第11話 砂浜たこかに合戦!
水着回。
「海沿いの町『アタアクア』に料理皇帝ラズフォード・アルカディアの配下の料理人が現れた」
王城にその報告が届くと、俺たち4人は急ぎその町へ向かうことになった。
アルティナの町での勝利からそれほど時間は経っていないが、また新たなバトルキッチンが待っている。
アルティナよりも離れたところということもあり、今回の移動は馬車が用意されていた。
次から遠征に行くときは近くても絶対に馬車をお願いしようと思う。
「海かぁ……久しぶりに砂浜で遊べるっ!」
フィーナが元気に声を上げる。
海に向かう道中、彼女のテンションは明らかに高くなっていて、戦いが控えていることをすっかり忘れているようだ。
「フィーナ、油断しすぎ。相手は料理皇帝の配下なんだから、真剣に挑まなきゃ!」
レイラも注意するが、その口調がどこか弾んでいる。
彼女もまた、海という特別な場所に気持ちが踊っているのだろう。
「まぁまぁ、リラックスして楽しむことも大事よ。何といっても、水着での勝負だから」
イリスは俺の肩に軽く手を置きながら微笑む。
その笑顔には、包容力のあるお姉さんらしさが滲んでいる。
「そっか、水着でのバトルなんだよな……」
俺は思わずため息をついた。
アタアクアのバトルキッチンの会場は砂浜にあり、水着の着用が義務付けられている。
相手もその町の風習に倣って水着で勝負に挑むらしい。
逃げ場はない。
――――――――――
海沿いの町アタアクアに到着する。
目的地の砂浜に到着すると、白い砂が一面に広がり、波の音が心地よく耳に響いていた。
海の青さと空の広がりが、日常の煩わしさを忘れさせてくれるようだ。
「ねえ、リク、早く水着に着替えようよ!」
フィーナが俺の腕を引っ張って更衣室に連れていく。
俺はしぶしぶながらも水着に着替えた。
結局、俺に合わせて(戦わないから着替える必要のない)3人も水着に着替えることに。
そこで俺を待ち受けていたのは――。
「どうかしら? この水着、似合ってる?」
イリスはさりげなくポーズを取りながら微笑む。
彼女の白いビキニが、どこか妖艶な雰囲気を漂わせていて、視線を逸らすことができなかった。
「イリスさん、すごく似合ってるよ。でも、こういう場面で直に褒めるのは、すごく照れる……」
俺が照れながらも素直に褒めると、イリスは優しく微笑み返してくれた。
「リク、私もどうかな?」
レイラもかわいいポーズで俺に尋ねる。
そのシンプルで上品なデザインが、彼女の清楚な雰囲気にぴったりだった。
「もちろん、レイラもすごく綺麗だよ。海の景色にも負けないくらい」
「そ、そんなに褒めなくていいのに……!」
なにかの雑誌で読んだちょっとクサい誉め言葉を使わせてもらった。
レイラは頬を赤らめ、視線を少し逸らした。
そして、元気いっぱいのフィーナが俺に飛びかかってきた。
「ねえねえ、リク! 私の水着も見て! ほら、どう? 似合うでしょ!」
フィーナの水着は、彼女らしい元気なデザイン。
俺が驚いた顔をしていると、彼女はニッと笑って両手を広げてみせた。
「うん、フィーナもすごく似合ってる。元気な感じが伝わってくるよ」
「へへっ、ありがとう!」
そのとき、俺たちの和やかな雰囲気を遮るように、向こうから声が響いた。
「楽しくやっているようだな! だが、その余裕がどこまで続くか!」
現れたのは、色白でひょろっとした体の男。
「あ、この町の方ですか? バトルキッチンの会場まで案内してもらえます?」
「お、お、お前! この俺は料理皇帝ラズフォード・アルカディアの配下、ギーグ・ハーバーだ!」
「そうだったのか、間違えてしまった」
「くっそー、バカにしやがってー!」
俺たちが水着で楽しんでいるのが気に入らないらしく、ギーグは苛立ちを隠せない様子で俺たちを睨み続ける。
「ただでさえ、バトルキッチンは水着を着なきゃいけないとか、くだらなねぇルールに従わされてイライラしてるのによぉ!」
ギーグはこちらをなめるように見て……
「でもなあ! 水着も悪くない! 特にそこのちっちゃい獣人族の女の子! カワイイ、うへへ……」
ギーグがフィーナをいやらしい目で見ると、フィーナはぶるぶると身震いをし、すぐに俺の背中に隠れた。
「き、きもちわるいよー!」
「大丈夫だ、フィーナ。俺が守ってやるから」
「リ、リク~」
フィーナがしがみついてくる。
それを見ていたレイラとイリスも抱き着いてくる。
「あの人、視線がいやらしいの。リクさん、守ってね」
「私のこともちゃんと守ってよね!」
「フン、イチャイチャしてやがって……くそったれ!」
鼻息を荒くしながら、ギーグは砂浜に設けられたバトルキッチンのステージに向かった。
俺たちもそのあとについていく。
アタアクアの砂浜に設けられた特設ステージ。
町長をはじめ、スタッフたちが準備して待っていたという。
白い砂浜がキラキラと輝く中、住人たちが集まり、バトルキッチンの開始を待ちわびていた。
俺たちが対決の場に立つと、ギーグが鋭い視線をこちらに向けてきた。
「それにしても、フィーナちゃんカワイイなぁ……よし、決めた! このバトルキッチン、俺が勝ったらフィーナちゃんをいただく!」
「「「はああっ⁉」」」
俺もみんなも驚いた顔を隠せない。
ギーグはニヤニヤしながらフィーナをじっと見つめる。
フィーナはものすごい嫌悪感を露わにしている。
「リク、ぜったい負けないでねっ!」
「もちろんだ」
あんなやつにフィーナを渡せるわけがない。
そして、こちらも条件を提示する。
「なら、俺が勝ったら、料理皇帝の一派はこのアタアクアには手を出さないってことでいいな?」
「……いいだろう。お前が勝てればな」
ギーグは鼻で笑いながら同意した。
こうして、俺とギーグのバトルキッチンが始まる。
レイラが凛とした王女様モード(水着のまま)で審査員の席に着くと――
「このバトルキッチン、審査員は私も務めさせてもらう!」
町長が大きな声で宣言しながら前に出てくる。
さらにテーマも勝手に決める。
「テーマは『海』。海の幸を使って、いかにして人々を魅了する料理が作れるか勝負だ!」
レイラも反対する理由はないので、そのテーマで決まった。
そして、イリスが開始の宣言をする。
「今回のテーマは『海』。料理を一品ずつ作り、その出来栄えをレイラ王女とアタアクア町長が評価するという形になります」
「リク・アマギが賭けるものはフィーナ・ローラン。ギーグ・ハーバーが賭けるものは料理皇帝がこの町には手を出さないという盟約。それでは、バトルキッチン開始!」
イリスの声が広場全体を盛り上げる。
ギーグはさっそく大きなカニを持ち出してきた。
すると、町長が突然叫ぶ。
「あれはジャイアント・デッドクロー!」
「ジャイアント・デッドクロー(Giant Deadclaw)
甲羅の直径が1メートルほどもある巨体で、魔力まで保有しているカニだ。
黒と深い赤の混ざり合った色で、まるで海底の暗闇に潜むかのような印象を与える。
特に、片方のハサミは異常に大きく、まるで「死の手」(Deadclaw)と呼ばれるほど強力な武器として恐れられている。
このハサミは獲物を一瞬で粉砕する力を持つ」
町長が解説を始めている。
「味に関しては普通のカニに比べて甘みが強く、脂がたっぷりと乗っている。
特にその巨大なハサミの肉は、ほのかな海の塩気と豊かな旨味が最高に調和しており、至高の食材として高級レストランでも取り扱われる。
わが町一番の海産物だっ!」
俺たち4人はあっけにとられたが、会場は大いに盛り上がる。
「俺はカニが大好きだ。カニを使えば、どんな料理でも絶対にうまくいくんだよ!」
ギーグは目を輝かせ、まるでカニに対する愛情を隠しきれないようだ。
その手際は意外にも鮮やかで、甲羅や足、大きなハサミの中身を丁寧に取り出し、素早く調理を進めていく。
太陽の光が照りつける中、銀色に光る包丁が滑らかに甲羅を裂き、カニの身が次々に現れる。
取り出したカニの身を細かくほぐし、甲羅に入れていく。
次に、ギーグはカニ味噌とにんにくやバターを混ぜた特性ソースをたっぷり和え、巨大なバーベキューコンロで焼き始める。
甲羅は火にあぶられ、香ばしい煙が空へと立ち上っていく。
甘く濃厚なカニの香りが海風に乗って広がり、観客たちの鼻孔をくすぐった。
カニの甲羅焼きというシンプルな料理だが、あれがジャイアント・デッドクローのうまみを最大限に活かす調理法なのだろう。
そこにギーグならではのカニへの愛情が垣間見える。
周りの観客からも「いい匂いだな」と声が漏れる。
一方、俺はタコを使うことに決めた。
タコはノルティア王国全体ではあまり食べる習慣がないが、この港町では日常的に食べられている。
「タコ……?」
レイラが嫌そうな顔をして呟いた。
「ちょっと、あれは……あまり好きじゃないかも」
王女様モードであっても本音が出てしまっている。
彼女の表情に不安がよぎるが、ここでタコの魅力を伝えるのが俺の役目だ。
俺は一気にタコを捌き、素早く下ごしらえを進めた。
ここでもセレスティアルが役に立つ。
タコでも魔力を帯びたセレスティアルなら楽々捌けてしまう。
次に、タコにしっかり塩もみをして、表面の滑りを取り除く。
軽く茹でて柔らかくする。
そのあと、蒸気が立ち上る鍋でじっくりと蒸し上げる。
蒸すことでタコの旨味をしっかりと引き出し、口の中でとろけるような食感に仕上げるのが狙いだ。
「蒸しタコか……あまり馴染みがない料理だが、それで勝負するのか?」
ギーグが軽く嘲笑しながら俺の調理風景を見ていた。
「そうだ。だがな、タコを馬鹿にするんじゃない。うまく調理すれば、その真価を発揮する。食わず嫌いは損だぞ」
タコを氷水にさらして、表面を引き締める。
薄くそぎ切ったタコは半透明になり、光を浴びて煌めく。
ソースとして、レモン汁、塩、黒コショウ、すりおろしたニンニク、みじん切りのオリーブ、さいの目切りにしたトマトの果肉、オリーブオイルを混ぜ合わせる。
皿にタコを一枚一枚、波のように並べ、ソースをかける。
かけたソースがさらさらと流れ込み、トマトとオリーブの鮮やかな赤と緑が料理を彩った。
仕上げにみじん切りのパセリを散らして、タコのカルパッチョの完成だ。
カニの良さをそのままぶつけてくるギーグに対して、俺はタコの良さを引き出す。
観客たちも少し不安そうに見守っているが、俺は自信を持って料理を仕上げた。
そして、ついに審査の時がやってきた。
青空の下、レイラと町長がギーグの「ジャイアント・デッドクローの甲羅焼き」と俺の「タコのカルパッチョ」を試食する。
「まずは、ギーグさんの甲羅焼きから」
レイラがホクホクのカニを口に運ぶと、彼女の表情はすぐに笑顔に変わった。
「美味しい……! 香ばしくて、カニの甘みがしっかり引き出されています」
「ジャイアント・デッドクローは何度も食べてきたが、ここまでうまみが溢れてくるのは初めてだ!」
レイラも町長も驚きの声を上げる。
ギーグは満足げに頷き、自信満々の表情だ。
「さて、リクさんの方も、試してみましょうか」
次に、俺のタコのカルパッチョが審査される。
レイラがタコを前に、一瞬戸惑うような表情を見せるが、決意を固めたかのように一口食べた。
それに対して町長は戸惑いなく口に運ぶ。
その瞬間、レイラの目が驚きに大きく開かれた。
「これ……すごく柔らかい! そして、口の中で溶けるような食感。レモンの爽やかさとオリーブの香りが、海の風を感じさせるわ」
「こちらも素晴らしい! 海を全面に押し出すカニに対して、爽やかな海風のようなタコ。どちらも甲乙つけがたいぞ!」
二人の感想に、観客たちもざわめき始めた。
レイラはタコに対する抵抗感があったものの、その美味しさに驚いているようだ。
「タコがこんなに美味しくなるなんて……正直、予想外でした」
レイラの言葉に、俺は微笑みを浮かべた。
「さて、審査の結果を発表します。勝者は……」
俺とフィーナとギーグの運命が、今決まる。
レイラが審査結果を告げるその瞬間、観客たちのざわめきが静まり返り、海の音だけが遠くから聞こえる。
「勝者は……リク・アマギ!」
レイラの口から俺の名前が発せられた瞬間、歓声が砂浜中に響き渡った。
俺は思わず深い息を吐き出し、肩の力が抜けた。
「くっ……!」
ギーグが悔しそうに拳を握り締める。
「タコごときに負けるなんて……俺のカニが!」
町長が総評を言う。
「ギーグさんの甲羅焼きは確かにおいしかった。しかし、味も含まれる魔力もジャイアント・デッドクローそのものに頼り過ぎていた」
「リクさんのカルパッチョはタコの良さに加え、調理中に込められた魔力がおいしく食べてほしいという想いをのせているように感じた」
「ただの味勝負なら引き分け、好みによってはギーグさんの勝ちという人もいるだろう。しかし、これはバトルキッチン。魔力や技術も評価される」
ギーグは苛立ちを隠さずに俺を睨みつけていたが、俺はその目をしっかりと見返し、静かに言葉を投げかけた。
「お前の甲羅焼きも良かった。カニへの愛を感じられる料理だった。ただ、料理は食べてくれる人へ心を込めて作ることが大切なんだ」
俺の言葉にギーグはぐっと口を閉ざし、肩を落とした。
「約束は守る。これからは料理皇帝ラズフォードの一派はアタアクアには手を出さない……だが、覚えておけ。俺は……フィーナちゃんをこの程度では諦めないからなぁぁぁっ!」
ギーグはそう言い捨てると、ダッシュで砂浜を後にした。
悔しそうに拳を握りしめたまま、遠ざかっていくその背中に、俺は彼の孤独を感じた。
「リク、やったね!」
フィーナが満面の笑みを浮かべながら俺のもとに駆け寄ってきた。
彼女はそのまま俺に抱きつき、俺の体を揺さぶる。
「リク、ほんとにありがとっ!」
「バトルキッチンでタコを使うなんて本当に驚いたわ。タコなんて、最初は食べられないと思ったけど……美味しかった!」
レイラも笑顔で俺の元にやってくる。
イリスは少し離れたところで控えめに微笑んでいるが、その優しげな表情には安堵が見て取れる。
「ありがとう、みんな。俺一人の力じゃなくて、みんなの応援があったからこそ勝てたんだ」
俺は3人を見回し、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
彼女たちの存在が、俺にとってどれほどの力になったのか。
そんな思いが自然と心の中に湧き上がる。
「さあ、これで一件落着ね」
レイラが軽く腕を組みながら言った。
「料理皇帝の配下がまた来るかもしれないけど、今日の勝利は大きいわ。アタアクアは当分の間は安全ね」
「そうだな。この戦いが終わりじゃない。俺はまだまだ強くならなきゃな」
俺は空を見上げ、次なる戦いを思い描いた。
ラズフォード・アルカディア――料理皇帝との対決こそが本番だ。
だが今は、目の前にある喜びを噛み締めよう。
「よーし、このままみんなでアタアクアを楽しもうよ。せっかく海まで来たんだし、少しは遊びたーい!」
「賛成!」
レイナが勢いよく手を挙げ、俺たちは再び笑顔で歩き出した。
アタアクアの海風が俺たちの頬を優しく撫で、今日の勝利の余韻が心に残る。
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