25話 この道でよかった
◇
叫べ、俺たちの使命を。
『calling』は、チョージのアイディアで歌詞に厨二感を前面に押し出した曲だ。
リズム帯が気持ちいい曲だし、低音がカッコいいのでもう突き抜けよっか、ということで言い回しが厨二のそれになった。
けど、今の雰囲気にはピッタリかも。
俺たちが倒れるのが先か、あのデカトカゲが倒れるのが先かの戦いだ。
トカゲの攻撃は全てバリアで防げている。
けど、毎度バリアが割れる。
割れて、張り直す度に魔力が吸われてる感じがする。
やっぱりこのバリアも魔法なんだね。
「ハッ―――!!」
チョージが氷の礫をぶつけていく。
「フンッ!」
珍しく演奏中に気合を入れたアオイが、どデカい火の玉をトカゲにぶつける。
「♪〜〜〜ッ」
やべえ、雷出ねえ。魔力が全然ないみたいだ。
気合が足りてないのか。
ドラムソロに入り、アオイが火の玉を連射する。
ここで倒し切らなきゃ、俺たちも倒れるだけ。
チョージもベースを掻き鳴らしながら、魔法を発動する。
辺りに冷気が立ち込めていき、みるみるうちにトカゲの足元に纏わりついていく。
「イルカ!」
「♪――――ッ!!」
わかってるよ、俺のスキルで増幅するってんだろ!
どうやってスキル使えてるのか未だにわかってないけどなぁ!
声を振り絞れば、冷気が一気に立ち昇り、アースドラゴンの身体を埋めていく。
「やれッ!!!」
無茶言うな!!
―――叫びたかった。もう限界なんだ。
ずっと前から限界だった。もう前もあんまり見えてない。ギターも弾けてるのかわからない。
バリアが張れてるってことは弾けてるんだろう。身体が覚えているのかな。
でも、うだうだ言ってここで頑張れなきゃ、それこそ死が待っているだけだ。
これは現実。ライブであって、ライブじゃない。
これは戦い。命を賭けた、戦いなんだから。
―――最後まで走り抜けろ!!
「♪―――――!!」
雷鳴が、黎明を劈いた――――――なんてね。
『――――――――!!!!』
トカゲの咆哮、断末魔の叫び。
丸焦げになったトカゲが、大地を揺らした。
「やっ……」
拳を振り上げること叶わず。
電源を引っこ抜いたゲーム機みたいに、ブツンと意識が落ちた。
◇
全てを出し切って、鉛のように動かなくなった身体で、ただひたすら深海に沈み続けるような、夢を見ていた。
初めて人前でライブをした日。
緊張し過ぎて吐きそうだった。
タダヤスにもだいぶ迷惑をかけた。
けれど歌い始めてしまえば、もう楽しくて。
観客が喜んでくれるのがまた、何よりも幸せで。
ずっとこの場所にいたい、なんて思ったものだ。
それから何度もライブをして。
そこそこ大きなハコでやることもあって、人数が増えても盛り上がってくれるのが嬉しくて。
曲は"シュルレ"と違ってかなりライトだったし恋愛ソングみたいなのが多かったけど。
恋愛ソングになると、誰に向けて歌ったらいいかわからなかったから、相手は観客ってことにしてた。
そこはちょっと俺と合わなかったのかもな。
段々と亀裂が走り出してからも、ライブだけは楽しかった。観客に楽しんで欲しくて、音楽が楽しくて。
結局、どんな結果になったって、あの時の楽しかったという気持ちを、忘れなくてもいいんだよな。
あんな追放のされ方は、ショックだったし、辛かった。忘れてしまいたいくらい。
けれど、過去の全てを否定することはないんだ。
考えてみれば、別にカリンのこと恨んでないしな。
俺って嫌われてたの!? ってショック受けただけだし。
他の元バンドメンバーだって、何というか、カリン様々だったから、何かしら事情があったんだろうし。
深い話は何一つ聞けなかったなぁ。
聞いてたら、何か違ったの? なんて、また仮定の話。
いいんだ、過ぎた話は。
あの日の気持ちを捨てていく必要もない。全部持って行っていい。
全部があって俺なんだ。
もし、この先、彼女らに会うことがあるのなら。
言いたいことは一つだけ。
―――"シュルレ"に出会わせてくれてありがとう。
アイツらが音楽を好きじゃないってことは、最初からわかっていたんだ。
ある意味、後戻りできなくさせたのは俺だったのかも。あまりにも楽しくて。付き合わせちゃったんだ。
だからこそ、これでよかった。この道でよかった。
「――――――生きてるって素晴らしいね」
「起きて早々何寝ぼけたこと言ってんだ」
ペシ、と額を手の甲で叩かれた。
どうやらベッドに寝かされていたらしい。側にはチョージとアオイが座っていた。
「あれ、二人は寝てないの?」
「あ? 今何時だと思ってるんだ……」
ゆっくりと起き上がれば、窓の外がめちゃくちゃ暗い。
あれー、トカゲ倒した時は夜明けだったのに……。
「寝すぎなんだよ。ったく……起きたならその寝ぼけた顔を何とかしろ」
チョージは俺の顔面に着替えを投げつけて、部屋を出て行った。
「ここどこ?」
「領主館」
アオイは共用のアイテムボックスから水や手拭いを出して手渡してくれた。優しい。
え、アオイが優しい!?
「……もしかして、心配かけた?」
「イルカ、顔、黒かった」
「黒かった!?」
青通り越して黒だったとか、そりゃ死んだかもって心配になるわな。
「よかった、起きて」
「うん。アオイも心配かけてごめんな」
「ウム」
まさか目が覚めた時に、自由人二人が横にいるなんて思わなかったから、ちょっと照れるな。顔には出さないけど。
まだまだ全然身体はダルいけど、身支度を整えているとチョージが戻ってきた。
「領主様に伝えてきたぞ。無事で何よりだと。動けるか? 外で祝いの席が設けられてるんだ」
「へー、あ、勝ったのか、俺たち」
「ああ。デカトカゲを倒した報奨金も出るぞ。一躍金持ちだ」
「トカゲ肉、食いたい」
「ああ、宴の席に振る舞うと言っていたな。食いに行くか」
二人の後に続いて、俺も外に出ることにした。
「アメリアちゃんはどうしてるの?」
「彼女は夕方に目を覚まして、すぐに教会に向かった。あのうるさい騎士も一緒に」
「大変だね……」
「報告が終われば戻ると言っていたから、もうすぐ戻るかもな」
アメリアちゃんだって魔力切れで気絶していたっていうのに、よく動けるなぁ。
やっぱ俺より体力あるよね?
……さすがに鍛えようかな……。
「わぁ……」
領主館を出て広場に行くと、お祭り騒ぎになっていた。
街の危機を脱した記念で飲めや歌えやの騒ぎになっている。
騒ぎと言っても、治安の悪い騒ぎではなくて、賑やかな部類ね。
みんな助かったことを喜んでいるんだ。
「お、お前ら! やっと来た! こっちに座れ!」
門の上で一緒に戦っていた騎士のおじさんが手招きしてきた。断る理由もないのでそちらに座れば、目の前にどんどん食べ物が置かれていく。でっかい漫画肉がある……あれがトカゲ肉か。アオイもこれにはご満悦だ。
「いやーほんと今回はお前らのおかげで街が救われたよ! ありがとうな!」
この気さくな騎士のおじさんはデトマールというらしい。この領地の騎士団の団長をしている人なんだとか。貴族らしいし、偉い人だった。
「おかげで街の内部は被害無し! 門の中での防衛戦も覚悟してたから本当によかった……一般人の被害も死者はいない。全部お前たちのおかげだよ」
「みんなのおかげですよ。俺たちは歌ってただけですから」
「おいおい謙遜すんな! ほら飲め飲め!」
木のコップに並々と注がれた酒を押し付けられる。
今の体調で飲んだらやばい気がしたけど、ここで断ったら宴の席に水を差すよね!
「酒はもらいまーす!」
「にーちゃんいい飲みっぷりだなぁ! ガハハ!」
ぬっるいビール? って感じの酒だった。でも美味い!
トカゲ肉も齧る。意外とジューシーで美味い!
味付けも胡椒が効いてて酒に合う。アオイは肉を齧ってるし、チョージは女の子追っかけてどっか行った。つまり、俺を止める奴はいない!
酔っ払ったデトマールが陽気に俺たちの歌を口ずさんでくれる。俺も肩を組んで一緒に歌った。
酒、肉、歌。最高の宴だ。
今お酒何杯目? 覚えてないや。
……これ、止まらんかも。
特に年齢に触れてないですが、イルカ達は20代前半です。
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