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第16話 雨の日

 クロエたちは神社をあとにして、住宅街を走り回っていた。


「──妾は少々暇をしていた故、子供らをたぶらかしてやろうと思い近付いてみれば、何やら都市伝説……? とか言うものを語り合って騒いでおったのじゃ。

 確か、“ひきこさん”とか言う名じゃったかのう。面白そうだと探し回っておったらつい先日、ようやく見つけての」


 天ちゃんはクロエの手を引きながら楽しそうにして話す。


「それを今から収容しようってことだよね。さっきからずっと走り回ってるけど、どこら辺に居たの?」


「もうすぐじゃ、もうすぐ。それと、勘違いしておるようじゃから、1つだけ言うておく。

 妾は其奴を収容? するのではなく、其奴と“遊ぶだけ”じゃ。収容とやらをしたければ遊んだ後好きにするがよい」


 天ちゃんの楽しげな表情とは裏腹に、夜の町はどこか寂しげで、昼間とは違い不気味な雰囲気を漂わせていた。


 そしてクロエの頬には、一滴の雨粒。





 ──雨の日の夜、ボロボロの灰色の服を着た女が、人形のようなものを引きずって前方から歩いてくる。

 人のことあまり見すぎるのは良くないが、明らかに異質な存在に、少しの好奇心からふと目を凝らして顔を覗いてしまった。

 しかし、自分のしてしまったことが間違いだと気付いた。だが今更後悔したところでもう遅い。


 口は耳元まで裂ける程口角が上がっており、吊り上がった目はこちらを見ていた。

 目が合ってしまった。恐ろしくて足が竦んでいると、女は少しずつペースを上げて1歩、また1歩と着実に近付いてくる。


 夜の町でもはっきりと姿が見える程迫ってきた時、遠目で見た際には判らなかったが、女が街灯に照らされてやっと理解することができた。

 女が引きずっていた人形は、人形だと思っていたものは、既に息絶えた小学生程の子供だった──。





「──おかしいのう。先日見つけた時は、ここらにおったんじゃが……」


 クロエはあと少しで見つけた場所に着くというので、犬神戦の疲れを我慢し付き合っているが、いくら探し回ってもひきこさんが見つかる気配はない。


「天ちゃん、雨降ってきたし今日は辞めて、また今度にしない? そもそも私、痛みが引いたとはいえまだ疲れてるんだけど」


「まだ駄目じゃ! せっかくよい遊び相手を見つけたと思ったのに……なぜじゃ! 何故見つからぬのじゃ!」


 帰る素振りを見せ、それに対し天ちゃんが拗ねて騒いでいると、奥に人影が見える。


「ここら辺で見つけたなら、他に誰か見かけてるかもしれない。丁度奥に誰か居るみたいだからその人に聞いてみよう」


 クロエは夜の町に見えた人影に近付いていくと、そこには真っ白の服を着た女性が子どもと一緒に雨宿りしていた。


「ごめんね、ちょっと良いかな? 最近ここらで噂されてる都市伝説があるみたいなんだけど、ひきこさんって知ってる? この子が見たって言うから探しに来たんだけど……」


 女性は話し掛けても顔を上げず、俯いたまま髪の隙間から少しだけ目を覗かせて口を開き


「さあ、私は噂しか知りません。勿論あなたが知っているであろうことくらいしか。

 でも……この子はそういう話が好きなので知っているかもしれません」


 と女性は子供に顔を向ける。


「そうじゃ、妾も奴がここらにいることは分かっておる。しかし今日はどこにも見当たらんのじゃ……。

 して、その子供も分かっておるのだろう? ならばお主は知っておらぬか?」


 天ちゃんが子供の前にしゃがんで目線を合わせて話そうとすると、子供は手を握ったまま女性の後ろに隠れてしまった。


「おお、そうかそうか。話せぬのならば仕方がないか……のうクロエ、ここは手分けして探すとでもするか?」


「手分けって……分かったよ。じゃあ私はこの辺りにはいないと思うから、もうちょっと遠くの方を探してこようかな」


「駄目じゃ、お主そのまま帰る気であろう? ちゃんとこの辺りのみを捜索するぞ」


 天ちゃんはクロエの考えはお見通しだと言わんばかりに答えると、髪留めに付いていた鈴を1つ取って渡す。


「お主が見つけたらそれを3回鳴らせ。妾が見つけたら震わせる。ひとりだけで遊んでもつまらぬからのう、お互いが到着するまで我慢するのじゃぞ?」


 そう言って天ちゃんは夜の町中を軽い足取りで駆けていく。


「クロエ、どうするんだ? 付き合ってやるのか?」


 ブックが聞く。


「うん、ちょっとだけね。それにどうせ、いつかは収容しに来ることになるだろうからね」


 クロエは渡された鈴を眺めながら答える。


「それじゃあふたりとも、ありがとね。雨まだ止みそうにないから、家が近いなら思い切って帰っちゃったほうが良いと思うよ」



 親子に感謝を伝えると、天ちゃんが走っていった方とは逆の方向に歩みを進めていく。





「──ひきこさん……ねえ? あっくんは、そういうのよく知ってるの?」


 女性は聞くが、あっくんと呼ばれた子供は女性にしがみつくようにくっついたまま話す気配はない。


「…………そう、こういう雨の日に現れるのね。怖いね。さっきの人たちはちょっと変わってたけど、良い人たちだったからよかったね。

 さ、まだ雨やまないみたいだから、もう頑張ってお家に帰ろうか」


 そう言って女性は、子供の手を引いて歩き始める。


「雨、冷たくて嫌だね? こんなことになるなら傘でも持ってこれば良かったな……ね? あっくん」


 女性と子供は、雨の夜の道へと消えていった。

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