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ファンデイトブック  作者: 無色なそら


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第25話 黒雲より出ずる訪問者、厄災を齎さん

 羽黒山に霧が蔓延する少し前──。


 クロエたちは五重塔に現れたと騒がれている中を、周囲の状況を確認しつつ五重塔へ急いで向かう。


「クロエちゃん、さっきの人、超でかい六腕の鬼が出たって言ってたけど、この辺りに出る鬼ってどんなのが居るの?」


「……分からない。もしかしたら私が忘れてるだけかもしれないけど、本当に鬼なら少なくとも読んだものの中にはなかった……と、思う」


 自身の記憶からその鬼の情報を探し出そうと必死に頭を巡らせながら話すクロエ。

 数秒の間を置き再び口を開き、「ただ」と付け足す。


「鬼は、天狗や河童と肩を並べて『日本三大妖怪』と呼ばれるほどに存在が広く知られ、かつ種類も多い。

 だから、良いものも悪いものが居れば、強さの強弱にもばらつきがあるんだよ」


「そうなんだ、因みに私はその中では天狗が一番好き。それで?」


「……それで、そういった類いのものは基本的に、力を得れば得るほど大きくなっていくんだよ。筋力なり能力なり、体格なりね。

 つまり、見た人が超でかいって言っていたってことは、少なく見積もっても十数メートルはある可能性があり、“それほどの力を持っている”ってことになるかつ、知能もそれなりにあるはず。だから……」


 と、クロエがまゆりに逃げるように伝えようかどうか迷っていると、先にまゆりが口を開く。


「なら、見た目は小さくて凄い能力使うよってヤツよりかは、見た目で分かりやすくしてくれてる分良心的ってことだよね! 一緒に頑張ろう!」


「まゆり……」


 寸分の迷いもないまなざしを向けるまゆりに、クロエは逃げるように言うのを辞める。

 そして、そのまゆりの懐で抱えられている天ちゃんも、怯えのおの字すら見せない顔つきでクロエを見つめている。


(クロエよ、妾が居るのを忘れておるのか? 妾天狐じゃぞ? 名の売れて浮かれておる九尾狐より上位の存在じゃぞ?

 空は地より高く、天は空より高みにあり。負けるわけがなかろうて)


「天ちゃんも、ありがとう」


(何? お主妾の言葉が通じて居るのか!?)


「何言ってるのか、そもそもなんか言ってるのかすら分からないけど、なんか感謝した方が良いような気がしたから言っとくね」


(通じておらんではないか! 期待させるようなことするでないわ!)


 天ちゃんの期待は一瞬にして空しく散り、クロエは気付くことすらなく伝えると、より一層向かう足を速めた。





 そして漸く、三人が五重塔まで戻ってくると──。


「クロエちゃん、アレって十数メートルの大きさなのかな……?」


「いや、もっと大きいね。絶対」


 空を見上げるクロエたちの視点の先に居たものは、五重塔の屋根にある相輪の上に片足で立ち、六つある腕を組み遠方を見つめている巨大な何か。

 あまりにも高く、表情を見ることはできないが、下からでもおそらく顔があるであろう位置に、角らしき突起を確認することができた。


 五重塔の周りでは、怖いもの見たさに集まった人々が写真を撮っては騒ぎ立てている。


 ソレは人々が自身を囲んでいようが微動だにしない。

 クロエたちが何を企んでいるのかと眺めていると、顔の辺りから何かが漏れ出てくる。

 そしてそれは、クロエたちが反応する間もなく急激に広がると、一瞬にして羽黒山一帯を覆い、風に流されることなく残り続ける。


「何これ!? なんか出してきたよ! ──えっ?」


 まゆりが慌てて辺りを見回すと、先ほどまで暢気に写真撮影をしていた人々は、霧に当てられたのか体調を崩して蹲っていた。


「クロエちゃん、大丈夫!?」


 周囲の惨状を目の当たりにし、すぐにクロエを心配して顔を向ける。


「うん、この程度なら特に気にする必要はないよ。それより、これでアレが悪いヤツだって分かったね」


 クロエの身体にも影響は何もないようで、周囲を見回したかと思えば、腰のポーチから本を取り出し開く。


「ブック、入るよ」


「クロエちゃん、その本何?」


 まゆりがクロエの取り出した本について聞こうとしたその瞬間──、


「幻想生物、麤乱鬼(そらんき)を確認しました。直ちに討伐・拘束し、収容して下さい。なお、今回の収容目標麤乱鬼は災禍級Ⅶとなります」


「えっ! ほんとに何その本!? 今めちゃめちゃ喋ってたよね?! クロエちゃ──」


 場所は変わることなく、羽黒山一帯を覆っていた霧だけ消えた。

 恐らくブックの中に入ることはできたのだろう、これで心置きなく戦うことができる。ただ一つ、問題があるとすれば──、


「クロエちゃん、その本何? ねえ、その本喋ったよね? ……あれ? 待って狐さん居ない。狐さぁーん! 他の人も、居なぁーい!」


 先ほどからこうして目の前に居る麤乱鬼(そらんき)に目もくれず、まゆりが騒ぎ立てていることだろう。


「まゆり、説明はするからあとでもいい? 今はアレをどうにかしなくちゃいけないから」


「あ、それもそうだね。ごめんなさい」


 クロエに止められ、まゆりは大人しくなる。


「いいよ、じゃあ犬神のときみたいに──」


「クロエちゃんやばいよ!」


 クロエの言葉を遮り、まゆりが叫ぶと同時にふたりを謎の陰が覆う。


「どうかした? もしかしてアレが何か行動を起こした?」


 すぐさまクロエが振り返り、空を見上げると、麤乱鬼(そらんき)はふたりを踏み潰そうとした状態で空中に固まっている。


「かまびすしい虫どもを潰したと思ったが、何か見えぬものがあるようだ」


 麤乱鬼(そらんき)は一番上の手を顎に当ててクロエたちを見下ろす。

 その顔は顎が過剰にしゃくれ、髭で輪郭が囲われており、太い三角の角が額から二本生えている。


「あんな顔してたんだ……。下顎シイラじゃん」


「しっ、あんまり身体的特徴を小馬鹿にするもんじゃないよ。気にしてるかもしれないでしょ」


「それもそうだね、ごめんなさい」


 まゆりとクロエが麤乱鬼(そらんき)の顔を見てこそこそと話していると、麤乱鬼がふたりを見て再び口を開く。


「我が毒霧を消し去ったのは己らか?」


 麤乱鬼(そらんき)はクロエたちを見下ろしながら聞く。


「毒霧って、さっき口から出してたように見えたけど、ただ息が臭いだけなんじゃない? 体調悪くなるほど口が臭いって、もう少し気にした方が良いと思うけど……」


「しっ、今いろいろと対策してるところかもしれないでしょ」


「確かに、それもそうだね、ごめんなさい」


 先ほどから思ったことを口にするまゆりにクロエが注意していると、聞こえているのかいないのか、麤乱鬼(そらんき)は頭を指で掻いている。


「はてさて、先ほどは気が付かなかったが、一匹場違いが居るようだ。この見えぬ何かも己の仕業だな。

 これを解け、話をしようではないか」


 麤乱鬼(そらんき)はクロエたちを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべると、一番下のう手で自身の足の下にある見えない床をノックする。


「──解くわけがなかろう」


 クロエたちが麤乱鬼(そらんき)と対峙していると、突然背後からそう声がする。


「え、今度は誰?」


 まゆりが声の主を探そうと、キョロキョロと顔を動かしていると、ふたりの前に和傘を差した巫女装束の女性が現れる。


「よもや妾の神変通(しんぺんつう)を見破るとはな。その力量だけは褒めてやろう。

 しかしの、悪鬼の戯れ言に耳を貸すほど頭は腐っておらぬのよ」


 その女性は空いている手を麤乱鬼(そらんき)に向け、何かを掴む仕草を見せる。

 その瞬間、見えない床をノックしていた麤乱鬼(そらんき)の腕が根元から潰れ、ちぎれる。


「ほぉ~気持ちがよい。なぜだかは判らぬが、霧が消えたかと思えば最盛期とまでは言わぬが力が戻うての。じゃて……、お主勝てぬぞ」


 女性は自身の手を眺めて嬉しそうに微笑む。


「いや……」


「ん? どうかしたのか?」


 女性が声のした方に目を見やると、まゆりが麤乱鬼(そらんき)のちぎれた腕と、女性を何度も交互に見ながら口をパクパクとさせていた。


「言いたいことがあるのなら素直に言うがよい。感嘆の声をな」


 女性はまゆりに微笑みかけ、期待のまなざしを送る。そして──、


「いや、急に出てきたけど誰!?」

「天ちゃん、どこに行ってたの?」

「何もんだおんどりゃあ!?」


「ん゛な゛っ!?」


 一斉に投げかけられた言葉は、どれも期待したものとはほど遠いものであった。

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