第24話 そうだ、霊山へ行こう
夜も明け初め、ヤマノケを収容し終えたクロエたちは関山峠を後にしようと峠道を歩いていた。
「はぁ……、はぁぁ……」
「…………?」
無事ヤマノケを収容し、取り憑かれていたまゆりも何事もなく終えられたというのに、当のまゆりは肩を落として何度もため息を付いている。
「どうかした? ヤマノケに取り憑かれた影響が今になって出てきたとか?」
クロエはまゆりの身体を心配して聞く。
「いやだって、せっかくこうやってお出かけしたのに、私寝ちゃってたどころか取り憑かれちゃってたんでしょ? 活躍のかの字もないじゃん……」
まゆりは犬神のときのような収容をイメージしていたらしく、知らぬ間に事が終わってしまっていたこと、そしてなにより手間を掛けさせてしまったことを申し訳なく思っているらしい。
クロエはそんなまゆりを励まそうとするが、まゆりはより一層深く落ち込んでしまう。
「本当、役立たずでごめんなさい」
「別に気にしなくて良いんだけどなぁ……」
どうしたものかとクロエは頬を指で掻く。
そんなふたりの様子を、天ちゃんは自身が話すことができない状態で歯がゆく見守っていた。
「じゃあ、もう1カ所行こう、出羽三山ってところ。そこに何かいる、はず……」
「本当?」
「多分! だから行こう!」
「……承知致した! いざゆかん、出羽三山へ!」
なんとかまゆりは元気と拙い忍者言葉を取り戻し、一行は出羽三山へと向かうことになった──。
(此奴ら……、元気じゃのう)
──日も頂まで登ったころ、クロエたちは出羽三山へとたどり着いていた。
「関山峠で私、出羽三山って言ったけど、そういう名前の山があるという訳ではなくて、羽黒山、月山、湯殿山って言う3つの山の総称らしいよ」
「へえー、クロエちゃん物知りー」
「まあね、いろいろと調べたから」
クロエは褒められてドヤ顔を披露する。
「で、その3つのうちのどの山が目的なの?」
「特に決めてない。適当に歩いてれば何か居るでしょ」
「……それもそうだね」
(適当にもほどがあるじゃろう……)
ふたりの会話を聞いていた天ちゃんはすっかりと呆れ果てていた。
そうこうしてクロエたちは出羽三山ひとつ目の山、羽黒山へと上る。
道中、ふたりの後をキツネ姿で付けていた天ちゃんがすれ違う人々からやたらと注目を浴びたため、まゆりが抱えて歩くことになった。
そしてその後もクロエたちは羽黒山を歩き続けたが、ただ観光するだけで幻想生物を見つけることはできずに時間だけが過ぎていった。
「クロエちゃん、ここにも五重塔あるらしいよ! 京都以外にもあるんだね、見に行こうよ!」
まゆりは道端にある案内板を眺めながらクロエに話しかける。もうすっかり幻想生物を探しに来たことは忘れて楽しんでいるようだ。
クロエと天ちゃんも、そんなまゆりの様子を見て、幻想生物の居る気配も感じられないので良いかと思い気を緩める。
「良いけど、ここにも以前に他のを見たことないんだよね……」
クロエは承諾しつつ、まゆりに抱えられている天ちゃんに目を見やる。
(妾もよいぞ。ここに居るとなぜか少々気力が湧くのでの、気分がよい)
天ちゃんは心の中でそう答えるが、ふたりには通じないので承諾の意を込めて「ふん」と鼻息を付く。
「良い、のかな?」
クロエが判断に迷っていると、天ちゃんは再び鼻息を付く。
「……よく分からないけど、良さそうだね」
「やった! 早く早く! 五重塔だよ五重塔、塔が5個重なってるんだよ!」
まゆりは軽い足取りで先へ先へと歩いて行く。
「別に塔が5個重なってるからってわけじゃ無かったはずだけど……、楽しんでるなら別に良いか」
クロエも幻想生物探しに来たことを忘れ、上機嫌で歩くまゆりの背を眺めながらついて行く。
「──おお~、屋根5個。あれってどうやって造ったんだろうね? 1つ塔造ってその上から突き刺したのかな? それを5個重なるまで」
「それはそれで面白そうだから見てみたいね」
他愛もない会話をしながら五重塔を眺めていると、まゆりがふと思い出したようにズボンのポケットからスマホを取り出す。
「せっかくだし写真撮ろうよ。記念に」
「写真?」
「そうそう。ここからだと近くて入りきらないから、ちょっと離れた場所で撮ろう」
そう言ってまゆりは天ちゃんを抱えている手にスマホを持ち替え、空いた手でクロエの手を引いて五重塔から離れる。
「うーん、結構離れたけど全体が写らないな……。そうだ」
と、まゆりはしゃがみ、クロエを手招く。
「こうやって下から撮ればみんな入る……。うーん、ほとんど私たちの身体で隠れて微妙。まあいいや」
まゆりは呟くと、人差し指と中指を立て刀印を作る。
「ほら、クロエちゃんもポーズ」
「ぽーず?」
クロエはまゆりに言われ、取り敢えず知っている人差し指を前に向けたポーズを取り、まゆりはシャッターを押す。
「うん、五重塔はあんまり写ってないけどよく取れてるよ」
そう言いスマホの画面をクロエに見せる。
「へー、こんなふうになるんだ。画面越しに自分を指差しているみたいだね。
天ちゃんは目がどこか分かりにくいね」
(なんじゃと? そこにあるじゃろ、ほれそこに)
クロエは興味深そうに差し出された画面を眺めていた。
「それでクロエちゃん、大体見終えちゃったけどこの後どうするの? もう帰る?」
じっと画面を見つめているクロエにまゆりは聞く。
すると、クロエは顔を上げてまゆりの顔を見たかと思えば、そのまま顔を空に向ける。
「そうだね。天気も悪くなってきてるし、そろそろ帰ろうか」
そうして何事もなく羽黒山を見終え、三人は五重塔を離れ山を下っていく。
「──そういえば、ヤマノケ探しで役に立てなかったからここに連れてきて貰ったのに、結局何もなく終わっちゃった」
山を下りている最中、まゆりが羽黒山に来た目的を思い出す。
「でもまあ、楽しかったから良いか」
まゆりが再び気落ちしてしまわず、クロエは少し安堵する。
「幻想生物探しはまた今度行けば良いよ」
「だよね、今度は私もどこか良い場所ないか探しておくね」
こうしてクロエたちの夏休み幻想生物収容旅行は幕を終えた──。かに思えた。
麓に近付いてきて人が多くなったとはいえ、何やら先ほどから周囲が騒がしい。
おびえた様子でクロエたちを後ろから抜き去っていく者や、興奮した様子でクロエたちが歩いてきた方向へ向かって走って行く者たちが入り乱れている。
「何?」
「さあ、なにかイベントでもあるんじゃないかな?」
(…………。妙じゃな)
何事かと三人がその様子を眺めていると、行き交う人々の中で叫ぶ男の声が耳に入った。
「鬼だ、五重塔に超でかい六腕の鬼が出たってよ!」




