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第11話 不審

 私の名前は胡舞まゆり。忍者に憧れ……じゃなかった、ちょっと前高校に入学したばかりの現代に生きるピッチピチな女子高校生忍者。


 忍者としてより高みを目指すために修行してたら、出席日数が危なくなってきて絶賛急いで登校中。


 でも最近、ちょっとした悩みがあるんです。それは──、


「君、ちょっとでいいから話聞いてよ。時間は取らせないからいいでしょ? ちょっと待ってってばー」


 ここ数日変な人に追いかけ回されていることです。


「ねえ、この可愛いお姉さんと幻想生物を収容する旅に出ないかい? きっと忘れられないお思い出になるよ」


「もう何なんですか! 私はこれ以上休んだら出席日数が危ういんです! 幻想生物って最近ネットとかニュースでよく流れてくるやつですよね? そんなのを捕まえてどうするつもりなんですか、売りさばいてお金にでもするんですか? そもそもなんで私にばかり付き纏うんですか?!」


 追いかけてくるたびに幻想生物がどうのこうの言って、極めつけは何もないところを見て独り言……本当に何なのだろうこの人は。


「いやだって、“これを読めば相手はあなたのと・り・こ♡ 必見! 草薙誠人の罪男子製造本”ってやつにそう書いてあったんだもん……。

 んで、なんだっけ? えっと君に付き纏う理由はね、君の能力を見込んでのことだよ」


「私の能力? 確かに人よりは身体能力は優れている自信はありますけど……だからって留年する可能性を抱えてまであなたに付き合う気はありません。どうかお引き取りください」


「そこを何とかさ。ほら、このままこうしてても君と私の幻想生物収容はねむぅ〜んは捕まえられないゾ♡」


 この人ほんとに怖い……というか、ものすごく気味が悪い……、早く学校まで行こう。

 そしたら、また警備員のおじさんがこの人止めてくれるだろうから……。


 私は全速力で学校に向かって走り出す。


「あ、ちょっと逃げないでよ〜。私たち、今はこんなだけどいつかはイイ関係になれると思うんだよネ♡」


 怖い怖い、カバンを持ってるとはいえ全速力で走ってるんだよ!? 

 私はいっつも朝早くに起きて山一往復全力で走ってるのになんで付いてこれるの? ちょっと心折れそうだから辞めて欲しいんだけど。


 やっと学校が見えてきた! 良かった、ちゃんと警備員のおじさん居るみたいだ。



「おお、まゆりちゃん今日も元気だね。おは──」


 私は猛ダッシュで警備員のおじさんの横を駆けて正門をくぐる。


「おはようございます! あとはお願いします!」


「……ふっ、おじちゃんに任せとき!」


 警備員のおじさんは透かさず私と女の人の間に入り込む。


「うげ、待たいるよこの人。……うん、撤退!」


 おじさんを見つけた女の人は、180度転回して足早に去って行った。

 一体いつになったら諦めてくれるのだろうか……。


「まゆりちゃん、おはよう。また朝から変な人に追いかけられたの?」


 脅威が去って校庭を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声に呼び掛けられ、私は振り向く。


 この小柄なのに立派な物をお持ちの子は、私のお友達の漓紅葵ちゃん。

 入学式の日にゴツい顔した先輩に迫られてるところを助けて、その時色々話をしてたら私がつい忍者が好きで毎日修行してるって口を滑らせてしまった時に、この子は凄くかっこいいって言ってくれた。

 そんな人は中学生までお父さんとお母さん、あとは私が引きこもってた時に、優しく見守っててくれたおばあちゃんの3人だけ。


 だから初めてお友達ができて、とっても嬉しかったんだ。

 今ではこの高校のみんなが優しくしてくれて、私、ほんとにこの学校に来て良かったて思ってる。


「うん、追いかけてくる時はいつも決まって幻想生物を収容するのを手伝ってくれないか〜って言ってくるんだよね。今日もそう……いや、今日は今までで一番酷かったかも」


 今あの光景を思い出しただけでもゾッとする。そろそろ登校ルートを変えようかな……?


「幻想生物……? って、まゆりちゃん! ホームルーム始まっちゃうよ。急ごう」


「そうだった! 早くしないとまた生徒指導部の奴らにネチネチ言われちゃう」


 私の大切な居場所を失わない為にも、変な人とは関わらないよう気をつけないと。

 でも今はそんなことより、出席日数が大ピンチ! 毎朝修行してたら夢中になって、気が付いたら夕方に……ってことがよくあったから、最近は山を一往復するだけに留めてるんだよね。





「──はい、では午前の授業はここまで。皆さんしっかりとお弁当食べて、午後の授業に備えてくださいね? 特に胡舞さん、お腹いっぱいになって窓側で陽も当たるからって、居眠りしないでちゃんと“起きて”授業を受けるように。学校に来れば良しというものじゃありませんよ?」


 そう言い残して教師は教室から出ていった。

 これで午前の授業は終わりだ。


「もぉ~、わざわざ言わなくても分かってるって。毎度のことながら1人で複数の教科こなしやがってぇ……このオールインワン熟女め。

 お前の欠点は何だ! 性格がキツくてモテないことかっ?!」


「ま、まゆりちゃん、またそんなこと言って……バレたらまた反省文書かされるよ? それにまだ先生36だから熟女って呼ぶにはまだギリギリ早いと思うよ。

 それと、はいお弁当。どうせ今日も持ってきてないんでしょ?」


 目の前に置かれる1つのお弁当箱。私に差し出された方を開くとそこには──、


「うはぁ今日も美味しそう。花紅の看板娘の手作り特製弁当がこうして毎日食べられるなんて……あたしゃあ幸せ者だよ。それなんかもうこの香りが私の嗅覚を伝い脳内に満開の花畑を咲かせ、あんの忌まわしきエターナルバチェロレッテの言葉が霞み、私を午後の眠りへと誘うほどに……」


「えっと……学校のあるときだけだから、毎日は無理……だよ? ごめんね」


 不覚。私としたことが忘れていた。確かにお弁当は学校がなければ作る必要がなく、食べることができない……かくなる上は──。


 私は葵の手を両手で掴み抱き寄せる。


「結婚しよう。もう、そうするしか私が毎日葵の手作り料理を食べられる方法はない! 駄目、かな?」


「えっ!? あ、あの……その……」


 モジモジしてるの可愛えぇなぁ……でも我慢、ここで強引に攻め過ぎたら逆に引かれてしまう。ここは少し様子を見るか……うん、可愛い!


「ご、ごめんなさい!」


「えっ?」


「あ、えっと……女の子同士でこういうのはちょっと……それに、まだ私たち未成年だし……」


 運命とはなぜ昔からこうも私に牙を向くのだろう。人生一大の大金星、確保ならず……か。我が生涯に二片目の悔い生まれたり。


「……あぁ、お弁当美味しい……」


 お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 いつの間にそんなにも時間経ったのだろうか? いや待て、チャイムがなったということは、あいつがまた再臨するのか……。憂鬱だ。


 黒板横のドアが音を立てて開かれる。そして奴が姿を現した。


「はい、それでは午後の授業を始めますよ。皆さん席についてください。ほらまゆりさん、そう嫌な顔しない」


「なんで体育以外は全部担当なんだよ」


 また座ってるだけの退屈な授業が始まった。

 よく発言してる子が居るお陰で私にヘイトが向かなくて助かるよ。その調子で頑張っててほしいよ。

 私はいつも通り外の景色でも眺めておくよ。あ、あの雲手裏剣みたい。あとは……特になし。

 どうしたものか、たまには気分転換に町行く人でも数えて……。


「うげっ!」


「まゆりさん、また寝てたでしょう? 寝ぼけてないできちんと授業を聞きなさい」


「は、はい……」


 何であの変な人正門の前に立ってるの? まさか、登下校の通りは正門だけだから待ち伏せ? こんな昼間から待ち伏せって暇なの? 仕事とか学校ないの?

 うわやべ、目合っちゃったよ。あーあ、手振ってきてるよ。さよなら、私の健全で楽しい高校生ライフ……短い。あまりにも短過ぎるよ。


「はぁ~、もう寝よっかな……ってあれ、葵ちゃん? 皆も何で伏せてるの? 先生も教卓に突っ伏しちゃって……。もしかして皆寝てたり……寝て……なんか、私まで眠たくなってきた……皆寝てるし、別にいっか……」


「あやつに接触しようと思うて来たら、やたらと気にかけておる奴がおったようじゃから一目見に来たが、まさかお主じゃったとはな。大きくなったのう? まゆり」


 えっ? 誰だろう……? 私を知ってる人……せめて顔だけでも……。

 でも、まぶたが重くて開かないな。まあ、このまま寝たほうが絶対に気持ちいいから無理に動かなくていいかな。


「──ゆっくりと眠るがよい」


「うん……おやすみなさい」


 私はそのまま眠りについた。


「……さて、山地乳(やまちち)といったか? こやつらに危害を加える気なら消す……と言いたいところじゃが、あやつも気付いたようじゃて、妾は一度引くとするかのう。

 元々潜んでいたものを誘き出してやったのに、徒党を組んで悪さをしようとしたなどと勘違いされても困るしの。それに、もう1匹妙なのが居るようじゃ、妾はそちらを始末してやるとするかの。

 ──じゃあの、まゆり」

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