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歴史の節目に陰から糸を引く転生者  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ
3章 血染の聖域

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第25話 שריד קדוש

 アルカディア攻略を進めるバルテリス軍の前に突如立ちはだかった不死の女兵士。

 彼女らの戦闘力は、驚異の一言に尽きた。


(くそ、どうなってやがる)


 傷を負ってもひるまない。

 致命傷を与えても回復する。


 一体ずつの戦闘力はさほど高くないが、倒せない。

 翻って、こちらは、じわじわと体力を削られていく。


 このまま戦況が硬直すれば、最終的に敗北の苦渋を舐めるのは、バルテリス軍だ。


 嫌な汗がしたたり落ちる。


「どうです、この力、素晴らしいでしょう」


 その戦場に、一人の男が合流した。

 その男が何者なのかは誰の目にも明らかだった。


「その気取った服、アルカディア教の教皇だな?」

「ええ、いかがです、私の発明品は」


 白を基調にした、神事の際に着用する礼服。

 金糸銀糸をふんだんに使われた飾緒は教会の権力を象徴しているが、ここまで惜しげもなく使った祭服に袖を通すことが許されているのは教皇ただ一人。


「発明品、だと?」

「ええ。お前たち、見せてやりなさい」


 教皇が指示を下すと、無表情な女兵士たちがこくりと頷き、それぞれが、自傷した。


「……っ」


 体に震えが走る光景だった。


 肩口、太もも、小指、鎖骨。

 場所はそれぞれ異なるが、誰もが教皇の無茶な命令に、嫌な顔一つせず従うのだ。

 悍ましいとしか言いようがない。


「彼女たちには、聖女の遺骨を埋め込んであります」

「な……に……?」

「こんな逸話を聞いたことがあるでしょう? 曰く、聖女オルレリアは心臓を矢で貫かれたが平然としていた。あるいは首を斬られた相手にも慈悲をかけた、と」

「そ、それはあくまで、伝説上の話では」


 驚愕する男に、教皇は静かに首を振って答えとする。


「事実ですよ。聖女が最期、火刑にかけられながら、炭化した体を脱ぎ捨てるようにキレイな肉体を取り戻しては焼かれたこと、教会の歴史書にきちんと記されております」


 聖女オルレリアには、いくつもの、人智を超えたエピソードが残されている。

 そのうちの一つが、桁外れの回復能力。


 もし、それが真実だったとすれば?


「私はこう考えました。肉体が焼け落ちた後に遺った聖女の骨、これにも聖女の再生の神秘が宿っているのではないかと」


 教皇が語る弁舌に熱がこもる。


「思い至ったら試さずにはいられない。それが人というものでしょう⁉」

「試したのか……人間で」

「ええ。信仰は人を愚かにします。神の御心だと言えば、みな簡単に協力してくれましたよ」


 教皇は、「もっとも、その大半で拒絶反応が起こり、見るも無残な死体となり果てましたがね」と付け加えた。

 その口元には冷笑が浮かべられており、申し訳ないとか、懺悔の心とか、そう言った感情はまるで無いように感じられる。


「狂ってやがる」

「誉め言葉として受け取っておきましょう。何故なら、そのおかげでこうして、あなたがたのような反逆者からこの聖なる都を守り通せるのですから!」


 女兵士たちが自傷して開いた傷口は、既にふさがっていた。


 教皇がおもむろに手を掲げ、女兵士たちに指示を飛ばす。


「さあ、その命、天に返しなさい!」


 彼女たちが全く同じタイミングで首肯を示すと、一糸乱れぬ動きで反撃を開始した。


 これは、他の誰も、教皇ですらあずかり知らぬ服次作用であるが、聖女の遺骨がもたらしたのは再生能力だけではなかった。


 脳波ネットワーク。

 言語を介さずに意志や感情をやり取りするメソッド。

 遺骨を埋め込まれたもの同士はその能力に覚醒し、言葉を発さずとも視界を共有し、作戦を共有し、掛け声をかけずともタイミングを合わせることができた。


「くっ」


 戦況はどんどん悪くなっていく。


(このままでは、負ける!)


 彼は大将だ。

 5000の命を預かる大将だ。

 彼の敗北は、彼一人の命では済まされない。


(こんなところで、死ぬわけには――)


 視界の隅に、影が映った。


 瞬きする間のことだった。

 意識が遅れてその影を認識し、視線が追いかけた時には消えていた。


 夢か、幻か。

 現実には存在しない者を見ただけかもしれない。


「どうしたぁ? もう、後が無いぞ? ふははははは」


 男は歯噛みした。


 こんな不確実な要素に頼るしかない状況に。

 それが最後の希望になってしまったことに。


「くっ、体勢を立て直す! 全員、俺に続け!」

「無駄ですよ。お前たち、行きなさい」


 大将は、一瞬だけ映った影を追いかけて走り出した。

 わき腹をナイフで刺された痛みをこらえながら。


  ◇  ◇  ◇


 影が消えた路地へと走り出す。

 分岐路の先に、やはりそいつはいた。


「待て!」


 大将が声を発するが、影はまた、路地の向こうへと消えていく。


(くそ、どこへ連れて行く気だ)


 疑問に思っても、追いかけるほかに道は無かった。


 不死の兵士を前に状況は手詰まりだった。

 どうにか攻略の糸口を見つけなければ、全滅は必死。

 それだけは避けなければならなかった。


 彼の背後で、悲鳴が聞こえた。

 こうしている間にも、傷が深く、移動手段に欠く者から命を奪われて行っていることを感じ取れた。


 抗いがたい、焦燥感に駆られる。


 どこへ連れて行こうとしているのかはわからないが、早く、目的地にたどり着いてくれ。


 そう、祈りながら、必死に影の後を追いかける。


「……ここか!」


 ずいぶん、長い距離を走らされた気がした。

 だが、たどり着いた。

 影はとある施設に足を踏み入れて行った。


 つまり、ここが、影が彼らを連れ出したかった目的地。


 大将は少し悩んだが、近くにいた数十名の兵士だけを連れて急いで施設に潜入すると、施設内に大量にあった蔵書棚を入り口付近へ移動させ、バリケードを築いた。


 遅れてやってくる兵士たちを待っている時間は無いと判断したのだ。


「おい、いるんだろ!」


 大将が額に汗を浮かべて、どこかに潜んでいるはずの人物に声をかける。


 影しか見せない人物だったが、彼には相手の見当がついていた。


「ロギア!」


 だが、彼の必至の呼びかけ無駄しく、声は施設内に空しく反響するばかりだ。


 嫌な予感が胸中に広がる。


(いない⁉ まさか、本当に、幻を追っていたのか?)


 そんなはずはないと願いたい。

 だが現実問題、出入口が一つしかないこの施設に入っていった影は見当たらない。

 それはつまり、人一人がこの場から突然消滅したことを意味している。


 無論、人は透明になることなどできないので、考えられる可能性は一つ。

 そんな人物は最初からいなかった。

 それしか考えられない。


 徒労感が、大将を苛む……。


「た、大将! こ、これをご覧ください!」


 兵士の一人が驚いた様子で叫ぶ。


「バリケードのためにと本棚を動かしていたのですが、奥から隠し扉が!」

「なんだと⁉」


 大将が不思議に思いながら、本棚の背後から現れた戸にぐっと力を加えてみる。

 どうやら回転扉だったようで、ぐるりと戸板が回転し、奥に開けた空間が現れる。


 そこに、地下へと続く秘密の通路が隠されていた。


「ど、どういたしましょう」


 大将は悩んだ。


(どういうことだ。あの影がこの施設に身を隠してすぐ、我々は合流した。この隠し通路に潜り込む時間など無かったはず……いや、そもそも外側から本棚で戸を隠す術は無いはず)


 影がこの施設に彼らを導いたのは間違いない。

 しかし、影が通路に身を隠す暇も無かったはず。


 ならば、彼はどこへ消えたのか。


 謎は残る。しかし。


「行くしかあるまい」


 男は決断した。

 地下へと続く隠し通路を進むことを。


  ◇  ◇  ◇


 ご丁寧に、これを使えと言わんばかりに設置されていた松明をありがたく頂戴して、彼らは地下への階段を下りていく。


 土の中はひんやりとした冷気が漂っていて、いつも以上の寒さが肌をさす。

 まるで冥界へ下っているかのような恐怖が、彼らの周りにまとわりついていた。


 しかし、しばらく進むと、今度は地上へ続く道が発見される。


 今度はどこに続くというのか。

 不安を振り払うように、彼らは意を決して地上への扉を開けた。


 そこに、豪華な部屋が繋がっていた。


「こ、ここは一体……」

「大将! こちらをご覧ください!」


 兵士の一人が、何かに気付いたかのように呼びかけ、男はそちらに注意を向ける。


 そこに、ひときわ豪華な棺が安置されていた。

 だが、彼の目を引いたのは棺そのものではなく、そのそばに並び立つ墓標に刻まれた文字。


 ――聖女オルレリア。


「ま、まさか」


 だとするならば、これが。


「聖女の、遺骨なのか……?」


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カクヨム版
時代の節目に陰から糸を引く転生者
異世界で現代知識チート無双していたら英雄誕生の光景に目を焼かれてしまった主人公が、さらなる英雄譚目撃のために英雄も巨悪も舞台も用意して「さあ、やれ」と特等席で観戦を決め込む話。
+注意+

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