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3月―魔術師、占い師になる―




 今さらではあるけれど、ルークは異世界の魔術師だ。

 つまり、こちらの世界の身分証明証なんてものは何一つ持っていない。

 なのでバイトもできない。

 ニートのヒモだ。

 いや、ヒモというのは、恋愛関係にあって働こうとせず養われている男性のことをいうらしいから、違うかもしれない。

 そうなると、私はヒモでもないニートを養っていることになる。

 その方が問題ではないだろうか……。

 それはともかく、身分証明証がないので外で稼ぐことができない分、ルークには家事を任せることにした。

 魔術師が全てそうなのかは知らないけれど、ルークは家電製品にすごく興味を持った。

 どういう仕組みになっているのか気になるらしい。

 私も原理までは知らないので、くれぐれも解体しないよう言い聞かせておいた。

 興味があるからなのか、掃除機や洗濯機などの操作方法はすぐに覚えた。

 料理はそもそもやったことがなかったらしいので現在勉強中ではあるが、簡単な朝食を作るくらいは任せきれる。

 あと、異世界になかったものに興味を持ちやすいせいか、嬉々として買い物に行く。


 で、問題が発生した。


「ルーク」

「ユリさん、どうかしましたか?」


 どうかしましたかじゃない。

 私は目の前のテーブルの上にあるものを指した。


「どうしたの、このケーキ」

「美味しそうだったので、ユリさんと一緒に食べようと思って買ってきました」


 テーブルの上には、イチゴが乗った美味しそうなケーキがあった。

 うん、今が旬だよね、イチゴ。

 そういう話じゃない。


「この間もケーキ買って来たでしょう。こんなに買ったら今月の食費足りないんじゃないの?」


 家事を任せているので財布も渡しているけれど、食費は毎月決まった額でやりくりするよう厳しく言っている。

 こんな贅沢を許した覚えはないと問い詰めた。


「大丈夫です! ぼくのお金で買いました」


 するとなぜかドヤ顔をされた。


「いや、どういうこと?」

「働きました」

「え? 身分証もないのに、どうやって?」


 尋ねると、再びドヤ顔を向けられる。


「占い師になりました」


 どうやらうちに来たのは魔術師ではなくて占い師らしい。

 意味分からない。


「……最初から説明して」

「駅前で仲良くなった占い師のおじいさんに勧められて、占い師をすることになったんです」


 ますます意味が分からない。


「え、それって大丈夫なの?」

「向こうの世界でも魔力を持った者が占いをすることはありましたので、やり方は分かります。世の中に影響を及ぼす魔法は使っていないので大丈夫です」


 まさかここに来て本来の魔術師に戻った。

 詳しく聞けば、毎日占い師をしているわけではなく、仲良くなったという占い師のおじいさんが忙しいときに手伝う感じらしいので大丈夫……なのだろうか。

 でもまあ、働くのは良いことだし、そのおかげでケーキを食べることができるのは嬉しい。

 ルークが買ってきてくれたイチゴのケーキはとても美味しかった。


 ……いや、だったら近所のおばちゃんたちから貰ったバレンタインのお返し、自分で買わせば良かった!




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