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第15話 王子の挑戦

調理の描写は基本的にリクと相手は同時進行しています。

なにを作っているかわかりやすいようするため、本文では一気にひとつの料理をしているような表現になっています。

料理の内容によっては氷冷箱で冷やしている間や、煮込んでいる間に別の料理に取り掛かっています。

 先日、ついにウスターソースを完成させ、今は鰹節の研究をしている。

 カツオもアタアクアから送ってもらった。

 アタアクアの町長にはお世話になりっぱなしなので、いつかお返しに行かなければならない。


 と、鰹節の話に戻るが、鰹節にはカビをつけるものがある。

 水分が抜け保存性が高くなり、風味も強くなる。

 “黄金の鍋”を使えば、麹がなくても醤油や味噌が作れたので、この鍋で燻製をすればカビ付けも出来るのではないのかと考えている。


「お兄様が帰ってくるわ!」


 カツオを捌いていると、突然、レイラが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 手に持った包丁が少し滑りかけて、俺は慌ててそれを持ち直した。


「お兄様って、テオドール王子のことか?」


 俺は少し驚きながら聞き返す。

 レイラが話すお兄様、テオドール王子は、隣国の有名な学府に留学していると聞いていた。

 そんな彼が、長期休暇を利用して王城に帰ってくるらしい。


「ええ、そうよ。それでね、お兄様って本当に素敵なのよ! とても優秀で、どんなことも完璧にこなすの。剣術も、学問も、料理も……何でも!」


 レイラは誇らしげに話すが、なぜかその言葉に少し引っかかるものを感じた。


「料理も得意なのか?」


 俺がそう尋ねると、レイラは頷きながら微笑んだ。


「うん、そうなの♪ バトルキッチンだったらリクでも苦戦するんじゃないかなぁ」


 彼女の瞳は自信に満ちていた。

 嫉妬なのか、俺は内心、ムスッとしていた。


――――――――――


 数日後、王城にテオドール王子が帰還した。

 彼はレイラの兄に相応しいイケメンで、堂々とした立ち振る舞いが印象的だった。

 背が高く、整った顔立ちに鋭い瞳。

 まさに“王子様”そのものだ。


 レイラがテオドール王子に駆け寄って楽しそうに話している。

 するとテオドール王子がこちらにやってくる。


「君が、リク・アマギかい? レイラからの手紙に書いてあったよ」


 テオドール王子は俺を鋭い目で見つめながら、静かに問いかけてきた。


「はい、初めまして。リク・アマギです」

「こちらこそ、初めまして。ノルティア王国王子テオドール・グレイシャルだ」


 俺は丁寧に頭を下げたが、彼の表情が微かに険しくなった。


「レイラが君のことを絶賛していたが、その実力がどれほどのものなのか、確かめさせてもらいたい」


 俺は一瞬、息を飲んだ。

 彼の言葉は冷静だったが、その裏には強い対抗心が感じられた。

 何を言いたいのか分かってしまった。

 しかし……


「何をおっしゃりたいのですか?」


 俺がそう聞くと、テオドールは口元に軽い笑みを浮かべた。


「バトルキッチンだ。僕と君、どちらが王族にふさわしい料理を作れるか、勝負しよう」


 その言葉を聞いた瞬間、周囲が一瞬で静まり返った。

 バトルキッチン、しかも相手は王子。

 勝負の提案に俺は一瞬戸惑ったが、逃げられそうにない。

 逃げる気もない。


「いいでしょう。ただし、バトルキッチンである以上、なにかを賭けるということですよね?」


 俺は彼にそう返すと、テオドールは微笑を浮かべながら頷いた。


「君が勝ったら、何を望む?」


 正直、今は特にほしいものがない。

 ましてや王子様に変なものを望むわけにもいかない。

 少し考えてパッと思い浮かんだものを答える。


「王都で一番人気のお菓子屋のケーキが欲しい」


 俺が答えると、テオドールは目を細めて微笑んだ。


「そんなことでいいのかい? 簡単だな。じゃあ、僕が勝ったら、君はレイラとの結婚の権利を得る」


「「「ええっ⁉!?」」」

「けけけ、結婚っ⁉ 私とリクがっ⁉」


 レイラも俺も周囲の人間も驚きの声を上げたが、テオドールは真剣な表情のまま、俺をじっと見つめている。

 王子としての責任を果たすかのように、彼はその提案をした。


 セレスティアルに選ばれたという特殊な立場とは言え、俺は平民。

 この国では王族と平民は結婚出来ないとされている。

 そこでテオドールは俺がレイラ王女と結婚できる権利を与えようとしているわけだ。


 ――ちょっと待て。

 俺が負ければ、レイラと結婚する可能性が出てくるってことか。

 レイラは確かに美人で性格も明るく、非の打ち所がない理想的な女性だ。

 結婚したくないのかと聞かれたら……俺にはもったいないくらいの女性だと思う。

 でも俺は元の世界に戻りたい……。


 ……本当に戻りたいのか?


 一瞬、迷いが心をよぎる。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 結局のところ、王子様の提案を無下にするわけにはいかない。


「わかりました。その条件で大丈夫です」


 俺は覚悟を決め、テオドールの提案を受け入れた。


 テオドールは最初、俺に敵対心があるように見えた。

 しかし、提案からすると妹の相手に俺がふさわしいのか、力を見極めたいようだ。

 本心はわからないが、今はバトルキッチンに集中しよう。


 ――――――――――


 厨房ではバトルキッチンの準備がされる。


 審査員として、国王と王妃が座っている。

 彼らの前で、俺とテオドールはその腕前を競うことになる。


「リク君、あまり緊張しなくていい。君の実力は私が保証する」


 ガーネットが背中を押してくれる。

 その声に勇気をもらいながら、俺は調理の準備をする。


 レイラもイリスもフィーナも立場があるので、残念ながらこちらの味方にはなってくれない。

 あちらの応援をするというわけでもないようだが……。


 そして、レイラの兄、テオドール王子との対決が始まる。


 イリスが中央に立ち、テーマを発表する。


「今回のテーマは『ランチセット』です。両者は王族にふさわしい料理を作り、その出来栄えを国王様と王妃様が評価されます」


 テーマは事前にテオドールから提案されていた。

 そのときのテオドールが自信満々だったのは、彼なりのプライドがあるからだろう。

 彼はノルティア王国の王子にして、多才であり、どんな分野でも他人に負けることがなかったらしい。

 料理の腕もその例外ではない。


 もし俺が負けたら……レイラと結婚する権利を得ることになってしまう。

 今後のこともあるから、今はその権利を受け取るわけにはいかない。

 まあ、俺が勝てば、王都一番人気のお菓子屋のケーキをいただけるので、それは楽しみにしておく。


「テオドール王子が勝てばリク・アマギにレイラ王女との結婚の権利が与えられ、リク・アマギが勝てば王都一番人気の製菓店のケーキを得られます。それでは、バトルキッチン開始してください!」


 イリスの声が厨房に響き渡る。


 調理開始


『リクのランチセット』

 サラダ:タマゴサラダ

 スープ:ミネストローネ

 メイン:照り焼きチキン

 デザート:レモンのレアチーズケーキ


 まずはデザートのレモンのレアチーズケーキだ。

 レモンの輪切りをはちみつに漬けて氷冷箱にいれておく。

 セルクル(丸い型)に砕いたビスケットを溶かしバターで馴染ませてから底に敷き詰める。

 クリームチーズに7分立ての生クリーム、砂糖、レモン果汁、すりおろしたレモンの皮、ふやかした魔法のゼラチンを入れて良く混ぜてセルクルに流し込む。

 氷冷箱に入れて、固まったらはちみつ漬けのレモンをカットし、飾り付けて完成する。

 クリームチーズとレモン汁を合わせてさっぱりとさせ、皮の苦みがいいアクセントになる。

 最後に食べる甘さ控えめのデザートが、ランチセット全体を引き締める役割を果たすだろう。


 ケーキを冷やし固める間に、ミネストローネに取り掛かる。

 トマトベースのスープで、野菜をたっぷり使い、コクを出す。

 1㎝角に切った野菜(玉ねぎ、“妖精のニンジン”、セロリ、ズッキーニ)を、みじん切りのにんにくと共に黄金の鍋で丁寧に炒める。

 カットした“深紅のトマト”、ローリエ、水を入れ、塩コショウして煮込む。

 ミネストローネらしい酸味と甘みが絡み合った香りが広がる。

 ここで隠し味にウスターソースを少量投入。

 ウスターソースがトマトの酸味、野菜の甘みと融合して、さらに深みのある味わいに仕上げる。

 黄金の鍋のおかげで、普段より鮮やかで深い赤のミネストローネが出来上がった。

 俺の調理技術、こちらでつけた知識、セレスティアルと黄金の鍋の力が存分に発揮される料理だ。


「これで、食べ応えもありつつ、栄養バランスの良いスープが完成だ」


 次に、タマゴサラダ。

 ゆで卵をつぶして、マヨネーズや塩コショウで味を整えるシンプルなサラダだが、卵のゆで加減と調味料のバランスが肝だ。


 実はこの世界にもマヨネーズはある。

 卵の黄身とオリーブオイル、塩、ビネガーでつくられ、ちゃんと乳化しているソースで、肉や魚料理などに使われている。

 しかしこれは元の世界にあるマヨネーズと配合が違い、柔らかい食感もない。

 あくまでトロっとしたソースだ。

 今回はもちろん元の世界にあるマヨネーズでタマゴサラダを作る。


 ボウルに卵黄、塩、ビネガーを入れ、もったりとするまで、泡立て器でよく混ぜ合わせる。

 オリーブオイルを少しずつ加え、そのつどよく混ぜ合わせる。

 大変だがしっかりホイップするように混ぜる。

 白っぽくクリーム状になったら完成。


「よし、いつもの味だ……」


 ゆで卵の黄身の具合は人それぞれ好みがあるので、固ゆで一歩手前くらいにしておく。

 ゆで卵はセレスティアルに魔力を込めて叩く。

 こちらも好みになるが、俺はほどよく荒めに潰すのが好きだ。

 潰したゆで卵とマヨネーズ、塩、コショウを混ぜ合わせて、タマゴサラダの完成だ。

 “ねり辛子”も入れたいところだが、ここはマヨネーズを味わってもらいたいので我慢。


 最後に照り焼きチキン。

 フェアリーチキンの鶏もも肉を選び、余分な脂を取り除いた後、厚みを均一にするため、厚い部分に包丁を入れ外に開く。

 塩コショウで下味をしっかりとつける。

 フライパンで皮目からしっかり焼く。

 パチパチと心地よい音が鳴り、皮がきつね色に変わり、香ばしい香りが立ち上がる。

 そこでひっくり返し、火を通す。


「焼き加減は慎重に……」


 ジューシーさを保ちつつ、外側はカリッと仕上げる。


 出てきた油はふき取って、醤油、白ワイン、砂糖を合わせた甘辛いタレを絡める。


 みりんと日本酒がないのが痛い。

 いずれは作って日本食のレパートリーを増やしたい。


 タレが鶏肉に絡み、表面が輝くように艶やかになる。

 甘く香ばしい匂いがキッチン全体に広がり、みんなの食欲をそそる。

 俺が照り焼きチキンを焼き上げるころには、テオドールもサーモンを使ったメインディッシュに取りかかっていた。



『テオドールのランチセット』

 サラダ:特製サラダ

 スープ:白ワインベースの魚介スープ

 メイン:ノルティア風サーモンのグリル

 デザート:ベリーのタルト


 彼も時間のかかるデザート、ベリーのタルトから手を付ける。

 タルト生地を手早く作り、タルト型に入れ、フィリングを流し込み、焼く。

 オーブンの中で焼き上がる間、甘い香りが漂い始め、ふわっとした温かみが厨房を満たしていく。

 焼きあがり、粗熱がとれたら氷冷箱に入れて冷ます。

 生クリームをたっぷりと敷き、その上にストロベリーとブルーベリーが丁寧に並べられていく。

 食事のクライマックスを飾るにふさわしい、彩り鮮やかで目にも楽しいタルトが出来上がった。


 早い……。

 彼の動きは洗練され、プロ並みスピードで作業している。

 なんでもできる天才とは聞いていたが、ここまでとは……。

 才能と英才教育の賜物か。


 俺が驚きながらミネストローネの野菜を切っていると彼も次の作業に移る。


 続いて、特製サラダ。

 新鮮な野菜を贅沢に使い、特製のドレッシングで味を整えている。

 特製のドレッシングは、まろやかな酸味と少し甘みのある味わいが特徴で、野菜の持つ自然な味を引き立てる。

 シンプルでさっぱりとした味付けなのはメインとのバランスを考えてのことである。

 彩り豊かな野菜にドレッシングが掛けられキラキラと美しい。


「オリーブとケッパーが入ってる……!」


 つい口に出てしまったが、俺はオリーブとケッパーを使ったドレッシングが好きなんだ。

 あとで味見させてもらおう。


 次は白ワインベースの魚介スープ。

 エビやホタテ、アサリといった海の恵みがふんだんに使われている。

 見たことのないマッシュルームのようなキノコ、玉ねぎ、にんにくなど各種スパイス、“エルフの香草”、高そうな白ワインを加え、コトコト煮込む。

 白ワインの酸味が魚介の甘みを引き出し、香り高い仕上がりになっている。

 サラダに続いてスープもまた輝いてみえるほどに美しい。


 最後に彼のメイン、ノルティア特産のサーモンを使ったグリル。

 サーモンを適切な火加減で焼き、皮はパリッとしていて、身はふっくらと柔らかい。

 見ているだけでも、その香ばしさが伝わってくる。

 さらに、サーモンの上にノルティア名物のハーブバターにレモン汁を加えたものをたっぷりと塗り、香りを引き立てていた。

 このサーモンのグリルもまたノルティア王国の伝統料理のひとつである。


 添え物のマッシュポテトに溶け出したバターソースをつけて食べたら絶対にうまい……!

 今度は我慢して口に出さなかった。


「これが王族の料理だ。上品さと豪華さが共存しているだろう?」


 テオドールが自信たっぷりに言う。


「さすがです、王子。ここまで出来るなんて正直思っていませんでした」


 本音で答えてしまったところで、イリスに「失礼でしょ」と怒られた。



 審査の時間:王と王妃の評価


「さあ、審査の時間だ」


 国王がその威厳をもって告げた瞬間、会場の空気が一層引き締まった。

 まずはテオドールの料理から試食が始まる。

 国王と王妃は、まずサラダに手を伸ばした。


「野菜が新鮮なのはもちろんだけど、ドレッシングが野菜の甘みを引き出しているわ。あなたの作るドレッシングはやっぱり素敵ね」


 王妃は微笑みながら、淡くピンクがかった口元で感心したように言う。


 続いて、魚介スープ。

 銀製のスプーンが静かに白ワインベースのスープをすくい、国王の口へと運ばれた。


「白ワインの酸味が魚介の旨味を引き出していて、非常に香り高い」


 国王は眉間に深い皺を寄せながら、目を細めて味わっている。

 厳しい審査にもかかわらず、満足げな声が響く。


 次はメインのサーモンのグリル。

 ナイフを入れると、皮がパリッとした小さな音を立てて崩れ、切れ目からふっくらとした身が現れる。

 そこにハーブバターが溶け込み、レモンの香りがふわっと立ち昇る。

 見ているだけでその芳醇な香りが鼻をくすぐり、食欲をそそられる。


「ふむ、サーモンの皮は香ばしく、身はふわっとしている。ハーブバターとの相性も素晴らしい」

「さすがね、テオドール」


 国王は唇に残った一片のバターをナプキンで拭いながら頷く。

 国王も王妃も満足そうな顔をしている。


 最後はデザート。

 ベリーのタルトに王妃は見惚れたようで、その鮮やかな色合いに目を奪われている。

 タルト生地の上に並べられたストロベリーとブルーベリーの赤と青が、クリームの純白と見事なコントラストを描き出していた。


「ベリーのタルトも、甘さと酸味のバランスが素晴らしいわ。ベリーの自然な酸味が、タルトの甘みを引き立てている」


 王妃はタルトを楽しそうに頬張った。

 まるで子供のように無邪気な表情だ。


「生クリームの量もちょうどいい。少ないと寂しいが、たくさんあると食べられない。私の好みをよくわかっている」


 国王の好みにも合う甘さのようだ。


 そうか、審査しているふたりの好みを分かっている分、あちらが有利だということに今更気づいた。


「まあ、レイラには何度も料理を食べてもらってるし、大丈夫だろう……」


 何を作っても大体はおいしいと言ってくれるレイラ。

 国王も王妃も嗜好は同じであってほしい。



 次に、俺の料理だ。

 まずはタマゴサラダから食べてもらう。

 国王はがフォークでタマゴサラダをすくい、一口食べて不思議そうに俺に質問をする。


「このタマゴサラダに使っているのはマヨネーズソースか? 卵にマヨネーズは初めてだが、確かに合う」


 俺は軽く頭を下げた。


「はい、その通りです。こちらの世界にもマヨネーズはありますが、今回は私の世界のマヨネーズを使いました。お気に召していただけたようでなによりです」


 俺はこういうかしこまった席は苦手で、普段からこのおふたりには近づかないようにしていた。

 言葉遣いが間違っていないか心配だ……。


 王妃も続けて一口食べると、微笑みを浮かべた。


「とてもまろやかで食べやすい。卵とマヨネーズのバランスがちょうど良いわ」


 続いて、ミネストローネスープ。

 スープがカラフルな野菜の色合いを見せながら、ほのかに漂うトマトの酸味が鼻をくすぐる。


「このスープ、野菜の甘みがしっかりと出ている。トマトの酸味と野菜の旨味が混ざり合っていて良い」

「こんなにおいしいトマトスープは初めてです。さっぱりとしている中にもコクを感じますわ」


 国王も王妃も感心したように言った。


 そして、最後は照り焼きチキン。


「この鶏料理は初めて食べるな……」


 照り焼きチキンに前にした国王が、物珍しそうに言った。


「こちらの照り焼きチキンは私の国で生まれた料理で、伝統の調味料である“醤油”を使っています」

「なるほど、この独特の色と香りはその調味料によるものなのか……」


 国王はチキンにナイフを入れ、香ばしいタレが絡む一片をじっくりと観察してから食べる。


「……うむ、このチキン、非常に香ばしく、甘辛いタレが絶妙だ。一見シンプルだが、深い味わいがある」

「初めての味ですが、これはクセになる味ですわね」


 チキンを口に運ぶ国王の動作はゆっくりで、味わいを確かめるかのようだった。

 王妃もその独特の味に驚いた様子で微笑む。


「ふぅ……私の国の味が認めていただけて嬉しく思います」


 醤油や味噌は身近な人たちにも好評だったし、日本の味は少なくともこの国の人たちの口に合うようだ。


 そして最後に、レモンのレアチーズケーキ。

 王妃がそのひんやりとしたケーキにフォークを入れると、レモンの香りがふわりと漂う。

 一口食べた瞬間、その表情がパッと明るくなった。


「こちらのチーズケーキ、非常に爽やかね。口の中をさっぱりとさせてくれるわ」

「レモンとチーズの風味が口の中で広がり、甘味、酸味、苦味のバランスも良い」


 俺の料理も評価され、会場には再び緊張感が戻る。


 たくさん褒めてはくれたが、テオドール王子と比べてどうなんだ?

 目新しさだけならこちらが優勢だが、どちらの方がおいしいかと言うのは別の話だ。


 多少の心配もあったが、こちらも全力を出したので、ただ結果を待つのみ。



 そして、国王が結果を発表する。


「今回のバトルキッチン。勝者はリク・アマギである」


「「「おおぉ……!!」」」


 結果を聞いた人たちがどよめき立つ。

 そこに続けて国王が総評を述べる。


「テオドールの料理は我が国の伝統を重んじる、大変素晴らしいものばかりだった。そして、リクの料理もまた同等においしく、含まれる魔力量も同等に感じられた」

「しかし、リクの料理はこの国を、いや、この世界の料理を変える可能性を感じた。皆、リクの勝利を称えよ」


 観戦していた人たちは盛大な拍手を俺に送ってくれた。


「ど、どうも……」


 俺は少し気恥ずかしくなりながらも、笑顔を浮かべて礼をする。

 一方、テオドールは驚いた表情を見せたが、すぐに俺に笑顔を向けた。


「君の実力、確かに見せてもらったよ。それだけの実力があれば妹を任せられそうだ」


「ん……? 俺が勝ったから権利のあれこれは無くなったのでは……?」

「ああ、それはまたおいおいということで……とにかく君の勝利だ、おめでとう」


 とびきりの王子スマイルをかまされて、ごまかされた。


 ――――――――――


 レイラは共に打倒料理皇帝の志を持ち、料理の道を進む大切な仲間だと思ってる。

 だからと言って結婚するかと言われたらそれも違う、と思う。

 今まで料理以外のことに無頓着過ぎたことを自覚する。

 せっかく異世界なんて特別な環境に置かれているんだ。

 この機会に自分のことを見つめ直してもいいかもしれない。


 それにしてもこの世界を変える料理か……。

 元の世界にもそういった歴史に名を残す料理人たちはいたが、自分自身がそうなるかもしれないなんて想像もつかなかった。


 いろいろ考えることがある。

 でも今日は疲れた。


 ……とりあえずは目の前のことを頑張ろう。

読んでいただきありがとうございます!


今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いします。

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