第21話 運命の再会
ダークエルフのコーネリア・ナイトウィンドさんは年齢不詳となっております。リクよりお姉さんであることは間違いないです。
今日はレイラが王女として(お忍びで)視察をする。
街は活気に満ち、行き交う物資や商人たちの活力が溢れている。
温かな日差しが俺たちに降り注ぐ。
レイラは真剣な眼差しで街の様子を見守りながら、時折、レポートを書いていた。
その姿は王女というより、一人の真摯な調査員のように映る。
彼女の表情からは責任感を感じ取れる。
市場を歩きながら、俺はふと遠くに見覚えのある人物を見つけた。
ピンクブロンドの髪に、鋭いエメラルドグリーンの瞳――シルヴィア・アースウィンドだ。
ネオタナを占領していたラズフォードの配下であり、コーネリアにとっては一度敗北を喫した相手でもある。
彼女は数人のコックらしき男たちを連れて、市場で何やら食材を買い集めている様子だった。
「シルヴィア……?」
俺が呟くと、シルヴィアは俺の声を感じ取ったかのように振り向いた。
そして、目が合うとその顔が喜びに満ちた表情に変わり、彼女は素早くこちらに駆け寄ってきた。
「リク様! これは運命の再会ですわぁ!」
シルヴィアは、俺の手を取って満面の笑みを浮かべる。
「久しぶりだな、シルヴィア……まさかここで会うとは」
「ええ、驚きですわ! わたくし、リク様にまたお会いしたいとずっと思っておりましたのよ!」
彼女の声には明らかに嬉しさが滲んでいる。
再会を心から喜んでいるようだった。
だが、周りの仲間たちの反応は真逆だった。
みんなは嫌そうな顔をしているし、コーネリアは明らかに敵視している。
「あ、あのさ、みんな、彼女とは敵対していたけど、今は違う、はずだ。ネオタナにだってあれ以来、配下の料理人は来ていないみたいだし、それは彼女のおかげとも言えるだろ?」
「む~、物は言いようかも。だって彼女は町を占領して……」
レイラが不満そうに言うところにシルヴィアが割って入る。
「そうですわ、リク様。ぜひお会いしていただきたい方がいますの。どうかご一緒に来ていただけますか?」
「むっ、ちょっとあなた!!」
レイラに余計な刺激を与えないでほしい。
そう思いつつ、シルヴィアに問い返す。
「誰に会わせたいんだ?」
シルヴィアの頼みに少し驚いたものの、彼女の紹介したい人は気になる。
他の仲間たちに目を向ける。
レイラやフィーナたちも、興味深そうに頷いてくれた。
「時間もあるし、行ってみようと思う。みんなもいいか?」
「ちょっとだけならね!」
「決まりましたわね。では、参りましょう!」
シルヴィアのあとについて行く。
コック風の男たちも買い込んだ食材を持ってついて来る。
シルヴィアに連れられ到着したのは、俺たちが昨日食事をしたあの小さなレストランだった。
店内は昨日と同じく静かな雰囲気で、穏やかな日差しが窓から差し込む。
店主のおじいさんが厨房で料理をしていた。
「ただいま戻りましたわ」
「おお、お帰り。ご苦労だったね、みんな」
シルヴィアがおじいさんに挨拶すると、男たちは店の奥へ食材を運び込む。
そしてシルヴィアは俺たちに向き直る。
「リク様、紹介いたしますわ。この方こそが、料理皇帝ラズフォード・アルカディア様ですわ」
シルヴィアから丁寧にそのおじいさんを紹介されると、俺の心臓が一瞬止まったかのような感覚を覚えた。
「料理皇帝……ラズフォード・アルカディア……」
その名は誰でも知っている。
王国中の料理人を敵に回し、バトルキッチンを仕掛けては料理人を辞めさせ、各地を配下の者に占領させているという料理人。
まさかこの小さなレストランの店主が、あのラズフォードだとは思いもよらなかった。
老人、ラズフォードは俺たちに鋭い目を向けた。
彼の視線には長い年月を生き抜いてきた者特有の重厚さがあり、同時に圧倒的な威圧感を感じさせる。
「君がシルヴィアさんの言っていたリク君か……ふむ、昨日も来てくれたが、名のある料理人には見えなくて気がつかなかったよ」
ラズフォードは薄く笑みを浮かべた。
穏やかな表情の目には何か挑戦的な光が宿っている。
そして俺には、その顔に見覚えがあった。
「……そうか、思い出した。前に王都の市場で魚を売っていた老人。それはあなただ!」
あのときは見るもの全てが新鮮で商人の顔までは覚えていなかった。
「王都へ魚を売りにいくこともあります。新鮮な魚はどこへ持って行っても買ってくれるからねぇ。でも、ごめんなさい。私も歳だから王都のお客さんの顔までは覚えていませんよ」
彼は本当に申し訳なさそうに言う。
「でもでも、このおじいさんが料理皇帝だなんて全然見えないよ⁉」
フィーナ言うように見た目はただの老人だ。
料理皇帝を名乗るような嫌な感じもない。
「まあまあ、皆さんも気になることがあるでしょう。こんな老人の話でよければ聞いてもらえますか」
俺もみんなも動揺が隠せない。
打倒ラズフォードを掲げている中、突然目の前にその当人がいるわけだ。
「なに、警戒しなくてもいいですよ、リク君、レイラ王女、それにお付きのみなさんも、さあ、座ってください」
そう言ってラズフォードは俺たちを席に促した。
シルヴィアがすぐに紅茶を用意し、テーブルに静かに置かれる。
甘い香りが漂うが、場の空気は張り詰めている。
「さて、なにから話そうか……」
ラズフォードの声は、場の緊張を微かに和らげるような柔らかさを帯びていた。
しかし、彼の言葉が終わる前に、イリスが低く冷静な声で遮る。
「その前に……」
イリスが冷静な眼差しでテーブルに並べられた紅茶をじっと見つめた。
「この紅茶……安全なんでしょうね?」
彼女の言葉は、冷たい刃のように場を切り裂く。
ガーネットが頷き、イリスに続いた。
「昨日は私たちの正体を知らなかったから何もなかったかもしれない。だが、今日はこちらの方がレイラ王女だと分かっている。毒を盛ることだって考えられるだろう?」
部屋の中に重い緊張が漂う。
しかし、ラズフォードはその問いに動じることなく、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「私がそんなことをするわけがないですよ。人が死んだら、その人を愛する者たちが悲しむ。私は、皆が幸せであることを何より願っているんです。毒を盛るような真似は、私の信念に反します」
フィーナがくんくんと紅茶の香りを嗅いだ。
「特に変な匂いはしないよ! 大丈夫だと思う」
それでも、イリスやガーネットは紅茶を睨みつけたままだ。
彼女たちの瞳の奥には、疑念が消えることなく残っている。
「なら、私がまず飲みましょう」
ラズフォードは静かにカップを手に取り、ゆっくりと半分ほど飲んだ。
「ほら、これで証明できましたね。同じポットから注いだものですから、安心してください」
皆がその言葉を信じていいのか迷っているかのように、一瞬の沈黙が続いた。
しかし、俺たち全員が少しだけ緊張を解いたのが感じ取れる。
「さて、お話を始めさせてもらってもいいかな」
俺はゆっくりと頷く。
「私が料理皇帝をやっている理由はね、食事でみんなを幸せにしたいからですよ」
みんなは静かに聞いている。
ラズフォードは笑顔を保ったまま続けた。
「だからね、おいしくない料理を作るような人には辞めていただくか、私の元で勉強していただく。それをバトルキッチンで決めていただいているだけなんです」
その言葉に、俺は違和感を覚えた。
この考え方は、間違っている。
「それは間違ってる。バトルキッチンで人の人生を狂わせるなんておかしいだろ。料理の腕を競い合い、高め合う。それでみんなが美味しい料理を作れるようになる。それが本質じゃないのか?」
ラズフォードは眉一つ動かさない。
今度はコーネリアが強い口調で食いかかる。
「なら、辞めさせられた料理人たちはどうなる? 職を失い、それで幸せになるとでも⁉」
それに対してもラズフォードは静かに首を振った。
「きっと、自分に合った仕事が見つかりますよ。無理に料理の道に固執して不幸になるより、ずっといい選択です」
その答えに俺たちの誰も納得はしていなかったが、ラズフォードは完全に自分の考えが正しいと思っているようだ。
そこにガーネットがさらに詰め寄る。
「なら、配下の者を使って各地で食材を奪っているのはどう説明する? 生産者が苦しんでいるのを知らないとは言わせない」
ラズフォードは静かに、しかし確実に反論した。
「奪ってなどいません。私は分けてもらっているだけです。そして、生産者の方々も、自分の作ったものが美味しく調理されるなら、それを嬉しく思うはずです」
その言葉に俺は一瞬言葉を失ったが、ラズフォードの次の言葉はさらに衝撃的だった。
「私の料理は人を幸せにする。それに反論しようと言うのなら……リク君、君も私の元で勉強するか、料理人を辞めてもらいましょう」
その瞬間、胸に鋭い痛みが走った。
この男、ラズフォードは本気だ。
俺に戦いを挑んでいる――。
「配下になれ? 料理人を辞めろ……?」
俺は拳を握りしめ、視線をラズフォードに定めた。
「そんなこと、絶対にない。俺は俺の料理でみんなを幸せにするんだ」
ラズフォードは微笑を崩さず、穏やかに頷いた。
「ならば、バトルキッチンで決着をつけるしかありませんね。リク君……君がどこまでやれるか、楽しみにしていますよ」
「リク、ラズフォードに勝てるの?」
レイラが俺に不安そうな目を向けてきた。
「勝てる。そのために今まで経験を積んできたんだ。逃げるつもりはない」
俺はラズフォードの前に一歩踏み出し、彼に向かって言い放った。
「ラズフォード、あんたに挑戦させてもらう。バトルキッチンで、料理皇帝の侵略をここで止めてみせる!」
ラズフォードは驚くことなく、むしろ楽しそうに笑った。
「ほう……面白いですね。ですが、君が本気で私に挑むなら、覚悟しておくことです。私は決して手加減などしません」
「それでいい。全力で来てくれ」
俺の胸は高鳴っていた。
当初の目的だった打倒ラズフォード。
勝てばこの国に平和が訪れる。
そして俺は料理の頂点に一歩近づくことができる。
レイラや仲間たちも一歩引いて見守る中、ラズフォードはゆっくりと立ち上がる。
「では話はこれで終わりです。また明日にしましょう。君も準備があるでしょうから。テーマもじっくり考えたいですね。追って使いを送りますよ」
「わかった。まあ、変なテーマにするほど料理皇帝の器が小さくないことを祈るよ」
「さて、リク君。君の料理がどれほどのものか、楽しみにしていますよ」
挑発ではなく、本当に楽しみにしているように見えるラズフォード。
俺は拳を握りしめ、絶対に勝つと心に誓った。
読んでいただきありがとうございます!
今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。
今後ともよろしくお願いします。




