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ファンデイトブック  作者: 無色なそら


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第3話 夕暮時

 学校から追い返され、行く宛のなくなったクロエは、木の棒を拾ってぐるぐると回しながら人気の無い商店街を当てもなく歩き回っていた。


「うーん、困ったなあ。予定が狂っちゃったよ」


「中々傑作だったぞ? 意気揚々と歩いていって止められてる様は。ちゃんと下調べせず行くからああいう目に合うんだ」


「ふんだ、ブックってば性格悪いね。第一、何で私が探し回らなくちゃいけないのさ? あっちの方から来てくれればすごく簡単なのに……」


 ケラケラと笑いながら話すブックに、クロエはポーチからブックを取り出しては開いては振り、頬を膨らませ不満気に相手をしていると、何かを踏んだ感触が足の裏に伝わり、足をどけて下を見る。


「ん? なんだろ、これ?」


 クロエが呑気にしていると、ブックが笑うのを辞めると同時に、八咫烏と遭遇した時と同じ声を発する。


「幻想概念“大禍時(おうまがとき)”が接近中。直ちに避難して下さい」


 いきなりのことに、クロエはビクッと体を震わせると、咄嗟に拾った物をポケットにしまう。


「え? 急にどうしたの?」


 クロエはなぜブックの態度が急変したのか理解できずにいると、ブックの雰囲気は戻り、教えるように続ける。

 

「逃げられなかったか、ヤバイ所に入り込んじまったぞ」


 先程までクロエの真上で辺りに明かりをともしていた陽が沈んでいき、薄暗い夕暮へと移り変わっていく。

 クロエの居た路地に差し込む光はより一層暗くなり、点々とついている街灯が無ければ数十メートル先ですら鮮明には視えないでいる程に。


 クロエはすぐさま来た道を折り返そうと振り向くと──、


 そこには、夕日に照らされた見晴らしの良い田んぼ道が広がっていた。

 ブックは一度息付くと、クロエに今自分たちが置かれている状況を説明する。


「オレたちが今居るこの場所は、逢魔時という現実にもある時が最近の幻想生物騒ぎに侵され、“幻想化”した概念の中だ。概念は基本的に収容レベルは“無”に判定される。つまり、ここは収容できない」


 ブックの口ぶりは、冷静さを保とうとしているが、焦りが滲み出していることが汲み取れた。


「え? じゃあどうしようもないじゃん」


「ああ、だがここに入れたってことは、何処かに穴があるはずだ。そこを探して脱出するほかない。それと、気を付けろよ。なにせここには──」


 ブックが何かを伝えようとした時、クロエは背筋に悪寒が走り後ろを向き直す。

 背後に橙色の光を背負い、人の形をした真っ黒な大勢のナニカが近づいてきていた。

 身体の輪郭はボヤけ目や手は無く、歯茎が見えるほど大きく開けられた口を動かし、そこからは甲高い耳鳴り音のようなものが発っせられていた。


 段々とナニカに気を取られ、深く黒い闇の中へと誘われていくその音に、クロエの意識は飲み込まれていく。


「──い──おい──け! ──おいクロエ! 動け!」


 ブックの言葉で飲み込まれかけていた意識を取り戻し、ゆっくりと迫り来るナニカと反対の方向に向けて透かさず足を動かす。


「ブック、あの黒い変な奴ら何なの?」


「あれは、“マガイビト・(はつ)”だ。大禍時の中に迷い込んだ者を奇怪な音で取り込み、そのまま喰らってしまう。そして最終的には見事ヤツらの仲間入りってことだ。一体何を喋ってんだか」


「……アイツらは収容できないの?」


「無理だな。ヤツらは大禍時の攻撃性から絞り出されたようなもの、つまり大禍時の一部みたいなもんだ」


「なら、逃げるしか無いってことね」


 それからクロエは果てし無く広がる田んぼ道を、マガイビト・發に捕まらないよう逃げ回りながら出口を探し、走り続ける。が──、


「──全く見つからないんだけど! それどころか走っても走っても田んぼ道ってどういうこと!?」


 どこまで行っても変わらぬ景色に、クロエは少々苛立ち始めていた。


「どうやら、出口を探すまではこの場所からは出られないみたいだな」


「もうこのまま走り続けたって埒が明かないよ」


 そう言うと、クロエは横にある田んぼに向かって方向を切り替える。



「道を走ってだめなら、飛び込んでみるしかないでしょ」


 クロエが足に力を込め、田んぼに飛び込もうとした時──、


「え?」


 田んぼの中が大きく開いた口に変わり、クロエを飲み込もうとする。


「うわっ、危ない!」


 咄嗟に後ろに飛び、間一髪で避ける。


「クロエ、迂闊に飛び込むのはよせ。それと、さっきの集団が追い付いてきたぞ」


「うーん、田んぼもハズレかぁ」


「反対側からも1匹来たぞ。さっきも言ったが、あいつの音には気を付けろよ」


「分かってるよ」


 クロエを挟むように他のマガイビトよりも少し小柄なものが、ゆったりと歩いてくる。


「ニ……テ……ニ……ゲテ……タ……タイヨ……カラ……ソト……ニ…………」


「なに……? たいよ?」


「おいクロエ! アイツらの“音”に気を付けろと言っただろ!」


 今一度取り込まれようとしていたクロエの意識を、再びブックが呼び戻す。クロエは完全に意識を呼び戻すために自身の頬を叩くと、群れているマガイビト・發たちに視線を向ける。


「ふう、ごめん。でもやっと、ここの出口が分かったよ」


「……は? 本当か!?」


 クロエは「うん、それはね」と迫りくるマガイビトたちに向かって走り出す。突然のことにブックは驚き、声を上げる。


「お前、何してんだ!?」


「まあ見ててよ、ブック。出口は──」


 マガイビト・發と接触するまであと僅かというところまで来たとき、クロエは上に高く飛び上がる。


「出口は、これだよ! 多分!」


「た、多分!?」


 クロエが手を伸ばし、マガイビト・發たちを照らす光に接触すると、辺りが光に包みこまれていく。

 そして、クロエたちを包む光が引いていくと、元居た商店街に出ていた。


「お前なあ、勘で危ねえことするんじゃねえよ」


 運良く当っていたは良いが、クロエの余りにも無謀な賭けに、ブックは呆れていた。しかし、そんなことお構いなしにクロエは辺りを見渡し始める。


「そんなことより、出られた……のかな?」


「そんなことって……はあ、まだだな。よく周りを見てみろ、あれだけ長いこと走り回っていたのに、日が暮れちゃいねえ。それに、出られていたなら、道の先にあんなものが居るはずがねえだろ?」


 ブックに言われた通り道の先を見やると、少し先の道の角から黒い影が覗いていた。

 ソレは先程のマガイビトとは違い、輪郭はボヤけておらず手があり、口の代わりに小さく光る目が付いていた。


「見てみろと言ったそばからなんだが、あまりじっと見過ぎず見た方がいいぞ」


「……? 何言ってるの? さっきの場所で気でもおかしくなったの? 本なのに記憶できないの?」


 クロエの純粋だからこそイラッとする言動に、ブックは我慢しつつ話を続ける。これが大人の対応というやつなのだろう。


「あれは、“マガイビト・()”だ。見てると何もして来ないが、目を離したら襲って来る。だからといって、見過ぎるのも良くないから気を付けろ。精神がやられちまうからな」


「見過ぎるなって言われても、どのくらい見てちゃいけないのさ? こうしてる間に半分くらい近寄ってきたよ。なんか一匹増えてるし……」


「さあな、ちょっと頭痛がしたら目を話す程度でいいんじゃねえか?」


「あ、そんな感じなのね。なんかげぇむってやつみたいだね! 取り敢えず、また出口を探すしか無いか」


 クロエは2匹のマガイビト・視を躱しつつ、再び二度目の出口を宛もなく探し続ける。しかし、先程と同様に全く持って見つかる気配はなかった。


「──ここも!

 ──ここもっ!

 ──ここも違うッ! ほんとに出口なんてあるの?! またアイツらに突っ込めってこと!? 出口聞こうにも、マガイビト・視(あのふたり)はどう見ても教えてくれそうにないし……そもそも口ないし……」


 商店街を走り続け裏路地に入ったところで、行き止まりに来てしまった。

 戻ろうにもマガイビト・視たちが通路の先に立っており、戻ることは難しそうだった。


「うーん、不味いな。アイツらから逃げるのはそう難しくないけど微妙に速いからこういう路地は駄目って読んだんだよね」


「なら何で入ったんだよ」


「だって、出口見つからないからこういう路地にあるのかなって」


 ブックは、またもや無謀な賭けをするクロエに呆れて気味にため息を付く。


「それで追い詰められてちゃ世話ねえだろ? アイツら、律儀に道塞ぎながら迫ってきてやがるぜ?」


「ごめんよぉ……」


 クロエがブックに叱られてヘコんでいると、ブックが何かを見つけた様子でクロエに話しかける。


「ん? おい、後ろに何かあるぞ」


 マガイビトに気を張りながら後ろを振り向くと、そこには壁に開けられた丸い凹みがあった。


「ここに何かをはめ込んだら出口がでてきたりして……なんてな」


 ブックの投げやりな呟きを聞き、クロエはふと大禍時の中に入る直前に拾った物を思い出す。


「ひょっとしちゃって、コレ使えたりするんじゃない?」


 そう言ってポケットを弄り始めると、クロエはビー玉のような小さな玉を取り出した。


「なんだ? それ?」


 ブックは何処にでもありそうな玉を、自信ありげに取り出したクロエに訝しげに聞く。


「ここに入る前に拾ったんだよ」


「そうか、せっかくだし使ってみてもいいんじゃないか? まあ、そんなんで出られりゃ世話ねえけどな」


 クロエは持っていた玉を壁にある丸い凹みにはめ込む。

 すると小さな玉が眩い光を発し始めた。


「ブック、もしかして正解じゃない? これ!」


「マジかよ……」


 光がクロエとブックそして手を伸ばし、すんでのところでクロエに見られ止まっているマガイビト・視を飲み込んでいく。

 そして気が付いた時には、クロエは日の暮れた商店街に居た。


「今度こそ、出られた……よね?」


「ああ、そうみたいだな」


 ブックがそう答えると、クロエは地面に腰をつけてどっとため息を付く。


「疲れたぁ〜。変なのに捕まっちゃったよぉ」


「どうした? お前が望んだ通り、あっちから来てくれたじゃないか」


 ブックは笑いながら言う。


「もうあんなのは当分勘弁だよ。自分から探しに行く方がまだ理不尽なのじゃなくていいよ」


「なにはともあれ、無事に帰ってこれてよかったな。よくやったなクロエ、今日はしっかり休めよ? まだ1匹しか収容してねえんだ。明日からもしっかり探し歩いてもらうからな?」


「うへぇ……過重労働だよ、パワハラだぁ……」


「返事は?」


「は、はぃ……」


 言われるとも思いもしなかった訳では無いが、実際に口に出して言われると、存外キツイものだと思い、不貞腐れるクロエであった。

 幻想生物データ『逢魔時』

 概念級

 収容レベル無

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