第1章:大借金の旅
かつて世界は現実と仮想の境界を失い、人々はバーチャルで笑い、泣き、夢を追った。
VTuberたちはただの娯楽ではなく、世界を守る存在となった。
だが、全ての物語には始まりがある——たとえその主人公が、何の力もなく、ただ借金だけを抱えて目覚めたとしても。
これは、忘れられた英雄たちの物語。
これは、ひとりの少年と伝説のVTuberたちが紡ぐ、旅と運命の記録。
さあ、疲れてないなら、ページをめくろうか。
——いや、「疲れを避けるため」に、まずは少しだけでも読んでいこう。
別の世界──我々の世界とは異なる、仮想が現実を超越した世界。
一人の青年が生まれた。彼は特に注目される存在ではなかった……いや、ちょっと待って、誰がこの脚本を書いたんだ?
さて、話を続けよう。穏やかな日々が流れ、何も変わらない日常。
そんな中、その青年は最初に「海の女王」と呼ばれる、英雄ナンバー5・がうる・ぐらのもとへ連れて行かれる。
サメの力を持ち、サメの着ぐるみを着た少女。少しズボラだが、VT値578、VTS789という、驚異的な実力を誇る。
英雄の証として、トップ10の英雄たちには魔力のこもった「マナの御守り」が継承されていた。
青年──外見は20歳だが、実は「生まれたばかり」の存在──は海を見て言った。
「なんでこんな場所が重要なんだ? ただの海じゃないか。」
その一言が女王の怒りを買った。
「千のサンゴ礁のトルネード‼︎」
がうる・ぐらの強力な技が放たれる。しかし、青年はその攻撃を片手で海上へと跳ね返し、ホロVTの都市にまで揺れを与えるほどの衝撃を生む。
それを感じ取ったのは──トップ3の英雄たち。
そして、驚くべき事実が判明する。
実は、今までの「海の女王」はぐらの妹、アオイだった。本物のぐらはようやく眠りから目覚め、満面の笑みで言った。
「おはよう、みんな〜! 今日も元気〜?」
……しかし目の前に広がっていたのは、千年以上も築き上げた海の城の跡地。
そして、彼女は青年に「コウイチ(康一)」という名を与える。「何も価値のない存在」という意味を込めて。
それでも、彼が350以上のマナを持つ攻撃を受け止めたことにより、VTが自分を超えている可能性があると気づく。
一触即発。拳と拳がぶつかる瞬間、都市全体が揺れる──
【ピッ──テレポート音】
二人はホロVT都市の中央本部へと転送される。
そこには英雄ナンバー1、ミナ・スタイルが待っていた。
「この破壊の責任は取ってもらうわよ。請求金額は……1兆800億500万28VTM! 約55億ドルね。」
がうる・ぐらは目を見開いて叫ぶ。「はああ⁉︎」
英雄のライセンスは停止され、コウイチとぐらには特別任務が与えられる。
「VTの世界を旅して、全額稼いできなさい!」
こうして──伝説の旅が始まる。
──つづく。
静かな海の上、月明かりが揺れる波を照らす。
小さな船の上で、二つの影が未来を見つめていた。
「なあ、これからどうなると思う?」
少年がぽつりと問いかける。
「さあね。でも、ただの旅じゃないことは確かだよ」
彼女は笑いながら空を見上げた。
遠く、ホロVTの空に、ひとつのひびが走る。
それは目に見えないほど小さく…けれど、確かに世界が揺れ始めた証だった。
まだ誰も知らない。
この旅が、やがて神さえ巻き込む戦いへと繋がっていくことを。