原因なんて分かってる。
(私が、彼がモテるのを妬んでたから……)
――本当は、好きなのに。
素直になれない。
口を開けば喧嘩ばかり。
落ち込んでいた私に、母が話してくれた。
「昔ね、学園内にあるあの“光翼の丘”で告白されたの。
年に一度、鐘が鳴る時刻に想いを伝えたら、
その恋は叶うって――」
母は微笑みながら、指先で小さなベルのペンダントを鳴らした。
その“光翼の丘”には、古い伝説がある。
大昔、聖女が一人の騎士と恋に落ち、
神に背いてまでその愛を貫いた。
処罰を覚悟したふたりは、
最後に大聖堂の鐘を鳴らし、祈りを捧げた。
――その音は空へ昇り、世界を包んだ。
以来、聖女が大聖堂で鐘を鳴らす時、
加護は“光翼の丘”にも届き、
その場で告げられた愛は“真実”として記される。
だから今も、年に一度だけ、
人々はその音に合わせて丘で想いを告げるのだ。
愛を見届ける――それが“光翼の丘”の風習。
(お母様も…この丘でお父様に告白されたんだ)
なら、私も。
「レオナルド、今日の十八時。“光翼の丘”に来て」
「は?なんだよ急に」
「いいから来るの!……じゃあね!」
……言い逃げしちゃった。
今日こそ、素直に伝えるんだ。
たとえふられても、今の関係を変えるんだ。
◇
約束の時刻。
丘に着いた瞬間、私は固まった。
「ええ……人、多っ!」
どうしよう。
レオナルド……まさかもう誰かに告白されてないよね?
見渡すかぎり、すごい人混み。
みんな告白のため?――にしては、流石に多すぎる。
あれは、ラブラブで有名なロゼッタ令嬢とミルド子爵…
「ロゼッタ……君だけだ、愛しているよ。」
「まぁ♡……けどもういいでーす♡婚約破棄します!」
「……え?」
……え?
さらに、丘の中央では、第一王太子アルヴェイン殿下までが。
「君はリリスを虐めていたな!」
「そんな事実はありません」
「嘘をつくな!君とは婚約破棄する!」
「そうですか……どうぞご勝手に」
「ええええ!?」
何故かあちこちで婚約破棄宣言が飛び交っている。
「あーミルド子爵が浮気してるって本当だったのか」
「王太子やらかしたな、公爵家の後ろ盾なくなるぞ」
「王位継承権が動くなんて!お父様に報告を……どなたか、通信機をお持ちではなくて?」
……なにこれ。
同級生マルクを見つけて駆け寄る。
「な、何これ?どうなってるの!?」
「お前も婚約破棄?」
「は!?違うけど!?」
彼はあっけらかんと答えた。
「この丘、昔は告白の聖地だったけど、今は“婚約破棄の聖地”になってんだよ」
「!?縁起悪!!」
「ここ数年、別れを願うやつが増えてきてさ。
で、とうとう制度化されたんだよ。
聖女の鐘が鳴る時だけ、
神殿が破棄の誓約を正式に認める。
“神の証人つき”ってわけ」
言われてみれば、丘の脇には神殿の立会人が数名立っていた。
その顔には、心なしか冷めた表情が浮かんでいる。
「学園順応すぎ!!」
さらに、野次馬たちが盛り上がっている。
「十対一で男が折れる方に賭けたわ」
「“賭博は禁止”って毎年言われてるだろ、やめとけって(笑)」
(やめなさいってば!!)
すると背中から、王太子の婚約者――マリアベル・ルヴェル公爵令嬢の冷たい声が響いた。
「婚約破棄は承知いたしました。では慰謝料についてですが……」
「えっ……?」
「当たり前です。もちろん彼女にも請求しますよ」
「そ、そんな……」
(そんなことも考えてなかったの!?愚かすぎる…いや違う、そうじゃなくて!)
丘の端では、神殿の立会人が鼻で笑っていた。
「あー、マリアベル様流石だな、Bパターンか」
「Bパターンて何よ!?」
周囲の囁きが聞こえる。
「あれ、政治学部が立ち上げた“婚約破棄研究チーム”らしいぞ」
「研究チーム!?」
「慰謝料交渉の心理モデルを取ってるって話だな」
「破棄の切り出し方、泣き崩れ方、賠償率――全部統計化してるらしい」
「すごい!研究熱心ね……って、辛辣すぎでしょ!!」
「統計とれた?」
「これで母数確保できたな、次の研究発表いつだっけ?」
(これが今の伝説の丘……こんな状況で告白なんてできるか!)
「ロゼッタ!!誤解だ!!」
「あ、Aパターンはもう事例あるからいいわ」
視線の先では、警備員が暴れたミルド子爵を押さえ込んでいた。
「セレノーム警備ギルドの制服……どうして?」
「数年前セレノーム家のご子息が入学してから、この儀式の度に警備員を配置してるらしいぞ」
「ほら、暴れた奴らを拘束してくれるんだ」
「まぁ、至れり尽くせりね!」
(……じゃなくて!)
「話を聞いてくれぇぇ!」
「はいはい、行きましょうね」
――ミルド子爵はそのまま、丘の外へずるずると引きずられていった。
「今年は対象がひ弱で助かったな」
丘の端では、神殿の立会人が苦虫を噛み潰したような顔で見届けていた。
「……」
(両親の思い出の地が……。お母様になんて言えばいいの…)
頭を抱える私の耳に、低い声が響いた。
「おい」
「!?げっ……」
振り返ると、息を切らしたレオナルドが立っていた。
「来たぞ。……お前、俺と婚約破棄したいのか?」
「そ、それは…」
「俺はするつもりはない!」
「え?」
「お前が何と言おうと、絶対しないからな」
言葉が詰まる。
「ど、どうして……?」
レオナルドはほんの少し顔を赤くして、息を吐いた。
「どうしてって……お前が好きだからに決まってるだろ」
「!!」
一瞬、言葉が出なかった。
「な、なによ……いつも喧嘩腰なくせに……」
「お前が意地張るからだろ」
「そっちこそ調子に乗ってたくせに!」
思わず、いつもの調子で言い返す。
でも、どちらもすぐに口をつぐんで――ふっと笑った。
「……で?お前はどうなんだよ」
「え?」
レオナルドの声が少し震えていた。
真っ直ぐな瞳に射抜かれて、心臓が跳ねる。
「お前は、俺のことどう思ってるんだ?」
息を吸って、吐いて、目を閉じて。
そして、笑って言った。
「……好きだよ。ずっと前から。レオナルドが、好き」
風が吹いた。
鐘の音が、静かに鳴り響く。
ざわめきも歓声も遠のいた。
胸がいっぱいになって、頬が熱くなる。
丘の端では、神殿の立会人が満足げにうなずいた。
周りではまだ誰かが「いやぁぁ!違うの!!」と悲痛な叫び声があがっていた。
私の世界は、今、彼の声と鐘の音しか聞こえなかった。
愛の丘の伝説は、本当だったようだ。
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