第27話 開幕?
「さて、オレについてだが……」
「ついに、ブックの秘密が……、あんまり興味あったわけじゃないけど」
変に入れられる溜めに、クロエはゴクリと唾を飲み込む。
「オレについて……、教えられる分けねえだろ。なーに真に受けて期待して──」
「よーっし、今日って燃えるゴミの日だっけ? 教えないならこのまま破り捨てさせてもらおうかな」
「いいと思う」
「そうじゃな」
誰も制止める者はおらず、クロエはブックのページを束でつかんで破り裂こうとする。
「おいおい待て待て待て、教えねえんじゃなくて教えられねえって言ってんだ」
ブックはなおもページに手を掛けて離さないクロエにため息をつき、そのまま言葉を紡ぐ。
「あのなぁ、敵の情報聞けるぞワクワクつってるヤツの前で、そもそも何の得もねえのに素直に情報を敵に教えてやる馬鹿がどこにいんだよ」
ブックの言葉を聞き、特に深い意図はないがクロエは天ちゃんに視線を向ける。
天ちゃんは和傘を閉じて脇に置き、まゆりとあやとりをして遊んでいる。
「何よそ見してんだ。言っておくがそもそも、自分の手の内を話すやつなんて相当の自信家か相当馬鹿なだけだからな?」
クロエは一度ブックに注意されブックを見るが、再び天ちゃんに視線を向ける。
「なんじゃクロエよ、先ほどからちらちらと妾の顔を見おって」
天ちゃんはクロエの視線に気付いていたようで、間の抜けた顔でクロエを見る。
その何も考えていなさそうな顔を見るに、ブックの言葉は聞こえていなかったのだろう。クロエは「なんでもなくはないよ」と適当にごまかす。
「……? …………そうか」
やはりあまり考えていなかったらしい。少し考えれば見ていた理由があるという言葉だと分かるはずだが、天ちゃんは気にすることなくまゆりとあやとりで遊んでいる。
クロエは眉間にしわを寄せて首をかしげ、先ほどブックの言っていた“相当の自信家か相当の馬鹿か”という言葉を思い出し、もしかして天ちゃんは自信家な馬鹿、もしくは自信家などではなくただの馬鹿なのではないのだろうかと思った。
「──んでさ、結局教えてくれないの? 秘密。教えると言われてじらされると気になるんだけど」
クロエは教えられないと言われたのに性懲りもなく再びブックに聞く。
「……チッ」
「え? 今ブック舌打ちした?」
予想だにしなかったブックの反応に、クロエは口をぽかんと開く。
「してない」
「したよね?」
「……していない」
ブックが意地でも舌打ちをしたことを認めず、クロエが聞き返すこともしなくなり、その場にふたりの間に長い沈黙が流れる──。そして……、
「いや……いやいやいや……。今のはおかしいでしょ!?」
クロエはあまりの苛つきに顔をしかめて責め立てる。
「先に教えるって言ったのはそっちでしょ! なのになんで聞いただけなのに私が苛つかれなきゃいけないわけ!? 私が変なことして苛つかれるのはいいよ、怒られるだろうなとは思ってわざとやってるわけだもん!」
「……変なことだとは、ちゃんと自覚してたんだな」
「そりゃそうでしょ、おふざけは生きがい。それ以外のこと、特に悪いことしてないのに怒られるのは納得がいかない」
クロエは拗ねてブックを地面に放り捨てる。
「そうか、確かにな。オレが悪かった。だから拾ってくれ」
「うん分かった」
急にスッと機嫌を直したクロエは、素直に言うことを聞いて地面に放ったブックを拾う。
「やけに素直だな。てっきり蹴り飛ばすもんだと思ってたが」
「ちゃんと謝ったからね。クロエさんはそんなにしつこい性格じゃないんだよ。
……ちょっとだけやろうか迷ったけど」
クロエはブックに付いた土を払うと、腰に付けているポーチにブックをしまう。
「さてと、じゃあおふざけはここまでにして」
クロエはふっと息を付き、頭上にいる麤乱鬼を見上げる。その瞼の下から麤乱鬼をのぞくのは、空より澄んだ鮮やかな青い瞳。
天ちゃんもクロエの雰囲気が変わったことに気付き、まゆりの持つあやとりを取り上げる。
「ああ、せっかくうまくいったのに」
「もうときじゃ。そう落ち込むな、後ほどまた続きをやればよい」
天ちゃんはあやとりを自身の懐にしまうと、まゆりとクロエを呼び、先に麤乱鬼の下から離れるように言う。
そして、脇に置いていた和傘を手に取り差すと、自身は地面に手をかざして何かを探り始める。
「どこまで行くの?」
まゆりが聞くと、天ちゃんは立ち上がり、まゆりたちの元へと歩いて行く。
「その辺りでよい」
そう言うと、天ちゃんは歩きながら麤乱鬼を指さし笑みを浮かべる。
「彼奴、情報を聞くなどというておったが、のんきに寝ておる。これは絶好の機会と言えよう。
じゃが妾は寝込みを襲うなどといった姑息な手段は使いとうない。ならば起こしてやらねばな」
「天ちゃん顔悪いね。何か変なこと考えてない?」
「顔は悪くないわ、性悪な顔をしているとでも言え。誰が性悪じゃ!」
勝手に言って勝手にひとりで突っ込むと、天ちゃんはコホンと咳払いをして言葉を紡ぐ。
「起こしてやらねばならぬが、継続して力を使い続けて妾は疲れてしもうての、少々手荒じゃが彼奴を落として起こすしかないのよ。
その際彼奴の下に何があっても妾は認知しておらぬでの、もしかすれば何かが下にあり、痛い思いをしてしまうかもしれぬな……ふふっふ」
天ちゃんは袖で口元を隠し、目を細めて笑う。
「さすが狐だな。いい性格してやがる」
「なんじゃ紙切れよ、褒めても何も出ないぞ? しいてくれてやるのであれば、耳の毛くらいか?」
「……んなもんいらねえよ……。ってか、その姿の耳どこだよ」
口元から袖を離すと、天ちゃんは人の耳と同じ位置を手で探る。
「完璧に化けているのだから、耳も人らと同じ位置にあるに決まっておろう。
……じゃが本当にいらぬのか? 妾の耳の毛は福の毛と言って、一本お守りに持てば無病息災が叶う代物じゃぞ」
「じゃあ私がもら──」
「クロエ、お前はちょっと黙ってろ。……オレは病気になんてならん、よっていらん。
麤乱鬼を起こすならさっさとしろよ。オレもお前らがどれだけの間ここにいられるかは分かんねえんだからよ」
「それもそうじゃな、長々と話していてもよいが、せっかくの機会にそれではもったいないからの」
ブックに言われ、天ちゃんは和傘をくるくると回しながら言う。
そして、ピタと和傘を止めたかと思えば指を立て──、
「さ、乱れお主ら、弔い宴を開こうではないか!」
手を振り上げ、声高々に笑い声をあげる。
「て、天ちゃんさん、台詞や口調が悪役じゃない?」
「そうか? なかなかにかっこよいと思うたのじゃが」




