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歴史の節目に陰から糸を引く転生者  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ
2章 救国の聖女

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第11話 ラ・ピュセル

 まだ人が狩りと採集で暮らしていた遥か昔、千年の時を超えたような文明力を誇る巨大国家が存在しました。


 アルカヘイブン。

 始まりの7人によって統治されていたその国はしかし、ある時一人の悪女が現れたことで、治世乱れることになりました。


「ねえ陛下、私、新しい余興を思いつきましたの」

「ほう、ぜひ聞かせて欲しいものだな」

蟇盆(たいぼん)の刑と言って、ヘビやサソリを入れた深穴に罪人を突き落とすのです。さぞきれいな悲鳴を上げてくれると思いませんか?」


 始まりの7人の一人を処刑したことで、処刑に対して引いていた一線を越えてしまった国王は、その悪女の提案を嬉々として受け入れました。


 そのうえ悪いことに、刑罰に処せる人間の数が減ると、些細なことで糾弾し、罪人の頭数をそろえようとするので国民はたまったものではありません。


 ある時、高貴な魂を持つ平民が国王に直訴しました。


 しかし、もはや悲鳴を聞くこと、また意中の悪女の願いを叶えることが目的となっている王は、その言葉を煩わしいと感じるだけです。


「陛下、これ以上処刑の敷居を下げれば、国家運営のための人手が足りなくなってしまいます」

「ならばよそから無理やりにでも捕えて来い」

「どうか、処刑をおやめください。このようなことを続けていれば民心が離れてしまいます」

「ええい、俺に意見する気か。不愉快だ、この者も罪人として処罰しろ!」


 国王の意志は絶対でした。

 王に背けば、悪女の考えた残忍な方法で処刑されてしまいます。


 国には重苦しい空気が広がりました。


 口は禍の元と言いますが、いつ王の不興を買ってしまうかわからないとなれば、沈黙が金と判断されるのは当然です。


 そんな状況が続いたので、ある時、魔法使いの男女が会議室に集まり、密約を交わしました。


「王は乱心だ。このままだと、いつ我々も殺されてしまうかわからない。ここはどうだろう、それぞれが独立して、新たな国を興すというのは」

「もはやそれしかあるまい」

「息災で」

「そっちもね」


 こうして、新たに二つの国家ができました。

 彼らは独立にあたってアルカヘイブンの民衆をごっそりと引き抜いて行ったので、国王は冠です。


「裏切者めらが! 許さん、許さんぞ!」


 独立して、間もなく。

 片方の国が侵略を受け、アルカヘイブンに合併吸収されました。


「くそ、無駄に足掻き追っ手からに。とっとと軍門に下れば必要以上に苦しむことも無かったものを」


 いいえ、無駄な足掻きではありませんでした。

 彼らが時間を稼いだおかげで、もう一方の国は防衛力を高める準備ができました。


 地属性と水属性のカップルが運営する国家の防御壁は堅固で、火属性を得意とする王は何度となく攻めあぐねることになります。


 その間に兵を募り、軍事力を強化したその国家はじりじりとアルカヘイブンとの戦力差を詰めていきました。


 これにはたまらず、と言った様子で、互いに軍事力を強化する準備期間に入り、小競り合いが続くようになって数年。


 国の周りに、いくつかの村が興りました。


 そのいくつかの村の中でも簡素な村の農夫に、一人の愛娘がいました。


 少女の名前はオルレリア。


 彼女には、不思議な力が備わっていました。


 きっかけは13歳のある日のこと。


 突然土砂崩れに巻き込まれ、運よく一命をとりとめた者の帰り道がわからなくなり、途方に暮れてしまったことがありました。


 その時、不思議なことが起きたのです。


『西へ向かえ』


 頭の中に、誰ともわからぬ者から声が聞こえるのです。


 あても無かったオルレリアは声に従って動き出しました。

 するとなんということでしょう。

 そこに、沢があるではありませんか。


『ここは安全だ。一時、身を休めるといい』


 不安はありました。

 しかし、日は暮れかけていて、無暗に動くより夜が明けるまで待機した方が賢いと考え、オルレリアは結果として声に従いました。


 ここを水場としている獣が水を飲みに来るかも。

 そう思いましたが、声は正しく、彼女の不安は杞憂で終わりました。


『北へ向かえ』


 翌朝、そんな声がして、オルレリアは北へ向かいました。

 すると不思議なことに森の中、彼女を探していた両親と偶然再会できたのです。


「あなたは、誰なのですか?」


 オルレリアが、頭の中に住み着いている誰かに問いかけます。


「だんまりなのね。どこかへ行ってしまったのかしら。お礼が言いたかったのに、残念だわ」


 声はやっぱり聞こえてきません。

 オルレリアは小さくため息を吐きました。




 ……そんなことがあったのは、およそ4年前のこと。


 オルレリアにとってあの日の出来事が夢で片付けられて、もうすっかり思い返すこともなくなっていたころ、再び声がしました。


『西へ向かえ』


 オルレリアがきょろきょろとあたりを見渡します。

 周囲に人影はありません。


「やっぱり、夢じゃなかったのね! あなたは誰なの? どこにいるの?」


 オルレリアが再会を喜ぶように、声を弾ませて、何もない空間にいる、誰かに向けて問いかけます。


『西へ向かえ』


 しかし声は彼女の問いに答えてはくれません。

 一方的に語り掛けてくるだけです。


『西へ向かえ』

「もう、そればっかり! 北に何があるって言うのよ!」


 オルレリアは頬を膨らませ、口をとがらせました。

 こっちの質問に答えてくれるまで、言うことなんて聞いてやるものか、と決意しました。


 どうせ答えてくれないのだろうと、内心では思いながら。


 しかし、意外にも、彼女の予想は外れることになります。


『……そこに、新王の器がいる』

「え?」


 答えが返ってきたことに驚いて、オルレリアは拍子抜けする声をこぼしました。


『娘よ、我が声を聞きし奇跡の娘オルレリアよ。汝はこの時代をどう思う』

「どう、って」

『民を守るはずの王が民の悲鳴に喜悦の笑みを浮かべ、命を軽んじ、人と人を争わせる時代に生まれたことを幸せと思うか?』

「わ、たしは……」


 オルレリアは思わず眉に力を込め、それからもう一度、周囲を見渡しました。

 国王の悪口をいうものは処刑されてしまうからです。


 ですので、周囲に人がおらず、独り言を盗み聞きされる心配もないと確認したのち、オルレリアは自分の考えを語りました。


「辛い、です。もっと、誰もが幸せに暮らせる時代になればいいのにと、そう思います」


 夢物語ではありません。

 少女がまだ幼かったころ、すなわち、アルカヘイブンの統治者がまだ前の国王だったころ、彼女の周りには、いまよりたくさんの笑顔があったのです。


 年を重ねるごとに風化していく、幼い記憶の中で、その記憶だけがいつまでも色鮮やかに残り続け、いまもそれを懐かしく感じてしまいます。


『ならば、成せ』

「……ぇ?」


 力強い口調で、声が語り掛けました。


『忌まわしき時代を打ち砕け。いまを生きる者たちが幸福に暮らせる時代を築け、奇跡の娘オルレリアよ』

「そ、そのようなこと、わたしには荷が重すぎます」

『我が汝を導く』


 オルレリアが目を大きく見開きます。


『汝は選ばれたのだ。汝の両手には、この先を生きる幾千幾万の希望が託されている』

「わたしが、みんなの……」

『故に、汝、真なる幸福の時代を望む奇跡の娘オルレリアに命ずる』


 その声が、その言葉が、彼女の人生を決定づける運命のターニングポイント。


『英雄となり、民を苦難の時代から解放せよ』


  ◇  ◇  ◇


 人類最古の国家アルカヘイブンを少し北上したところに、人里離れてひっそり暮らす男女がいる。


「師父、なにかいいことでもありましたか?」


 ハクと、ロギアだ。

 ハクは自らの口元を指さし、ロギアの口角の上がり具合を指摘した。

 しかし彼は首を振り、

「いや、何も」

 と返す。


(そう、まだ何も起こってなどいない)


 俺の望む物語が紡がれるのは、ここから。


「新たな物語の、幕開けだ」


 魅せてみろ、新時代の英雄よ、貴様の生き様を。


  ◇  ◇  ◇


 人と人が醜く争う、乱世の時代。

 神の声を聞く奇跡の娘、オルレリアが寒村に誕生する。


 これは彼女が争いの時代に秩序をもたらす、英雄譚である。


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カクヨム版
時代の節目に陰から糸を引く転生者
異世界で現代知識チート無双していたら英雄誕生の光景に目を焼かれてしまった主人公が、さらなる英雄譚目撃のために英雄も巨悪も舞台も用意して「さあ、やれ」と特等席で観戦を決め込む話。
+注意+

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