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8話 俺たちの勝利だ

 ◇



 ドラム、ベース、ギターと演奏が始まる。

 隣にはめっちゃ緊張した様子のアメリアちゃん。

 マイクをギュッと握りしめて、小さく震える様は守りたくなる心地がするね。


 けれど今は俺もやばい。

 手が震えてないって言った!?

 嘘だよ!!

 震えてるよ!!

 アメリアちゃんの震え見てたら震えてきたんだよ!!


 武者震いかって? 全然ビビり。ビビりの震えです。


 慣れてない曲だしね。ミスる可能性全然あるよね。

 ミスったら輪切りか黒焦げだよ。怖すぎるでしょ。


「イルカ、やれ」


 力強いドラムの音。いつもより力んでる気がする。


「ミスったらコキ使ってやるからな」


 珍しく演奏中に自分の世界に入っていないチョージの声。


 意外と二人も緊張してるのか?

 二人も人間、だったのか……?


「くっ……」


 いかん笑えてきた。こっから歌い出しだと言うのに。


 ―――でも、余計な力は抜けたかも。



「♪――――」



 "シュルレ"三曲目のオリジナル曲、『カンパネラ』。

 異世界に飛ぶ前に二人が考えた曲に、異世界に飛んでから俺が詞を付けた歌。


 この世界に来てから考えたせいか、ちょっとファンタジックな歌詞になっちゃったけど、俺にしては異例の速さで作詞した気がする。


 チョージが自分で作詞しろって言った理由が今ならわかる。


 熱が込めやすい。

 込めるべき感情が見えるからだろう。



「♪―――」



 俺は、この曲で救いを歌うなら、絶望を歌わなければならないと思った。

 始まりを願うなら、終わりを歌わなければいけないと思っていた。

 だからこそ、この歌に込めた。俺の絶望と、俺の希望を。


 隣でアメリアちゃんが祈るように手を組んでいる。

 そこから淡い光が溢れている。

 それに呼応するように、バリアから発せられる音波とも言うべき衝撃波が、白く光ってリッチを苦しめている。


 頭を抱えるように悶えるリッチが、振り払おうとピアノに手を叩きつけても、こちらの音が大きいのか、その音は響かない。


 地面に広がる黒い炎も、光の波に攫われていく。

 アメリアちゃんがハミングで合わせ始めた。

 曲もサビに入っている。


 ねぇ、アメリアちゃん。

 俺は三年前、すごく悲しい思いをした。

 仲間に捨てられ、友に裏切られ、悔しいとか以前に、「なんで?」って思いでいっぱいだった。


 そんな時、歌で成り上がって見返してやれってチョージが言った。

 お前の歌なら這い上がれるってアオイが言った。


 二人は一度も"復讐"という言葉を使わなかった。


 俺も、それが正しいと思う。

 何かと理由をつけて解散するバンドは星の数ほどいるだろうし、今更嘆いたってしょうがない。

 それに、俺はもう見つけたから。


 だから多分、こんな風に思えるのだろう。


『――――ッ!!』


 苦しそうなリッチの声。リッチって、生前の恨みや未練がモンスター化した存在なんだっけ。

 怨嗟に呑まれて、誰も彼をも傷つけて、それでどうやって救われるって言うんだろうね。


 きっとそれじゃ救われないんだよ。


「♪♪♪〜♪〜♪♪♪〜」


 どんな恨みがあったって、それを武器として振り下ろしてしまったら、それは一番最初に振り下ろした人と同じことをしているだけなんだ。


 同じ破壊を繰り返しているだけなんだ。


「♪――――ッ!!」


 だから、俺は武器にはしない。剣もハサミも使い様って言うように、道を作るための道具にする。先を照らすための灯りにする。

 こう思えるのは、俺に"復讐"を止めてくれる仲間がいるからなんだろうけれど。


 許すことなんて無理だろう。今更立ち止まることなんてできないのかもしれない。

 それでも君が、同じ破壊をしなくて済むように、精一杯歌うよ。


 腹の底から息を吐いて、音にすれば。

 君にも鐘が鳴るはずだから。



「♪〜〜」



 てかアメリアちゃんの声、綺麗〜〜っ!

 高音がめっちゃ綺麗〜!

 ずっと聞いてたい……いや俺も歌うんだけど。もうこれ俺の声邪魔じゃないか? 後で一人で歌ってもらおう。俺はこの音を浴びたい。


 だから今は頑張ろう。


 バリアから発せられる光が大きくなっていく。

 二人の声が合えば合うほど、その光は強くなって。


 よくわかってないけど、俺のスキル、ちゃんと発動してるみたいですね。


『―――――ッッッ!!!』


 リッチがピアノを破壊しそうな勢いで暴れ始めた。

 やめろ、楽器を壊すな!


 アメリアちゃんと目を合わせた。


「「♪♪―――!!」」


 光が一層強く輝く。こっちも目が開けられない程強く輝いて、リッチが光に曝されて霧散していく。


 次に目を開けた時には、禍々しい空気は一掃されていて、欠けたピアノだけが残されていた。

 ちょうど『カンパネラ』も終わったところだ。


「―――っ」


 拳を振り上げる。



「俺たちの勝利だ!!」



 ◇



「結局のところ、有効属性で演奏している間はほぼ無敵タイムだったな」


 チョージがちゃっかりピアノを回収しながら呟く。そんな呪われそうなピアノ回収するなとツッコミたいが、今は余裕がない。


「ミスや三人の息が合わないとバリアの威力も弱まるようだ。逆に、息が合えば音が衝撃波として広がる。これはチーム力が試されるな」

「冷静に分析してるとこすまんけど、すげー疲れた……休憩させて……」


 そう、俺は歌い終わった直後、身体の力が抜けたように崩れ落ちてしまったのである。

 立ち上がろうにも身体に力が入らない。そんな俺をガン無視してピアノを回収しにいく辺り、チョージの野郎の扱いがよくわかる。


「イルカ、顔色悪い」


 アオイだけだよ俺に優しいのは。いや違うわ肉をちらつかせるなレア肉狂いが! めっちゃ生じゃねえか!


「これは……魔力切れですね。意識があるだけすごいです」

「ま、魔力切れ……?」


 真の意味で優しいのはアメリアちゃんだけだ! Q.E.D!!


 この世界に来て俺たちが得た魔法という力は、魔力というものを消費して発動しているらしい。

 魔力ってなぁにという気分だが、要は気力……精神力なのだとか。肉体の体力とは別のものだそうで、使い過ぎれば意識を失うらしい。


 どうやら、振り絞りすぎたようだ。


 回復するにはご飯をいっぱい食べるとか、ゆっくり休むとかで回復するらしい。小動物に癒されるとかでもいいんだとか。ストレス解消法かよ。


 じゃあ休むかと、ぐでーっと寝そべっているところに、アメリアちゃんが傷を癒すための回復魔法を使ってくれる。


「アメリアちゃんは平気なの? 一緒に歌っていたけど」

「はい、だいぶ消耗していますが、みなさまのお怪我を治す分は残っています。イルカさまが増幅してくださったお陰ですね」


 笑顔が眩しい。ほんといい子だなぁ。歌声も綺麗だったし。

 デレデレと癒されていると、チョージが俺の脇腹にチョップを喰らわせてくる。


「ぐえ」

「フン、俺様の演奏のお陰でもあるということを忘れるなよ」

「あれ、猫被んのやめんの?」

「……ここまで長いこと女性と共に過ごしたことがないからな。俺様もそろそろ疲れたのだ」

「ほー」


 化けの皮が剥がれてきたのね。

 まあ、アメリアちゃんはコイツの一人称が変わったくらいで態度変えないだろうけどね。


「チョージさまもお怪我を見せてください。わたしを庇って肩を負傷されましたよね」

「おやおや、女性を護るのは騎士として当然の務め」

「この世界で騎士とか言うと誤解を生むし結局猫被ってんじゃねえかいい加減にしろ」

「ふふ、それがチョージさまの優しさなのですね」


 アメリアちゃん……ほんといい子。こんなナルシストの肩持つことないのにな。チョージは天を仰いで鼻高々としている。折りたいその鼻。


「チョージ」


 治療を済ませると、アオイがチョージに迫る。


「なんだ。肉なら好きに焼け」

「ピアノ、欲しい、くれ」


 あの呪われそうなピアノが欲しいのかよ。

 そういえばこの中でピアノ弾けるのってアオイだけなんだっけ?


「ふーむ。俺様も欲しいからなぁ」

「え? チョージもピアノ弾けんの?」

「チョージ、ピアノコンクール、いた」

「えっ、意外」


 コンクールにいたって知ってるってことはアオイもコンクールに出てたってことだよな。二人ともちっちゃい頃から音楽に触れてたんだろうなぁ。音楽といえば授業とカラオケオンリーだった俺と違って。


「フッ、俺様は天才だからな。だからピアノはやらん。まだ壊れているしな」

「やだ、欲しい」

「だから壊れていると言っているだろう」

「くれ、欲しい、よこせ」

「全く言うことを聞かないなお前は!」


 立ち上がるチョージ。向かい合う二人。

 シコ踏みを始める二人。


 二人の間で緊迫した空気が流れてるとこすまんけど、結果は見えてんだよなぁ。


 なんでパワーで争うんだろうね、この二人。


 てかまだ配信してたわ。誰が見てるのか知らんけどいつまでもこんな茶番を映しているわけにも行くまい。


「はぁ……ハッケヨォ〜イ、ノコッタ!」


 ダンプカーが人間に突っ込んだ瞬間とでも言えば伝わるだろうか。あれは骨折れたな。


「はい、アオイの勝ち〜、配信終了!」

楽器を弾くモンスター、好きです。


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