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1話 イチから説明してください

 ◇



 結果から言えば、『化け物ダヨ! 全員集合!』は曲の終わりと共に止んだ。

 実に都合のいい話だ。

 曲が終わった俺たちの周りには死体の山が出来上がっている。非常にグロい。そんで臭い。


「んぁー……? んだこれ。客がおっ死んだんか?」


 ようやく惨劇に気付いたチョージが、死体を指でつついている。ばっちいからやめなさい。


「大自然、爽やか。もう一曲、叩く」


 アオイが叩き足りないと言わんばかりにドラムを叩いている。


「やっぱこれ現実だよなぁ!? なんでお前らそんな平然としてんだよ! 森だぞ!? 化け物だぞ!? ビビれよ!」

「イルカはチキンだから仕方ないな。名前詐欺で泳げねえし」

「うるせー! 今それ関係ないだろ!?」

「腹……減った」


 マイペースすぎるメンバーに辟易しつつもよく見てみれば、なるほど俺たちが今置かれている状況はおかしい。


 だってここには"電源"がないのだ。

 アンプの先にコードがない。どうやって爆音出してんだ。

 俺のギターはエフェクターを通してアンプに繋がっているが、アンプの電源はどこにもない。

 マイクはコードが無い。でも拡声器の役割を果たしている。

 チョージのベースも同様。アオイのコーラス用のマイクもコードが無い。


 観察していたら次の瞬間、楽器が消えた。データの海に飲まれたみたいな消え方をした。


「は!?」

「む……」


 と思ったらチョージのベースだけまた出てきた。


「出し入れできるようだ」

「は!?」


 チョージがベースを空間に消したり出したりしている。


「出た」

「え!?」


 それを見てアオイもドラムセットを見知らぬ空間から出し入れしている。


「つーかこいつらもしまえるようだぞ。お、解体できる」

「か、解体!?」


 チョージが眼前に薄い板状の電子的なウインドウを出して指で操作している。死体を消したかと思えば、次の瞬間には肉塊と皮に分かれて出てきた。


「肉、食う。オレ、火、出る」

「火が出る!?」


 アオイがしれっと手の平の少し上に炎を浮かべている。

 もう理解が追いつかない。オウム返ししかできない。

 チョージが適当な枝を消して、何かを操作した後取り出せば、何故か乾燥してよく燃えそうな焚き木になっていて、それをアオイが燃やしてキャンプファイヤーが始まって……。



「―――いやお前ら順応早過ぎだろぉぉぉお!?!?!?」



 俺の全力のツッコミで、バサバサと鳥が飛び立つ音がした。



 閑話休題。



 状況についていけていないが、せめてこれだけは言っておこう。


「アオイ、流石になんの肉かわかんねえんだしちゃんと火通して食えよ。レアはダメだぞ」


 アオイはレア肉しか食べない男なのだ。野獣である。


「問題ない。オレ、"頑強"、ある」

「は? 何? 頑強?」


 確かにアオイの体格は強そうだけども。


「俺様は"幻惑"のようだ」

「あ? 何言ってんの?」


 確かにチョージは女の子を惑わすプロだけども。


 二人は俺を放置して、火属性だの氷属性だのレベルだのステータスだのゲーム用語で盛り上がっている。

 二人とも薄っぺらいウインドウを開いて見せあったりしている。すごく楽しそう。


 ツッコミが追い付かなくて辛い。


 でも正直、ちょっと楽しそうでずるい。


 なにより、俺だけ会話に参加できないの寂しい!


「すみませんでした俺だけ何もわかってないのでイチから全部説明してくださいお願いします!!」


 ―――全力で土下座した。


 ……。


 小ボケを挟まれつつ一時間かけて二人の話を聞くに、まず手をかざすとウインドウという画面が表示されるらしい。


 メニューが右側にずらっと並んでいて、アイテム一覧だとか、ステータスだとか、装備だとか書いてある。それぞれタップすると切り替えられて内容を確認できるようだ。


 アイテム一覧はアイテムをどこか見えないところに収納できる。

 そこからイメージだけで任意に出し入れができるようだ。

 そんで、入れたアイテムはこのウインドウ上で選択すると、ちっちゃい吹き出しが出て、「解体」、「合成」と表示される。さっきチョージが化け物の死体を肉と皮に分けたのはこの「解体」を利用したんだって。


 ステータスは……説明不要だよな。ゲームと同じ

 だ。ちょっと違うとすれば、HPやMP、STRといった数字が無いことかな。

 自分のレベル、属性、スキル、特性が記載されている。


 装備は武器欄しかないが、何の武器を装備しているかが確認できる。俺は右手ギターで左手マイクだった。片手でギター弾けないし……絶対無理やり当て嵌めただけだろってツッコミたくなる。


 ひとまず三人のステータスをまとめてみた。


 ◆狛取 入鹿

 レベル:5

 属性:雷、風

 スキル:伝導

 特性:猛虎伏草

 メイン武器:ギター/マイク


 ◆大瑠璃 碧猪

 レベル:5

 属性:火

 スキル:頑強

 特性:豪放磊落

 メイン武器:ドラム/スティック


 ◆鶯 蝶次

 レベル:5

 属性:氷

 スキル:幻惑

 特性:百戦錬磨

 メイン武器:ベース


 俺……雷使えるってこと? 強そう……あとは放っとくとして、チョージの百戦錬磨って、一体何の"百戦練磨"なんでしょうね……。

 ステータスについては、何もつっこまないことにして、そっと目を逸らした。


「色々イメージでどうにかなるってことはわかった。で、結局今って何が起きてるの?」

「何と言わずともわかるだろう。これは異世界転移だ」


 ウンウン頷くアオイ。チョージもアオイも意外に漫画とかゲームとか好きなんだよな。俺は二人の会話について行くためにちょっと見たことがある程度。

 異世界転移という言葉も、聞いたことはあるけどそれだけで。


「うん……そんなことが起きたとして……今一番求められている能力が何かはわかったわ」


 コイツらにあって俺に無いもの。


 適応力である。



 ◇



 今でこそ成人している俺たちだが、出会いは高校時代である。

 三人とも別々の学校だったし、バンドもそれぞれ別のメンバーと組んでいた。

 ある日、小さいハコで知人を頑張って呼び込んで開いたライブ会場で、なんとそれぞれ所属していたバンドが三つ同時に解散したのだ。

 アオイのところは普通に受験で。チョージのとこはメンバーの彼女が全員チョージに靡いたせいで。

 俺のところは、俺以外を条件にレーベルと契約を結ぶことになったから。


 当時の俺はギターを持っておらず、ボーカル一本だった。


 いやボーカルだけ捨てられるバンドってどんなバンドだよ!?

 俺ってどんだけダメだったの!?

 嫌われてた的な!? ショックデカいんですけど!?


 落ち込むのは当然で、しばらくその場から動けなくなったほど。


 俺の元メンバー達が去って、アイツらの元メンバー達も去って、不思議と残っていたアオイとチョージ。


 閉店時間になっても動けないでいる俺を、何故か二人が背中を支えてくれて、ファミレスに連れてかれて、何故か奢られて。


 同じハコでやってたこともあって、以前から二人のことは知っていた。二人とも技術が高くて前々から尊敬してた二人だ。そんな二人が解散。俺も俺だけ解散……追放か。

 何の因果か、三人が集まったわけで。


「お前、歌え。そんで、ギター、弾け」

「……?」

「良いなそれ。賛成」

「……?」

「お前の、それ、全部出せ。音にしろ」

「俺様たちがお前の歌を世に届けてやろう」


「……へ?」


 捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったもんで。


 俺は拾われたわけだ。


 感謝してる。ギターなんて弾いたこともないし、二人のレベルについていけるようにならなきゃいけないって頑張って練習した。

 曲は基本チョージとアオイが作曲したが、作詞だけは俺がやれと言われて、頑張って作詞もした。


 二人が作る曲は本当に胸に刺さる曲ばっかりで、そんな曲に歌詞付けて歌を歌わせてもらえるなんて光栄すぎて。

 だからこの恩を返すために、絶対世に出てやるって、俺も頑張れるんだぞって見せつけたくて。


 アオイは大学生活との両立、チョージは実家の飯屋を手伝いながら。俺も日中はバイト三昧で、夜に練習。ショートスリーパーにジョブチェンジした。


 そうして三年。小さいハコから始まって、それがやっと大きなハコでやるバンドの前座に呼ばれるようになって。これからって時だった。これが成功すればレーベルとの契約の話もあった。


 それなのに異世界転移!?


 そういう意味でも、俺は現実を受け止めきれていない。


 積み上げてきたものが全て瓦解するようで。


「そう言えばアイテムの中に"配信ボット"というのがあったぞ」


 チョージが丸っこい機械を取り出した。よく見るとちょっと目玉っぽい。

 適当に底のスイッチを押すと、それはひとりでに浮き出して、


『起動確認。感度良好。配信準備完了。コマンドを入力してください』


 などと機械音声を発した。レンズがついていて、クルクルと俺たちの方を向いて観察しているかのようだ。


「え、どこに配信すんの? 何これ」

「ふむ……『配信開始』」


『コマンド受領。配信開始します』


「えっえっえっ、ちょっと待って!?」


 チョージが勝手に配信開始したようだが、あまり変化がない。この空飛ぶ目玉があらゆる角度からこちらをジロジロと見つめてくるだけだ。ちょっと気味が悪い。


「これ、どこに繋がってんの?」

「まあ良いだろう。肉を食おう」

「いやこれ配信されてんなら助け呼ぼうよ!? どこに向けて配信されてるかわかんないけど」

「肉、焼けた」

「呑気かよ! てかまだ中はレアじゃねえか!?」


 どこかからナイフと皿を取り出したアオイが次々と肉塊を小さく切ってさらに乗せては手渡してくる。

 チョージがこれまたどこかから割り箸を出して配ってくる。

 俺はただ圧倒されるまま受け取り、流石にほぼ生なのでもうちょっと火に炙ってから頬張れば……。


「ジビエだわ……肉臭え……」


 非常に獣臭い硬い肉だった。


「塩が欲しいな」

「うま」


 肉食ってるだけの謎配信。

 俺はカメラに向かって手を振る。


「あのー、俺たちライブやってたら知らない森に飛ばされてて……ここがどこかもわかりません。見たことない化け物に襲われて……何故か倒せてしまったのでその獣の肉で飢えを凌いでいます。この配信を見ている方で、もしこの場所がわかる人がいれば、誰か助けてください」

「わかる人がいるのか?」

「肉、食えれば、何でも良い」


 確かにこんなただの森を映したところで、どこの森かわかる人なんていないだろう。

 何かヒントになりそうなものはないだろうか。


「あ、そうだ、これ見てください!」


 目玉カメラを誘導する。

 その辺に転がったまま放置している大蛇の死体だ。

 それと、わらわら襲ってきたネズミみたいな化け物の死体もちょっと残っている。


「こいつらに襲われたんです。こいつらがいそうな森なんです! ……ていっても、名前もわからないしこれだけじゃ無理ですよね……夜が明けたら、俺たち頑張ってこの森を抜けます! 配信終了!」


『配信終了します』


 キュゥゥン……と音を鳴らして、目玉カメラが動きを止めた。そのまま俺の手の中に収まる。

 カメラをチョージに返して、再び肉を齧ることにした。


「それ、電池とかあんのかな? ある意味それだけが助けを呼べる唯一の手段だし、大事に使っていきたいよな」

「電池が無くなってもイルカが何とかできるだろう」

「え? なんで?」

「イルカなのに雷属性だから」


 それって俺が充電器ってことぉ……?


「名前詐欺」

「名前関係ないだろ!?」


 でもこれだけは言っておこう。


「俺は鹿の方のイルカであって、海洋生物の方のイルカじゃないからな!」

名付けの由来は三大美声の鳥と猪鹿蝶……安直です。


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