11話 もうそれ聖女じゃん
◇
青い空! 白い雲! 見渡す限りの大草原!
空気も新鮮だしなんて爽やかな大地だろう!
「……人里無くない?」
そう、何もない。見渡す限り草しかない。
街道がぼんやりあるだけマシなのだろうが、あまり人通りがないのか結構草が生えてしまっている。
「あのダンジョンは街からも遠いですし、国境の関所を通らずに反対側へ抜けたい人以外はあまり使いません。ですから、街道も整備されていないのです……」
「一番近い街でどれくらいになりそうかわかるかい?」
「すみませんチョージ様。わたしもこの辺りには来たことがないので詳しくは……」
シュンとしてしまうアメリアちゃん。
チョージがその頭をぽんぽんと撫でる。
こういうのさらりとやっちゃうのがチョージだよな。
「気にするな。君が元いた場所まではついて行くさ」
「はいっ、ありがとうございます」
アメリアちゃんがいた街というのは、今いる"ペトラマグナ遺跡"を出たところから二週間くらい歩いたところにあるらしい。
二週間ってどんくらいの距離なんだろうね。途中山越えするらしいよ。
「そうすると、気にしないといけないのは食料かなー。喰えそうな化け物には会ってないし」
「大蛇の肉なら大量にあるぞ」
「あー、アレ喰えるんだ……」
ファーストコンタクトモンスター、大蛇くん。
そういえばチョージがちゃっかり回収してたっけ。
見るからに毒蛇だったけど、肉は食べられるのかな。
蛇肉って食べたことないや。
「肉、何でも食う。でも、同じの飽きる」
「おう、そうかい……じゃあ他のも見つけるしかないなぁ」
鳥とかいたらチョージに落としてもらおうか。器用そうだし、魔法でチョチョイと落としてくれそうだよね。
「肉も良いが、焼いただけの肉で二週間は無理だぞ。村でも良いから人里に寄りたい所だ」
「そうだね。アメリアちゃん、長期間歩くのは平気?」
「はい、巡業で慣れてます!」
「そっかー、俺のほうがダメだったらごめんね」
「急がなくて大丈夫ですよ、無理せず進みましょう!」
アメリアちゃんは優しいなぁ。
結局ダンジョン内で気絶した俺を一番に運ぼうとしてくれたのはアメリアちゃんだったらしい。さすがに大の男を持ち上げるのは無理だったみたいで、見兼ねたアオイが小脇に抱えてくれたんだと。
アイツら普通に置いてこうとしてたらしいので、ほんと酷いや。
「とはいえそろそろ陽も暮れる。この辺りで夜を明かそう」
チョージの一声で、焚き木の準備を始める。もう何日も経ってるので慣れたものだ。
野宿もこんだけ長引くと、色々と気になる事も出てくる。
トイレは穴を掘るとして、お風呂である。
「穴掘ってお湯入れるとか?」
「泥水になるだろう」
「先に穴掘った所を焼き固めるとか」
「後で埋めるのが大変そうだが……悪くはないか……」
「いっそ土管風呂みたいなの作っちゃって持ち運ぶとか」
「なるほど。それが一番マシだが……合成に出てくるか……」
「合成で出てきたら楽だけど……手で作るなら粘土質の土とか採取して、形を作ってアオイに焼いて貰えば良いんじゃね?」
あーでもないこーでもないとチョージ話し合う。
チョージは何かが気になっているようで、髪を指でくるくると巻いている。
「アメリアちゃんも……入るわけだよな?」
「え? そりゃ入りたいだろ……」
コイツ……まさか覗く気か。
「そうなると、適当なものでは無くきちんとしたものを用意したい。土だとどうしても泥水になりそうだしな」
「あ、そっちね」
「なんだ? まさか俺様が覗きをするとでも思ったのか? そんな思春期ボーイのようなことを百戦錬磨の俺様が今更すると思うのか?」
「ごめんごめん、悪かったって」
「さすがの俺様もそこまで無神経ではないのだよ。大体コソコソ覗き見など卑怯者のすることであって俺様は自分で口説いて脱がせる方が好みで」
「わ―――っ! もう良いって!! わかったって!!」
知り合いの生々しい話とか聞きたくないわ!
「……フン。わかれば良い。さて、それなら粘土を探して、合成でレンガを作るか」
「粘土質の土かぁ。その辺掘れば良いかな?」
「この辺りは山がないし川を探すしかないだろうな。どの道今日は無理だ」
「わかったー。あとは天幕だな。少なくともアメリアちゃん用は欲しいよな」
「フッ、俺様が用意してないと思うか?」
「さっすがフェミニスト〜、そこに痺れる憧れるゥ」
棒読みで褒めれば、チョージは鼻高々にアイテムボックスからでかい革布を出してきた。
「これ……もしかしなくても蛇の……」
「まあ、間に合わせだな」
深緑でゴッテゴテの鱗が付いた素敵な革だったとさ。
重いので太い枝を探したいが、ここは草原なので、木なんて無く。今日のところはマイクスタンドで代用することにした。
「屋根が低いけど大丈夫そう?」
「はい、わざわざありがとうございます。助かります」
「お湯はチョージとアオイが作ってくれるからね、欲しかったら声かけて」
「わぁ、嬉しいです。ありがとうございます!」
やっぱ身体拭きたいよね。俺も拭きたい。
なんだかんだ身支度を整えて、アオイの肉が完成したところで、夕食を取ることにする。
「配信するか。配信開始」
チョージが、ボスを倒してからしてなかった配信を開始する。例の如くチョージはしゃべらないので、俺が説明係になる。
「えーっと、どーもこんにちわー。"シュルレ"です! 無事遺跡を抜けました。俺が気絶した以外はみんな元気にしてます。遺跡を抜けた先が平原すぎて困ってまーす。無事人里に辿り着きたいです」
機械の目玉がきょろきょろと辺りを撮影してくれる。
「サバイバルなんてした事ないし、大変なことばっかだけど何とか生きてます。夕食は初日に出会った大蛇の肉です。まー、淡白だね。美味しいけど、そろそろ塩が欲しいです。てか良い加減お前らも喋れや!」
チョージとアオイに振れば、チョージは前髪を掻き上げてポーズを取るだけで、アオイは肉を延々と焼き口に入れている。
「……ダメだコイツら。アメリアちゃーん助けて〜」
「あの、今更なのですが、この配信ってどこに配信しているのでしょうか?」
「え? わかんない。そもそもこの目玉の機械も身に覚えないし」
「そ、そうなんですね。このカメラボットの形状からして、マジックネットに配信していると思うのですが……」
「マジックネット?」
知らん単語が出てきた。
「ま、まさかこの世界も動画配信が盛んな世界なの!?」
「え? はい。盛んと言うほど普及してませんが、王都では親しまれていますよ。情報がいち早く手に入りますし、こうして誰かの日常を垣間見ることもできますから」
「へー……じゃあ俺たちもそこに配信してんのかな……」
「視聴者がいるかもしれないとわかっただけ良いことだ。虚空に向かってアピールしても意味が無いからな」
「アピールしてんのはお前だけだろうが!」
しかも何のアピールかよくわかんない謎ポーズである。
「王都ってここからどのくらい離れてるの?」
「そうですね……馬車で半月くらいでしょうか」
「とにかく遠いってことはわかった」
てことはこの配信を見ている人が大体王都の人なんだとして、助けてくれって言ってもめちゃくちゃ時間がかかる距離にしかいないってことか。
「助けは来ないってことね……」
俺らはのんびり人里目指せば良いけど、アメリアちゃんって配信に出して良いんだろうか。
護衛騎士が付くほどの要人っぽいし、転移させられたのが作為的なものなんだとしたら、今こうして居場所を知らせ続けるのってどうなんだろう。
あんなダンジョンに放り込んだんだし、命狙われてるんじゃ……?
「イルカ、そろそろ良いだろう」
「うん、そうだね。今後は新曲も配信してくから見てってね! ついでに頑張って人里目指しまーす! 配信終了!」
チョージが機械の目玉を回収して、アメリアちゃんに向き直る。
「ところで君が命を狙われている理由に心当たりはあるのかい?」
チョージも気になっていたんだな。
アメリアちゃんは考える様な仕草をして、
「どうでしょう……わたしは、魔力量が低いので、大したことはできないのですが、世間では珍しいスキルを二つ所持しておりますので、その噂は広がっているかと思います」
「珍しいスキル……」
アメリアちゃんは快く教えてくれた。
その笑顔は、陽だまりのように眩しく。
「はい。"浄化"と"祝福"というスキルを持ってます」
……もうそれ聖女じゃん。
実際、肉だけ生活どかゾッとしますよね。
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