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第13話 名も無き村の母の念い

 ──天狐の天ちゃんと別れ、学校を離れたクロエは、その後も再び数日間に渡り胡舞まゆりを収容者にするべく休日まで付き纏っていた。


「いつになったら諦めてくれるんですか?! 毎度毎度幻想生物を収容するのを手伝ってくれって……私も暇じゃないんです。手伝うことはできませんのでそろそろ私に絡むのは辞めてください」


 まゆりは毎日後を付けては同じことを繰り返すクロエに、逃げることを辞め面と向かって話をすることに決める。


 その反応にクロエは少し考え込む。


「うーん、それじゃあこうしよう。私も素直に諦められるような性格してないから、一度だけ収容するのを手伝って欲しい。それでも自分はやる気はないと思うようであればもう追いかけたりしないし、誘いもしない」


「なん……はぁ、分かりました。一度だけなら手伝いますけど、手伝ったらほんとに付き纏わなくしてくれるんですよね? 勿論、変な誘いもしなくなるんですよね?」


「大丈夫、それは絶対に約束する。君が休みのうちに早速行こうか、すぐに準備してきてね。ちょっと遠くに行くから、こうきょぉーこうつぅーきかんってのを利用するからね」





 ──翌日、まゆりが荷物を持ちクロエと合流すると、目的地へと向かうために電車に乗車する。


「何その荷物、多すぎない? そんなに持ってくる必要あった?」


「遠くに行くんですよね? だからキャリーケースに2日分の着替えと、お菓子とトランプと修行道具と……って、そんなことより今からどこに行くんですか? あと幻想生物を収容って、一体何をする気なんですか?」


 まゆりは目的地を聞かずについてきたことを思い出し、慣れない遠出ということもあり落ち着かない様子でクロエに尋ねる。


「海沿いの村に行こうと思ってて、だいたい絞れてはいるんだけど何が居るかは正直確定してない。

 けど、その辺りでよく子供の服や体に妙なシミができると、数日後にその子は骨と皮だけになったやせ細った体で変死するっていうことが多発してる。

 それで、村を選んだ理由としては、その村だけシミができた子供が報告されてなくて逆に怪しいなと思ったからかな」


「確実にいる確証はないのに行くんですか? 今どきならSNSとかに映像とかが出回ってるので、撮影された場所に行った方が良いんじゃないでんすか?」


「そうかもしれないけど、うちの子が“あんな本当かどうかも判らない私利私欲に満ち溢れたものの巣窟、クロエ様はご覧にならなくてよろしいです”って言われたから、あんまり見てないんだよね。まあ確かに無駄足を踏むよりは多少時間が掛かっても自分で聞き回ったほうが良いかなって」


「は、はぁ……」


 納得しつつも普段は様呼びで呼ばれていることをさりげない会話の中で知り、もしかしたらお偉いお嬢様なのではないかと内心焦るまゆりであった。





「──ここがその村ですか? 随分とボロボロの家ばっかりですし、家は何件かあるのに人は全然見当たりませんけど……」


 クロエたちは電車から降りると、町外れにある小さな村へとやって来ていた。そこは、人の住んでいる痕跡はあるが、村人らしき者は見当たらない。


「海沿いの村だし、漁にでも出てるんじゃない? それに、ひとりも居ないってわけではなさそうだよ。

 ほらあそこに誰か居るから、あの人に話を聞いてみよう」


 そう言ってクロエは村の中心に佇むひとりの女性を指差す。


 その女性はお世辞にも綺麗とは言い難い乱雑に伸ばされた髪と、汚れまみれの布を体に巻いて、目の前にある井戸の中を覗いていた。


「ちょっといいかな? 最近この村の周辺で子供が変死してるって噂を聞いてきたんだけど、何か知らない?」


 女性は話し掛けられても微動だにせず、井戸の中を覗き続けている。


「あんまり聞こえてなかったんじゃないですか?」


 まゆりに言われクロエが女性に近付き再び一度しかけようとすると、女性は何かをブツブツと呟いていた。


 その声に耳を傾けるために女性の顔を覗き込むと……


「わた……私の赤ちゃん……を……返して……わた、しの赤ちゃん……」


 眼球が飛び出てしまいそうな程目を見開き、少しの口の動きで何度も繰り返しその言葉を発していた。


「子供がこの井戸に落ちたの? 助け出してあげようか?」


 クロエの問に女性は顔を上げて凝視すると、おぼつかない声で


「お……お願い……しま……ます……」


 と答えるが、目は見開いたまま表情に変化はない。


「助け出すって、この井戸相当深そうですよ? どうやって助け出すんですか? えっと……」


「どうしたの? ……あ、もしかして名前? そういえば言ってなかったね。私は今善クロエ。

 クロエって……はっ! 気軽にクロエちゃんって呼んでくれても構わないよ!」


「私は胡舞まゆり……です。呼び方は好きに呼んでもらって構いません。それでクロエ……ちゃん、はどうやって助け出すつもりなんですか?」


 まゆりが聞いていると、クロエは井戸に掛かっている縄を掴んで自分の腰に巻き始める。


「私が中に入って子供を掴むから、まゆりは合図したら引き上げてもらってもいい? それとこれ、落ちちゃうといけないから持っといて。大事な物だから無くさないでね? よろしくね」


 首に掛けていたネックレスを外しまゆりに手渡すと、クロエは井戸に飛び込んでいく。


「うん……って、えっ!? ちょっと待って早い、飛び込むの早いって!」


 渡されたネックレスを直ぐ様ポケットに仕舞うと、たちまちクロエの後を追って井戸の中に飲み込まれていく縄を慌てて掴む。


「いつもこんな感じなのかな……危なっかしくて見てられないよ」


 縄を掴み合図を待つまゆりは、クロエの合図を待っている間後ろから女性に見つめられ続ける。


「こんな事言うのも失礼だけど、気不味い……怖い……早くして……」


 張り伸ばされた縄を少しずつ降ろしていると、中からクロエの声が届く。


「──まゆり、引き上げて! 今すぐに!」


 合図を聞いたまゆりは、手に力を込め少しずつ縄を引き上げていく。


「そんなに急かさなくたって良いと思うんだけど……、無理に引き上げたらこんな縄すぐに千切れちゃうよ」


 縄を引き上げ続けていると、じきにクロエの姿が井戸の中から出てくる。しかし、引き上げられたその手には、何も持たれていなかった。


 クロエは引き上げられた後、すぐさま女性に向かい歩き出す。


「お前一体、何が中に落ちたって? アレが子供? あんなものただの“動物の部位を繋ぎ合わせて作った肉人形”だろ。どうやって作った?

 たしかに子どもの部位もあったが、部位ごとに大きさが合わない……。さてはお前、殺したな?」


 眉間にシワを寄せ、怒りを露わにして女性を問い質す。


「あか……あ、かちゃ……私の赤ちゃん……殺、した? 私が……? 違う……違う違う違う違う!」


 女性は狂ったかのように叫び始め、肌を掻きむしり皮膚がボロボロと剥がれ落ちていき、見る見るうちに体が痩せこけていく。

 そして、背中が異様に盛り上がり始めたと思えば、何かが突き破り出てくる。


 酷く薄汚く、体を覆い隠せる程の大きな翼が羽を撒き散らしながら広がる。


 女性はクロエたちを睨み付けると背中の大きな翼を羽ばたかせ、荒い羽音とともに村の外へと飛び去っていく。


「ク、クロエちゃん! あの人なんなの!? 凄い怒り始めて急に羽が生えてきて、かと思ったら飛んでちゃって? それに、さっきあの人に言ってた肉人形っていうのは……」


 マユリの問いに、女性の姿を目で追いながらクロエは口を開く。


「あの子供への執着のしよう、そしてあの姿。アイツは恐らく“姑獲鳥うぶめ”っていうヤツだよ。この村の周辺一帯で起こっている変死は、アイツの仕業で間違いない、やり方の特徴も読んだものと一致してるからね。

 私がさっき言ってたことについては……気にしなくていい。とにかく、追いかけるよ」


 クロエは飛び去る姑獲鳥の後を付けて走り出す。


「今からあの人と戦うの? やだなあ、なんか怖かったし……でもやるって言っちゃったから行くしかないかなぁ」


 まゆりはそう言うと、クロエのあとを少し遅れて追いかけ始める。





 ──姑獲鳥は荒々しい波風が打ち付ける断崖絶壁の崖に降り立つと、そこに建てられた1つの石碑の前に座り込む。


「──やっと追いついた。流石に観念して降りてきたのかな? それなら今すぐ収容させてもらおうかな」


 クロエはブックを取り出しながら姑獲鳥へと近づいていく。


「そんなふうに近づいて行っちゃ危ないよ……あ、危ない、ですよ? それと収容って、一体どうする気なんですか?」


 不用意に近づいていくクロエをまゆりが止めようと足を踏み出した時──。


「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙! お前のせいでお前のせいで、お前たちのせいで! あと少しで私の赤ちゃんを取り返せたのにお前が、お前たちが邪魔をした! 許さない許さない許さない許さない許さない許さない!…………死ね、死んじゃえ!」


 村で発せられたときとは違う、耳が痛くなるほど甲高く、また憎悪に満ち溢れた叫び声を上げ、姑獲鳥は目の前にある石碑を破壊した。


 辺りに立ち込めていた空気が重くなり、元々曇天だった空に淀んだ雲が流れ始め、姑獲鳥はその場にうずくまって泣き叫び始める。


 そして突如、姑獲鳥の背後から、薄らと大きな獣が姿を現す。

 その獣は石碑を破壊した姑獲鳥ではなく、クロエたちに憎悪を向けて威嚇する。


「クロエちゃん、あ、あれ何なの!? なんかすごいこっちに敵意むき出しって感じだけど」


「ブック、この場の全員まとめて入るよ!」


 クロエが呼び掛けてもブックは一切微動だにせず、一言も発しない。


「……ブック? 寝てるの? なら仕方ない、このままやるしかなさそうだね。

 まゆり、アイツは恐らく犬神で、過去に人間たちに呪術に使われるために首を跳ね飛ばされた犬たちの憎悪の塊。姑獲鳥は一度放っておいて、先にコイツを片付けるよ!」

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