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第10話 農場のデカいやつ

調理シーンも試食シーンも他作品における戦闘シーンに相当するので、力を入れて書いております。

 王都からそこまで離れてない場所に、様々な特産品で有名な町がある。


「アルティナの町に行きたい。農場も見てみたい」


 最近、厨房にこもりきりだったせいか、自然に触れたくなった。

 と言うよりも、そもそも王都から出たことさえない。


 農場を見学して、その土地ならではの食材を手に入れられたら、俺の料理に新たな刺激を得られるかもしれない。


 そんなことをイリスに言ってみた。


「もちろん賛成よ。この世界のことを実際に見て、知って、あなたにとっていい経験になればうれしい。それに新鮮な空気を吸ってリフレッシュするのも大事だからね」


 イリスが優しく微笑んで、俺の提案を受け入れてくれた。

 彼女はいつも、俺のことを気にかけてくれる。

 こうして穏やかに同意してくれると、なんだか安心する。


 レイラも一応、誘ってみた。

 王女様としての仕事もあるだろうし、王都から出るにはいろいろ面倒事が多そうだ。


「リクがアルティナに行きたいって言うなら、もちろん私も行くわ!」


 レイラは笑顔で即決だった。


(イリスと二人っきりで行くなんて……そんなのデートじゃない! 私もついて行くに決まってるでしょ!)


 俺は考えた。

 彼女は俺と同じように、料理に情熱を持っている。

 だからこそ、食材の選び方にも真剣だ。

 料理人として、彼女の言葉にはいつも学ぶことが多い。


「農場かあ! なんか楽しそう! いっぱい走り回って、美味しいもの探そうよ!」


 フィーナも下ごしらえの仕事の手伝いをしているときに誘ってみた。

 どうやら参加する気満々の様子。

 彼女はいつも元気いっぱいで、明るさを振りまいてくれる。

 彼女がいると、どこへ行っても楽しくなる。


 こうして俺たちはアルティナの町へと“歩きで”足を運ぶことになった。



 王都からそれほど離れているわけではないが、歩くと辛い。

 運動不足がたたってる。


 獣人族のフィーナはともかく、レイラもイリスも平気な顔をしている。

 これくらいの距離なら歩き慣れているんだろうか。



 アルティナの町に到着――


 町に着くと、そこはまさに自然の恵みが詰まった場所だった。

 広々とした牧草地に、異世界ならではの巨大な牛がのんびりと草を食んでいる。

 ひとまず町の中心まで歩く。


 市場に並んだ食材も豊富で、特に目を引いたのはこの町の特産品である「ヒュージブルド」という名の牛肉。

 体長3メートルを超えるその体躯からは、質の良い肉がたっぷり取れるらしい。


「この牛肉がさっき牧草地で見た牛なのか」


 感心しながら、この地の特産物が並ぶ市場を見回す。

 なんでも揃うという王都の市場でも見たことがないものもある。


「リク、これ使おうよ! すっごくいい香りがするよ! お菓子作りに絶対いいよ!」


 フィーナが興奮気味にはちみつを指さしながら提案してくるので、俺も手に取ってみる。


「確かに、芳醇な花の香りだ。このはちみつで作ったお菓子なら絶対においしい」


 横からレイラに袖を引っ張られる。


「ねね、リク。リクはこのヒュージブルドの肉をどう調理する?」


 レイラはお肉に興味津々だ。


「肉質は滑らかで、脂もしっかり乗ってる。まずは……」


 俺が答えようとした瞬間、ふいに背後から低い声が聞こえた。


「お前がリク・アマギか……?」


 振り返ると、そこには大柄で荒々しい男が立っていた。

 彼の腕は筋肉で膨れ上がっており、強烈な威圧感を放っている。

 その冷ややかな目は、まるで獲物を見据える獣のようだった。


「お前は……?」


 俺は最大限に警戒心を抱きつつ、男を見据えた。


「俺の名はガロス。料理皇帝ラズフォード・アルカディア様の配下だ。ラズフォード様の命令で、お前の腕を試しに来た」


「ラズフォードの配下……⁉」


 レイラが驚いた表情で呟く。

 聞き慣れた名だ。

 倒すべき敵。


 レイラはガロスと名乗る男を見据える。


「ラズフォードはバトルキッチンで勝利し、有力な料理人を配下に加えるのよ」

「その一人があいつなのか」


「リク、今日は噂に聞くほどの実力があるのか確かめてやる! そう、バトルキッチンでなッ!」


 ガロスはあざ笑い、俺にバトルキッチンを挑んできた。


「リクさん、大丈夫よ。あなたなら勝てるわ」


 イリスが俺の肩に手を置き、優しく声をかけてくれた。


「そうよ、セレスティアルだって使いこなせるようになってきたんだし、自信を持ちなさいよ」

「がんばれっ、リクっ!」


 いきなりの料理皇帝の配下との実戦で正直少しビビっていた。

 でも、みんなのおかげで俺の心の緊張が解け、決意が固まった。


「よし、受けて立つ、ガロス」


――――――――――


 ガロスの挑発的な視線にさらされながら、俺は調理台の前に立っていた。

 場所は町のイベント会場にもなる広場。

 バトルキッチン用のステージが設置され、周囲には町の人々が集まって観客となっている。

 前には俺とガロス、そして審査員席にはレイラ王女が鎮座している。

 今日は彼女がノルティア王国王女としてこの勝負の審査を行う。


「リク・アマギ……バトルキッチンということは、わかっているな?」


 ガロスの声には、挑発的な響きが混ざっていた。


「わかってる。お前は、なにがほしいんだ?」


 俺が問いかけると、ガロスは少し口元を歪めて笑った。

 彼の傲慢さが見え隠れしている。


「俺が勝ったら、この町の特産品、ヒュージブルドの肉を逐次、料理皇帝ラズフォード様に捧げさせてもらう。皇帝のもとで、さらに力を増した料理を創り出すためにな」


 観客の間でざわめきが起こる。

 ヒュージブルドの肉は、この町の誇りだ。

 もしそれが料理皇帝の手に渡れば、この町はラズフォードの支配下に入ったと言っても過言ではないだろう。


「ガロス、それはこの町にとって重大な決断となります。個人同士のバトルキッチンで賭けられるものでありません」


 審判を務めるイリスが声を張り上げた。


 それを聞くレイラの目には、ガロスへの怒りが宿っている。

 王女としてこの町を守らなければならない責任がある。

 しかし、審査員を務める以上、公平な判断をしなければならない。

 彼女が口を出すことはなかった。


「命を奪われないだけいいだろ? 肉のひとつや全部な!」


 ガロスは自信満々に笑って見せる。

 俺はそんな彼に対して冷静さを保ちながらも、心の中では激しい怒りが沸き上がっていた。

 レイラには悪いがその条件を飲むことにした。

 俺を信じてほしい、と彼女に目線を送る。

 彼女もわかった、と言った目線をこちらに送ってくれる。


「分かった。それでいい。そのかわりこちらの条件も飲んでもらう」


 俺は一歩前に出て、ガロスに真正面から向き合った。


「もし俺が勝ったら……お前たちはこの町には二度と手を出すな。そして、この町の特産品も、住民も、料理皇帝の一派に従う必要はない。自由を守るために俺が勝つ」


 その言葉を口にした瞬間、ガロスはまた不敵な笑みを浮かべた。


「いいだろう。だが、俺が勝ったら、この町の誇りをいただくことになる。お前は、その結果を目の当たりにし、後悔することになるだろう」


 町中に緊張が走り、観客の誰もが息を呑んだ。

 俺の中でも、負けられない戦いだという思いがますます強まっていく。


「勝負だ、ガロス」


 観客の視線は二人の料理人に注がれ、レイラも審査員席で息を詰めて見守っていた。


「リク、絶対に勝ってよっ!」


 フィーナが大声で応援してくる。

 明るい笑顔で振りまいて、俺が負けるとは微塵も思っていないようだ。


「今回のテーマは『ヒュージブルド』。料理を一品ずつ作り、その出来栄えをレイラ王女が評価するという形になります」

「リク・アマギが賭けるものはこの町のヒュージブルド。ガロスが賭けるものは料理皇帝がこの町には手を出さないという盟約。それでは、バトルキッチン開始!」


 イリスの声が響き渡り、広場全体に緊張感が漂う。


「さあ、始めるとしよう」


 ガロスが挑発的にナイフを、俺もセレスティアルを取り出す。


 俺は肉そのものの良さを引き出すために、ローストビーフを作る。

 ローストビーフは、肉の柔らかさと風味を引き出す調理法だ。

 ヒュージブルドのような特別な肉を使えば、さらにその良さが際立つはずだ。


 俺はヒュージブルドのモモ肉を手に取り、筋を丁寧に取り除いていく。

 ヒュージブルドの肉は全体的にサシが多めで、ローストビーフにするなら筋肉の多い赤身、モモ肉が良いと判断した。

 肉の繊維を壊さないように慎重に包丁を入れ、完璧なローストビーフを目指す。


 いつもとは明らかに違う包丁さばき。

 魔力をコントロールし、セレスティアルと一体化することにより、思っている以上のパフォーマンスが発揮できている。


 一方、ガロスはヒュージブルドの巨大な骨付き肉を手にしていた。

 骨付きの肉を見せつけるように持ち上げ、観客に向かって豪快に笑い声を上げる。


「見ろ、この骨付きリブロース! トマホークステーキこそが本物の肉料理だ! リク・アマギ、俺の焼きの技に敵うとは思うなよ」


 ガロスは自信満々で調理を開始した。

 下味に塩や各種スパイスとハーブを擦りこんでいる。


 こちらも肉に塩、コショウ、ニンニク、オリーブオイルを擦りこみ、フライパンで焼く。

 高温で表面がこんがりと黄金色に焼き上がり、ジューッという音が広場に響き渡る。

 そのまま余熱しておいた魔法オーブンにいれる。

 低めの温度でじっくりとローストビーフに火を通していく。


 そうしている間にガロスは炭火を使い、魔力で炎をコントロールし、強火でトマホークステーキを焼き上げる。

 骨から滴る脂が炭火の上で踊るように弾け、炎が激しく立ち上がった。

 魔法で操る炎が肉を包み込むたびに、視界が一瞬眩しく光に包まれ、観客の顔が赤々と染まる。

 火の中で焼かれる肉の表面が徐々に茶色に変わり、炭の香ばしい香りが周囲に広がった。


「派手にやるじゃないか、ガロス! パフォーマーにでもなったらいい」

「軽口叩いてる暇があるのか? 料理が完成したときの魔力量ではこちらが上になるぞ」

「そんなの最後まで分からないだろう……!」


 途中で何度もオーブンの温度を確認する。

 肉の中心温度を均一に保ちながら、表面をしっかりと焼き、内部はしっとりとした赤身が残るように細心の注意を払う。

 そして、完璧なタイミングで取り出す。


「肉の旨味を最大限に引き出すためには、焼き加減と温度が重要だ」


 そう呟きながら、余熱で肉を休ませる時間も忘れない。

 これによって肉汁が全体に行き渡り、より一層ジューシーで柔らかい仕上がりになる。


 その間にソースをつくる。

 鍋にビネガー、赤ワイン、塩、おろしにんにく、そして、フィーナが見つけてくれたはちみつを入れ、とろみがでるまで煮詰める。

 火を止めてバターを加えて出来上がり。

 芳醇な赤ワインとにんにくの香り、バターの濃厚さが肉にも決して負けない存在感のあるソースとなる。


 ガロスは強火で焼き上げたトマホークステーキを豪快にカットし、肉汁が滴るその様子を観客に見せつけていた。

 厚切りの肉から流れ出る肉汁が、テーブルに置かれた皿を覆い、まるで流れる川のように静かに広がった。

 香ばしい香りが広場全体に漂い、観客たちはその圧倒的な視覚と嗅覚の暴力に魅了された。

 肉の断面からは湯気が立ち昇り、焼き加減が絶妙であることが一目で分かる。


「どうだ、この肉の見た目と香り! 観客も俺の勝ちだとわかるだろう!」


 彼の自信に満ちた言葉に観客はなにも言葉が出ないようだ。


 一方で俺は冷静に、セレスティアルでローストビーフを2㎜ほどにスライスする。

 落ち着いて魔力をセレスティアルに流し込みながら切る。

 包丁が肉に入るたび、肉の繊維がふわりと解け、スライスされた肉はまるで花びらが散るように美しく広がっていった。


「さすがセレスティアル、普通の包丁で切るより圧倒的にきれいだ。魔力量もやつに負けないだろう」


 スライスした肉を花のように皿に盛り付ける。

 肉の断面からは淡い肉汁が光を反射して輝き、ソースをかけた瞬間、その美しさに観客の目が釘付けとなった。



 調理が終わり、審査の時間がやってきた。


「俺のトマホークステーキを熱いうちに食べてくれ! 冷めてから食べるなんて無粋な真似はするなよ! ま、それ以上にうまいうちに食ってほしいってだけだがな!」


 ガロスが先にステーキから食べるように催促する。

 あいつだって腐っても料理人だ。

 ステーキを熱いうちに食べてほしい気持ち俺にもわかる。


「わかりました……」


 レイラはまずガロスのトマホークステーキから味見を始める。

 トマホークステーキに手を伸ばした瞬間、肉の焼けた香りが鼻をくすぐる。

 肉を噛むと、その弾力のある食感に肉汁が口の中で一気に溢れ出し、肉の香りが鼻に抜けた。


「ん……これは素晴らしい焼き加減ね。外は香ばしく、内部はジューシーで柔らかい。このトマホークステーキはまさに肉料理の王道と言えるわ」


 王女は肉を一口噛み締め、うっとりとした表情を浮かべた。


「だけど、少し脂が多いかしら。スパイスで上手くしつこさを抑えているとは言え、しっとりとした赤身の柔らかさに、ヒュージブルド特有の脂分がやや重く感じるわね。これは好みが分かれるかもしれないわ」


 ガロスの表情が僅かに変わった。

 彼の自信に満ちた顔に、少し陰りが見えたようだった。


 次に、王女は俺のローストビーフに手を伸ばした。


「次はリク・アマギのローストビーフね」


 王女は薄くスライスされた一切れをフォークで持ち上げ、口に運んだ。


 その瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。

 繊細でジューシーな肉の食感が口内で広がる。


「これは……! なんて繊細で豊かな風味なのかしら」


 彼女はしばし無言で味わい続けた。

 そして、満足そうに頷く。


「肉の旨味が余すところなく引き出されているわ。口に入れた瞬間、溢れる肉汁としっとりとした赤身の柔らかさが舌の上で踊っているよう…完璧なローストビーフね」


 王女の絶賛に、観客たちも感嘆の声を上げた。


「脂身が自慢のヒュージブルドなのには軽やかでいて、濃厚だけど酸味のあるソースとの相性も良いおかげで、何枚でも食べられそう」


 レイラの評価に俺は胸の中でガッツポーズをした。

 ガロスが隣で悔しそうに唇を噛んでいるのが見える。


「では、勝者を発表します」


 王女が静かに立ち上がり、広場中が一瞬静まり返る。


「この勝負、勝者はリク・アマギ! ローストビーフの完璧な焼き加減と繊細な風味が見事に肉の魅力を引き出していました」


 観客たちは一斉に歓声を上げ、拍手が響き渡る。

 俺は深く息を吐き、ガロスに向かって軽く一礼した。


「お前のトマホークステーキ、見事だった。見た目、香り、調理中の炎。どれを取っても……いや、理屈なんかじゃない。素直にかぶりつきたくなったよ」


 ガロスは悔しそうな顔をしながらも、少し笑みがこぼれたように見えた。


「……確かに、今回の勝負はお前の勝ちだ。お前の料理が俺の料理を上回っていたことを認めよう。だが、次はこうはいかんぞ、リク・アマギ……!」


 ガロスはそう言い残して去っていった。


 バトルキッチンで勝利したことにより、この町が料理皇帝ラズフォード・アルカディアに狙われる心配はないだろう。

 町の人たちも、王女であるレイラも安心している様子だった。


 バトルキッチンにおいて料理に含まれる魔力量も評価に含まれるのだが、セレスティアルを使いこなせるようになってきたことにより、俺の弱点も克服されつつある。


「ラズフォードの勢力がどのくらいなのかは知らないが、いくらでもかかってこい」


 俺はさらに高みを目指していく。

読んでいただきありがとうございます!


今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いします。

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