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第17話 鰹と昆布の合わせ出汁

私は料理が好きだからそれを文章にするだけ。だけど、SFやファンタジー、残虐なシーンなどを書く人は想像で書いてるわけで、リアルに表現できる人を尊敬します。

 俺たちはネオタナでの戦いを終え、王城に帰ってきた。

 今回の旅で得たものは大きい。

 コーネリア・ナイトウィンドが仲間に加わりたいと申し出てくれた。

 俺たちにとって大きな力となるだろう。

 料理魔法に長けた才能を持っているので、そのスキルをぜひ俺にも教えてほしい。


 コーネリアと厨房で一息ついていると、レイラ、イリス、フィーナ、ガーネットが次々とやってくる。

 みんな揃ったところで、俺はコーネリアを正式に仲間として紹介した。


「みんな、俺はコーネリアを迎え入れたいと思う。彼女の力はこれからの戦いに役立つはずだ」


 レイラが優しい笑みを浮かべながら、コーネリアに歩み寄る。


「歓迎するわ、コーネリア。この国の王女としてもあなたみたいな人が仲間になってくれるのは力強く感じるわ」


 コーネリアは静かに頷き、周囲の空気がほんのりと和らぐ。

 次に、イリスが彼女に近づき、沈着な瞳をコーネリアに向けた。


「同じ魔法使いとしてよろしくね、頼りにしてるわ、コーネリアさん」


「あたしも賛成! これであたしたちのチームはさらに強くなるね」


 レイラもイリスもフィーナもコーネリアを歓迎してくれた。

 そんな中、ガーネットは真剣な表情を浮かべていた。


「コーネリア、君がラズフォードの配下を次々と倒していることは噂に聞いていた。実際にこうして会うことができてうれしいよ。私もかつて旅をしていたころ、同じようなことをしていたからな」

「えっ、ガーネットもなのか⁉」


 俺が驚いて声を上げると、ガーネットは少し困ったように微笑んだ。


「そうだよ、バトルキッチンで配下の料理人たちと戦って勝ち、配下から抜けるように指示していた。この国にはラズフォードのやり方が気に入らないと立ち上がる人は多いんだ」

「だから、思っていた以上に王城への知らせが少なかったのね、納得できたわ」


 イリスが安心したように言うと、レイラもよかった、と一息ついた。


「それに、料理皇帝なんてのがいるうちは、まともに旅なんて出来ないからね。料理皇帝を倒したときにはまた旅に出たい。所有者の君が許してくれればね」

「なに言ってんだよ、所有者とか冗談はいいから、ガーネットはガーネットのやりたいことをやってくれればいいんだ」

「……そこまであっさり言われると女としては寂しいものがあるな」


 いつもはサバサバしているガーネットが一瞬だけ少女のような表情を見せた。


「あたしはねぇ、料理皇帝を倒したら、ずっとリクとここで料理してたいなぁなんて思ってるよ!」

「あ、それもいいかも♪」


 フィーナがキャッキャしているとレイラもそれにのっかった。


 みんなはもう先のこと考えてるんだな……俺はどうしようか……。

 それぞれが未来を語る中、俺は少し複雑な気持ちで彼女たちのやりとりを見つめていた。


 ――――――――――――


 その日、俺が以前から研究をしていた「鰹節」がついに完成した。

 鰹節――醤油と合わせて和食の鍵となる食材だ。

 今、満を持して和食に挑む時が来た。


「フィーナ、コーネリア、今日は和食を作るつもりだ」


 今回はフィーナとコーネリアに付き合ってもらうことにした。

 ほかのメンツは自分の仕事で忙しそうにしている。


「わしょく?」


 フィーナが不思議そうに首をかしげ、その大きな耳がピクンと反応した。

 彼女の琥珀色の瞳がこちらをじっと見つめている。


「この世界にはおそらくない、俺の故郷の料理だ。今回はこの鰹節を使って、ふたりにそれを味わってもらおうと思う」

「かつおぶし……旅で各地を回ってきたが、初めてみるな」


 俺は手に持った鰹節をふたりに見せながら、しっかりと説明を続けた。

 コーネリアも見たことがないとなると、少なくとも周辺諸国にはなさそうだ。


「この鰹節というのは、俺のいた世界では世界で一番硬い食べ物と言われている」


 フィーナは軽く眉を上げ、指先で鰹節を軽く叩いてみた。

 乾いたコンコンという音が響く。


「では、どうやって調理するんだ?」

「薄く削ったものを料理にかけて食べたりもするけど、やっぱり出汁を取るのが基本だな」


 ふたりは俺の話に興味津々で耳を傾け、鰹節をいろいろな角度から見たり、触れたり叩いたりしていた。


 そして、俺は鰹節を使った料理の準備に取り掛かった。

 まずは鰹節を削るところからだ。

 当然、あのカンナのような削るやつはない。


 そう、セレスティアルの出番だ。

 俺はイメージする。

 料理アニメでよくある「目に見えないような早さで包丁を振り回すと、一瞬で食材が切れている」あのイメージだ。


 カゴを用意し、鰹節を上から落とす。

 セレスティアルに魔力を注ぎ込み、全力で切る!


 スカーーン……ッ!


 切れた、あの世界で一番硬い食べ物と言われる鰹節が、包丁で――

 真っ二つ。

 ……バラバラにはなってくれなかった。


「やっぱりアニメのようにはいかないかぁ」


 ふたりは「アニメ?」「なにがしたかったの?」という表情をしている。


「こ、ここからちゃんとやるから……」


 恥ずかしい……。


 赤面しながら、俺は鰹節をカゴの上に持ち、鉛筆を削るように丁寧に削り始めた。

 セレスティアルに魔力を込めるとスイスイと薄く削れていく。

 元の世界じゃありえない光景だ。

 それを成している自分は、料理魔法をちゃんと使えている、ということを再確認した。

 削り終わると優しい香りがまわりに広がっている。

 一口食べる。


「うん、うまい。ちゃんと鰹節だ……」


 燻した香ばしさと鰹の風味、ふわっと香りが鼻孔を抜けていく。

 とろけるように口いっぱいにうまみが広がる。


「ねね、あたしも食べてみていーい?」

「私もいいか?」

「ああ、もちろん」


 ふたりもちょっとつまんで食べてみる。

 香りを嗅ぎ、よく味わう。


「すごーい! 塊のときの見た目はかたーい干し肉みたいだけど、ちゃんと海の香りと魚の味がする!」

「うん、これはうまみが強いな。こんなに薄いのにコクを感じる」


 フィーナは味や香りに敏感な獣人族、しっかり鰹節の良さがわかってくれる。

 コーネリアも凄腕の料理魔法使い、味の研究に余念がない。


 味見が済んだところで、まずは出汁を取るところから始める。

 朝のうちに水と昆布を入れて準備をしておいた黄金の鍋を中火にかける。

 じっくり沸かしている間に味見をしてみたが、黄金の鍋のおかげで明らかに出汁が出るのが早い。


 コーネリアが興味深げにその光景を眺め、フィーナは鍋に鼻を近づけ、ふわっと香る昆布の匂いに驚いた表情を見せた。


 沸騰直前に昆布を取り出し、一度沸騰させる。

 火を止めて、鰹節を入れ、ゆっくりと沈んでいくのを待つ。

 あとは目の細かい布で濾す。

 これで、鰹節と昆布の合わせ出汁(一番出汁)が完成だ。


 出汁の香りが湯気とともに広がり、部屋全体が和の世界に染まる。

 コーネリアが作ったチキンブイヨンにも負けないくらいに、出汁が淡く光り輝いている。

 うまいのはわかっているが、ドキドキの味見だ。


「はぁ……やっぱりうまい……澄んだうまみがぐぅっと広がる」


 一口すすると、鰹節の深い旨みがじわっと口いっぱいに広がり、昆布の繊細な後味が舌の上に残る。

 透明感のあるその味わいは、心の奥まで染み渡った。


 正直な話、鰹節は頭の片隅にある記憶でなんとか作ったものだからここまで上質なものができるとは思っていなかった。

 やはりこれは魔法の力なんだろう……。

 もし鰹節がさらに上手く作れるようになったら、それはもう高級料亭の味を軽く超える出汁が出来てしまいそうだ。


「感動しているのはわかるが、私も、その……」

「そうだよー、さっきからすんごい良い香りがして、よだれが……じゅるり」


 厨房に合わせ出汁の香りがふわりと漂う中、ふたりとも待ちきれないという様子だ。

 小皿にそっと出汁を注ぐと、琥珀色の液体が小皿に流れ込み、ほんのりとした湯気が立ち上がる。

 それを口にした瞬間、ふたりの顔がぱっと明るくなる。


「な、なにこれ……! この香りと味……! 材料二つしか使ってないのに、こんなに優しくて、深い味になるんだねっ!」


 フィーナの目が驚きで見開かれた。


 一方、コーネリアも無言で出汁を手に取り、香りを確かめるように軽く息を吸った。

 目を閉じて、深い香りに集中している様子だった。

 そしてゆっくりと口に運ぶ。


「口の中に広がる……この繊細なうまみ……優しいのに、芯がある。魚や野菜で取った出汁でもここまでのものにはならない」


 フィーナもコーネリアも、初めての和風の出汁の味に驚き、そして感動している。

 ふたりの表情を見ながら、俺は和食の力を改めて実感した。

「もっと飲みたい!」とせがまれたが、料理にも使うので我慢してもらう。


 そしてここからは二番出汁だ。

 一番出汁で使った昆布と鰹節のだしがらに、水を入れ沸騰させる。

 沸騰したら弱火にして、5分間煮出す。

 追い鰹を入れ、弱火のまま2分間煮出す。

 あとは布で絞るように濾して、出来上がり。

 一番出汁に比べると二番出汁は少し濁っている。


 澄んだ味にはならないが、うまみが強く、煮物なんかで使える。

 こちらも3人で味見をし、用途の違いを説明した。


 次に作るのは、和食の定番である「味噌汁」のつもりだった。

 せっかく味噌が作れるようになったので、味噌汁を作る予定だったのだが、思いのほか一番出汁の出来がよかったので変更することにした。


 それに、味噌汁と言ったら豆腐もほしい。

 手元に“にがり”なんてものはない。

 確かマグネシウムが主成分だったはずなので、なにかで代用できないか今度挑戦してみる。


「よし、今から“すまし汁”を作る」

「すまし汁……?」

「すまし汁と言うのは、鰹節や昆布などで取った一番出汁を、醤油と塩で味付けした澄んだスープのことだ」

「澄んでいるからすまし汁か」

「そういうこと! すごくシンプルなスープなんだけど、シンプルなものだからこそ、出汁の出来でおいしさが決まる」

「昔、お高い料亭で飲んだすまし汁良かったなぁ。どんな料理よりも最初に出たすまし汁が一番おいしかった」

「最初に出るすまし汁によって、その店の味が分かる。店で使う出汁をダイレクトに味わうことによって、そのあとに続く出汁を使った料理の味がどのようなものかもわかる。なんなら、上手く出汁を取れているかで、その店の料理の腕まで分かるからな」


「ほぅ、なるほどな」

「てかてか、リクが珍しく熱く語ってるね! あとでみんなに教えてあげよっ!」


 俺の話にフィーナが笑いながら、いたずらっぽい顔で突っ込んできた。


「あ、ごめん、好きだから、つい……」

「いいよいいよ! でも、リクがそれだけ言うんだから期待しちゃうよ?」


 俺は気を取り直して、再び鍋に向かう。

 鍋にだし汁、醤油、塩入れ、煮立たせる。

 そこに薄切りのしいたけ、4㎝ほどに切った水菜を入れ、2分ほど煮込む。

 味を見て、完成。

 湯気がふんわりと立ち上る光景に、俺は一瞬見とれてしまう。


 本当は三つ葉やお麩なんかを入れたかったが、仕方がない。

 しかし、しいたけはうまみの相乗効果を得られるし、水菜は味の邪魔をしないので悪いチョイスではない。


 器によそい、3人は卓につく。


「では、いただきます」

「いただきまーす!」

「ん……それはなんだ?」


 俺とフィーナは当たり前のように“いただきます”したが、コーネリアにはまだ教えていなかった。

 改めて食前のあいさつを教える。


「なるほど、では私も、いただきます」


 コーネリアが一言添えた後、全員ですまし汁に口をつける。

 口に広がる香りと共に、体の芯から温かさが広がる感覚が俺を包み込む。


「うん、おいしい。思っていた以上においしく出来てる」

「出汁と醤油の香りがすぅーって通ってきて、身体に染み込むよ!」

「これは具が少ないというよりも、出汁を味わうためのスープなんだな。心も身体も温まる」

「さすが、リクだね。おいしいものいっぱい作れるし、尊敬しちゃう!」


 自分でも驚くほどのおいしいすまし汁が作れた。

 でもこれはセレスティアルや黄金の鍋、魔法を使ったからだ。

 魔法を使ってようやく料亭の味に並ぶということは、魔法なしで作ってる向こうの人たちは本当に凄腕なんだと痛感する。

 素材選びから火加減までいろいろとこだわっているんだろうな。


「なあ、リク。出汁はまだまだあるわけだ。さらにその“わしょく”と言うのを作るんだろう?」

「あ、ああ、そうだな、なにを作ろうか」

「あたし、もっとリクの故郷の味、食べたい!」

「もちろんだ。和食はまだまだ奥が深いから、もっといろんな料理を作るよ」



 鰹節、味噌、醤油がある。

 あとは清酒とみりん、米酢もほしいな。

 こちらの世界で和食で勝負していくつもりはない、ただ自分が和食を食べたいからほしいというのもある。

 みんなも和食を喜んでくれてるみたいだし、和食の魅力を伝えながら、この世界で新たな挑戦を続ける決意をした。

読んでいただきありがとうございます!


今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いします。

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