第12話 イリスとヘルシー
おいしーヘルシー棒棒鶏。
俺たちが王城に戻ったのは、海沿いの町「アタアクア」でのバトルキッチンから数日後のことだった。
勝利に慢心することもなく、俺はさらなる研鑽を続けていた。
(ほんとはちょっとみんなでのんびりしてきた)
そして、次の相手が現れた。
俺の魔法の先生であり、頼れるお姉さんでもあるイリスだ。
「リクさん、今日は私と戦って更にステップアップをしてもらうわ。セレスティアルの力も随分使いこなせるようになったみたいだけど、まだ私に勝てるほどではないでしょうし」
彼女の涼しげな声に、俺は少し緊張を覚えた。
「ぐっ……魔法はともかくバトルキッチンなら負ける気はしませんよ!」
以前よりは楽にセレスティアルを扱えるようになった。
しかし、王国の高位魔法使いであるイリスにバトルキッチンで勝つ自信があるかと言われれば、それは微妙だった。
「そもそも、戦うって、バトルキッチンでの勝負ってことで、いいんだよな?」
俺が確認すると、イリスはにこやかに微笑んだ。
「ええ、もちろん。魔法の扱いじゃ勝負にならないでしょ?」
「ですよね……」
「ただね、今回はちょっと特別。セレスティアルの力を存分に活かして、魔法も使って、もっと創造的な料理を作ってみせなさい」
「創造的……」
俺は、セレスティアルを手に、少し考え込んだ。
確かに最近は魔法を込めて料理することにも慣れてきたが、イリス相手に通用するかどうかは別問題だ。
彼女は魔法の使い手だけでなく、料理人としても一流と聞いていた。
そんな彼女に勝つには、俺も全力を尽くす必要がある。
――――――――――
イリスは準備を整え、厨房に立っていた。
彼女の涼やかな瞳が俺をじっと見据え、まるで俺を試しているかのようだ。
彼女の勝負の意図は明確だった。
俺にさらなる成長を促し、より強く、よりクリエイティブな料理人へと導くためだ。
「それで、テーマはどうするんだ?」
俺は彼女に尋ねた。
「今回のテーマは『ヘルシー』。でもね、ただのヘルシーじゃダメよ。あなたには想像を超えた料理を期待しているわ。もちろん、魔法を使ってね」
俺はイリスの言葉に少し緊張しながらも、心の中で自分を奮い立たせた。
セレスティアルの力を駆使して、彼女を驚かせるような一品を作らなければ。
「よし、やってみるか!」
と、気合いを入れたところでイリスが提案をする。
「せっかくだし、何か賭けない?」
「えぇ……?」
「その方がやる気でるでしょう?」
「えっとねぇ、私が勝ったらふたりでデートしましょ?」
こちらの返事を待たずイリスは続ける。
「あなたが勝ったらとびきりの美人(私)とデートできるってことで決まりね。はい、けってーい!」
「ちょっと、勝手に決めないでくださいよ!」
「いいじゃない? 勝っても負けてもあなたはなにも損することないのよ?」
「そ、そうかなぁ」
「久しぶりのバトルキッチン、気合いが入るわ!」
彼女は久しぶりのバトルキッチンということでテンションが上がっているようだ。
「まあ、イリスさんと出かけること自体は嫌じゃないから、その条件でもいいか。ははは……」
そんなこんなでイリスが開始の宣言をする。
「今回のテーマは『ヘルシー』。料理を一品ずつ作り……誰かに評価してもらいましょう。リクさんが賭けるものはデート権。私が賭けるのもデート権。それでは、バトルキッチン開始!」
「あ、はい。バトルキッチン開始ですね」
イリスに気圧されたが、勝負である以上、本気で挑む。
今回は、体に優しい料理を作る。
俺が選んだのは、アルティナで採れる特別なかぼちゃ「サンライズパンプキン」だ。
鮮やかなオレンジ色の皮と、甘さが際立つクリーミーな果肉が特徴である。
果肉は火を通せば、ほっこりと柔らかくなり食感が良く、甘みがあり、栄養価も高い。
まさにヘルシー料理にぴったりの素材だ。
これを“ポリッジ”に取り入れることにした。
“ポリッジ”はオートミールを牛乳で煮て作るおかゆで、イギリスでは朝食として昔から食べられている。
サンライズパンプキンのクリーミーさとポリッジの相性はいい“はず”だ。
元の世界でも俺はポリッジにかぼちゃを入れたことはない。
つまりはぶっつけ本番。
イリスに言われた「創造的な料理」を作るならこれくらいはしなければ……!
まず、俺はかぼちゃの準備に取りかかる。
セレスティアルであれば固いかぼちゃであろうが楽々切れる。
中の濃いオレンジ色の果肉が姿を現し、その甘い香りがふわりと広がる。
丁寧に種を取り除き、果肉を一口大にカットする。
皮を切り落として、蒸し器にかける。
隣でイリスも着々と調理を進めている。
彼女は、以前レイラも使っていたフェアリーチキン、その胸肉に手を付けた。
フェアリーチキンは、低脂肪で高タンパク、そして柔らかい肉質が特徴だ。
特に胸肉は脂っこさがなく、ヘルシーさを意識するのにはぴったりだ。
「リク、このフェアリーチキンはね、温度管理によって出来上がりが変わってくるの。特に胸肉は低温でじっくりと茹でることで、しっとりと仕上がるわ」
彼女は魔力を注ぎながら、チキンを丁寧に茹で上げていた。
パサつきやすい鳥胸肉をしっとりと食べやすく仕上げるための魔法があるのだろう。
一方で俺は鍋にオートミール、牛乳、塩ひとつまみを入れて煮込んでいく。
小さな泡が鍋の縁に浮かび始め、温かいミルクの香りが漂い始める。
柔らかくなったかぼちゃを鍋に加えて、塊を崩すように混ぜる。
サンライズパンプキンは軽く混ぜただけでもほろほろと崩れて、その鮮やかなオレンジ色がミルクの中に溶け込んでいく。
イリスは、茹で上がった鶏肉を冷ましている間にトマトときゅうりを切る。
すり鉢で白ゴマをすりつぶし、ビネガー、オリーブオイルなどを入れ、ソースを作っている。
皿にきゅうり、トマト、きれいに割いた鶏肉を盛り、ゴマソースをかける。
鶏胸肉と野菜のバランスの取れたサラダだ。
ゴマソースがヘルシーながらもコクのある風味を引き出しているのがわかる。
……ってこれ、バンバンジーだ!
「うん、これならレイラにも喜んでもらえそうね」
俺もかぼちゃのポリッジを皿に盛り、シナモンパウダーで軽く風味付けをする。
シナモンもまた血の巡りをよくし、体の冷えを取り除くといった健康効果がある。
イリスの「フェアリーチキンのサラダ」と俺の「サンライズパンプキンのポリッジ」が出来上がった。
いよいよ審査の時間が来た。
審査をお願いしたレイラ、ちょうど厨房にやってきたフィーナとコック長が審査員として座った。
「まずは俺のポリッジからどうぞ」
俺のポリッジは、サンライズパンプキンの甘さと旨みがミルクと混ざり合い、見た目も鮮やかなオレンジ色に仕上がっている。
「リクのおかゆだ!」
フィーナが慎重にスプーンでポリッジをすくい、口に運ぶ。
すると、彼女の目がキラキラ輝き、スプーンが止まらなくなる。
レイラも一口味わってコメントする。
「うん……このかぼちゃの甘み! オートミールとミルク、かぼちゃが完璧に調和してるわ。食べると体がほっとする、まさに癒しの料理ね」
「これは体に優しい味だ。かぼちゃの自然な甘さがふんわり広がっていく。それでいて満足感がしっかりある……うん、ヘルシー料理としては満点だ」
コック長も満足そうだ。
次はイリスの番だ。
「次は私のフェアリーチキンのサラダを召し上がれ」
レイラがフェアリーチキンを口に運ぶと、その顔に驚きの表情が浮かんだ。
「うわぁ、このフェアリーチキン、ものすごく柔らかい! しかもゴマのソースがちょうど良く絡んでいて、鶏肉の淡泊な味をしっかり引き立てているわ!」
フィーナも「うんうん」と、うなずきながら食べ続ける。
「これも本当にヘルシーで満足感がある。さっぱりとしているのにフェアリーチキンのうまみが出ている。しっかりと食べ応えがあるのがいい」
コック長も満足そうに感想を述べた。
審査は拮抗し、今回のバトルキッチンは“引き分け”という結果に終わった。
味やヘルシーさは同等。
魔力量はイリスが勝っていたが、俺は創造性が評価された。
イリスのフェアリーチキンのサラダも、俺のサンライズパンプキンのポリッジも、ヘルシーな料理としてお互いに高く評価された。
「ふふ、引き分けちゃったわね。デートはお預けかぁ」
イリスはそう言うが、ガッカリした感じはない。
「でも、リクさん、実際に対峙して、あなたの成長がしっかりと感じられてよかった」
イリスは優しく微笑みながら、俺の成長を喜んでくれた。
「ありがとう、イリスさん。でも次は、俺が勝ってみせる」
「うん、再戦、楽しみにしてるわね」
こうして、俺たちのヘルシー対決は幕を閉じた。
俺自身、成長していると感じるが、まだまだ強敵との戦いは続く。
魔法も料理もさらに鍛錬を頑張ろう。
「ちょっと、リク! 今回は引き分けでデートがなくなったけど、再戦するってことは、やっぱりイリスとデートしたいってこと⁉」
まずはレイナへの言い訳を頑張ろう。
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