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27話 今後、君たちはどうしたい?

 ◇



 結果から言うと、俺は三日間寝込んだ。

 アメリアちゃんと公園で寝ていたら、チョージに頭を鷲掴みにされ、アオイに持ち上げられて、強制的に領主館に運ばれた。


 気付いてなかったけど、相当顔色が悪かったらしい。


 ベッドに投げ入れられてから、気絶するように寝たんだとか。そんで熱を出して、ほとんど意識がなかったらしい。


 ほら無理をして! とアメリアちゃんに「めっ」って言われたのはちょっと微笑ましかった。にこやかにしてたらさらに怒られたけど。


 アメリアちゃんは、俺の想像通り街の復興に奔走し、多くの人に目撃されていたこともあってすっかり英雄扱いになっていた。

 あの門の上でも、アメリアちゃんが一番目立ってたから当たり前だよね。夜中にとにかく光ってたから。

 ぶっちゃけ光源代わりでした。口が裂けても言えないけど。


「全く、貴様も無理をする生き物なのだなぁ」


 状況を教えてくれたのは、なんとブレイズである。

 目が覚めた時に彼が俺をガン見していてめちゃくちゃビビった。おかげで目が冴えた。


 手が離せないアメリアちゃんに代わってお見舞いに来てくれたんだって。


「アメリアちゃんほどではないですよ。アメリアちゃん、無理してませんか?」

「……しているな。だが、以前ほど追い詰められた雰囲気はない。街の人の感謝の言葉も、きちんと届いているようだ」

「ブレイズさんもアメリアちゃんが思い詰めていたのを知っていたんですね」

「当たり前だろう! 私こそアメリア様のお側に常にお仕えする身! 主の機微が分からぬとは従者失格なのだ!」

「その割にはいつもアメリアちゃんを困らせてるみたいだけど……」

「何か言ったかな?」

「いえ、なんでも」


 誤魔化すように、起き上がって水を飲んだ。水差しが置いてあったので。


「ブレイズさんも大怪我したんじゃないですか? あの時、めちゃくちゃ高く空飛んでたの見えてましたけど……」


 そう、ブレイズはあの大トカゲに、鮭よろしく投げ飛ばされた人間の一人なのだ。一番高く飛んでいた。


「フン、あれくらい何ともないわ。だが、結局アメリア様の手を煩わせてしまったがな……そこは反省だ」


 アメリアちゃんが治療したんだね。魔法で治すってことは相当重症だったんだろうな……。


「あのトカゲも、戻った時には倒されていて驚いたぞ。貴様ら、騎士団にでも入ったらどうだ?」

「俺ら剣なんて扱えないですよ……」

「馬鹿者。魔法部隊の方だ。流石に素人に剣を持たせようとは思わん」

「あー、あるんですね、魔法部隊。そう言えば門の上に居たような……」


 門の上から一列に並んでガンガン魔法撃ってた気がする。歌に集中してたから記憶が朧げだけど。


「……でも、辞めておきます。俺らはバンドマンなので」

「ばんどまんと言うのはどういうものなのだ?」

「あー、そっか。その概念がないんでしたね。俺たちは演奏家って言われてますけど、俺たちみたいに楽器や歌を披露する集団をバンドって呼んでて、そのバンドで活動してる人をバンドマンって呼んでるんですよ。演奏家と大して変わんないかもしれないですけど、そこまでお堅くないです」

「ふむ。まあ覚えておこう。して、バンドマンと言うのは、演奏しながら魔法を撃つ集団なのか?」

「いやいやいや、魔法はたまたまできちゃっただけで、普通は撃ちませんよ! 曲を聴いてほしくて演奏してるんですから!」

「曲芸師のようで見ていて飽きないがな」


 ブレイズがカッカッカと笑う。笑い方やばいなこの人。


「貴様の顔色もようやくまともになったようだし、動けるようならクリスタロス卿に挨拶しておけ。世話になっているのだからな」

「はい。ありがとうございます。そうします」


 見舞いは終わったとばかりに部屋を出ていくブレイズ。部屋の外で「今会いに行きますぞぉ!! アメリア様ぁ!!」と爆音が響いたけど聞かなかったことにした。

 なんでアメリアちゃんに対してだけあんなに突き抜けちゃったんだろうね。怖いね。


 俺は身支度を整えて、メイドさんにすっかり良くなったから領主様にお礼を言いたいんだけど今行っても大丈夫? と聞いてみたところ、客間に通された。


 病み上がりにぴったりな軽い食事を用意してくれて、それを食べながら待っててほしいと言われた。

 俺はミルクパン粥を匙で掬って、ゆっくりと味わいながら待つことにした。


 庭を眺めつつ小一時間くらいゆったりと過ごしていると、領主様が自ら足を運んでくれた。

 慌てて立ち上がって出迎える。


「領主様、わざわざ来てくださってありがとうございます」

「いいや、直接顔を見たかったからね。座りなさい」


 礼を言って二人で席に着く。

 紅茶が出されて、お茶会の雰囲気になった。


「報告にあった通り、もう顔色も良さそうだ」

「その節はご心配とご迷惑をお掛けしました」

「ははは、構わないよ。君たちはこの街の英雄だ。それに、君たちがこの街にいる間は、私の庇護下にあるのだからね。これくらい当然さ」


 ほんと気さくな方である。

 恐縮していると、領主様が真面目な顔付きになる。


「君たちの今後の予定は何か決まっているのかな?」

「予定? いえ、何も決まってないですけど。ここまで来たのも、成り行きでアメリアちゃんを送ることにしただけですし」

「ふむ、質問を変えよう。―――今後、君たちはどうしたい?」


 その眼は、真剣そのもので。

 下手な回答を許さないと言わんばかりの鋭さだった。


「えっと……俺たちは、アルバムを作りたいなって考えてます」

「あるばむ……? すまない、耳にしたことがない言葉だ」

「簡単に言うと、いっぱい曲を作って、みんなに聞いてほしいなってことです」

「曲……」


 領主様の片眉が下がった。拍子抜けしたような顔だ。


「それは……場所を制限されるものかな?」

「普通に生活できれば、作曲活動はできると思います。でも、できた曲はライブで披露したいので、楽器を思いっきり弾いてもいい場所があると最高です」

「う、うむ……」


 あれ、なんか求めてる回答ができてない感じ?

 領主様が困っちゃってるかも。

 こんな時チョージがいてくれたら……もうちょいまともな回答になってただろうに。


「コホン……。ところで、君は、君の力が周りにどれ程の影響を与えているか、理解しているかな?」

「え? スキルはなんか珍しいみたいですけど、歌は歌ですし……影響力はまだ無いかなって思ってます」


 "シュルレ"が売れてるわけでもないし。


「そうだろうと思ったよ。でもね、事実、君の力はこの街を救った。人々の心に届く力だった。これは、君が感じている以上に影響を与えている証左なのだよ」

「心に……」

「ああ、君が戦いの最中で歌った歌、君が戦いの後で歌った歌、どちらも人々の心に寄り添って、助けになっていたものだ。それは素晴らしいことであるし、賞賛に値することでもある。だが、人によってはその力を脅威と感じるものもいるだろう」


 そういえば、スタンピード事件の時、チョージがこの戦いが終わった後、身を守る術を俺も得ないといけないって言ってたんだよな。それと同じ話だろう。


「もし君に聖属性が扱えるなら、今すぐにでも教会に送りたいくらいだよ。それくらい大きな組織に保護されるべき力だと感じる」


 領主様が、俺をかなり評価してくれていることはわかった。けれど……


「だが、それは君たちも望まないだろう。君たちの歌は、貴賤の境など関係なく、権力に迎合することもない。自由な気風だからこそ魅力的なのだから。私もそんな君たちの歌をとても好ましく思っている」


 断ろうとしたら、先に領主様に否定された。元々本気ではなかったのだろう。


「とはいえ、王国であるこの国では、その在り方は些か問題でね……」


 俺は頷いた。身分差のある社会の中で、身分差を完全に無視した、むしろ反骨精神盛り盛りのロックなんて、危険視されて仕方ない。それくらいは、俺でも想像がつく。


「そこで、提案があるんだ。―――君たち、王都に行ってみないかい?」

「…………へ?」


 俺の声は、なんとも情けない声だった。

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