24話 『calling』
◇
―――不思議な感覚だった。
後にあの場にいた多くの者が口にした言葉。
まあ、それは後で聞いた話だけど。
この時考えていたことはただ一つ。
―――生きろ!
それだけである。
「♪―――――ッ!!」
歌ってる最中、アメリアちゃんは手を組んで祈り続けていた。彼女の足元から溢れる白い光の粒子の本流が、波紋のように広がっていく。
それはこれまで以上の広がりを見せて、遠くの魔物にも届いていく。
戦っている人にも変化が起き始める。
「……なんだ?」
「身体が……軽い!?」
「傷が癒えていく……」
「どうなってるんだ!?」
「あれだ、アイツら、確かマジックネットに出てた演奏家だぞ!」
「そう癒えば、リッチの動画で似たような光が出ていたよな?」
「これがあの、不思議な魔法なのか!」
「これが魔法……?」
冒険者も騎士団も、困惑しつつも、次第にそれは戦意に変わっていく。
「けど、これなら……!」
「ああ、やってやろうぜ!」
「魔物も足が遅くなってんなぁ!」
「騎士様には負けてらんねえぞ! 行くぞテメェら!」
「応!!」
身体に虹を纏うかの如く、誰もが主役のように輝いて、魔物に飛びかかっていく。
対する魔物は光に怯えているのか、動きが明らかに悪くなって、次々に倒されていく。
「……これが、イルカさまのお力なのですね……」
感心したような声。アメリアちゃんだっただろうか。
答えてる場合じゃないので、俺は歌い続けた。
「いいや、これはアメリアちゃんの力だ」
チョージの声。
「彼らが纏う光は、<祝福>の光。あれこそが、君の力なんだよ」
「これが……<祝福>……?」
チョージ曰く、アメリアちゃんの謎スキルだった<祝福>というスキルは、周囲にバフを与える力なんだとか。
それを俺のスキル<伝導>で増幅させて、拡散させているのだ。
チョージがこのスキルの内容を、配信している中で一切話題に挙げなかったのは、このスキルの有用性を理解してしまったからなんだとか。
その時にこっそりと、「彼女は<祝福>があるから害されたのだろう。敵からすれば厄介この上ない力だ」と溢していた。ついでに、「お前とセットになったせいでより厄介になったわけだが」と頭を小突かれたりした。解せなかった。
同時に、この戦いが終わった後、アメリアちゃんだけでなく、俺も身を守る術を手に入れた方が良いとも言っていた。
この様子も配信してるし、敵というのがいたとしたら、そんな人たちには情報が筒抜けだよね。
けど、見えない敵に怯えるより、俺は目の前の苦しんでる人を助けたい。誰かのために戦う人たちを応援したい。力になりたい。
自己保身を考えるのは、その後でいい。
だから今は全力で歌う。
「♪〜〜〜!」
俺たちは、夜通し歌い続けた。『未完の存在証明』だけでなく、持ち曲全曲ローテした。これじゃ持ち曲少な過ぎて単独ライブとかできないね、なんて、チョージとアオイと目線を交わしたりした。
光の波動に呼応して、少しずつ魔物が沈静化されていく。
どんどんと倒されていき、日が昇る頃には、長かった戦いにも終わりが見えてくる。
「もう少し……あと、少し……!」
アメリアちゃんが顔を上げる。でも、その足が突然崩れた。
チョージが慌てて手を伸ばしたので、バリアは消えた。
でも、もうあと少しだし、門に突撃してくるやつはいないだろう。
「すみませ……足に力が……」
「無理もない。もう魔力も切れただろう。むしろ、ここまでよく保ったほうだ」
少し休むといい、とアメリアちゃんを座らせて、再びベースを構えた時。
―――ドゴォォォォン!!!
森の中で特大の土煙が上がった。
「っ!?」
視線を向ければ、森から這い出て来たのは、土色の岩みたいな外皮に覆われた大トカゲで――――――。
「―――あれは……ッ! アースドラゴン!!」
門の上で指示を飛ばしていた騎士の人が叫んだ。
「まずいッ! 退避ーッ!!」
アースドラゴンが、口から光線を吐いた。
「――――――ッ!!」
今まで聞いたことのないくらいの音量で、ガラスが割れるような音が響く。
寸でのところで、俺たちのバリアが門を守った。気持ち大きくなれと願ったので、門より少し広い範囲で張れたバリアが、逃げ遅れた人々を守ったようだ。
けれど、その一撃でバリアが砕け散った。
「―――ッ」
こんなの、なんて声を上げてしまえば演奏が止まる。
どうしたら、なんて弱音を吐いている場合じゃない。
何としても演奏を続けてまたバリアを張らないと、二発目が来たら終わる。
アメリアちゃんは魔力切れで気絶しているし、実は俺もそろそろやばいです、なんて言ってられない。
気絶しそうな身体に鞭打って、声を張り上げる。
「♪―――ッ!!」
アースドラゴンが、近くの冒険者や騎士団を手で弾き飛ばしていく。
これがアニメやドラマのワンシーンなんだとしたら、「熊が鮭でも獲ってるのかな?」と思ったところだが、これは現実だ。鮭のように飛ばされてるのは人間で、その一撃で絶命する人もいる。
アースドラゴンという魔物は、相当強い化け物らしく、剣も弾き、矢も効果がない。魔法を撃っている術師がいるが、威力が足りないのか殆ど効果を発揮していない。
止めないと、何とかしないと。
でもどうやって?
「イルカ……もう俺様たちがやるしかないようだぞ……」
気付けば、立っているのは俺たちだけ。
門の外を蹂躙し尽くしたアースドラゴンが、ゆっくりとこちらを見る。
「イルカ」
アオイの声。ドラムソロを挟んでくる。一晩中叩いてるっていうのに、まだまだ元気そうだ。
「気張れよ」
チョージには疲れが見えるが、眼に宿る闘志は衰えない。指もまだまだ回ってるみたいだ。
「わかってる」
ぶっちゃけ俺が一番ふらふらしてるね。ほぼぶっ通しで歌い続けてるし、魔力もほぼない気がする。
弾くだけならまだしも、魔力も持ってかれてるからなぁ……。
ドラムとベースがソロを挟んでくれてる間に、予めもらっておいた魔力回復ポーションと、水を煽る。クソ不味い味が、今は目覚ましがわりになる。
「こんな時はあの曲だよなぁ!」
「オーケー」
「今度は魔法も撃つんだぞ、忘れるなよ」
「……余裕があったらね?」
締まらない俺たちの、フィナーレだ!
◇
It's calling, calling...
雷鳴が、宵闇を切り裂いた
轟音が、天地に轟いた
流星が、天窓から流れ込む
水滴が、落ちて波紋を呼ぶ
止まらない流れにこの身を預けて
誘われるままたどり着いた先で
歌うよ 絶望が、どれだけ立ち塞がろうとも
歌うよ 運命が、導いてくれた仲間と共に
最後まで立っていたものがwinner
It's calling, calling...
竜巻が、民衆を巻き上げた
激流が、視界を掻き混ぜた
彩蝶が、いつか嵐を産む
雨垂れが、いつか岩を穿つ
引かれる腕にこの身を預けて
導かれるままたどり着いた先で
歌うよ 絶望が、どれだけ深いとしても
歌うよ 運命が、連れて来てくれたこの場所で
最後まで走り抜けろfool
歌うよ 絶望も、全部連れて行くから
歌うよ 運命が、導いてくれた仲間と共に
最後まで立っていたものがwinner
It's calling, calling...
出オチタイトル曲だった『calling』、こちらもようやく歌詞公開となりました。
これを聞いた魔物がワーッ!!って走り寄ってくるって設定の曲……とんでもないですね。
この作品が面白い、続いてほしいと思っていただいた方、ぜひ☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします。




