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14話 楽しくなってきた

 ◇



「ひ、人がいる……! 人がいる……!」

「落ち着けイルカ。叫べば田舎者丸出しだぞ。恥ずかしい」


 何言ってんだチョージ。待ちに待った人里だぞ!

 これが落ち着いていられるか。

 山越えした麓に、そこそこ大きい街があった。

 チョージはあんまり人里に寄りたくなかったようだが、通り道なんだからしょうがないよね。


「まともな飯、まともな飯をくれ……」

「塩」

「バカモンどこにそんな金があるんだ。揃いも揃って無一文だぞ。さっさと通り抜けて野宿だ」

「えー、今日くらいいいじゃん、一日くらい獣の出ないところで寝たいよぉ」


 縋り付いたら軽く殴られた。酷い。

 アメリアちゃんはきょろきょろしながら、


「クラック子爵の街ですね。ここは訪れた事があります」


 と言っていた。俺たちが向かおうとしている街から一週間かからない距離とのこと。まあ距離感わかんないけどね。


「順調に近付いてるみたいで良かったよ。なあチョージ、ちょっと休むくらいいいだろ? そろそろ昼だしさ」


 ごねてみると、


「……チッ。仕方ないな。だが路銀はどうする? 円すら持ってないが」


 そういや俺たちライブ中に飛ばされたから財布も持ってないんだよな。

 小銭があったってこっちじゃ意味ないだろうけど。


「演奏」


 すると、アオイが広場を指差した。

 噴水のある広場で、子供達が楽しそうに遊んでいる。


「ストリートか。悪くない。ここで"シュルレ"初ゲリラライブと行こうか」

「まともな飯のためだ。やってやんよ!」


 すでにドラムセットを出して座すアオイ。

 早く街を抜けたがっていたがライブとなるとやりたくなってしまうチョージ。

 そして、珍しくやる気のある俺。


 アメリアちゃんは観客よろしく俺たちの前のベンチに座っている。


「配信開始」


 久しぶりの配信。


「街のみなさーん! こんにちはー! 俺たち"シュールレアリズム"って言います。あんまりうるさくないように、音量小さめでやるんで聞いてってくださーい」


 俺たちの音楽は、この世界には前衛的すぎる。

 それは、アメリアちゃんに聞いていた事。

 だってクラシックしか聞いた事ない観客に、いきなりハイテンポのエレキギターかき鳴らしたら、それはもはや騒音だろ。


 道ゆく人に耳を塞ぐ人がいる。それがしょうがないのもわかってる。


「♪〜」


 でもこれが俺たちの音楽なんだ。


「♪〜♪」


 だからどうか少しでも届きますように。

 そう願って歌うよ。


 ふと見れば、遊んでいた子供の一人がキラキラした目で見上げてくる。

 立ち止まってくれて嬉しい。聞いてくれて嬉しい。


「♪♪〜〜」


 楽しんでいってね。


 子供が増えた。その親も聞いてくれている。

 みんな笑顔だ。すげー嬉しい。


 俺も楽しくなってきた。


「♪〜〜!」


 曲が終わったところで、アオイがドラムをしまってピアノを出した。


 何か弾くのかなと思えば、有名曲のピアノ伴奏。


「……」


 アオイが顎をクイっと振ってくる。歌えってことね。

 俺が知らない歌だったらどうするつもりなんだとツッコミたいが、これは俺がヒトカラでよく歌う歌である。


 ―――なあ、どんだけ俺のヒトカラ盗み聞きしてたん?


「♪〜〜」


 まあ、バラードになって曲調が緩やかになったからか、聴き入ってくれるお客さんも増えた。

 近くに置いておいたお捻りちょうだいボックスにも投げ銭を入れてくれる人がいる。ありがてえ。


 精一杯歌うよ。


 その後、伴奏者がチョージになってドラムと歌で合わせたり、最後にもう一回自分たちの曲を披露したりして、そこそこ盛り上がるライブができたと思う。


「聞いてくれてありがとうございました!」


 やっぱライブはいいね。お客さんの前でやるのが良い。

 届ける先がよくわかる。


 配信も終了して撤収だ。投げ銭もそこそこ集まって、アメリアちゃんいわく、これくらいなら今晩を過ごせそうだとのこと。

 夕飯代と宿代で消えるので塩は買えないかもと言っていたが……。


 夕飯は近くの大衆食堂みたいなところに入った。


「うまい……っ、同じステーキでもタレが付いてる……っ、複雑な味がする……っ!」

「ウムウムウム」


 俺とアオイが肉にがっつく。

 チョージは呆れ顔をしつつも、久々の人間的な食事を楽しんでいるようだ。アメリアちゃんはこういうお店には入った事がないらしく、何にでも新鮮な反応をしていた。


「野菜だぁ……っ、チョージ、野菜だぞ……!」

「イルカ、野菜も良いが周りを見ろ」

「へ?」


 夢中で貪っていると、チョージに肩を叩かれた。

 振り返ってみると、かっちりした軍服っぽい衣装に身を包んだ男が三人立っていた。


「えっと……?」


 困惑していると、兵隊さんの一人が一歩前に出て、アメリアちゃんを見た。


「ご歓談中失礼します。聖女アメリア様とお見受けします。クラック子爵様がお会いしたいとのことで、どうかご同行いただけませんでしょうか」


 聖女アメリア様?

 ……やっぱ聖女じゃん。


 アメリアちゃんをみると、一度驚いた顔をしていたが、すぐに済ました顔に戻った。


「御用件を伺ってもよろしいでしょうか」

「申し訳ございません、ここでは憚られます。どうかご同行を」


 兵隊が一歩詰め寄ってくる。

 チョージがアメリアちゃんの前に立ち塞がった。


「すまないが、用件を伺えないのであれば拒否させていただく」

「貴様、子爵様の命だぞ」

「あいにく俺様は貴族階級なんて知らない人間なんでね。そんなことより、用件も話さず女性を拉致しようとする方が信用ならない」

「なんだと!? 無礼だぞ!」

「おやめなさい。みなさまのご迷惑になります」


 アメリアちゃんの言葉で、兵隊が黙る。

 ……やっぱ聖女じゃん。


「少々予期せぬ事態が起きましたから、こちらも警戒してしまうのです。どうか御用件をお話しください」


 アメリアちゃんが願うと、兵隊さんはたじろいで、少し間を置いてから跪いた。


「……ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。ですが、ここでは誰の耳があるかわからないのです。せめて場所を移させてください」


 鎮痛な面持ちの兵隊さん。

 よくわからないけど、主人の醜聞を晒すことになったら大変なんだろうな。

 アメリアちゃんも少し悩むように手を顎に当てていたけど、すぐに笑顔に戻る。


「それであれば仕方ないですね。参りましょう、みなさま」


 アメリアちゃんが了承するなら俺たちが口を挟むことではないので、食事代を支払ってぞろぞろと店を後にした。

 普通に物々しいので目立ってるだろうな。


「イルカ、気を付けろ」


 チョージが小声で耳打ちしてきた。


「なんで?」

「彼等、いや、彼等の主人の子爵とやらが、どういう意図で彼女を呼びつけているのかわからない」

「アメリアちゃん飛ばした黒幕かもってこと?」

「いや、それもまだわからない。だが、彼女を害する気があるのか無いのか判断がつかない以上、警戒は必要だ」

「ほー」


 難しい話はよくわかんないんだよな。

 適当に相槌しているとチョージに肩を掴まれる。


「いざとなったら、お前の出番だ」

「え? 俺?」


 俺ができることなんてほとんどないけど。

 チョージは答えず、先を歩いていたアオイを追い越してアメリアちゃんの隣に戻って行った。


 馬車の近くに着くと、兵隊さんがアメリアちゃんに耳打ちする。チョージもめっちゃ顔を近付けて聞いていた。


 アメリアちゃんが頷いて、馬車に乗り込んでいく。連れてかれることにしたらしい。

 チョージも肩をすくめて乗り込み、アオイが乗る。


「アオイ、もうちょい詰めて」

「やだ」

「イルカは歩くか?」

「歩け」

「なんでだよ! やだよ!」


 チョージはちゃっかりアメリアちゃんの隣に座ってるから良いけど。アオイはほぼ二人分の幅があるんだぞ!


「のーせーてー!」


 馬車とか乗ってみたいだろ!

 てことで、無理やりアオイを押して乗り込み、馬車が走り出した。


 狭すぎてほぼ潰れていたために、乗り心地が最悪だったのは言うまでもない。

耳を塞いでいた観客も、最後には一緒に聞いていたので完全勝利です。


この作品が面白い、続いてほしいと思っていただいた方、ぜひ☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします。


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