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第22話 決戦準備

この回で10万文字を超えます。読んでくれてありがとう。

 王城に戻ると、俺たちはすぐに準備に取り掛かった。

 ラズフォードとの戦いに備えて、調味料や材料を揃える必要がある。


 そんな中、俺の頭の中では、先ほどのラズフォードとのやり取りが何度も繰り返されていた。


「食事でみんなを幸せに、か……」


 根っこの部分は俺も変わらないのに、なんであいつは極端なんだろうか……。


 何せよ、俺は料理皇帝と呼ばれる男とついに対峙することになる。

 緊張はあるが、今までだって負けられない戦いをしてきた。

 大丈夫だ……。


「リク、何か考えてるの?」


 背後から、レイラの優しい声が聞こえた。

 彼女は少し心配そうに俺を見つめている。


「うん、なんとなく。勝つためにはなにが必要なのか、とかね」


 俺は頭を掻きながら答える。

 考えがまとまりかけてはいるものの、まだ完全に固まってはいない。

 ラズフォードに勝つためには、ただ美味しいだけじゃ足りない。


 その時、扉がノックされ、控えめな音が響いた。


「リク様、ラズフォードの使いの者がお見えになりました」


 メイドに客間へ案内される。

 扉の前でみんなが俺を待っていた。


 扉をゆっくりと開くと、そこに立っていたのはシルヴィア・アースウィンドだった。

 彼女のエルフ特有の長い耳がピンと立ち、微笑みながら俺たちを見つめている。


「リク様、皆様、ごきげんよう。ラズフォード様からの伝言を持って参りましたわ」

「君が使いか……」


 彼女は敵だが、嫌なやつではない。

 そんな彼女が来てくれたので少しだけ安心した。


「では、さっそく、テーマとルールをお伝えさせていただきますわ」

「今回のバトルキッチンのテーマは『みんなが喜んでくれる料理』。市場で出店を開き、皆様に食べていただくという形になりますわ。つまり、審査員は街の人たちですわ。どちらが美味しかったか、彼らに投票してもらって勝敗を決める、とのことですわ!」


「街の人たちが審査員……」


 これなら公平にジャッジされるし、おまけに勝者は名を広めることができる。


「なんだか楽しそうだね!」


 フィーナは楽しそうという感想だったが。


「それで、リク様。ラズフォード様に何かお返事があればお伝えしますわ」


 俺は目を閉じ、しばらく考えた。

 次に開けた時には、答えはもう決まっていた。


「受けて立つ。そのテーマとルールでバトルキッチンに挑ませてもらうよ」


 シルヴィアは満足げに微笑み、軽く頭を下げた。

 彼女の動きは優雅でしなやかさがあった。


「承知しました。では、日時は明日正午、場所は街の広場でお待ちしておりますわ」


 彼女が去ると、部屋に静寂が戻った。

 だが、その静けさの中には緊張感が漂っている。

 俺たちは今、大きな戦いの前に立っているんだ。


「投票制か……」


 俺は腕を組んで考え込む。

 普通の審査ではなく、一般の人々が判断する。

 高級な食材を使うだけでは勝てない。

 魔力量はそれほど重視しなくていいだろう。

 ただ彼らの心を掴む料理を作らなければ。


「条件としては、市場に出店を開いて販売する形式なので、手軽に食べられるものが理想かもしれませんね」


 イリスが提案してくれる。

 もちろんその提案の方向性で考えていく。


「大丈夫、リク? なにかいいの思いつきそう?」


 フィーナは考え込む俺を心配してくれる。


「そうだな……俺の料理で、みんなを笑顔にする。それが今回の戦いの全てだ。とにかく、勝つことよりも、こちらを大事に考えていこう」


 そう考えた俺を、みんなが信頼の眼差しで見つめている。

 その視線に応えるためにも、ここで絶対に失敗は許されない。


 ――――――――――


 街の市場に出店して、直接人々に食べてもらい、投票してもらう。

 審査員は、王城の高貴な人々ではなく、市井の人々──街に住む普通の人たちだ。


「みんなが喜んでくれる料理……」


 俺は厨房で一人、ぐるぐると考え込んでいた。

 これまでのバトルキッチンとは違い、豪華さや見た目のインパクトではなく、もっとシンプルで心に届く料理を作る必要がある。

 でも、一体何を作れば、多くの人たちに喜んでもらえるんだろう?


 新鮮な魚介が手に入ることを考慮する。

 スパイスやハーブも様々あるし、醤油や味噌、和風出汁、ウスターソースも使える。

 魚を使った和食で勝負するなら、寿司、うなぎ、天丼あたりか。

 手軽さならおにぎりもいいし、ライスバーガーも物珍しさがある。

 煮込みやグリルなんかの匂いだって有効だ。

 それに魚介や和食にこだわる必要はない。

 ドラゴンソテーのようなこちらの人に馴染みのある料理だっていい。


「ねぇ、ずっと悩んでるけど大丈夫? 私じゃ頼りになるかわかんないけど、相談してくれてもいいんだよ?」

「あ、ああ……」


 レイラが優しく声をかけてくれるが、俺はそっけない返事をする。


「リクはいつだって想像もつかない料理で私たちを驚かせてくれるけど、困ったときは私たちを頼ってほしいよ」

「そうだな、うん。ありがとう」


 レイラに今の俺の考えを相談する。


「リクはここがポートハイだから魚介を使って、市場に来る“お客さん”みんなに喜ばれる料理を作ろうって考えてるでしょ?」

「うん、そうだけど……」

「ポートハイはノルティア王国第二の都市で、流通の要所。各地からのあらゆる物品が集まって、各地に送られるの。だから市場には普通のお客さんだけでなく、商人も多いのよ?」

「なるほど、商人も相手にするのか……」

「そうそう。だから、庶民的な……」


 俺は彼女の言葉である料理をひらめき、レイラの言葉を遮る。


「待って……第二の都市、流通の要所、商人、魚介……!」

「そうか! ありがとう、レイラ」

「えっえっ⁉ なにかいいもの思いついたの?」

「ああ、ここで作るべきは大阪名物……たこ焼きだ!」


 日本の屋台の定番で、みんなに親しまれている料理。

 お祭りではあの匂いにつられてついつい買ってしまう。


 この条件であれば、お好み焼きだっていい。

 しかし、たこ焼きは食べやすさのほかに、あの形状の珍しさもある。


「たこ焼きにする!」


 俺は勢いよく宣言した。


「また、タコなの? タコを焼いたもの?」


 レイラが首をかしげながら聞いてくる。

 当然彼女は、たこ焼きなんて見たことも聞いたこともない。


「たこ焼きなら異世界の人たちにはきっと新鮮で、楽しんでもらえるはずだ。何より、たこ焼きは食べ歩きが出来て、市場での出店にもぴったりだ」

「待ってよ、たこ焼きってなんなの?」

「ごめんごめん、説明するより見てもらったほうが早いから、作るまで待ってて!」

「うん、わかったわ……」

(それにしても、リクがこんなにはしゃいでる姿を見るの初めてかも……)



 決心がついた瞬間、自然と体が動き始めた。

 まずはたこ焼き器だ。

 これがなくては話にならない。

 当然この世界にはそんなものは存在しない。

 だが、そこは頼れる仲間がいる。


 ――――――――――


「ガーネット、頼みがある」


 俺はすぐにガーネットに声をかけた。

 彼女は工匠ではないが、錬金術師として様々な金物も手掛けている。

 黄金の鍋もそうだし、セレスティアルも見てくれている。


「どうしたんだい、リク君? 頼みなんて」

「ああ、ちょっと急ぎで作ってもらいたいものがある」


 彼女の目が鋭くなる。


「ということは、明日のバトルキッチンで使うものなんだろう? たしかに急がないとね」

「ああ、すまない」

「いいさ、君に頼られるのはやぶさかではない」


 ガーネットは少し驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な目で俺を見つめた。

 俺はたこ焼き器の仕組みを説明し、形状や材質を詳しく伝えた。


「魔法コンロを改造して――」

「なるほど、鉄板に丸い穴をいくつも開けるのか? 面白いじゃないか」


 彼女はニヤリと笑い、すぐに作業に取りかかる。

 ガーネットなら、きっと完璧なたこ焼き器を作り上げてくれるだろう。


 ――――――――――


 次に材料だ。

 小麦粉と卵、タコ、天かす、青ねぎ、紅ショウガ、出汁、青のり、鰹節、ソース、マヨネーズ……。

 元の世界ならスーパーで簡単に手に入るものばかりだが、ここ異世界ではそう簡単に手に入るものではない。

 しかし、この世界にも似たような食材はある。

 大きな市場もあるから買い出しに行けばなんとか揃うはず。


 天かすやマヨネーズ、たこ焼きソース作りはみんなに手伝ってもらおう。

 紅ショウガはないから、今からショウガを米酢に漬けておく。

 出汁や鰹節は俺の腕の見せどころだ。


「よし、やるぞ!」


 ――――――――――


 決戦の日


 ついにその日がやってきた。

 バトルキッチンの会場となる市場には、早朝から多くの人々が行き交っている。

 広場の中心には、リクとラズフォードの店が向かい合って設置され、双方が作る料理に投票してもらうためのボードも用意されている。

 こちらの陣営は城の人たちが、あちらの陣営は配下の人たちが準備を進め、緊張感が次第に高まっていく。

 料理皇帝の支配が続くか終わるのか、そんな大事なことが懸かっている戦いなのに、みんなバトルキッチンを楽しみにしているように見える。


「いよいよだな……」


 俺は用意された屋台を見渡しながら、深呼吸をした。

 たこ焼き器はしっかりと火にかけられ、じわじわと温まっていく。

 ガーネットが作ったたこ焼き器は完璧で、まさに日本のたこ焼き器そのものだ。

 徹夜して間に合わせてもらったおかげで、午前中に試しにたこ焼きを作ることも出来た。

 お客さんに出しても恥ずかしくないレベルになっている。


「ラズフォードは……?」


 俺の目線は自然と向かいの屋台へと移る。

 ラズフォードはすでに余裕のある笑みを浮かべ、街の人たちの様子を眺めていた。

 ふと目をやると、彼の屋台にも様々な食材が並べられている。

 薄切りのパン、たれに漬けてある鶏肉、ベーコン、タマゴ、トマト、レタス、きゅうり、チーズ、マヨネーズ系のソース……。


「サンドイッチか……」


 確かに手軽に食べられるし、あの具材なら豪華な感じもあって魅力的だ。


「リク、あっちの具材、すごく豪華だよ⁉ でも、こっちもすごくおいしいし大丈夫、だよね?」


 フィーナがあちらの華やかさを前に若干尻込みする。


「豪華さだけで勝てるなら楽なもんだよ。向こうに比べればこっちはシンプルだけど、味で十分勝負できる」


 俺が今作ろうとしているのは、そんな豪華さはない。

 たこ焼きは見た目こそシンプルだけど、一口食べたらその味わいの深さに驚くはずだ。

 みんなが笑顔になれるような料理を作りたい、それだけを考えてきた。


「大丈夫だ、リク。あなたのたこ焼きなら絶対に勝てる」


 コーネリアが、そんな俺の背中をぽんと叩いた。


「そうだな、全力でいこう」


 こちらの陣営にいるのは俺、フィーナ、コーネリアの3人。

 ガーネットはたこ焼き器を徹夜で作っていたので、体力と魔力が切れて眠っている。

 イリスは審判を務める。

 レイラはというと、王女という立場もあり、こちらの陣営にいるとそれだけで票が入る可能性があるので、観客の一人として応援してくれている。

 ラズフォードの陣営にはシルヴィアとコックの男性が一人手伝っている。


 シルヴィアと目が合うと、笑顔でウインクをしてくる。

 彼女はあんな様子だが、ラズフォードのことを師匠として慕っているのは間違いない。



 そうしているうちに、お互いの陣営の準備が完了した。

 広場に集まる人々も徐々に増え始めた。

 行き交う人たちがなにか催しがあるのかと足を止め、興味津々にこちらを見ている。


 イリスが両陣営の中央に立ち、場を制するように声を上げた。


「これより、リク・アマギ対ラズフォード・アルカディアのバトルキッチンを開始します!」


 広場中にイリスの声が響き渡ると、人々が一斉にざわめき始めた。


「今回のテーマは『みんなが喜んでくれる料理』。お二人は一品ずつ料理を作り、ここに集まった皆さんに食べていただきます。そして、どちらがより美味しかったか、こちらに設置された投票ボードにて票を入れていただきます」


 イリスが指差した投票ボードは、屋台の前に堂々と構えていた。

 誰でも気軽に投票できるようになっており、そのシンプルなシステムで誰もが楽しめる。


「用意された201食ずつ、全て配り終わり、得票数の多いほうが勝ちとなります」


 イリスが勝敗のルールを再確認する。


「勝者の条件として、リク・アマギが勝てば、ラズフォード・アルカディアは料理皇帝の座を降り、侵略行為をやめる。ラズフォード・アルカディアが勝てば、リク・アマギはラズフォード・アルカディアの配下に加わる。両者それでよろしいですね?」


「それでいい」

「こちらもそれで問題ないですよ」


 俺は一言応じ、ラズフォードは軽く頷いた。


「それでは、バトルキッチン開始!」


 イリスの宣言と同時に、会場は歓声に包まれ、俺たちの勝負がついに幕を開けた。

読んでいただきありがとうございます!


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今後ともよろしくお願いします。

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