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0話 楽しんで行こうぜ!

とあるロックバンドが異世界転移して暴れまわる話、スタートです。

 『どーもシュールレアリズムです! 俺たちは二曲やります! 前座としてこんな大きなハコでやらせてもらえるなんて、貴重な機会をくれた"ショーマス"には感謝してもしきれません! 俺たちのこと知ってるって人も、知らねーって人も、今日は楽しんで行こうぜ! ベノムファング!』


 コードを確認するようなギターの音。直後けたたましく鳴り響くドラム。美しいリズムを生み出すベース。


 今日この場所に来てくれた人達が、少しでも楽しんでくれたらいい。


 俺たちの後に出る"ショーマス"を聞きに来た客ばっかだけど、その人達のエンジンを掛けるように、精一杯歌うから。


 音楽というキーブッ刺して、軽くひねれば、ほら人々の手、手、指笛。


 ―――歓声。


 ライブは最高だ。見るのも好きだが、やるのが一番好きだ。


 そりゃそうか、バンドマンなんだから。




 ―――バンドマンなんだけどなぁ……。




「―――今だけは牙を剥いて」



 ちょっと弦を見て、これからサビだって時に顔を上げた瞬間、視界がブレた感覚がして、そしたら目の前に大蛇がこんにちは。



 ―――大蛇がこんにちは!?



 ホントに牙剥いてる!?


 あまりの事態に身体は勝手にギターをかき鳴らしつつも、辺りを見回せば、そこは完全に森の中。

 右後ろのベースを見れば、完全に目を閉じてゾーンに入ってる。ヤツは自分の世界に浸るタイプのベースなので論外か。

 じゃあ、と真後ろのドラムを見れば、そいつは一心不乱にスティックを振るっている。リズムが刻めればなんでもいい男なので、おそらくここが森の中になっていようが槍が降ろうがヤツの手は止まらない。


 ダメだ、まともな奴がいなかった。


 大蛇は俺の目の前に迫っていて、今にも飲み込まんと迫ってきているのに、俺たちはどうして演奏を続けているんだ?

 どうして歌うことをやめないんだ?


 大蛇が突進してくる。

 当たる、喰われる。意味わからん。これはベースのチョージが、ライブ後に毎度ダルい感じで言ってくる、


『ゾーン……入っちまったな』


 ―――ってやつなのか!?


 そうなのか!?


 怖くて目を瞑りたくなる。でも、それすらも間に合わない。


 ベノムファングなんて名前の曲歌って悪かったよ。


 文字通り毒牙にかけられそうになってるじゃないか。終わった。誰だこの歌詞書いたの。俺だよ。タイトル考えたのも俺だよ。曲名とマッチしすぎだろ。


 ―――大蛇が、ぶつかる。


 ガキィン! と音が鳴った。大蛇が見えない壁に弾かれた。

 意味不明だと思うが、俺もよくわかってない。

 とにかく俺たちの周りにバリア的な見えない壁が張られていて、大蛇が弾かれたようだ。

 そんでもって、そのバリアは反射するタイプだったのか、大蛇が明らかに傷を負っていた。


 そして俺たちが奏でる歌が、音が、エコーのように広がって大蛇にぶつかる。

 よくあるゲームの攻撃が当たった時の気持ちいいザシュザシュ音が鳴ったみたいに、大蛇はエコーに当たる度にビクンビクンと跳ねている。これコンボ決まってね?


 もう何がどうなってんだ。誰か教えてくれ。


 最後の一振り。揃えて音を鳴らしたところで、辺りはシーンと静まり返る。

 否、重量感のある音を響かせて、大蛇が倒れるのだった。


 俺たちの『ベノムファング(ロック)』が大蛇を倒したらしい。


 いやいやいやいやいや、いやいやいやいや!!

 無理だって、理解できないって!


 大蛇傷だらけだし血が飛び散っててエラい惨劇になってるし臭いし!


 ―――無理無理無理!


「フゥ〜……おいイルカ、次の曲のMCしろよ」

「いや無理だって!? 状況見ろって!?」


 周り森! めっちゃ森ん中! 目の前血みどろ!

 観客もいないしライブ会場ですらない!

 バリアは消えてるみたいだが……いやなんでバリアが張られていたことを受け入れてるんだ俺。


「チョージ、無駄だ。音で、聴かせろ」

「……だな」


 いや何が「だな」だよ!?

 なーにが「聴かせろ」だよ!?

 森だよ!? 客いないよ!?


 それとも俺がおかしいだけ!?


 あたふたしてる間にドラムのアオイがスティックを鳴らし始めた。こうなるともう、反射的にピックを動かしてしまう。


 コイツらとバンド組んでから、コイツらについて行くために必死で練習し過ぎたせいで、もはや身体に刷り込まれてしまっているのだ。


 アオイがスティックを鳴らしたら弾く。


 二曲目、『calling』


 この曲は俺が最高にカッコいいと思うリズム帯を前面に出した曲で、チョージの指から刻まれるリズムが耳心地良くてアツい曲なんだ。ドラムソロもある。


 それを大きなハコで演奏してあわよくばファン増やしていつか俺たちが主役のライブをあのハコでやろうぜって、三人で誓い合った曲でもある。


 こんな爽快感溢れる大自然のど真ん中、鳥の囀りを吹き飛ばしながら爆音かき鳴らすライブは最高にクールだぜ……ってなるか〜〜!!


 シュールの間違いだわ!!


 俺らの"シュールレアリズム(バンド名)"に合っていて良いですねって、"シュルレ"はそう言う意味じゃねーわ!!!


 てかなんでちゃんと歌ってんの俺?


 森の奥からちっちゃい化け物がわんさか出てきてるんですけど!? 血の臭いに誘われたのかな!? うるさかったのかな!?

 そいつらがわらわらと突撃しては再び張られたバリアに阻まれて次々に死体になって行くんだけど!?


 怖いよ! スプラッタ映画も真っ青だよ!


 なんでこの目の前の現実に後ろの二人は気付いてないんだ。

 本当に俺だけがおかしくなってしまったのだろうか。


 てゆうかバリアって、もしかして弾いてる間だけ張られる感じなんですかね……。

 曲終わってもこの化け物デスレースが終わんなかったら、俺ら死ぬくね?



 ……誰か助けてください。

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