9話 ぶっ壊して行こうぜ!
◇
ピアノもアオイのものとなり、少し休憩して俺たちは再び歩き出した。この先にボスモンスターはいないので、反対側の入り口を目指すのみだ。
とはいえスケルトンとかゾンビとかアンデットは出てくるので、アメリアちゃんと一緒にワンフレーズで倒していく。
「……っ、これ、思ったよりキツいんだけど!」
アメリアちゃんの聖属性を増幅させていると思うのだが、これがまた魔力の消費が激しい。
ワンフレーズだけで済ませているとはいえ、シャトルランをしている時のような、徐々に蓄積する疲れを感じる。
「魔力が回復しきってないのでしょうね。その場合は体力も消耗していきますから」
「とはいえここを出るまで休めそうにない。気張れイルカ」
「アオイ〜おぶって〜」
アオイに縋り付いたら肘で弾かれた。
ちなみに腕全体で払われると壁にめり込む可能性があるので、アオイ的には手加減してくれてる方である。でも酷い。
ショボショボしながらも歩を進めると、だんだん苔が多くなってきた。俺たちがこのダンジョンに行った時も、入り口付近に苔が多くて、奥に進むほど少なくなってきていたので、もしかしたら出口が近いのかもしれない。
「もうすぐです、頑張りましょうイルカさま!」
「ありがとうアメリアちゃん……」
君は天使だよ。
「おら、鼻の下伸ばしてないでキビキビ歩け。日が暮れるぞ」
お前は鬼だよ。
そう時間をかけずに、でっかい扉の前にたどり着いた。石の扉で、反対側の入り口と同じ意匠が施されている。
こっちの扉は閉まっているようだ。
「アオイ、これ開けられる?」
「ウム」
アオイがシコ踏みをしてから扉に張り付いた。
「……?」
が、足が滑るばかりでびくともしない。
「まさか引き戸だったり?」
「そうは見えないがな。こんな大きな扉を毎度人力で開けているとも思えない。どこかに仕掛けがあるのかもしれないな」
「重い」
アオイのパワーで解決できないなんて……。
「アメリアちゃんは何か知らない?」
「いえ、出入り口についての記述は見たことがありません……」
本来であれば普通に出入りできるダンジョンであるらしい。
そもそも、出入り口はいつも開け放たれているはずなんだとか。
「誰かが閉めたってこと?」
「わからんな……アメリアちゃんがここに飛ばされたのが作為的であるならば、可能性はあるな」
「そんな……どうしたら……」
「アメリアちゃんのせいではないでしょ。探してみよう。スイッチとかレバーとかあるんじゃね?」
しばらく扉付近をくまなく探索してみたが、成果なし。
スイッチもレバーもなければトラップもない。
アオイが何度か扉に激突していたが、びくともしない。
「……破壊する?」
こんなに開かないなら、いっそ壊しちゃえばいいじゃない!
……野蛮な発想ですみませんね。
「やるか」
「ウム」
「歴史的建造物ですけど……致し方ありませんよね」
アメリアちゃんもだいぶ俺たちに毒されてきた気がする。
ということで、楽器を構える。
「俺ら三人同時に魔法を当てたら壊れたりしないかなぁ」
「お前にそんな魔力が残っているのか?」
「うーん、倒れたらおぶってよ!」
「やだ」
「ケチ! 筋肉!」
アオイが筋肉アピールしてくる。じゃあ運んでくれてもいいだろうが!
まあ、気絶しなければいいだけだ。
「さぁて、ぶっ壊して行こうぜ!」
ガラ悪い曲といえば『ベノムファング』だろう。
壊れろと言う思いで歌えば、雷が落ちた。同時に、チョージの氷の槍と、アオイのでかい火球が扉にぶつかる。
爆発音と、土煙。
演奏どころではなくなって俺は咳き込んだが、その甲斐あって扉に人が通れそうな大きさの穴が空いたのだった。
「……すまんけど運んでくんない?」
そして俺は意識を手放した。
◆
どこで間違えたか、なんて、そんな思考に意味はないのだと思う。
だってそういう時って、大抵取り返しのつかないことがすでに起きていて、時間が巻き戻ったって同じ事をするから。
次に同じ間違いをしないためって意見もあるだろうけど、この場合に限っては、それは適応されないのだと思う。
だって、その時その場にいる人たちは、きっとあの人たちではないのだから。
もう二度と、彼に謝ることなんて出来ないのだから。
ネットニュースを連日騒がせる、『ライブ中のバンドマン消失事件』から一週間が過ぎた。
そろそろ新ネタもなくメディアも次のニュースを取り上げ始めており、いずれ忘れ去られるコンテンツの一つに成り下がってしまった事件だが、彼女はそんな世間の扱いに憤りを覚えていた。
警察もさっさと捜査を打ち切ってしまったし、ネットでは"シュルレ"が被害者なのに有る事無い事叩き始めるし。
なんで"彼"が女誑しで昔のバンドの女全員と肉体関係持ってたことになってるの!! それは"シュルレ"のベースの方よ!!
それに彼にそんな甲斐性あったらあのバンドが解散するわけ無いでしょうが!!
……これを誰かに言えたら、それこそ解散してないだろう。
要は、誰もあの子に逆らえなかったのが問題だったのだ。
「"シュルレ"……まだ見つかんないんだ……イルカくん……」
とはいえ、彼女に出来ることは何もなかった。
せいぜいネットで情報を漁るくらいだ。
彼女が所属していたバンド"Kiss PLANET"略して"キスプラ"は、メジャーデビューして数年後に空中分解して、すでに解散したと公式発表されている。
三年前、彼を排除して、新しいボーカルを入れてメジャーデビュー。横暴にも程がある采配だったけど、メジャーデビューはあの子の力のおかげなので、誰も逆らえなかった。実家が権力者とかで、レーベルに圧力かけてデビューさせたらしい。権力って恐ろしい。
それで売れるならまだ良かったのだが、そう上手くはいかなかった。
デビュー当初は圧力もあって必死に売り込みをしていたが、あの子は泥臭い仕事をやりたがらないし、そもそもあの子が"キスプラ"やってる理由なんて、イケメン売れっ子ボーカルを彼氏にして、彼氏のバンドに所属して一緒に騒ぎたいという最低最悪の理由だったので、音楽への熱意があるはずもなく。
そうした誠意のなさ、音楽へのリスペクトのなさはすぐに観客に見抜かれ、ファンが全然付かなかった。
しかも楽曲は自分達で作曲せず、有名音楽家に全部外注。
あの子は作詞だけは自分でやると言い張っていたけど、実際はそれもゴーストライターに書かせていた。
その事実がリークされて、炎上。
元々仲間意識も低いバンドだったので、立ち直ることもできずに解散である。あの子は裁判までもつれ込んだが、結局権力でねじ伏せたらしい。どこまでも舐め切っている。イケメンボーカルとも使えないからという理由で別れたらしい。
彼がいた頃はまだ良かった。
"キスプラ"元ベースのタダヤスも彼と友達だったからか楽しそうだったし、明るい雰囲気でやれてたと思う。
なのに、あの子が彼は朴念仁だとか腰抜けだとか、挙句顔があんまり好みじゃ無いとか言い出してバンドから追い出してしまったのである。
彼氏にしたくないからクビにしたのだ。あんなに素晴らしいボーカルだった彼を。
当時は怒りでどうにかなりそうだった。
けれど、結局私も逆らわなかったのだから同罪である。
彼の友人も、あの子を説得しようとしてすぐに失敗してしまった。彼から絶交されても何も言えない。
だってあのバンドは、彼以外あの子に弱みを握られていたのだから。
彼を裏切ったのは私たち全員。
こんなこと言う資格もないだろう。
けれどこれだけは祈らせて。
どうか無事で、生きていますように。
ピロン、と音が鳴る。
SNSの通知音。"キスプラ"元ギターからのメッセージ。
そこには、動画配信サイトのリンクが貼られていた。
「……え? 嘘……」
リンクを開けば、『異世界ロックバンド・プロジェクト』というふざけた名前のチャンネル動画が表示されて、その動画に映っていたのは。
「イルカくん……!」
あの日、前座として出演したライブ中に突如消失した"シュールレアリズム"の面々が出演しているではないか。しかも、最初の動画の配信日時がちょうど失踪した後から始まっている。
『今日は俺だけ腹を下しましたがおおむね元気です。でも遭難していることに変わりないので、誰か助けてください』
彼女……コハルはすぐにその動画を拡散した。
もちろん、彼の友人だったタダヤスにもリンクを送る。
「異世界って……どう言う事?」
現代が繋がり始め……??
次回は1話だけの幕間を挟みます。
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