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第9話 セレスティアルの使い方

ハンバーーーグ!

 セレスティアル――俺が手にしたこの包丁は、普通の料理道具とは違い、特別な力を持っていた。

 魔力を込めて使うことで、その真価を発揮するらしいが、今の俺にはその感覚が掴めていない。


 以前戦ったコーネリアの炎も、ガーネットの鍋も魔法によるもの。

 魔法が使えなければこの先、戦ってはいけない。


 そもそもこの世界は魔法が使えないと料理人にすらなれないらしいからな!

 だから今はこうやって魔法の練習をしている。


「魔力を込めるって言われてもなぁ……」


 俺はセレスティアルを握りしめ、試しに集中してみる。

 しかし、手応えはない。

 包丁はただ静かに佇んでいるだけで、何も変わらない。


「もっと力を込めてみたらどう?」


 突然、レイラの真面目な声が聞こえた。

 振り返ると、彼女が期待に満ちた眼差しで俺を見つめている。


「力を込める……? でも、強く握りこむわけじゃないよな?」

「ううん、全力でぶつかってみて。リクならできる。強く自分を信じて!」


 レイラは俺の隣に来て、軽く俺の手に触れた。

 その触れ方は優しさに溢れていたけれど、どこか鼓舞をする力も感じる。

 レイラは何かをやり遂げる時、常に全力でぶつかっていくタイプだ。

 それが彼女の信念であり、俺に教えたかったことなんだろう。


「わかった……全力で、な」


 俺は息を吐いて、もう一度セレスティアルに集中する。

 レイラの言う通り、今度は思いっきり力を込めてみた。


 しかし……。


「やっぱりダメだな……全然反応がない」


 俺は苦笑いしながら包丁を見つめる。

 確かに全力でぶつかるのは大事かもしれないが、今の俺には力加減が難しいようだ。


「リクさん、無理に力を込めすぎると逆に失敗するわ」


 また後ろから、次は落ち着いた声が聞こえた。

 振り向くと、次はイリスがいて、穏やかに微笑んでいる。

 彼女は静かに俺に近づき、包丁を軽くなでながら言った。


「魔法は繊細なもの。力を入れすぎると流れが乱れてしまうわ。リラックスして、自分の魔力が自然に流れるように感じてみて」


 彼女はそう言いながら、俺の手をそっと包み込む。

 イリスは俺よりもずっと経験が豊富で、特にこういう時には頼りになる。


「次は力を抜けって……?」


「そう。セレスティアルもあなたの一部だと思って、自然に扱えばいいの」


 イリスのアドバイスに従い、俺は深呼吸して肩の力を抜いた。

 魔力まだどういうものかよくわかっていないを無理に押し込むのではなく、自然な流れに任せるように心がける。


 そして――


「おお……」


 微かに、セレスティアルが反応を示した。

 包丁が柔らかく光り始めたのだ。

 イリスの言う通り、力を抜いたことで魔力がうまく流れ込んだのかもしれない。


「身体の一部だと思って、自然に扱えばいい……。感覚がつかめてきた」

「いい感じじゃん!」


 明るい声が響いたかと思うと、今度はフィーナが俺の肩をガシッと掴んできた。

 元気いっぱいの彼女は、俺の横から覗き込んでセレスティアルを見つめている。


「リク、やっぱりやるじゃん! でもさ、もっと思いっきりやっちゃえばいいと思うよ? 失敗したっていいんだしさ!」


 フィーナは元気よく俺を励ましながら、バシバシと肩を叩いてくる。

 その勢いに少し押されつつ、俺は笑ってしまった。


「さっき全力でやったら失敗したんだが……」

「細かいことは気にしない、気にしない! 楽しんでやっちゃえばいいよ!」


 フィーナは本当に明るくて、どんな時でも前向きだ。

 その元気さに引き込まれて、俺も自然とやる気が湧いてくる。


「よし、じゃあもう一回だ」


 今度は、イリスの力を抜くというアドバイスと、レイラの全力でぶつかるというアドバイスの両方を試してみる。


 セレスティアルを握り直し、俺は再び魔力を込める。

 体の延長にあるという感覚を意識する。

 今度は無理に力を入れすぎず、でも中途半端にはならないように注意して――


 すると今度はセレスティアルがしっかりと輝く。


「おっ! また光った!」


 フィーナが興奮して声を上げる。


「これなら……これなら、いけるかもしれない」

「リクさん、さすがね。さあ、次はもっと細かい制御を試してみて」


 イリスは優しく教えてくれる。

 レイラもフィーナも俺を応援してくれている。


 コーネリアの魔法のように力強く、ガーネットの魔法のように繊細に……。

 あの領域に達するには相当な鍛錬が必要だろうが、バトルキッチンで勝ち続けるためにも頑張ろう。


 と、魔力を込める練習が一段落したところで、俺はふと閃いた。


「せっかくだし、軽く料理でも作ってみるか」

「おっ、いいねー! 何を作るの?」


 フィーナが興味津々に聞いてくる。


「シンプルなハンバーグでも作ろうと思うんだ、セレスティアルも活かせるからな」


 俺は牛肩ロースのブロック肉を用意する。

 普通なら包丁でミンチ肉を作るのは大変だけど、今回は違う。

 セレスティアルの力を使って、ミンチにするつもりだ。


「リクさんならきっと何か面白いことをするんでしょう?」


 イリスは微笑みながら期待を込めている。


 俺はセレスティアルを軽く構え、ゆっくりと魔力を込めていく。

 刃が鈍く輝く。

 身体と道具が魔力を通じて一体化する、まるで自分の手そのものになったかのような感覚だ。


「まずは玉ねぎを刻んで……」


 セレスティアルを使って、玉ねぎを素早く細かく刻んでいく。

 涙も出ないし、包丁さばきは滑らかだ。

 魔力を使いこなす感覚が徐々に慣れてきて、料理もどんどん楽になっている。


「玉ねぎはこのまま生で使うこともあるけど、せっかくだからひと手間加えようか」

 みじん切りした玉ねぎを炒める。

 余計な水分を飛ばすのと、甘みが増すという利点がある。

 フライパンに乗せられた玉ねぎは、じゅわっと音を立てて熱を吸収し、淡い黄色に色づきながら甘い香りが立ち上がっていく。


「しんなりして、色が変わってきたらオッケーだ。皿に広げて、粗熱をとる」


「そしてここからが本番。このブロック肉を……」


 ブロック肉にセレスティアルを当てた瞬間、刃は驚くほどスムーズに肉を貫き、瞬く間に細かく刻んでいく。

 実際に自分が手を動かしているわけだが、普通の包丁とは段違いの速さと精度でミンチにしていく。


「すごい……! お肉をこんなに早く、しかも細かく刻めるなんて!」


 フィーナが目を輝かせながら歓声を上げる。


「こんなに簡単にブロック肉をミンチにするのは見たことがないわ。セレスティアルの力もあるけれど、リクさんの元々の技術もあってこそかしら」


 イリスが感心した様子で頷く。

 レイラも驚きながら、俺の手元を見つめている。


「さあ、これを混ぜていくぞ」


 ミンチ肉と冷めた玉ねぎをボウルに入れ、塩と胡椒、ナツメグを加えて手早くこねていく。

 指先に触れる冷たい肉の感触と、混ざり合う玉ねぎの柔らかさが心地よく、手早くこねていくたびに、香ばしい香りがわずかに立ち上がってくる。

 肉がしっかりと混ざり合い、ふっくらとしたハンバーグのタネが出来上がった。


「リク、手つきが本当にプロね。見ているだけで楽しめるわ」

「まあ向こうの世界じゃ実際プロだったわけだしな」


 微笑むレイラにちょっと自慢げに返答する。


「次は4つに分割して、丸めて、空気を抜く」


 両手でキャッチボールをするようにパンパンと投げる。

 店でハンバーグの仕込みをしていた時のことを思い出した。


 俺はフライパンに油をひき、ハンバーグのタネを形よく整えてフライパンに投入する。

 じゅわっと肉が焼ける音が弾けた。

 香ばしい匂いがキッチン全体に広がり、フィーナの目が期待に満ちたものに変わっていく。


「おおー!いい音だね! もう、食べたくなっちゃった!」


 フィーナがワクワクした表情でハンバーグを見つめている。


「焦らずじっくり焼くことがコツだ。外はカリッと、中はジューシーに仕上げるのが理想だ」


 片面がいい色に焼けたら裏返し、蓋をして蒸し焼きにする。

 次第に油の跳ねる音が減り、代わりに蒸気がシューッと漏れ出す音が聞こえる。


「ハンバーグってシンプルだけど、奥が深い料理よね」


 イリスがしみじみと言う。


「ああ、簡単そうに見えるけど、特に焼き加減が大事だ。蒸し焼きの具合で中までちゃんと火を通しつつ、ふっくらとした食感を目指す」


 俺はハンバーグの焼き上がりを見極める。

 串を刺して、透明な肉汁が出てきたら、火がしっかり通った合図。


 ハンバーグは皿に移して、フライパンはそのままでソースをつくる。


 ケチャップ、赤ワイン、砂糖、バターを中火で煮詰めて、とろみがでたらソースの完成。

 本当はウスターソースを入れたかったんだが、こちらの世界にはなかった。


 皿に盛りつけたハンバーグに、濃厚な赤ワインソースをかけると、その香りはさらに深まり、湯気が立ち上がる。


「さあ、完成だ」


 ――――――――――


 4人でテーブルを囲む。


「「「「いただきます」」」」


 フィーナがハンバーグを一口食べた瞬間、その大きな目がぱっと輝き、頬をぷっくり膨らませながら嬉しそうに笑顔を見せる。


「んーっ! ジューシーでふわふわだよ! リク、すごいよ!」


 レイラも一口頬張り、目を閉じてしばらく味わうように静かに咀嚼してから、ふわっとした笑顔を浮かべる。


「確かに……口の中で肉汁が広がって、ソースもいいバランスね」


 イリスの涼やかな瞳がリクをまっすぐ見つめ、優雅な口調で褒める姿は、まるで高級レストランの食通のようだ。


「リクさんの料理、やっぱり最高ね。食べると幸せな気分になるもの」


 みんなの言葉には温かい思いが込められ、まるで家族と食卓を囲んでいるような、心地よい安心感が広がる。

それに対して俺は照れくさそうに微笑んで答える。


「みんなが喜んでくれてよかったよ。セレスティアルの力もだんだん馴染んできたし、これからもっといろんな料理を作ってみたい」


 フィーナは無邪気に手を挙げる。


「うん! あたしもリクの料理、もっと食べたい!」


 イリスは落ち着いた微笑みを浮かべ、期待を込めた視線を送りながら、そっと頷く。


「これからもリクさんと料理を一緒に楽しめそうね。期待しているわ」


 レイラは恥ずかしそうに微笑みつつ、しっかりとこちらを見つめながら言葉を付け加える。


「私もずっと応援してるから、これからも頑張ってね」



 こうして俺は3人に温かく見守られながら、セレスティアルをさらに使いこなすために、練習を続けていくのだった。

 この力を完全に使いこなせるようになったとき、俺は最高の料理人として新たな境地に到達するのだろう。

読んでいただきありがとうございます!


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今後ともよろしくお願いします。

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