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ファンデイトブック  作者: 無色なそら


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第29話 ブックの中では

「見限られたな人間共。哀れやな、せめてひと思いに殴り潰してやるわ!」


 そう高らかに言い放った麤乱鬼(そらんき)は、渾身の一撃をクロエたちに振り下ろす。


 麤乱鬼の拳の衝撃で高々とした砂の柱が作られ、辺りに衝撃で砕けた石が飛び散る。


「おっと、力を込めすぎてしまったか? 思いのほか威力が出たな。これでは原形をとどめとらんのやないか?」


 麤乱鬼(そらんき)は腕を持ち上げ振り下ろした自身の拳を眺め、すぐに殴りつけた地面に目を向ける。


「ん? 原型をとどめとらんどころか、跡形もなくなっとるやないか」


 深くえぐれた地面には殴り潰したはずのクロエたちがないどころか、血の一滴すらも痕跡が残っていなかった。


「そんなわけないでしょ、ちゃんと避けてるよ」


 そう耳元で声がしたと同時に、麤乱鬼(そらんき)の右半分の視界が奪われる。

 麤乱鬼はとっさに拳を振るい反撃するが、拳は空を切り何にも触れることはなかった。


「今の声は短い白髪の娘か。どこへ消えた? なぜただの人間がこうも動ける?

 狐の連れとは言え……。いや、さてはあの狐、人間共に力を分け与えて何か術を使えるようにさせたか? でなければたかが人間の肉体で我の拳を避けられるはずないからな」


 麤乱鬼(そらんき)は指で頭をかき、深くため息を付く。


「面倒やな、昔っから力で制す鬼とこざかしい術を使う狐共とでは、どうも相性が悪くて好かんのや。

 我の眷属共は既に絶えてしまったのか知らんが、どこにも見当たらんかったからな、分散させて狐とサシでやることもできん。おまけに人間共は狐の守護で我の毒霧が効かぬときた。これはいかんな、腹が立つ」


「あんまりそうぷりぷりしてると、眉間にしわができるよ?」


 麤乱鬼(そらんき)が苛つきをあらわにしていると、今度は足下から声がする。

 麤乱鬼が見下ろすと、足下には口元まで隠し、クナイを手に持ちより忍者らしい姿となったまゆりが麤乱鬼の顔を見上げていた。


「今度は騒がしい娘か。なんやぷりぷりって、どう見てもゴリゴリの鬼やろうが」


 そう言うと同時に麤乱鬼(そらんき)はまゆり目掛けで踏みつける。

 しかし、まゆりは容易に麤乱鬼の足を避け、後方の木に飛び乗る。


「えっと、確か怒ってる状態のことをぷりぷりするって言ったと思うんだけど、違ったっけ?」


「大丈夫、あってるよ。ぷりぷりっていうのは不機嫌で怒ってることを言うからね」


 樹上でうなっていたまゆりの元へクロエが教えに行く。


「だよね、良かった。クロエちゃんってばいろんなこと知ってて教えてくれて、なんだか先生みたいだよね」


「先生?」


「そう! 先生! できることならうちのきっついエタバチェと変わってほしいくらいだよ。あ、でも多分クロエちゃんって私と同い年くらいだよね、残念」


 まゆりは肩を落として落ち込む。


「お主ら、のんきに話しておる場合ではないぞ」


 クロエとまゆりが話していると、天ちゃんの声がしたかと思えば、眼前に何か大きな物が現れ、風圧がふたりの髪をなびかせる。


「よもや相輪を取って投げるとはな」


 相輪と言った物体の中腹に天ちゃんは立っていた。


「そうりん? 何これ」


 まゆりは何を投げられたのか分からず、自身の目の前にあるものを恐る恐るつつく。

 目の前にあるにも関わらず、目を凝らして見ているまゆりの肩をクロエがとんとんと軽くたたく。


 まゆりがクロエに顔を向けると、クロエはどこかを指し示し、その指に従うようにまゆりは麤乱鬼(そらんき)へと視線を向ける。


「もうちょっと先、五重塔見て」


 クロエに言われ、まゆりは五重塔を見る。


「……ん?」


 まゆりは五重塔に違和感を感じ、五重塔と目の前の物体に何度も何度も交互に視線を送る。


「ああ──ッ!」


 自身に向けて投げられた物体の正体に気付き、まゆりは思わず大声を上げる。

 そして、わなわなと震える指で五重塔を指す。


「こ、壊してる! 五重塔のてっぺんの棒壊しちゃってるよ! だ、大丈夫かな? あの鬼倒した後、来た人たちに私たちがやったって思われないかな?!」


「──おい」


「どうしよう~、ばれる前にとっとと逃げる?」


「──おい!」


「接着剤で直るかなぁ?」


「おい聞けガキ!」


「ひゃい!? わ、わわわ私じゃないよ!」


 何者かに怒鳴られ、まゆりは怪しさ満点の返事をしながら肩を跳ねさせ、ぶんぶんと顔を振って周囲を見回す。


「……あれ? 誰もいない」


「もう少し下だ。お前オレが話してるの見てたろ」


「下……?」


 まゆりは誰だろうと不思議に思いながら、地面の木の根元辺りを見下ろす。


「下すぎだ、少しっつったろ」


 声の主が苛ついていると、見かねたクロエが腰のポーチから本を取り出す。


「まゆり、こっちこっち。ブックもぷりぷりだね」


「本……? あ、そういえばさっき話してたね」


 クロエがブックを両手で持ってみせると、ブックはやっとかとあきれてため息を付いてから話し出す。


「“さっきも話した”が、ここはオレの中だ。よって、ここの物がいくら壊れようともオレの外では何ら影響はない。物語の中でどこどこが壊滅だなんだってのをよくみかけるが、それを見てるお前らには何ら影響はねえだろ? それと同じだ。

 ただし、違うことといえば、お前たちは今、その物語の中にいるような状況だ。死んだら出られねえからそれだけは気を付けろ」


「分かった! 私、あいや……、拙者頑張る! ブックモプリプリ殿!」


「ブックだブック! なんだモプリプリって、どこから持ってきたんだよ」


 まゆりとブックのやりとりを見ていたクロエは、ブックをしまう直前、ニヤリと笑みを浮かべた。


「なんだクロエ、何かあったか?」


 クロエの笑みに気付いたブックが、ポーチにしまわれながら聞く。


「今さ、ブックは自分がブックだって認めたね?」


「は? 認めてはいねえよ、相手によって呼ばれ方変えてたら面倒だから、仕方なくお前が止める気のないブックにしたんだよ! んな下らねえこと言ってねえでさっさとあいつ倒せ!」


「んふふ、分かりましたよー」

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