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17話 聞いてください、即興曲

 ◇



 子爵邸を出発する時、それはもう懇ろにもてなされた。衣服や食糧をたくさんくれたし、馬車まで貸してくれた。次の街の詰め所に預けてくれたらいいとのことだ。


 衣服は、アメリアちゃんにゴワゴワの皮の服を着せるのが忍びなかったので、ありがたく受け取った。

 食糧も念願の塩だけでなく、高価な胡椒とか野菜とか、色々種類豊富だった。これにはアオイもニッコリだ。


 結局子爵は証拠不十分ということでさっさと釈放されて、見送りまでしてくれた。

 生配信されちゃったから悪評は絶えないだろうけど、権力の力で何とかするだろう。

 実行犯の男は尋問の後処分されるとのことで、詳しくは聞かなかった。

 ただ一つ言えるのは、この世界、身分のない人の命が軽すぎるってことだけ。


 俺たちだって、今回身分の高い人に対してかなり不敬だったので、あの場で殺されなかったのが奇跡だったくらいだ。チョージはその辺ちゃんとわかってるのかな。

 次はやるなよと忠告したけど、チョージは鼻を鳴らして逆にデコピンされた。何でだ。


 後でアオイが、「チョージ、キレてたから」って言ってたけど、一体何にキレてたんだろうな?


 見送りの時クラック子爵は、何故か俺とアメリアちゃんだけしっかり握手してお別れしたけど。何で俺にも感謝していたんだろう? それも不明だ。


 てなわけで馬車に乗り込んで、優雅な旅を進めていた。

 数日で目的地の手前の領主がいる街に辿り着くんだとか。


「まさかアオイが馬車の操縦までできるとはなぁ」

「どんな習い事だよマジで。馬乗ってたら操縦できるもんなの?」

「いや、単にあれが天才なだけだろうな」


 チョージの中でもアオイは天才枠なんだな、わかる。アオイは何でも出来すぎる。あの筋肉、すぐにちょっと焼いただけのレア肉を寄越すけど、ちゃんとやれば料理も上手なのである。


「アオイにできないことってあんのかな?」

「潤滑なコミュニケーション」

「……さいで」


 結構態度とかでわかるけどね。一方的に。こっちの話を聞いてくれてない時があるから。


 アメリアちゃんは長旅でやっぱり疲れているのか、今は眠っている。


 歩かなくていい分、しっかり休んでほしい。


「チョージ、俺さ、今回怪我したわけですよ」

「は?」

「やりたくない女装までして腕刺されたわけですよ」

「……は?」


 二回目の「は?」がどれだけ低いかは語るまでもないだろう。

 だが恐れず言うんだ。言う時は言うんだ!


「しかもそんな恥ずかしい姿を生配信で晒されたわけですわ」

「似合ってたから良かっただろうが」

「良くねぇ! ……じゃなくて、俺頑張ったよね?」

「……何が欲しいんだ」


 流石に察したチョージ。


「アコギが欲しいです! 作ってください!」

「アコギ〜? ……作れそうだ」

「マジで!? 作ってくださいチョージ様!」

「チッ、ちったあ静かにしろ。アメリアちゃんが起きたらどうしてくれるんだ」


 悪態を吐きつつ、パネルを操作するチョージ。しばらくして、アイテムボックスからアコギが現れる。


 アコギ……すなわちアコースティックギター。

 エレキギターもカッコいいから好きなんだけど、アコギの音も好きなんだよねぇ。落ち着くから。


 今は弾くとアメリアちゃんが起きちゃうから弾かないけど、ニヤニヤしながらアコギを眺めていたら、


「キショい」


 ……言い返されたわ。



 ◇



 夜は流石に見張りもせずに寝るのは危険なので、男三人で順番に見張りをしている。

 この日の俺は三番目。明け方までの時間を担当する。


 チョージに揺すり起こされて交代し、眠い目を擦りながらも焚き火の番を始める。


 街道脇の開けたところで、視界を遮るものもないので何かが近付けば気付くだろう。


 チョージとアオイは天幕の中。アメリアちゃんは馬車の中で休んでいる。


 こういう時はギターをかき鳴らしたいが、音を出せば起こしてしまうので、エアーで指の練習をするか、歌詞を考えたりして時間を使っている。


 その歌詞が結構きつい。

 子爵に筆記用具をねだったら貰えたので、紙に書けるようになったものの、無尽蔵ではないのでまずは地面に書く。でもこう、ちょっと違う言い方無かったかな〜と思っても、この世界に辞書があるわけもなく。

 自分の中に今ある言葉しか使えない。

 それが結構難しい。

 似たような歌詞になってしまうのだ。


 せめてなんかこう、主題を変えるとかしないと……。


 あーでもないこーでもないとガシガシ地面を削っていると、馬車からアメリアちゃんが降りてきた。

 アメリアちゃんは早起きな方だけど、今日はかなり早い。


 まだ夜明けすら近付いてない時間だ。


「おはよう、早いね」

「はい、おはようございます」


 隣に座るアメリアちゃんに、アイテムボックスから取り出した水を渡す。


 パーティ共通のアイテムボックスだ。チョージが発見した。そこに水や食料、食器類など、生活必需品を入れてもらっている。

 俺があんまり素材を集めないせいで殆ど合成レシピが空いていないせいでもある。


 まさか素材集めないとレシピが開かないなんて知らなくて……。


 おかげでその辺の石とか草とか木屑とか無駄に一回アイテムボックスに入れている。

 草はたまに名前と効果が書いてあったりするので見たことがない植物があれば積極的に手にしている。


 俺の過疎ってる合成レシピは置いといて、今はアメリアちゃんだ。


 水を口にしてはいるものの、伏し目がちだ。


「なんかあった?」


 我ながらカスみたいな切り出し方をしてしまった気がする。

 大丈夫? とは聞けないし、でも何が起きてるのかもわからないのに聞きようがないし。


「あの、えっと……」

「夢見が悪かったとか? もう少し明るくなったら一緒に発声練習でもする?」

「いえ、その、違うんです……」


 そう言って俯いてしまうアメリアちゃん。

 ありゃ、これは結構悩んでいる?


 しばらく言葉を待っていると、アメリアちゃんが静かに語り出した。


「もうすぐ、街に着きますよね」

「うん」

「それが少し……怖いと思ってしまっていて……」

「街に着くのが……?」

「はい……」


 街に何かあるんだろうか。確か領主がいる街だと聞いたけど。領主が怖いってこと?


「過去に何か嫌なことがあったとか?」

「いえ、街のせいではないのです。ただ、街に戻れば、お役目を果たさなければならなくて……それが……自信がなくて」

「お役目って、診療所を回って治療してるんだっけ」

「はい。ですが、わたしが治せるものなんて、ほんと軽い風邪程度で、殆どの方には残念な思いをさせてしまうのです」

「うーん。教会からの使者として来ているのに、すべての人を救えないことに責任を感じてるってこと?」

「はい。とても」


 真面目〜〜って言いそうになって飲み込んだ。茶化す場面ではないよね。まあ、アメリアちゃんの申し訳なくなる気持ちがわからないでもない。けれど、そもそも回復魔法自体が希少で、ダメで元々なのは承知の上なんだから、気負い過ぎなくてもいいのでは、と思わなくもない。

 この考えは、所詮他人目線だからなのかもしれないが。


「アメリアちゃんは魔力が少ないんだっけ」

「はい。魔力量は平均以下です。おまけに回復魔法を使用した際の出力も低いとかで、殆ど力になれないのです」


 うーん。俺たちのステータスはMPとか数字で表示されないので、実際どのくらいの魔力量があるのかはわからない。

 出力の低さについては、ゲーム脳で考えればレベルの問題なのかなって思ってしまう。


 だって、あのリッチを倒した時にレベルが上がったようで、俺たちの魔法もちょっと威力が上がっている気がしているのだ。気のせいなのかもしれないけど、俺は初めて魔法を撃った時よりも、今の方がずっと魔法を使いやすく感じている。

 まだ楽器なしで雷を撃てないけど、風を起こすなら歌わなくても起こせるようになって来たのだ。歌わないとただのそよ風だけどね。俺の風魔法。


 つまり、魔法の威力なんて、慣れとレベリングなんじゃないのかってのが、俺の持論である。


「んー、そういえばアメリアちゃん、治せる範囲増えてるよね?」

「そ、そうなのですか?」

「うん。子爵の屋敷で俺の腕を治してくれてたけど、あれかなり深かったんだよ。あれくらいの傷を治す時、前は俺も歌ってたけど、あの時は歌無しで治せてたじゃん? てことは強くなってる証なんじゃない?」

「強く……」


 半信半疑で手を見つめるアメリアちゃん。

 無理もないか。自信なんて、他人から言われるだけでは確信できない。自分で気付かなければモノにならないし、結果を積み重ねなければ自覚できない。積み上げるにしたって、気付けるほどの大きさに積み上げなければ、そこにあったって無いものと同じで。


 曖昧で不確かなモノなのだから。


「んー、そうだ。じゃあ観客になってよ、アメリアちゃん」

「はい?」


 俺はアコギを取り出す。


「アメリアちゃんが回復魔法に自信がないように、俺は即興にすこぶる自信がありません」

「そうなんですか……?」


 こてん、と首を傾げるアメリアちゃんを前に、俺はアコギをかき鳴らす。


「こういうのは、納得いくまで練習あるのみだとおもうんだよね。てことで聞いてください、即興曲。今の俺の気持ち」


 そうしてジャンジャカ弾き始める俺。呆気に取られつつも、楽しそうに耳を澄ませてくれるアメリアちゃん。


「早起き辛いよ鳥も鳴かない肌寒い朝〜♪ 腹も壊すしやや寝不足だし背中も痛いな〜♪」


 普段は弾き語りなんて照れるけど。


「そろそろまともなベッドでゆっくり寝させてくれないか〜♪」


「ふふふっ」


 アメリアちゃんが楽しそうだからいっか。


「そんで美味しい朝食の匂いで起こされたなら〜♪」


 喧しくすれば寝てる人たちが起きないはずもなく。


「こんな幸せなことはないなと感激し尽くすのにな〜♪」

「―――うるせえ」


 ……あまりの出来の悪さに、めっちゃ不機嫌顔のチョージに頭を鷲掴みにされたとさ。

子爵がなんであんなに感謝していたのかは、イルカには気付く余地がないですが、あの時の治療で持病が治ったからです。聖属性+イルカのスキルの力ってすごい。


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