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愛の丘シリーズ

学園で婚約破棄が流行ってますが、私は愛を叫びたい。

作者: 福嶋莉佳
掲載日:2025/11/05

感想欄に立会人視点の話書いてます。

よければ本編後にご覧ください。


「ちょっと、ついてこないでよ」


「仕方がないだろ?同じクラスなんだから」


私、ミレイナ・アーデル子爵令嬢と、侯爵家の嫡男レオナルド・ヴェインの――よくある朝のやりとり。


王立セレスティア学園――

王族から子爵家まで、名家の子弟が集う貴族教育の最高学府。


「相変わらず口の悪い令嬢だな」


「なんですって?紳士だったらもっと上手にエスコートできないの?」


「そう言う君も、少しは令嬢らしく清らかにしてみたらどうだ?」


また言い合ってしまった。


彼は幼馴染であり、そして私の婚約者。

親同士の繋がりで決まった、いわゆる政略結婚――


私は子爵家の娘、彼は王家に連なる侯爵家の嫡男。

「釣り合わない」と陰で囁かれるたび、

私は強がるように彼に噛みついた。


(どうして意地張っちゃうのだろう――)


クラスメイトの女が「レオナルド様」と甘い声で呼ぶ。

彼が笑顔を返すのを見て、胸がチクリと痛んだ。


(……あの笑顔、私には見せてくれないくせに)


思わず席を立って、その場を離れる。


かつては毎日一緒に遊んでいたのに、

いつからか――目を合わせるたびに喧嘩ばかり。

原因なんて分かってる。


(私が、彼がモテるのを妬んでたから……)


――本当は、好きなのに。


素直になれない。

口を開けば喧嘩ばかり。


落ち込んでいた私に、母が話してくれた。


「昔ね、学園内にあるあの“光翼の丘”で告白されたの。

 年に一度、鐘が鳴る時刻に想いを伝えたら、

 その恋は叶うって――」


母は微笑みながら、指先で小さなベルのペンダントを鳴らした。


その“光翼の丘”には、古い伝説がある。


大昔、聖女が一人の騎士と恋に落ち、

神に背いてまでその愛を貫いた。


処罰を覚悟したふたりは、

最後に大聖堂の鐘を鳴らし、祈りを捧げた。 


――その音は空へ昇り、世界を包んだ。


以来、聖女が大聖堂で鐘を鳴らす時、

加護は“光翼の丘”にも届き、

その場で告げられた愛は“真実”として記される。


だから今も、年に一度だけ、

人々はその音に合わせて丘で想いを告げるのだ。


愛を見届ける――それが“光翼の丘”の風習。


(お母様も…この丘でお父様に告白されたんだ)


なら、私も。


「レオナルド、今日の十八時。“光翼の丘”に来て」


「は?なんだよ急に」


「いいから来るの!……じゃあね!」


……言い逃げしちゃった。


今日こそ、素直に伝えるんだ。

たとえふられても、今の関係を変えるんだ。



約束の時刻。


丘に着いた瞬間、私は固まった。


「ええ……人、多っ!」


どうしよう。

レオナルド……まさかもう誰かに告白されてないよね?


見渡すかぎり、すごい人混み。

みんな告白のため?――にしては、流石に多すぎる。


あれは、ラブラブで有名なロゼッタ令嬢とミルド子爵…


「ロゼッタ……君だけだ、愛しているよ。」


「まぁ♡……けどもういいでーす♡婚約破棄します!」


「……え?」


……え?


さらに、丘の中央では、第一王太子アルヴェイン殿下までが。


「君はリリスを虐めていたな!」

「そんな事実はありません」

「嘘をつくな!君とは婚約破棄する!」

「そうですか……どうぞご勝手に」


「ええええ!?」


何故かあちこちで婚約破棄宣言が飛び交っている。


「あーミルド子爵が浮気してるって本当だったのか」

「王太子やらかしたな、公爵家の後ろ盾なくなるぞ」

「王位継承権が動くなんて!お父様に報告を……どなたか、通信機をお持ちではなくて?」


……なにこれ。


同級生マルクを見つけて駆け寄る。


「な、何これ?どうなってるの!?」

「お前も婚約破棄?」

「は!?違うけど!?」


彼はあっけらかんと答えた。


「この丘、昔は告白の聖地だったけど、今は“婚約破棄の聖地”になってんだよ」


「!?縁起悪!!」


「ここ数年、別れを願うやつが増えてきてさ。

 で、とうとう制度化されたんだよ。

 聖女の鐘が鳴る時だけ、

 神殿が破棄の誓約を正式に認める。

 “神の証人つき”ってわけ」

言われてみれば、丘の脇には神殿の立会人が数名立っていた。

その顔には、心なしか冷めた表情が浮かんでいる。


「学園順応すぎ!!」


さらに、野次馬たちが盛り上がっている。


「十対一で男が折れる方に賭けたわ」

「“賭博は禁止”って毎年言われてるだろ、やめとけって(笑)」


(やめなさいってば!!)


すると背中から、王太子の婚約者――マリアベル・ルヴェル公爵令嬢の冷たい声が響いた。


「婚約破棄は承知いたしました。では慰謝料についてですが……」

「えっ……?」

「当たり前です。もちろん彼女にも請求しますよ」

「そ、そんな……」


(そんなことも考えてなかったの!?愚かすぎる…いや違う、そうじゃなくて!)

丘の端では、神殿の立会人が鼻で笑っていた。


「あー、マリアベル様流石だな、Bパターンか」

「Bパターンて何よ!?」


周囲の囁きが聞こえる。


「あれ、政治学部が立ち上げた“婚約破棄研究チーム”らしいぞ」

「研究チーム!?」

「慰謝料交渉の心理モデルを取ってるって話だな」

「破棄の切り出し方、泣き崩れ方、賠償率――全部統計化してるらしい」

「すごい!研究熱心ね……って、辛辣すぎでしょ!!」


「統計とれた?」

「これで母数確保できたな、次の研究発表いつだっけ?」


(これが今の伝説の丘……こんな状況で告白なんてできるか!)


「ロゼッタ!!誤解だ!!」


「あ、Aパターンはもう事例あるからいいわ」


視線の先では、警備員が暴れたミルド子爵を押さえ込んでいた。


「セレノーム警備ギルドの制服……どうして?」

「数年前セレノーム家のご子息が入学してから、この儀式の度に警備員を配置してるらしいぞ」

「ほら、暴れた奴らを拘束してくれるんだ」

「まぁ、至れり尽くせりね!」

(……じゃなくて!)


「話を聞いてくれぇぇ!」

「はいはい、行きましょうね」

――ミルド子爵はそのまま、丘の外へずるずると引きずられていった。

「今年は対象がひ弱で助かったな」


丘の端では、神殿の立会人が苦虫を噛み潰したような顔で見届けていた。


「……」

(両親の思い出の地が……。お母様になんて言えばいいの…)


頭を抱える私の耳に、低い声が響いた。


「おい」


「!?げっ……」


振り返ると、息を切らしたレオナルドが立っていた。


「来たぞ。……お前、俺と婚約破棄したいのか?」

「そ、それは…」

「俺はするつもりはない!」


「え?」


「お前が何と言おうと、絶対しないからな」


言葉が詰まる。


「ど、どうして……?」


レオナルドはほんの少し顔を赤くして、息を吐いた。


「どうしてって……お前が好きだからに決まってるだろ」


「!!」


一瞬、言葉が出なかった。


「な、なによ……いつも喧嘩腰なくせに……」

「お前が意地張るからだろ」

「そっちこそ調子に乗ってたくせに!」


思わず、いつもの調子で言い返す。

でも、どちらもすぐに口をつぐんで――ふっと笑った。


「……で?お前はどうなんだよ」


「え?」


レオナルドの声が少し震えていた。

真っ直ぐな瞳に射抜かれて、心臓が跳ねる。


「お前は、俺のことどう思ってるんだ?」


息を吸って、吐いて、目を閉じて。

そして、笑って言った。


「……好きだよ。ずっと前から。レオナルドが、好き」


風が吹いた。

鐘の音が、静かに鳴り響く。


ざわめきも歓声も遠のいた。

胸がいっぱいになって、頬が熱くなる。


丘の端では、神殿の立会人が満足げにうなずいた。


周りではまだ誰かが「いやぁぁ!違うの!!」と悲痛な叫び声があがっていた。

私の世界は、今、彼の声と鐘の音しか聞こえなかった。


愛の丘の伝説は、本当だったようだ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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『転生姫はお飾り正妃候補?愛されないので自力で幸せ掴みます』※ざまぁ系ではありません

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― 新着の感想 ―
立ち合い人もにっこり。 だが、その後ろでは・・・。
あは。皆さん、対応おつかれ様です♪昔、鍵をかけてなんとかっていう愛の聖地なかったかしら? 北海道の氷の教会で愛の誓いした人知ってます。真実の愛ではなかったなぁ。さすが、氷だけに溶けて流れて蒸発して、…
政の神輿と警備担当・公認の婚約破棄会場と化し、研究者まで呼び寄せた名所……。 人間は難儀な生き物ですね。  そして、ミレイナさんにレオナルドさん、ゴールインおめでとうございま……す? どうかお幸せに…
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