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第15話 天ちゃんのお風呂

「──うぅ……まだ体痛い。やっぱりこっちに来てから上手く力使えないし、傷の治りも遅い。ライぃ、レトぉ……やっぱり一緒に来てもらえばよかった」


 着いた頃には辺りも暗くなってきており、すれ違う人々は仕事帰りのサラリーマンが大半を占めていた。

と言ってもたまに2、3人すれ違う程度で実際の人通りは無いに等しかった。


 まゆりは翌日学校ということもあり颯爽と帰っていき、クロエは犬神戦での傷が癒えないでいた。


「なんだクロエ、やけに疲れてるみたいだな」


「あ! やっと起きたね。大変だったんだよ? 姑獲鳥を収容しようとしたら犬神が出てきて、ブックの中に入って戦おうとしても返事してくれないんだもん」


 クロエは頬を膨らませて文句を垂れる。


「まあ、オレも暇じゃないからな。収容したあとも逃げられないようにちゃんと管理しなくちゃならないんだよ。で、確認してる間にお前が危ないことに気づいて、少しの時間だがオレの中に入れたんだ」


「はいはい、そういうことにしておくよ。だけどこれからは、幻想生物と戦うときはこっちを気にしといてね? 無茶するなって言ったのはそっちなんだから……あーあ、体中痛いなー」


 その後もブックに小言を言い続けていると、突然背後から気配を感じる。

 それは先程からずっとあったものではなく、誰も居なかったはずなのに突如として現れたものだった。

 一瞬にして現れた気配に警戒していると、クロエの首元に何かが絡み付いてくる。


「ふたりきりでお出掛けとは、ズルいではないか。何故妾も誘うてくれんかったのじゃ?」


 クロエが感じた気配は天ちゃんのもので、天ちゃんの腕がクロエの首に絡みつくように回され、おぶられているような体勢になっている。


「別に遊びに行ってた訳じゃないんだよ? そもそも誘おうにもどこに居るか分からないんだから、誘いようがないでしょ?」


「そんなこと知っておる。しかし、仲間外れにされたことは事実であろ? 妾は悲しい思いをした。じゃから、今から妾とも遊びに行くのじゃ」


 そう言ってクロエの首に回していた腕を解くと、手を引っ張っる。


「えっ、何なの? 私帰ってきたばかりで疲れてるし、まだ体中痛いんだけど……」


 天ちゃんはクロエの言うことに聞く耳を持たず、鼻歌を歌いながら走り出す。

と、しばらくして廃れた神社にたどり着く。


「神社? かなり古い、と言うかもう随分と長いこと管理されてないみたいだけど、ここがどうかしたの? もしかしてここに幻想生物が潜んでたりするの?」


 クロエは連れてこられた神社を眺めながらきく。


「……さてクロエ。早速じゃが服を脱げ」


 全く持って予期していなかった言葉に、クロエは頭にいくつものハテナを浮かばせて困惑する。


「この神社の裏にはな、源泉が湧いているのじゃ。妾はその湯が好きでの、もうここ数百年何度も浸かっておったら妾の霊力が染み出したようで、浸かった者の傷の治りを早める効果がある。

 お主、怪我をしおるのじゃろう? そんな状態で遊ぶよりも、万全を期して妾も遊びたい」


 そう言って天ちゃんは神社の裏手に回り源泉の前に立つと、服を脱ぎ足で水面を突くようにして、少しずつ源泉の中に浸かっていく。


「んん〜〜っ……どうした? お主は入らなくてよいのか? こうして肩まで浸かると気持ちよいぞ」


「ありがとう……でも、私あんまり誰かに肌を見せるの好きじゃないんだよね。他に誰か居たら困るし」


 誘ってもモジモジして全く入ろうとしないクロエに、天ちゃんはしびれを切らして立ち上がり、無理やり脱がせ始める。


「ここには妾とお主のふたりしかおらぬし、ここに来るようなやつもおらぬ。

 言うなればここは妾専用の源泉じゃ。それに肌に傷でも負っておっても、妾はそのような些細なこと気にせぬ」


「えっ!? ちょっと待ってってば! あ、痛い痛い、怪我したばっかりなんだから!」


 かなり強引だったが脱がせることに成功すると、クロエの色白の肌が露わになる。


「なんじゃ、綺麗な体をしているではないか。ならばそう恥ずかしがらずともよいじゃろうに……さて、もう脱いだのじゃ、お主も浸かれ」


 天ちゃんはクロエを逃さないように力強く腕を引き、源泉の中に入っていき、クロエは観念して少しずつ体を慣らして肩まで浸かる。


 熱すぎず温すぎずちょうどいい湯加減。骨身にしみるその源泉は、まさに至高。


「どうじゃ、気持ちいいじゃろう? 痛みも引いていくじゃろ?」


「うん、さっきまでの体の痛みが嘘だったみたい。凄いね、ここ」


「っ〜〜! うんうん、そうじゃろうそうじゃろう?! なにせ妾の力の籠もったこの世にまたとない一湯じゃからな!」


 天ちゃんは嬉しそうに足をバタつかせ、意気揚々と話す。と、突然天ちゃんは足を止める。

 そして、数瞬前まで楽しそうにしていた天ちゃんの雰囲気がガラリと変わり、クロエを見つめるその眼差しは、これまでの様子が嘘だったかのように真剣なものとなる。


「クロエよ、そろそろ本題に入ろうではないか。お主、此処らの人間ではないことは分かっておる。一体何者じゃ? 海を渡ってきたのか? なに、お主に敵意がないことは分かっておるし、妾もお主を取って食おうなどとは考えておらぬ。正直に話せ」


「……そうだよ、私はこの辺りの者じゃない。いつもみたいに仕事をしてたらちょっと眠たくなっちゃって、起きたらこっちに居たって感じなんだよね。

 帰ろうと思ってたけど、帰り方が分からない。だからせっかくだし、幻想生物の収容でもしながら帰る方法を探そうかなって……それで、私が元々居た場所は──」


 クロエはまっすぐと天ちゃんの瞳を見つめると、ニッコリと笑みを浮かべる。


「まだ内緒。いつかその時が来たら教えてあげるね」


「そうか、ならばその時にまた改めて聞くとしよう」


 天ちゃんは波を立てて立ち上がる。


「さて、辛気臭い話はここまでじゃ。お主も傷が癒えたじゃろ? 早速遊びに行くぞ!」


「遊ぶって、ここに来てお話したいってことじゃなかったの?! せめて何をするのか教えて欲しいんだけど……痛み引いたのにまた体痛めるのは嫌だよ?」


 そう言ってクロエを源泉から引きずり出し服を着ると、また腕を引っ張って走り始める。


「いいから妾について来い。最近子供らが噂をしているものを遂に見つけたのじゃ!

 安心せい、どうせ妾らならば痛い目を見るような相手ではないじゃろうからな!」

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