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12月―魔術師、イルミネーションにはしゃぐ―

本日二度目の投稿です。


前話でイルミネーションを見に行ったときの話です。




 異世界の魔術師とイルミネーションを見に来た。


 こんなことを言う日が来るなんて予想もしていなかった。

 人生は予想外のことばかりらしい。

 特大の予想外である当の魔術師は、電飾で飾り付けられた並木道を見て目を輝かせている。


「すごく綺麗ですね……、どんな魔法を使っているんでしょうか……」

「さぁ、科学の魔法かな」


 詳しく聞かれても答えきれないので適当に返しておいた。

 そんなことよりも寒い。

 この寒い十二月に、何が楽しくて屋外のイルミネーションなんて見なければならないのか。

 この時期になると自宅アパートの近くでイルミネーションをしていることは、ただいま異世界へ行っているアウトドア派なルームメイトが教えてくれたので知っていた。

 見に来たのは初めてだけど。

 理由はもちろん、右を見ても左を見てもカップルばかりだから。

 ルームメイトにはもっと外に出ろと口酸っぱく言われたけれど、私は根っからのインドア派だ。

 高校の同級生で、就職で上京してから再会してルームシェアをすることになった友人は異世界で元気にしているだろうか……私と違って行動派だから楽しんでいるかもしれない。

 いま私は、あなたの代わりに来た魔術師とイルミネーションを見ているよ。

 遠い異世界に呼びかけてみたけれど、吹き抜ける北風の冷たさで現実に戻される。

 現実に戻っても、目の前では相変わらず魔術師がイルミネーションを眺めていた。

 そのままの恰好で出てきたので、あの怪しさ満載の黒いローブ姿だけど、夜だから暗いし、みんなイルミネーションしか見ていないからそこまで目立っていなかった。

 もう充分に見ただろうし、そろそろ帰りたい。

 あと寒い。

 並木道を吹き抜ける北風が冷たくて、くしゃみをしたくなってきた。


「くしゅんっ」

「大丈夫ですか? 寒いですか?」

「あぁ、うん、寒いから……」


 早く帰ろう――と言おうとしたとき、魔術師が人差し指を口元に当てながら何かを呟いた。

 次の瞬間、カイロでも持っていたっけと思うくらい、突然体が暖かくなった。


「暖かくなる魔法をかけましたけど、どうですか?」


 魔術師が笑顔を浮かべながらそう言った。


「……あ、ありがと」


 目の前の怪しい黒いローブの人物は、本当に異世界から来た魔術師らしい。

 いや、見つけた時に明らかに魔法陣光っていたから疑っていたわけではなかったけど、でもあまりにも非現実的過ぎて深く考えないようにしていたことが現実として身に染みた感じだった。

 魔法、すごい。

 めちゃくちゃ便利。


「……向こうまでライトアップしているから、歩きながら見ようよ」


 せっかく来たんだし、もう少しくらいならイルミネーションを見てもいい気がしてきた。


「あの、あなたのお名前を聞いても良いですか? ぼくのことは、どうぞルークと呼んでください」


 そう言えば名前を知らなかった。

 いや、すぐにおさらばする相手だから別に知らなくても良いけれど、でも別に名前くらい言っても良いか。


百合(ゆり)

「ユリ様ですね」

「いやいやいや、様はいらないから!」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 異世界ではどうだか知らないけれど、こちらの世界で様つきは困る。


「ではユリさん」


 魔術師――ルークは、人懐っこそうな笑顔を浮かべた。

 そういえば最初は自分のことを私と言っていたけれど、さっきはぼく呼びしていた。

 見た目も若いし、こっちが素なのかもしれない。

 ついでに年齢を聞いてみると、私より五つ年下だった。

 その年齢で異世界に行かされるなんて、魔術師はブラックな仕事なのだろうか。


「行くよ」

「はい。どうぞ」


 どうぞ?

 謎の言葉にルークの方を向くと、目の前に腕が差し出された。

 疑問符を浮かべながら見上げると、にこっと笑いかけられる。

 いや、だから何……あ、もしかしてこれはあれか、エスコートってやつだろうか。

 異世界恋愛小説の中では定番だよね。

 紳士淑女のマナー。

 しかしここは異世界ではなく現代日本。

 私は胸を張って淑女といえる性格でもないし、目の前の男は今のところ異世界の怪しい魔術師。

 結論は一つしかない。


「必要ない」

「でも、人が多いのではぐれてはいけませんし……」

「大丈夫だから」

「けれど、ユリさんとはぐれてしまったら、ぼくはどうすれば良いか……」


 あ、はぐれるのはそっちなんだ。

 私より背が高いのに、まるで子犬のような瞳で見てくるものだから、拒否しづらくて、諦めて手を伸ばした。

 いや、異世界の魔術師が迷子になったんです、なんて交番で言いたくないだけだから。


「ほら」


 でも腕を組むエスコートはお断りなので、黒いローブの袖を引っ張りながら、イルミネーションでやたらとキラキラ輝く並木道を歩いた。


 しかしこの子犬、飼い主を振り回す方だった。

 イルミネーションの輝く並木道を何往復もさせられ、歩きながらずっとあれは何これは何と聞かれ、疲れ切った私は家に帰るなりベッドにダイブする羽目となった。


 翌朝起きると、リビングのソファで異世界の魔術師が寝ていて、不本意ながらルームシェアすることとなってしまった。




百合の年齢は二十代後半あたりです。

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