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ファンデイトブック  作者: 無色なそら


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第22話 関山峠

 クロエたちがヤマノケ探しに出発し数時間の時が流れた──。


 出発してから日付が変わり、時刻は既に午前12時を回っている。

 日は完全に沈み、先の見えない夜道を辺りを月明かりが僅かに照らすだけ。


 クロエたちは暗い夜道を歩き続け、旧関山街道の幽霊が出ると言われている電話ボックスの前まで来ていた。


「んむぅ~、クロぉエちゃん、目的のって……ふわぁ~あ」


 夜も深いこともあり、まゆりは言葉も拙く目を擦りかなり眠たそうにしている。


「そうそうここだよ。じゃあ早速あの子と話しに行こう(・・・・・・・・・・)か」


 クロエは笑顔でまゆりに話しかける。


「ふぇぇ? 誰も居ないけどぉ……?」


 まゆりは重い瞼を上げてクロエの示す先を見るが、そこにあるのは薄気味悪く内部が照らされている、闇夜に佇む電話ボックスのみ。

 そこには人どころか生物の気配すら感じられない。


「え、そうなの? 見えないのかぁ」


 クロエがどうしたものかと考えていると、クロエの足を白ギツネが引く。


「どうしたの?」


 白ギツネはクロエの目を見つめる。


「……? ……ん、何?」


 クロエは首を傾げ、そしてポーチに入っているブックへと目を見やる。


「…………うん、確かにそうかもね」


 そう口に出すと、クロエはまゆりを見る。


「まゆり、暫く寝てていいよ」


 そして、クロエはしゃがみ、


「私が話している間、天ちゃんはまゆりのこと見ててあげてね」


 と白ギツネに告げ、電話ボックスへと歩いて行く。


(そういう意味じゃのうて、なぜ日のあるうちにやらぬのか問いたかったのじゃが……。

 この体は不便でならんな)


 白ギツネ、もとい天ちゃんは鼻息を付き、クロエの指示通り今にも眠気で地面に倒れ込んでしまいそうなまゆりの元へ行く。


「──さて、君はいつまでここに居るつもりなのかな?」


 クロエは電話ボックスの横に立ち、端から見ればただ何もない空間に話しかけている変出者にしか見えないが、クロエの目にはしっかりとそこに居る(・・・・・)者が見えていた。


「……うん、うん。いや、それは別に変わらないと思うよ?」


 まあ見えているからと言って、他の者からすれば虚空に向かって話すクロエの姿は、結局変質者にしか見えないのだが……。

 しかし幸い、ここにはまゆり以外に生きた人間はいない。いくらでも話し放題だ。

 それからも、クロエはその場に居るであろう幽霊と話を続ける──。


「──だーかーらー、君たちみたいにずっと留まっているような子たちが居ると、こっちも困るの。

 アレ(・・)は多分こっちに来てないから、今のうちに行ってね。この先何があるか分からないし」


 クロエは「いい? 絶対だからね!」と言い残し、眠っているまゆりたちの元へと戻る。


 かなり長いこと話していたようで、現在時刻は午前2時を過ぎていた。

 午前2時といえば丑三つ時(うしみつどき)だろう。

 丑三つ時とは、草木も眠るとされている午前2時から2時半の間のことを言い、死者の魂が最も活発に動き、幽霊や“悪霊”と出会いやすくなるという最も不吉な時刻。


「おーい、終わったから起きてよー。ヤマノケも探さなくちゃいけないし、流石に担いでいくのは疲れるよ」


「んん~、おばあちゃん、もう少しだけ……」


「おばあちゃんじゃないよ、可愛い可愛いクロエちゃんだよ」


 流石に睡眠時間が無さ過ぎることもあり、まゆりは寝ぼけてまともに頭が働いていないらしい。

 クロエはどうしたものかと考えていると、まゆりの懐で枕代わりにされている白い塊が目に付く。


「天ちゃん、まゆりのこと見ててねって言ったのに、一緒になって寝てないでよ。もし私が話している間にヤマノケが来てたらどうするつもりだったのさ」


(ヤマノケが何かは知らぬが、このような姿だろうと妾が守護る者に危害を加えさせるわけがなかろう)


 心の中でぼやくが、伝わりようがないので「フンッ」と鼻息を付く天ちゃんであった。


「そいえばさ、天ちゃんはいつまでその姿でいるの? 私はてっきり、人の少ない場所に着いたら戻るのかと思ってたんだけど……」


 漸くと言って良いほどかなり遅くはなったが、クロエが天ちゃんの姿について問う。

 しかし、天ちゃんは一向に答える素振りを見せず、姿すら変える様子は見られない。


「……答えられないなら仕方ないか。また今度話したくなったら話してね」


 クロエは微笑みかけ、屈伸をするように立ち上がる。


「あ、何で一人称が妾だったり、変に回りくどい話し方してるのか聞こうと思ってたの忘れてた。まあ、それもまた今度教えて貰えば良いか」


 そうクロエが呟くと、天ちゃんは怒ったのか、まゆりの懐から飛び出しクロエの足を後ろ足で砂かけするようにケリケリする。


(クロエよ、それは一体どういうことじゃ!? 町では妾のような存在は、このように話しているのを見たぞ! (ちご)うておるのか?!)


「な、何? もしかして怒ってる? ごめん……」


 実際に天ちゃんが怒っているのかクロエには分からないが、気分を害していては悪いのでクロエはとりあえず謝る。


(おっとすまんのう。この姿では伝えられんのじゃった)


 そして、謝罪の言葉を聞いた天ちゃんは、再び鼻息を付きしょげた様子でまゆりの元へと戻っていく。


「さてと、この後はどうしようか。ヤマノケ探しと行きたいところだけど、まゆりはこの通り寝てるし、連れて行くのは大変。だからといって、置いていくわけにもいかないしなぁ……」


 クロエが「うーん」と唸って思考していると、何者かの声がクロエの耳に届く。


「──テ、──ウ」


「ん? 天ちゃん、何か言った?」


 クロエは首を傾げて天ちゃんを見るが、天ちゃんも同じように首を傾げている。


「──テ、──ウ、──ツ」


 肝試しにでも来た若者だろうか? 声はクロエたちに近付いてきているように聞こえる。

 クロエはよく目を凝らして声のする先を見ようとするが、丁度今は雲が月を覆い隠し、月明かりを遮っているため見ることができない。


「──ン、──ウ、──メツ」


 確実に声はクロエたちの元目掛けて、徐々に近付いてきている。それも、今既に、かなり近くまで迫っているだろう。

 クロエは更に目を凝らしてみると、漸く闇夜に潜む声の主らしき黒い影を確認することができた。


「誰あれ、ヤマノケ? いやでも、予想ではもう少し離れた場所に居ると思ってるんだけど……?」


 クロエが謎の黒い影を見つめていると、何かが空路絵の足を引く。


「ん?」


 クロエが足下を見ると、そこには天ちゃんが懐中電灯を咥えてクロエを見上げていた。


「それまゆりの?」


(そうじゃ。ほれ、明かりがなくては見えんじゃろ、これを使うがよい。今の妾は焔を出してやれぬでの)


 天ちゃんは心の中でそう答え、クロエにまゆりの懐中電灯を差し出す。


「ありがとう」


 そう微笑みかけ、クロエは懐中電灯を受け取る。が──、


「で、これどうやって付けるの? このボタンみたいなの押せないし……」


 どうやらスライドスイッチ式の懐中電灯だったらしく、押しボタン式の懐中電灯の使い方を調べただけのクロエには、使い方が分からなかった。


「──テン、──ソウ、──メツ」


 手こずっているその間にも、声は更に近付いてくる。もう数メートルとないだろう。


「んむむむ、どうするのこれ? ……ん? すらいど? このボタンずらすの?」


 クロエは呟くと、懐中電灯のボタンをスライドさせる。


「あ、うわ──っ!」


 明かりが付きはしたが、ライト部分を覗きながらボタンをスライドさせたため、光がもろにクロエの目を照らす。


(全く、何をしておる。早うアレを照さんかい)


 クロエの様子を見て、天ちゃんは呆れていた。


 数瞬の間を置き、クロエは瞼を開く。

 その開かれた瞼の下には、鮮やかな青い双眸。


(はて、お主そのような瞳じゃったか?)


 天ちゃんがクロエの目を不思議がっている間に、クロエはすぐに声のする先をライトで照らした。

 そこに居たのは、ニタニタとした貼り付けたような気味の悪い笑顔を浮かべながら、クロエたちを見つめている──。


「テン、ソウ、メツ──」

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