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2月―魔術師、バレンタインチョコを貰う―




「ユリさん。最近、世界がピンク色に変わりました」

「何言ってるの?」


 夕食の買い物で近所のスーパーに行くと、ルークが真剣な顔で言った。

 頭の中がお花畑にでもなったんだろうか。

 そんなことはいいから早く買い物カゴを取ってきて欲しい。


「ここの棚がピンク色に変わったんです」


 カゴを取ってこさせてから店内に入ると、入り口の近くに設けられている催事コーナーを示され、やっと意味が分かった。


「あぁ、バレンタインデーね」

「バレン……?」


 二月と言えばバレンタインデーの季節。

 ピンクや赤いハートで彩られたチョコ売り場が現れる。

 というか、最近のスーパーはお正月が終われば、一月からバレンタイン用のチョコの販売を始めている気がする。

 いくら何でも早くないだろうか。

 それはそうとして、どうやら異世界にバレンタインデーはないらしい。

 そういえばバレンタインデーは中世ヨーロッパが起源だっけ。

 もっとも、日本のバレンタインデーは元の意味とだいぶ変わって、ラッピングされたチョコが何十種類も並ぶ、いわばチョコの祭典と化しているけれど。


「チョコをあげる日」


 説明するのも面倒なので、とりあえずそう言った。

 すると、ルークは突然目を輝かせた。


「チョコ欲しいです」


 あ、大事なことを言い忘れた。

 バレンタインデーは好きな人にチョコを上げる日だってことを。

 しかし、ルークの中ではすでにバレンタインデーには問答無用でチョコを貰える日となっているようで、目を輝かせたままこちらを見つめてきた。

 まあ、今は好きな人に限らず、友チョコとか自分用とか幅広いからね。

 だから、異世界から来た魔術師にあげる用チョコというのもあるかもしれない。


「……はい」


 催事コーナーに積み上げられていた、ひと箱三百円のチョコを渡した。

 ピンク色の包装紙でラッピングされたチョコを手にして、ルークの顔がさらに輝く。

 甘いものが好きらしい彼は、こちらの世界でチョコに感銘を受けて、今では大好物だという。


「ユリさん、ありがとうございます」


 レジを通すまで開けてはいけないと言いつけると大事そうに抱え、レジでは国宝でも差し出すような雰囲気で店員さんに手渡し、店員さんを若干困らせていた。







 後日、ルークは近所のおばちゃんたちから大量のチョコを貰ってきた。

 私が仕事に行っている間、近所を散歩するのが日課らしい彼は、いつの間にかおばちゃん達と仲良くなっていた。

 人懐っこい性格だし、そこそこ顔も良いのでまあ理由は分る。

 以前からの住人である私より近所と馴染んでいてびっくりした。

 貰ったチョコを両手いっぱいに抱えて笑顔を浮かべているのを見て、なぜかちょっとイラっとしたので、夕食のカレーを辛口にした。

 涙目になりながら食べている姿を見て、さすがに大人げなかったと反省し、食後のおやつにとっておきのチョコを分けてあげたら、美味しそうに頬張りながらまた食べたいと言われたので、来年ねと言っておいた。


 ……いやいや、来年には異世界へ帰って貰わなければ。




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